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24.エルレエラにて①(5月5日)

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エルレエラの連絡所の扉を開くと、大きな窓が開放的な、明るい雰囲気の板張りの部屋だった。
部屋の隅に置かれたテーブルの周りでは数人の男達が談笑している。

奥のカウンターには栗色の髪のお姉さんがいた。

「あなた達がハビエルを護衛してきた学生さんね!報酬の準備はできてるわよ」

お姉さんがカウンターにいくつかの革袋を乗せる。

「その前に、デボラ姉さんからの証明書を渡してちょうだい」

「はい。こちらです」
アリシアがリュックから巻物を取り出し、お姉さんに渡す。

お姉さんは巻物を広げ、何かをチェックする。
恐らく依頼者名と依頼条件、そして達成確認のサインだろう。

「はい。よくできました!じゃあこっちが護衛任務の報酬ね。一泊二日の護衛任務で金貨4枚です。それと……一角オオカミの皮10枚に角15本、魔石15個の報酬が合わせて金貨31枚。合計で35枚ね!全部金貨だと使いにくいでしょうから、金貨5枚分は銀貨にしておいたわ。どうぞお受け取りください!」

おう……金貨35枚、通貨レートが正しければ35万円相当。4人で分けても一泊二日で9万円弱。
命を張った代金としては適正なのか安いのか……

「やった!これで宿に泊れて美味しいご飯が食べられるね!!」
イザベルが喜んでいる。

「今夜の宿は決めてないの?だったら広場の向かいの金羊亭にしなさい。一階は食堂だけど、2階が宿になってるわ。女将はカサドール上がりだから、エルレエラに来るカサドールの半分ぐらいは金羊亭に泊るの。もっとも料金が少し高めだから、貧乏なカサドールは寄り付かないけどね。だからこそ安心でもあるんだけど」

「じゃあそこにします!いろいろありがとうございました!」
受付のお姉さんにお礼を言って、連絡所を後にした。

そのまま広場を突っ切り、向かいにある金羊亭を目指す……のかと思いきや、イザベルがふらふらと屋台に向かい始めた。
時刻は13時を回っている。アリシア達も腹が減っているだろう。

イザベルが一軒の屋台の前で足を止めた。
屋台の軒先には小さなテーブルが二つと木箱をひっくり返した椅子が4つ置いてある。

「お兄ちゃん!お腹空いた!!」
そこで俺にねだるか。確かにさっき受け取った金貨と銀貨は纏めて俺が預かっているが。

「わかった。これで足りるか?アリシア。悪いが一緒に行ってやってくれ」
イザベルに銀貨を3枚渡す。

アリシアと一緒に駆け出していったイザベルは、木箱に腰掛けた俺達の下へ何かの串焼きを4本とピタパンのようなものを4つ運んできた。

「お待たせ!豚の串焼きと鶏肉のピタだよ!お兄ちゃんこれお釣りね!」
イザベルが俺に銅貨を2枚渡してきた。

串焼きは長さ30センチほどの竹串に手の平半分ほどの肉が3つ刺さっていた。
振りかけられているのは塩と胡椒のようだ。
一口食べると豚の脂が口の中に広がり、ほんのりと幸せな気分になる。
関東で“焼きとん”と言われる、いわゆる普通の豚バラ串だ。

ピタのほうは、同じく塩と胡椒で味付けされた炒め肉と千切りのキャベツのような野菜を、半円状の薄焼きパンに挟んだものだった。
こちらもシンプルな味付けだが、しっかりとした鶏の歯応えと噛むほどに出てくる肉の旨味が心地よい。

「やっぱり猪肉ししにくより豚肉のほうが柔らかくて好き!豚肉とか羊肉は町でしか食べられないしね!」
イザベルが串焼きを頬張りながら話している。

「旅の途中はどうしてもウサギやキジ、カモなんかしか獲れないし、パンも焼けないからな」

「でも、カズヤさんと一緒なら大物を狩っても平気なんじゃない?ほら……あれがあるから」

あれとは何か?収納魔法のことか?

「そうだ!魔物を狩りながらアルカンダラを目指せば、結構お金稼げるじゃん!価値がありそうな部分は全部あれに仕舞っちゃえばいいんだし!お兄ちゃんがいてくれれば、絶対大丈夫だよ!」

そんな談笑をしながらゆっくりと昼食を摂り、今度こそ金羊亭へと向かう。

「いらっしゃい!ああ、あんた達かい?ハビエルを護衛してきた学生さんってのは。ハビエルから聞いたよ!何でも亡くなった連れの遺品をアルカンダラまで持ち帰るんだって?」

金羊亭の扉をくぐるなり、カウンターの奥から女将さんに声を掛けられた。
茶色い髪を後ろで一つに束ねた、恰幅の良い女将さんだ。雰囲気はどことなくスー村のカルネおばさんを思わせる。

しかしハビエルはどこで何を吹聴して回っているのやら。

「今夜の宿だろ?通常は一泊二食付きで1人金貨1枚と銀貨5枚だけどね。連絡所の紹介だろうしハビエルの件もあるからね。特別に一泊二食付きで四人纏めて金貨3枚だ。ただし部屋は2部屋だね。ベッドはそっちのお兄さんの部屋から一つ運べばいいさ。どうだい?」

一人一泊7500円で二食付きなら文句はないだろう。
アイダがこっちを見て頷いている。

「わかりました。それでお願いします」
俺はカウンターの上に金貨3枚を置く。

「あいよ。確かに3枚だね。部屋は階段上がって右の突き当りの部屋とその隣。1番と2番だ。鍵はこれね。外出するときは私に預けな。夕食は日没から。ただし酒と追加注文は別料金だ。あと、これは常識だが街中での魔法の行使はご法度だからね。この町にも衛兵はいるから飛んでくるよ。しょっ引かれたくなかったら気をつけな!他に何か質問は?」

俺達4人はお互い顔を見合わせるが、特に質問はない。

「よし!特に預ける荷物もないようだし、さっさと休むなり買い物にいくなりおし!」

豪快な女将に勧められるまま、カウンターの奥の階段を上がり、とりあえず1番の部屋に集合する。
1番の部屋は角部屋で、入って右手と正面に窓がある6畳ほどの部屋だった。小振りのベッドが2つ並んで置いてあるが、壁側に寄せれば3つ並べて置けそうだ。
その他の調度品は小さな机と椅子が一つ。魔道具らしきランタンが一つ。
扉には大きなかんぬき。内側からの施錠では閂を併用するらしい。

とりあえず2番の部屋からベッドを1つ運び、合計3つのベッドを並べて置く。
ベッドは木製だが綿か羊毛の詰まったマットが敷いてあり、なかなか快適そうだ。

ベッドを据えて、2番の部屋でゆっくりするかと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。

『買い物に行きましょう!!』

まあそうだろうな。


アリシア達が向かったのは、服屋、防具屋、それから小間物屋だった。

「カズヤさんから借りてる服も好きだけど、やっぱり女の子らしくないよね」

「この機能性は捨てがたいのだが……大きさがな……」

「じゃあ、アルカンダラに着いたら仕立ててもらおうよ!同じ柄は無理だろうけど濃緑や焦げ茶色の木綿生地はあるから、似たような服は仕立ててもらえると思うよ!」

「しかし3人分、しかも洗い替えもとなると相当な金貨が必要だぞ?」

「だからさ!狩りをしながらアルカンダラに向かえばいいじゃん!私達なら大丈夫だって!」

そんな話をしながら3人は楽しそうに買い物をしている。

ちなみに俺は3人の荷物持ちといった態で、時折繰り出される“どっちが似合う?”という口頭試問に答えながら大人しく付いて行く。

世の中の諸兄は十分ご承知おきだと思うが、女性の買い物に付き合うコツは的確な相槌と無我の境地だ。

そんな俺だが、小間物屋では革のポーチを買った。正確には4人分購入した。
ベルトループが付いていて、腰のベルトを通して保持するものだ。
流石に麻袋を紐でベルトに吊り下げる財布というのは、なかなか不安なのだ。

宿に帰ると、3人は1番の部屋で早速着替え始めた。

俺は2番の部屋の机を使い、買ってきた革のポーチに収納魔法を掛けて、持っている硬貨を4当分する。
割り切れなかった分は纏めて俺が預かることにした。

しかし狩りをしながらのんびり向かうというのも、いいアイデアかもしれない。金はいくらあっても困るものではない。
ただそうなると日数がかなり掛かりそうだ。

残してきた自宅が気になる。
明日の夜も野営になるだろうから、ちょっと帰ってみるか。

椅子に座ってのんびりしていると、扉がノックされた。

どうぞ~

我ながら気の抜けた返事をする。
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