異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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26.アステドーラに向かう(5月6日)

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翌朝、目覚めるとアリシアとアイダが俺の両手の人差し指に吸い付いていた。
そしてイザベルは……俺に馬乗りになって俺の首筋に吸い付いている。
こいつ……ミッドエルフってのは吸血鬼のことじゃないだろうな。

そう言えば淫魔がいるのなら吸血鬼もいそうなものだが、ハビエル達の話にはそういった魔物の話は出なかった。

とりあえずアリシアとアイダの口から指を抜いて、自由になった両手でイザベルを引き剥がす。

「お兄ちゃん……もっと……」

何がもっとだ。腰に尻を擦り付けるんじゃないよ。若返ったカラダは敏感なんだから。

「あ……カズヤ殿。おはようございます」

まずはアイダが起きたようだ。
普段の凛とした佇まいと打って変わって、口の端からヨダレなど垂らしている。

「カズヤさん。私も起きまし……ちょっとアイダちゃん!口元!」

アリシアに指摘されて、慌ててアイダが口元を拭う。

「カズヤ殿!これはだな!カズヤ殿に魔力を補給していただこうと!」

アイダが顔を真っ赤にして訴えてくる。

「俺の指に吸い付いていた時に垂れたんだろう?分かってるからイザベルを起こしてくれ」

“あううう”などと呟きながら、アイダがイザベルを起こしにかかる。
アリシアは窓を開ける。眩しい朝日が部屋いっぱいに射し込んできた。

「イザベル!もう朝だ。みんな起きてるぞ?」

「やだ。もうちょっと寝る」

「嫌じゃないでしょ。カズヤさんも起きてるよ!」

「じゃあお兄ちゃんも一緒に寝る」

こいつ……絶対起きてるだろう。

俺はそのまま腹筋だけで起き上がり、対面座位のような格好でイザベルを抱きかかえる。
ちょうど口元に来たイザベルの耳に囁く。

「イザベル。起きないとキスするぞ?」

「ん……きす?き……beso!?ダメ!まだ心の準備が!!」

人の首筋に吸い付いておいて、何が心の準備だ。

まあ何にせよイザベルも起きたことだし、朝食を食べて市場でも覗いてから、次の町に向かって……ん?
アリシアとアイダが鬼のような形相でこっちを見ている。

「イザベルちゃんズルい!カズヤさんに抱っこされるなんて、私まだされてない!」

「全くだ!カズヤ殿はイザベルを甘やかし過ぎではないか!?」

いやちょっと待て。アリシアもアイダも、俺にお姫様抱っこされただろう?

『あれはNo cuentaノーカン!!』


まあそんな朝のバタバタもありながら、ベッドを2番の部屋に戻し、荷物と身支度を整えて朝食を摂り、部屋を引き払ってから午前中だけ開かれる市場を見に広場に向かった。

結局アリシア達の旅装束は、昨日も着ていたBDUで落ち着いたらしい。
ちなみに朝食は鶏肉と卵を炒めた物を挟んだピタとオルチャータだった。

広場には昨日昼食を食べた屋台のような小さな店が所狭しと並んでいた。
イチジクのような果物、カゴに山盛りの麦や芋、古着や布、薬草のようなものなどに混じって、剣や盾などを広げているおじさんもいる。

「この町はまだ小さいほうですから、市場も午前中だけですけど。大きな町や州都では、常設の市場もあるんですよ!高価なものはないですけど、掘り出し物が見つかることは多いみたいです。例えば……これなんかどうです?」

アリシアが一振りの剣を手に取った。刃渡り70センチほど。ちょうどアイダが装備している剣に似ている。

そうだなあ……エアガンがいつまで使えるかわからないし、この世界の武器で身を守る方法も習得しておいたほうが良さそうではある。
しかし残念ながら俺は剣など振るったことは無い。

「そういう事なら、私がきっちりお教えいたします。これでも10年以上は修練に励んでいますので!」

そう申し出てくれたのはアイダだった。

「そうだな。じゃあ旅の途中で頼む。それより狩りをしながら向かうのなら、皮剥用のナイフなんか必要なんじゃないのか?」

「そうですね……短刀でもいいですが、効率を考えるなら……こんなのはどうでしょう?」

アリシアが次に手に取ったのは、先端が大きく反り上がったスキニングナイフだ。

「あ、それ良さそう!おじさん!このナイフ幾ら?2本ある?」

「一本で銀貨3枚だな。ちょうど2本あるけど、嬢ちゃんが使うのか?だったら2本で銀貨5枚だ」

イザベルの問い掛けに店主のおじさんがナイフの束の下から同じようなスキニングナイフを取り出す。

「なんだ。そっちのは錆び錆びじゃん。もうちょっと状態いいのないの?」

「そうさなあ。皮剥用のナイフはこれ2本だな。嬢ちゃんが使うんなら、これぐらいの大きさはちょうどいいだろ?」

「うん。形も大きさもいいんだけど、使えるようにする手間がなあ。それで銀貨5枚?その錆びたナイフで、おじさん銀貨2枚取るの??」

「ああもう!じゃあ銀貨4枚と銅貨5枚!」

「アイダちゃん。どうしよう?」

「そうだな…銀貨5枚でいいから、そっちの砥石を付けてくれ。研ぎは自分でやるから。どうだい?」

「わかったよ!美人の嬢ちゃん2人に迫られちゃ仕方ねえ。銀貨5枚で持って行きな!」
アイダの出した条件で店主が折れた。

「やった!アイダちゃん手入れよろしくね!」

「じゃあ私が鞘を革で作りますね!じゃあ鞣し革も買わないと。えっと……革を扱ってるお店は……」

今度はアリシアがキョロキョロし始める。


そんな感じでのんびり買い物などしていると、町の門に着いたのは昼前になってしまった。
これでようやく次の町、アステドーラに向かえる。

アステドーラは近隣の町や村を束ねる中継基地のような役割もあるらしい。要はハブ空港みたいなものだろう。

ここエルレエラから次の町アステドーラまで、直線でおよそ50キロメートル。途中いくつか小さな集落はあるが、どれも宿泊できるような施設はないようだ。

エルレエラから伸びる道は4本。南に向かえばスー村、東と西にはそれぞれ開拓村があるらしいが、今回はアステドーラに向かうから北の道を進む。

「直線距離で50キロメートルって言っても、道なりに進むと70キロメートルはあるかな。途中で山越えもあるし、ルシタニアの中でも難所のほうだって言われてるんだよ!」

「だから普通は山の麓で一泊、山越えした向こう側で一泊の二泊三日の道中となります。荷馬車の場合は山を迂回するので、道は平坦ですが距離は更に延びます。徒歩で山越えするのと荷馬車で行くのでは、概ね一日程度は徒歩のほうが早いようですね」

アリシアとアイダの解説を聞きながら進む。
イザベルは前に行ったり後ろに回ったりとちょろちょろしながら歩いている。

とりあえず周辺300メートル内に魔物の気配はない。
前方60°ぐらいの角度にレーダーと名付けた探知魔法の帯を照射しているが、今のところ反応はない。

イザベルも獲物を探しているようだ。どうやら新しく買ったスキニングナイフの切れ味を試したくて仕方ないらしい。あるいは一角オオカミの売価で味をしめたか。


2時間ほども歩き、そろそろ小休止を入れようと木陰に立ち寄る。
昨日降った雨のおかげか、大気は適度に湿り気を帯びていて過ごしやすい気温になっている。
アリシア達も革袋の水を飲んだり干し肉を齧ったりしながら休憩している。
地面に座り込んだりする者がいないのは、さすが狩人の卵達だ。

「アリシアちゃん、アイダちゃん!ちょっと……」

イザベルが他の2人を誘って近くの藪に向かう。トイレだろう。
その間に俺も別の茂みで用を足し、スキャンとレーダーで辺りを調べる。

スキャンの探知範囲に魔物の気配はない。
レーダーでは……いた。進行方向に向かって2時の方向。距離1キロメートル。

戻ってきた3人に、探知結果を報告する。
アイダが地図を広げて、現在位置と探知結果を照合する。

「エルレエラから2時間ちょっと歩いたから、今はこの辺り。ここから北東に約1キロメートル……ってその先に開拓村があるぞ!」
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