異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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28.エアガンの講習(5月6日)

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まずは娘達を風呂に向かわせる。
俺は一通り屋内を点検するが、特に異常は見つからない。
屋外も点検するが、魔物に襲われたり予期せぬ訪問客があった気配はない。
外の畑も田んぼも無事だった。

いや、異常があるとすれば畑と田んぼだ。

生育が妙に早い気がする。
今はまだ5月初旬。田植えが終わって2週間ほど。つい先日までは、ようやく葉が伸びてきたぐらいだった稲が、今では30センチを超えるまでに成長している。
畑に植えていたトウモロコシが、既に穂を出している。
ようやく葉が出揃い間引き時期だったほうれん草などの葉物野菜も、そろそろ収穫できそうになっている。

概ね2ヶ月ぐらい前倒しになっている雰囲気だ。

これは詳しい人に聞いてみないとなんとも言えないが、この世界にあるという魔素が関係しているのだろうか。

ちなみに虫食いのような跡はほとんど残っていない。わざわざ人口の畑など荒らさなくても、周囲にたくさん餌があるということだろう。

アリシアの見よう見まねの防壁結界を、畑と田んぼに掛けてみる。
しかし見えない防壁を張るというのもなかなか難しい。
例えば許可がないモノが近づいた時にだけ発動する柵とかのほうがいいのだろうか。

上手くできたかはアリシアに見てもらう事にして、家に戻る。

エアガンのバッテリーをチェックし、マガジンに給弾し終わったところへ、洗面所が騒がしくなった。アリシア達が風呂から上がってきたようだ。

しばらくすると洗面所のドアが開き、アリシアが顔を出した。

「カズヤさん!またアレお願いしてもいいですか?」

アレね。ドライヤーですね。

こういう場合は髪が短くて時間を要しないほうからやったほうがいいのだろうか。それとも髪が長くて時間もかかるが、その後で能動的に動ける人を先に仕上げたほうがいいのか。

そんな事を考えながら、3人の髪を乾かす。
結局、アリシアを先に仕上げても、そのまま3人でお喋りしてるだけだった。つまりは誰からやっても同じ事だったらしい。

「まだ日暮れには時間あるよね!一狩り行きたい!」

お風呂でテンションが上がったらしいイザベルが、そわそわしている。

「それなら私も同行します。カズヤ殿、いいだろうか?」

「アイダが一緒なら大丈夫だろう。ただ洗濯は間に合ってないから、Tシャツと短パンで行ける範囲でな」

「了解です!行ってきます!!」

やれやれ、元気な子達だ。

「アリシアはどうする?」

アリシアは長くて赤い髪を顔の横で指に巻き付けては解く仕草をずっとしている。
この仕草の意味ってなんだっけ??

「あの!カズヤさんの魔道具……貸してもらえませんか?」


先ほどのマンティコレ狩りでも、その前の一角オオカミの時にも何の役にも立たなかったことが悔しくて仕方ないらしい。

「だって、いきなり実戦で借りてもどうしていいかわかんないですよ!だからちゃんと練習して!次こそはちゃんと魔物狩りに参加します!」

アリシアは努力家なんだなあ。

「了解だ。じゃあ外でとりあえず撃ってみよう」

アリシアを伴ってガレージに行き、家庭菜園用の支柱と鳥避けの円盤(古いCD-Rのような、田んぼでキラキラしてるやつ)を持って外に出た。

アリシアにも手伝ってもらい、敷地の角から放射状に、5メートル、10メートル、20メートル、30メートルの位置に支柱を立て、鳥避けの円盤を結びつける。

サバゲーフィールドのシューティングレンジでは、地面に打った杭にお鍋の蓋なんかが固定してあって、BB弾が当たると良い音がするものだが、残念ながら杭も鍋の蓋もないからな。

「よし。準備はこれでいいだろう。じゃあアリシア、ここに立って」

アリシアを放射状に広がる標的の起点に立たせる。

「まずはこれを撃ってみよう」

アリシアに渡したのはUSPハンドガン。
いつも俺のヒップホルスターに収まっている、10禁の銀ダン鉄砲を除けば手持ちのエアガンでは最も小さい部類のエアガンだ。
マガジンを抜いて空撃ちし、セーフティを解除しセミオートをセレクトして渡す。

「アリシア利き手は右だよな?右手で銃把を握り、左手を添える。そうそう、上手いぞ。的の正面に立って、的に向かって両手を真っ直ぐに伸ばす。
照門と照星、ここの凹とこっちの凸な。この凹の切り欠き部分に凸の出っ張った部分が重なるように的に合わせて、引き金に人差し指を掛けて、人差し指を引く」

タンっと良い音はするが、当然BB弾は出ない。

「え?今の何ですか?」

「空撃ちだ。弓の練習でも、いきなり矢をつがえて放つわけじゃないだろう?」

「あ……確かに」

「じゃあ次はいよいよ撃ってみるぞ。引き金には撃つ直前まで指を掛けるなよ?」

アリシアからエアガンを受け取り、セレクトスイッチをセーフティに入れてからマガジンをセットする。

「いいか?ここにレバーがあるのがわかるか?このレバーでこっちの印が隠れているときは、引き金を引いても発射はできない。1つ押し下げるとセミオート、つまり一発だけ発射する。もう一段下げるとフルオートで連発だ。だからさっきの手順に1つ追加する」

「はい!」

「右手で銃把を握り、レバーを操作してセーフティを解除しセミオートに合わせる。銃把を握る右手に左手を添える。的の正面に立って、的に向かって両手を真っ直ぐに伸ばす。
照門と照星が重なるように的に合わせて、引き金に人差し指を掛けて、人差し指を引く」

タンっ!

コンっ!

えっっという顔でアリシアが俺を見る。
うん、俺も驚いた。5メートルとはいえ、初弾を命中させるか。

「上手いなあアリシア。じゃあ次は10メートルいってみよう!」

10メートル、20メートル、30メートルの的にも、アリシアは次々と命中させた。

真後ろから見ていても弾道が見えにくいから、初速はやはり速い。それにほとんど速度が落ちることなく的に当たってる。

だが初速を法律ギリギリまで上げたとしても、所詮はバネで撃ち出すプラスティックの球だ。
至近距離ならアルミ缶を貫通することもあるらしいが、大型の生き物の頭蓋骨を貫通するような力はない。

例えば弾が金属製で、初速が500m/sとかなら納得できるのだが、まあそんなスペックは実銃でしかあり得ない。

しかし、これはエアガンだ。

「アリシア。どうだ。ほぼ全弾命中だな」

マガジン1つを空にしたアリシアが、銃を下ろしてこちらを見る。

「そうですね!つぶてを撃つよりは魔力消費は少ないみたいですけど、軌道を安定させたり速度を落とさないようにするとか、やることは多いですね」

ん?今さらっとアリシアがこの現象を解説しなかったか?

そういえば魔法勝負を挑まれた時に、土で作った礫を飛ばす競争をした。
結果は飛距離と速射性で俺が優ったのだが、その礫を飛ばすのと同じなのか。

「はい。この弾の発射までは魔道具がやってくれるので、ある程度の距離、そうですね……7メートルぐらいはまっすぐ飛びますね。その後で軌道を安定させて真っ直ぐに飛ばすのは、礫撃ちと一緒です。ただ礫撃ちの消費魔力の大半は礫の形成と発射ですから、発射までをやってくれるこの魔道具……えあがん?ですか?このエアガンのほうが遥かに楽です」

なるほど……つまり発射されたBB弾を、風魔法で運んでいるというわけか。

アリシアにリロードの仕方を教え、次のマガジンを手渡す。

「あとは……この白い球が獲物を貫通するか、体内で弾けたらいいんですよね。それなら……」

何やら呟いて、30メートルの的を狙う。

「撃ちます!」

タンっ!

パンッ!!

ありゃあ…鳥避け円盤が見事に真っ二つになっている。

「アリシア?今何をした?」

「えへへ。貫通魔法を掛けて見ました!次は炸裂です!!」


結局アリシアは残り4つの円盤を全て貫通か炸裂で破壊した。

「いやあ、これはいい魔道具ですね!もっと早く使い方を教わっていれば、私も狩りで活躍できたのに!カズヤさん!この魔道具借りっぱなしでもいいですか?もちろん大事にしますから!」

「えっと……それならこっちにしない?そのエアガンより少し大きいし重いけど、BB弾の装填数も多いし、自衛武器としても攻撃武器としても最適かも」

アリシアにMP5Kを渡す。

「基本的な使い方はさっきのエアガンと同じだ。BB弾は50発入っている。このセットで貸すから、使いこなしてみ。あとBB弾は無駄遣いしないように」

「ありがとう!これで次の魔物狩りではVenganzaベンガンザです!」

ん??なんぞまた知らない単語を。雰囲気的にはリベンジ、復讐か報復ってところか。
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