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27.道中で魔物を狩る(5月6日)
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アイダの声にイザベルが北東の方角を見るが、あいにく丘に遮られてその先が見通せない。
「開拓村があるのは確かなの?」
アリシアも地図を覗き込む。
「Noreste?ノレステ村。確かに小さく書かれてるね」
「地図に載ってるってことは、入植して何年も経つ村ってことだよな。カズヤ殿。その魔物の大きさとか数はわからないだろうか?」
アイダの求めに応じて、レーダーを絞って再度放つ。
「反応は3つ。北東に向かって真っ直ぐ進んでいる。移動速度は……オオカミよりはだいぶ遅いな。ただ魔力反応は強いぞ」
「丘に登れば何か見えるかも?」
イザベルの提案で丘に向かう。
丘といっても標高は20メートルほど。生い茂る草の間に獣道を見つけ、分け入る。
まばらに生えた木の陰から様子を伺うが、1キロメートルも先となると肉眼で感知できる異常は見当たらない。
それでも、目の良いイザベルが何かを見つける。
「あそこ!何か動いてる!」
リュックから双眼鏡を取り出し、イザベルが指差す方向を視野に入れる。
おう……あれか。一角オオカミ?いや違う。何体か倒したオオカミよりだいぶ大きい。
黒く四つ脚で歩いているが、頭部はオオカミよりもっとフサフサしているし尻尾が細い。
ちょうど黒いライオンのような……
「アイダ。あれ何て魔物かわかるか?」
アイダに双眼鏡を手渡す。
「なんだこれ?大きな眼鏡?」
なんぞ呟きながら双眼鏡を覗いたアイダがフリーズし、そして震える手で双眼鏡をアリシアに手渡した。
双眼鏡を覗き込んだアリシアも同じようにフリーズする。
「ねえねえ!なにそれ!何か見えるの?」
堪りかねたイザベルが抗議の声を上げる。
「イザベルちゃん……見たくないモノが見える……」
アリシアから双眼鏡を受け取ったイザベルが、双眼鏡を覗き込んで、イザベルらしくない低い声で呟く。
「マンティコレ……」
感嘆符ではないだろう。
マンティコレ。それがヤツらの名前らしい。
そのマンティコレの向かう先には、スー村と同じように板と土塁で囲われた村がうっすらと見える。
「どうしよう……マンティコレが3体。村に戦える人間が30人もいれば、たぶん大丈夫だけど」
「でもそれは熟練のカサドールがって話でしょ?村にいる人達が怪我をしていたり、戦えない状態だったら……」
「塀を飛び越えて乱入されたら、絶対に被害が出るよね……」
3人とも青ざめている。
「そんなに危険な魔物なら、選択肢はないな。さっさと離れよう。俺達だけで何とかなる相手じゃないんだろう?」
俺の意見に他の3人が首を横に降る。
「ダメです。ヤツらが引き返してきて、私達の寝込みを襲うかもしれません」
「それに、襲われそうな村を見捨てて逃げられないよ!私達はカサドールだよ!」
アイダとアリシアの意見はおそらく正しい。
民を守るために武器を取って魔物を討つ。それが狩人の本分だとすれば、そのタマゴである3人の選択は間違ってはいない。しかし、それはあまりにも危険なのでは……
そんな俺の思考を遮るように、イザベルがキッと俺の目を見ながら自分の意見を口にした。
「あいつらはカネになるんだよ!」
おう……ある意味で正しい動機だ。
生きていく上でカネは必要だし、得られる対価が相応で失うリスクがそこそこなら、命を賭ける価値はある。
「ヤツの尻尾はサソリの尾みたいになっていて、前方に毒を飛ばすんだよ。体内の毒腺を売れば、貴重な薬の材料として金貨5枚は下らない。時期によっては8枚いやもっと行くかも」
「そういえば、マンティコレの毛皮は毒攻撃を防ぐからって、高値で取引されてるんですよね!一角オオカミの毛皮が金貨1枚だったから、マンティコレの毛皮なら金貨3枚か5枚か……それが3頭!」
「あれだけの大きさなら魔石はオオカミの3倍、いや4倍はあるかも。一個で金貨3枚か4枚……」
こらこら。
さっきまで震えていたお嬢さん達はどこにいった?アニメなら目が$か¥になっているところだ。
「カズヤさん!狩りましょう!そして解体しましょう!」
「解体は私とイザベルに任せて欲しい!」
「美味しいご飯が食べたい!指輪とか首飾りが欲しい!」
やれやれ……
まあ寝込みを襲われるのは危ないし、今なら背後から奇襲ができるかもしれない。
一角オオカミに襲われた時も、アイダとイザベルの動きは決して悪くはなかった。エアガンによる狙撃が成功すれば、あるいは危険なく倒せるか。
「わかった。狩るなら急ごう。話している間にヤツらが村に着いてしまう」
イザベルを先頭に3人が走り出した。慌てて俺も後を追う。
しかし娘達の足は速い。俺も学生時代は一応脚力に自信があるほうだったが、それに比べても彼女達は速い方だ。中体連やらインターハイに出場させたら、それなりの記録を残しそうなスピードだ。
3人はほとんど速度を落とさずに、ヤツらからおよそ200メートルの地点にたどり着いた。
だいたい10秒遅れで、何とか俺も追いついた。
イザベルがここで立ち止まったのは、目の前に小川が流れていたからだ。
俺は肩で息をしながら、姿勢を低くしてヤツらの様子を伺う。
ヤツらは時折警戒するように辺りを見渡しているが、まだこちらには気付いていないようだ。イザベルが起伏を上手く利用して姿を隠しながら走ってくれたおかげだ。
ヤツらの進行方向は小川が流れている方向とだいたい一致している。
小川の水面は土手から1メートル強下がっており、狭いが河原がある。
「みんな聞いてくれ。河原まで降りて、川沿いにヤツらを追いかける」
俺の言葉にアリシアが首を傾げる。
「河原に降りたら、ヤツらの姿が見えないよ?」
「いや、もうヤツらはスキャンの有効範囲内だ。姿が見えなくても位置は特定できる」
「わかった。お兄ちゃんについていく。ここからはお兄ちゃんが先導して」
イザベルの言葉に他の2人も同意する。
「了解だ。先頭は俺、2番目にアリシア、イザベルは3番手。アイダは殿しんがりを頼む。ヤツらの位置は特定できるが、魔力を抑えた他の魔物がいるかもしれない。警戒は怠るな。行くぞ!」
『了解!』
河原に降りた俺達は、一列になってヤツらを追う。
だいたい200メートルほど進んだ辺りで、ちょうどよく土手が少し低くなっていた。
土手に生えている草の隙間から、ヤツらがいる方向を伺う。
いた。
思ったより近い。近くのヤツはおよそ20メートル。遠いヤツでも30メートルといったところか。
横から見るとまさに黒いライオンだ。だが尾は鱗に覆われ、前方に張り出している。確かにあれはサソリの尾だな。
他の3人も恐る恐る覗いている。
「ちょっとアイダちゃん!近いよ!近すぎるよ!」
「あああああ、こっ怖いのは私も同じだ」
「金貨が……金貨の袋が動いてる……」
イザベルの感想はさておき、3人と小声で打ち合わせる。
「イザベル。手前をやれ。いけるか?」
「大丈夫。私の固有魔法は狙った獲物は逃がさない。必ず仕留める」
その割には牙イノシシに矢が刺さらなかったとか言ってなかったか?
「あれは……魔力を温存してたからだもん。今回はちゃんとやるもん」
口をちょっと尖らせて拗ねるイザベルも可愛い。
「俺は中央のヤツをやる。奥のはどちらか先に倒した方が対応する。アイダは最後の要だ。万が一討ち漏らしたら、みんなを守ってくれ。アリシアにはこれを」
リュックの中からMP5A2を取り出し、ショートマガジンをセットして、セレクターをフルオートに合わせてから手渡す。
「俺が撃てと言ったら、先端をヤツに向けて引き金を引け。撃てと言うまでは引き金に指を掛けるな。あと攻撃を始めたら結界を頼む」
「了解。カズヤさん……大丈夫ですよね?」
「大丈夫だ。今さら弱気になってどうする。そろそろ始めるぞ」
アリシアの頭を撫でて、ヤツらに向き直る。
リュックからG36Vを取り出し、マガジンをセット。セレクターはフルオートに合わせてスコープを覗く。
セミオートでもいいのかも知れないが、手負いや討ち漏らしたヤツらが襲ってきたら単発では対応しきれない。
イザベルも弓を寝かせて狙いを付けている。
後ろでアイダがそっと剣を抜く鞘鳴りが聞こえた。
鞘鳴りに気付いたのか、ヤツが一瞬動きを止め、辺りを見渡した後で元の位置に戻った。
その瞬間にヤツの目と耳を結ぶ線上に狙いを付けて引き金を引く。
タンっと軽い音を立てて、BB弾が銃口から飛び出す。
同じタイミングでイザベルが次々と矢を放ち始める。
俺が放ったBB弾は、狙いたがわずヤツのこめかみに吸い込まれた。
一瞬後にBB弾の入射孔から血を噴き出し、ヤツが倒れた。
イザベルが狙っているほうにも矢が刺さっているが、致命傷には至っていない。
どっちを片付ける?
いや打合せどおり奥にいる一頭だ。
迷っている隙に、ヤツらも俺達に気付いたらしい。
奥にいた一頭がこちらに突進してくる。
弾幕を張るが、ヤツの動きの方が素早い。
「お兄ちゃん!こっちに来る!」
イザベルが悲鳴をあげる。
「わかってる!イザベルはそっちを片付けろ!」
言っている間にヤツが襲いかかってきた。
「アリシア!撃て!」
アリシアは数歩後ずさり、完全に固まっていた。
「接近戦だ!!」
G36Vから手を離し、腰のヒップホルスターからUSPハンドガンを抜きセーフティを解除する。
ヤツは土手から身を踊らせ、1番奥にいたアリシアに襲いかかる。
前方にアリシアが展開した結界が抵抗するが、ほぼ一瞬で破られる。
「ううううりゃああああ!」
アイダの掛け声と共に突き出された剣が、アリシアとアイダの頭上でヤツの首に突き刺さった。
ヤツは血のシャワーを噴き出しながら、アイダの剣を首に刺したまま、河原に倒れこんだ。
もう一頭は!?
振り返るとイザベルがガッツポーズをしている。
「5射目で倒した。そっちは?」
イザベルが川に倒れこんだアリシア達に向かって叫ぶ。
「私は大丈夫。アイダちゃんが守ってくれたから。アイダちゃんは?」
「私も大丈夫だ。まだ手が痺れている……」
とりあえず3人とも無事のようだ。
「私が殺ったのか?私達が……マンティコレを……」
アイダが呆然と呟く。
「ああ。3人ともよく頑張った。とりあえずアイダとアリシアは顔と手を洗って着替えろ。血みどろだぞ?」
血みどろで抱き合う美少女ってのも、倒錯的で一部の人にはウケるのかもしれない。だが残念ながら俺の趣味ではない。
2人が顔や手を洗っている間に、イザベルと一緒に獲物を確認する。
アイダが仕留めたマンティコレは、首を真下から貫かれて事切れていた。
イザベルが5射目で仕留めたマンティコレには、胸部を中心に深々と矢が刺さっている。
後ろ足で立ち上がった所に正面から入った矢が、心臓を貫いたようだ。
俺が撃ったマンティコレはこめかみからBB弾が入り頭蓋骨内で炸裂している。
3頭全ての絶命を確認して、アリシア達のところへ戻る。
アリシア達はちょうどTシャツと短パンに着替えた所だった。
「どうしよう。ここで解体するには場所が悪い」
「そうだね。さっきの丘の上なら木に吊るせそうだけど、ここから運ぶのはちょっと無理かな……」
それはそうだ。体長3メートル弱。推定体重300キログラムはある巨体を運ぶなどゾッとする。
「アリシアちゃんもアイダちゃんも、何か重要なコト忘れてなあい?」
イザベルが顔の前で人差し指を振る。チッチッチと効果音が付きそうだ。
「魔法で収納して運べばいいじゃん!こんなこともあろうかと……じゃじゃん!大きな麻袋!」
イザベルが取り出したのは、俵でも入りそうな大きな麻袋だった。
「お兄ちゃん!これに収納魔法掛けて!」
イザベルに求められるままに、麻袋に収納魔法を掛ける。
「んで、袋の口を開いて、マンティコレの一部でも入れれば……」
イザベルがマンティコレの尻尾を慎重に掴み、袋の中に入れる。するとそのままスルスルと全体が収納されれしまった。
「あとは落ち着いてから解体すればよくない?時間も無駄にならないし、もしかしたら解体せずにそのまま売った方が高値で買い取って貰えるかもだし」
ナイスアイデアだ。
とりあえずイザベルの頭を撫でて褒めておく。
「じゃあ俺から提案なんだが、こいつらを収納したら、一旦家に帰らないか?家も心配だが、お前達を風呂に入れたい」
「あっ!私賛成です!髪にも血が付いてるし」
アリシアが真っ先に手を挙げる。
「私も賛成!ゆっくり寝たい!」
「そういう事なら私も賛成だ。今から野営の準備をするのも正直しんどい。少々疲れたしな」
全員の了解が得られたところで、残り2頭のマンティコレを収納し、転移魔法の扉を開く。
最初にイザベルが、次にアイダが飛び込む。
アリシアを通らせ、最後に俺が扉を通る。
扉の先には見慣れた我が家があった。
「開拓村があるのは確かなの?」
アリシアも地図を覗き込む。
「Noreste?ノレステ村。確かに小さく書かれてるね」
「地図に載ってるってことは、入植して何年も経つ村ってことだよな。カズヤ殿。その魔物の大きさとか数はわからないだろうか?」
アイダの求めに応じて、レーダーを絞って再度放つ。
「反応は3つ。北東に向かって真っ直ぐ進んでいる。移動速度は……オオカミよりはだいぶ遅いな。ただ魔力反応は強いぞ」
「丘に登れば何か見えるかも?」
イザベルの提案で丘に向かう。
丘といっても標高は20メートルほど。生い茂る草の間に獣道を見つけ、分け入る。
まばらに生えた木の陰から様子を伺うが、1キロメートルも先となると肉眼で感知できる異常は見当たらない。
それでも、目の良いイザベルが何かを見つける。
「あそこ!何か動いてる!」
リュックから双眼鏡を取り出し、イザベルが指差す方向を視野に入れる。
おう……あれか。一角オオカミ?いや違う。何体か倒したオオカミよりだいぶ大きい。
黒く四つ脚で歩いているが、頭部はオオカミよりもっとフサフサしているし尻尾が細い。
ちょうど黒いライオンのような……
「アイダ。あれ何て魔物かわかるか?」
アイダに双眼鏡を手渡す。
「なんだこれ?大きな眼鏡?」
なんぞ呟きながら双眼鏡を覗いたアイダがフリーズし、そして震える手で双眼鏡をアリシアに手渡した。
双眼鏡を覗き込んだアリシアも同じようにフリーズする。
「ねえねえ!なにそれ!何か見えるの?」
堪りかねたイザベルが抗議の声を上げる。
「イザベルちゃん……見たくないモノが見える……」
アリシアから双眼鏡を受け取ったイザベルが、双眼鏡を覗き込んで、イザベルらしくない低い声で呟く。
「マンティコレ……」
感嘆符ではないだろう。
マンティコレ。それがヤツらの名前らしい。
そのマンティコレの向かう先には、スー村と同じように板と土塁で囲われた村がうっすらと見える。
「どうしよう……マンティコレが3体。村に戦える人間が30人もいれば、たぶん大丈夫だけど」
「でもそれは熟練のカサドールがって話でしょ?村にいる人達が怪我をしていたり、戦えない状態だったら……」
「塀を飛び越えて乱入されたら、絶対に被害が出るよね……」
3人とも青ざめている。
「そんなに危険な魔物なら、選択肢はないな。さっさと離れよう。俺達だけで何とかなる相手じゃないんだろう?」
俺の意見に他の3人が首を横に降る。
「ダメです。ヤツらが引き返してきて、私達の寝込みを襲うかもしれません」
「それに、襲われそうな村を見捨てて逃げられないよ!私達はカサドールだよ!」
アイダとアリシアの意見はおそらく正しい。
民を守るために武器を取って魔物を討つ。それが狩人の本分だとすれば、そのタマゴである3人の選択は間違ってはいない。しかし、それはあまりにも危険なのでは……
そんな俺の思考を遮るように、イザベルがキッと俺の目を見ながら自分の意見を口にした。
「あいつらはカネになるんだよ!」
おう……ある意味で正しい動機だ。
生きていく上でカネは必要だし、得られる対価が相応で失うリスクがそこそこなら、命を賭ける価値はある。
「ヤツの尻尾はサソリの尾みたいになっていて、前方に毒を飛ばすんだよ。体内の毒腺を売れば、貴重な薬の材料として金貨5枚は下らない。時期によっては8枚いやもっと行くかも」
「そういえば、マンティコレの毛皮は毒攻撃を防ぐからって、高値で取引されてるんですよね!一角オオカミの毛皮が金貨1枚だったから、マンティコレの毛皮なら金貨3枚か5枚か……それが3頭!」
「あれだけの大きさなら魔石はオオカミの3倍、いや4倍はあるかも。一個で金貨3枚か4枚……」
こらこら。
さっきまで震えていたお嬢さん達はどこにいった?アニメなら目が$か¥になっているところだ。
「カズヤさん!狩りましょう!そして解体しましょう!」
「解体は私とイザベルに任せて欲しい!」
「美味しいご飯が食べたい!指輪とか首飾りが欲しい!」
やれやれ……
まあ寝込みを襲われるのは危ないし、今なら背後から奇襲ができるかもしれない。
一角オオカミに襲われた時も、アイダとイザベルの動きは決して悪くはなかった。エアガンによる狙撃が成功すれば、あるいは危険なく倒せるか。
「わかった。狩るなら急ごう。話している間にヤツらが村に着いてしまう」
イザベルを先頭に3人が走り出した。慌てて俺も後を追う。
しかし娘達の足は速い。俺も学生時代は一応脚力に自信があるほうだったが、それに比べても彼女達は速い方だ。中体連やらインターハイに出場させたら、それなりの記録を残しそうなスピードだ。
3人はほとんど速度を落とさずに、ヤツらからおよそ200メートルの地点にたどり着いた。
だいたい10秒遅れで、何とか俺も追いついた。
イザベルがここで立ち止まったのは、目の前に小川が流れていたからだ。
俺は肩で息をしながら、姿勢を低くしてヤツらの様子を伺う。
ヤツらは時折警戒するように辺りを見渡しているが、まだこちらには気付いていないようだ。イザベルが起伏を上手く利用して姿を隠しながら走ってくれたおかげだ。
ヤツらの進行方向は小川が流れている方向とだいたい一致している。
小川の水面は土手から1メートル強下がっており、狭いが河原がある。
「みんな聞いてくれ。河原まで降りて、川沿いにヤツらを追いかける」
俺の言葉にアリシアが首を傾げる。
「河原に降りたら、ヤツらの姿が見えないよ?」
「いや、もうヤツらはスキャンの有効範囲内だ。姿が見えなくても位置は特定できる」
「わかった。お兄ちゃんについていく。ここからはお兄ちゃんが先導して」
イザベルの言葉に他の2人も同意する。
「了解だ。先頭は俺、2番目にアリシア、イザベルは3番手。アイダは殿しんがりを頼む。ヤツらの位置は特定できるが、魔力を抑えた他の魔物がいるかもしれない。警戒は怠るな。行くぞ!」
『了解!』
河原に降りた俺達は、一列になってヤツらを追う。
だいたい200メートルほど進んだ辺りで、ちょうどよく土手が少し低くなっていた。
土手に生えている草の隙間から、ヤツらがいる方向を伺う。
いた。
思ったより近い。近くのヤツはおよそ20メートル。遠いヤツでも30メートルといったところか。
横から見るとまさに黒いライオンだ。だが尾は鱗に覆われ、前方に張り出している。確かにあれはサソリの尾だな。
他の3人も恐る恐る覗いている。
「ちょっとアイダちゃん!近いよ!近すぎるよ!」
「あああああ、こっ怖いのは私も同じだ」
「金貨が……金貨の袋が動いてる……」
イザベルの感想はさておき、3人と小声で打ち合わせる。
「イザベル。手前をやれ。いけるか?」
「大丈夫。私の固有魔法は狙った獲物は逃がさない。必ず仕留める」
その割には牙イノシシに矢が刺さらなかったとか言ってなかったか?
「あれは……魔力を温存してたからだもん。今回はちゃんとやるもん」
口をちょっと尖らせて拗ねるイザベルも可愛い。
「俺は中央のヤツをやる。奥のはどちらか先に倒した方が対応する。アイダは最後の要だ。万が一討ち漏らしたら、みんなを守ってくれ。アリシアにはこれを」
リュックの中からMP5A2を取り出し、ショートマガジンをセットして、セレクターをフルオートに合わせてから手渡す。
「俺が撃てと言ったら、先端をヤツに向けて引き金を引け。撃てと言うまでは引き金に指を掛けるな。あと攻撃を始めたら結界を頼む」
「了解。カズヤさん……大丈夫ですよね?」
「大丈夫だ。今さら弱気になってどうする。そろそろ始めるぞ」
アリシアの頭を撫でて、ヤツらに向き直る。
リュックからG36Vを取り出し、マガジンをセット。セレクターはフルオートに合わせてスコープを覗く。
セミオートでもいいのかも知れないが、手負いや討ち漏らしたヤツらが襲ってきたら単発では対応しきれない。
イザベルも弓を寝かせて狙いを付けている。
後ろでアイダがそっと剣を抜く鞘鳴りが聞こえた。
鞘鳴りに気付いたのか、ヤツが一瞬動きを止め、辺りを見渡した後で元の位置に戻った。
その瞬間にヤツの目と耳を結ぶ線上に狙いを付けて引き金を引く。
タンっと軽い音を立てて、BB弾が銃口から飛び出す。
同じタイミングでイザベルが次々と矢を放ち始める。
俺が放ったBB弾は、狙いたがわずヤツのこめかみに吸い込まれた。
一瞬後にBB弾の入射孔から血を噴き出し、ヤツが倒れた。
イザベルが狙っているほうにも矢が刺さっているが、致命傷には至っていない。
どっちを片付ける?
いや打合せどおり奥にいる一頭だ。
迷っている隙に、ヤツらも俺達に気付いたらしい。
奥にいた一頭がこちらに突進してくる。
弾幕を張るが、ヤツの動きの方が素早い。
「お兄ちゃん!こっちに来る!」
イザベルが悲鳴をあげる。
「わかってる!イザベルはそっちを片付けろ!」
言っている間にヤツが襲いかかってきた。
「アリシア!撃て!」
アリシアは数歩後ずさり、完全に固まっていた。
「接近戦だ!!」
G36Vから手を離し、腰のヒップホルスターからUSPハンドガンを抜きセーフティを解除する。
ヤツは土手から身を踊らせ、1番奥にいたアリシアに襲いかかる。
前方にアリシアが展開した結界が抵抗するが、ほぼ一瞬で破られる。
「ううううりゃああああ!」
アイダの掛け声と共に突き出された剣が、アリシアとアイダの頭上でヤツの首に突き刺さった。
ヤツは血のシャワーを噴き出しながら、アイダの剣を首に刺したまま、河原に倒れこんだ。
もう一頭は!?
振り返るとイザベルがガッツポーズをしている。
「5射目で倒した。そっちは?」
イザベルが川に倒れこんだアリシア達に向かって叫ぶ。
「私は大丈夫。アイダちゃんが守ってくれたから。アイダちゃんは?」
「私も大丈夫だ。まだ手が痺れている……」
とりあえず3人とも無事のようだ。
「私が殺ったのか?私達が……マンティコレを……」
アイダが呆然と呟く。
「ああ。3人ともよく頑張った。とりあえずアイダとアリシアは顔と手を洗って着替えろ。血みどろだぞ?」
血みどろで抱き合う美少女ってのも、倒錯的で一部の人にはウケるのかもしれない。だが残念ながら俺の趣味ではない。
2人が顔や手を洗っている間に、イザベルと一緒に獲物を確認する。
アイダが仕留めたマンティコレは、首を真下から貫かれて事切れていた。
イザベルが5射目で仕留めたマンティコレには、胸部を中心に深々と矢が刺さっている。
後ろ足で立ち上がった所に正面から入った矢が、心臓を貫いたようだ。
俺が撃ったマンティコレはこめかみからBB弾が入り頭蓋骨内で炸裂している。
3頭全ての絶命を確認して、アリシア達のところへ戻る。
アリシア達はちょうどTシャツと短パンに着替えた所だった。
「どうしよう。ここで解体するには場所が悪い」
「そうだね。さっきの丘の上なら木に吊るせそうだけど、ここから運ぶのはちょっと無理かな……」
それはそうだ。体長3メートル弱。推定体重300キログラムはある巨体を運ぶなどゾッとする。
「アリシアちゃんもアイダちゃんも、何か重要なコト忘れてなあい?」
イザベルが顔の前で人差し指を振る。チッチッチと効果音が付きそうだ。
「魔法で収納して運べばいいじゃん!こんなこともあろうかと……じゃじゃん!大きな麻袋!」
イザベルが取り出したのは、俵でも入りそうな大きな麻袋だった。
「お兄ちゃん!これに収納魔法掛けて!」
イザベルに求められるままに、麻袋に収納魔法を掛ける。
「んで、袋の口を開いて、マンティコレの一部でも入れれば……」
イザベルがマンティコレの尻尾を慎重に掴み、袋の中に入れる。するとそのままスルスルと全体が収納されれしまった。
「あとは落ち着いてから解体すればよくない?時間も無駄にならないし、もしかしたら解体せずにそのまま売った方が高値で買い取って貰えるかもだし」
ナイスアイデアだ。
とりあえずイザベルの頭を撫でて褒めておく。
「じゃあ俺から提案なんだが、こいつらを収納したら、一旦家に帰らないか?家も心配だが、お前達を風呂に入れたい」
「あっ!私賛成です!髪にも血が付いてるし」
アリシアが真っ先に手を挙げる。
「私も賛成!ゆっくり寝たい!」
「そういう事なら私も賛成だ。今から野営の準備をするのも正直しんどい。少々疲れたしな」
全員の了解が得られたところで、残り2頭のマンティコレを収納し、転移魔法の扉を開く。
最初にイザベルが、次にアイダが飛び込む。
アリシアを通らせ、最後に俺が扉を通る。
扉の先には見慣れた我が家があった。
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アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
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ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
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