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22.エルレエラへの旅路②(5月4日)
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「みんな無事か!!」
ハビエルが大声を上げている。
「大変!アイダちゃんが怪我してる!!」
アリシアがアイダに駆け寄り、血が滴っているアイダの左手を取って傷口を確認している。
「問題ない。かすり傷だ」
強がるアイダをアリシアが諭す。
「そんなこと言わないの。ほら!傷口を洗うから上着脱いで!」
BDUを脱いだアイダの二の腕辺りがぱっくりと裂けていた。
これは本来ならば10針ほどは縫わなければいけないような怪我だ。
「かすり傷なんかじゃないじゃない!ほら!腕を伸ばして!!」
アリシアが革袋を取り出し、アイダの傷口を洗う。
「ちょっと痛いけど我慢してね」
そういいながら、綺麗な布で傷口を押さえながら治癒魔法を掛ける。
アイダの左腕が淡い光に包まれ、数十秒後に収束した。
押し当てていた布をそっと外すと、その下からはピンク色の肌が見えた。
「よし!もう大丈夫。あと数日もすれば跡も消えて元通りの肌になるはずだよ!」
アリシアがにっこりとほほ笑む。
「ああ。いつもすまない」
「仲間でしょ!いいってことよ!」
アリシアがアイダの肩を軽く叩く。
「いやあ、とんだ災難だったな!まさかこんな所で一角オオカミの待ち伏せをくらうとはな。しかし兄ちゃんの魔法は何だ?タンって軽い音がしたと思ったら、ヤツらがバタバタと倒れていったが……」
「あれはお兄ちゃんの魔法だよ!すごいでしょう!!」
何故かイザベルが胸を張る。
「まあ詮索は無しにしよう。白いのの射撃もよかったな!それはそうと、あいつらから貰うもんを貰わにゃならん。なにせ一角オオカミの角と皮は高値で売れるし、魔石も貴重だ。お前達も手伝え!」
ハビエルが皆を促し、手近な一頭から解体を始めた。
あっという間に腹を裂き、自分の背丈の七割程のオオカミの皮をスルスルと剥いでいく。
価値があるのは胴体部分だけのようで、足先や頭部は落としてしまっている。
「俺が皮を剥ぐから、お嬢ちゃん達は魔石と角を回収してくれ。一角オオカミだけでなく、魔獣の類の魔石は心臓部にあるからな。学校で教わっただろう?」
「はい。大丈夫です!」
「あ!兄ちゃんは俺の手伝いな。そっち持ってくれ!」
はいはい。
アリシア達は皮を剥ぎ終わったオオカミから心臓をえぐり出して心臓にくっついている魔石を剥がし、頭部を探し出しては角を切り取っている。なかなかシュールな絵面だ。
一角オオカミの角は頭蓋骨から生えている感じらしい。サイのように皮膚や毛が硬化したものではなく、シカの角のように骨の一部のようだ。
しかし、心臓に石がくっついているのか……本来ならばまともに生きられるはずもないのだが。
そう言えばゴブリンから回収した魔石は小指の爪ほどの大きさの物から親指大の物まで色々な大きさがあった。自分達で狩った獲物から魔石を回収していたにせよ、ゴブリンが狩れるサイズの生き物など、そんなに大型だとは思えない。
「ハビエルさん。魔物は生まれた時から体内に魔石を抱えているのですか?魔物が成長するにつれて魔石が大きくなっていくのでしょうか?」
わからないことは知っている(かもしれない)人に聞いてみよう。
「なんだ兄ちゃん、変なこと聞くな?魔物が成長するって話は聞かねえな。ただ、同じ魔物でも取れる魔石の大きさは違うから、何かしらの成長はしてるのかもしれんな。兄ちゃん達はアルカンダラに行くんだろ?あっちにゃ長年魔物の研究ばかりしている学者さんがいるから、興味があるなら訪ねてみるといい」
なるほど。魔物を研究する機関のようなものがあるのかもしれない。
「よし!いっちょ上がりだ!次行くぞ!」
ハビエルに急き立てられるように、次のオオカミの解体に入る。
こんな感じでおよそ5分で1頭のペースで解体を続け、20枚の皮と30本の角、それに魔石を30個得た。
オオカミの魔石は透き通った琥珀色だった。
「しかし、ちょっと休憩のつもりが、とんだ道草になっちまった!ほれ!出発するぞ!」
ハビエルがオオカミの皮を荷台に乗せる。
俺達の乗るスペースが少々狭くなったが、こっちは便乗させてもらっている身だ。文句は言うまい。
またアイダとハビエルの会話が始まる。
どうやら次の町、エルレエラまではだいたい50キロメートルほどらしい。
馬車なら早朝にスー村を出れば、日暮れの頃には到着する。徒歩だと途中で野宿して、次の日の昼頃に到着することになる。
今回はスー村を10時ぐらいに出発したから、道程を6割から7割ほど行った辺りで日没になる。
ただ一角オオカミの襲撃で2時間余りロスしたから、だいたい半分辺りで野宿することになるだろうとの見立てだ。
イザベルとアリシアが眠たそうにしている。
ハビエルと話していたアイダも、口数が少なくなってきた。
そんな三人を見ていると、俺も眠たくなってきた。
さすがに先ほどの戦闘は堪えた。
自宅を守っていた時は高低差があったし、洞窟や森でゴブリン達を狩った時は一瞬でケリがついた。
だが、アリシアとイザベルは荷台に乗っていたとはいえ、オオカミの脚力なら簡単に飛び上がれる距離で、しかもアイダは肉薄しての戦いになったのだ。
俺自身の命の危険より、アリシアやアイダ、イザベルといった知り合って間もない娘達の方が心配だったのは、年齢差によるものだろうか。
荷馬車はガタゴトといい音を立てて進む。前方に見えていた山を左周りでかわしながら進むようだ。
うとうとしているうちに、すっかり日が陰っていた。
荷馬車がゆっくりと停まる。
「よし!今日はここで野営だ!みんな起きた起きた!日没までに野営の準備をせにゃあならん」
荷台を降りたイザベルが、辺りを確認し矢筒を背負い弓を持つ。
「ちょっと一狩りしてくる!」
「それなら私も!」
イザベルとアイダが駆けだしていった。
辺りは街道から少し離れた平坦な草地だ。10メートルほど離れた所を小川が流れ、その向こうは林になっている。イザベル達が向かったのは、川沿いの草地のほうだ。
小川では釣りは難しそうだから、イザベルの腕に期待しよう。
アリシアと二人で薪を拾いにいく。
しばらく雨が降っていない様子で、地面に落ちた枯れ枝は乾いている。
生えている木はカシやブナ、クヌギといった、いわゆるドングリのなる木だ。
枯れ枝を踏みつけ、簡単に折れるものを中心に集めていく。
指ほどの太さの物から、手首ほどの太さの物を拾い集め、一抱えごとに野営地へ運ぶ。
ハビエルは馬に水を与えていた。
アリシアが焚火の準備を始めた。
薪の量が少し心許ない。太めの枯れ木のみを拾い集め、野営地へ運ぶ。
テントを張り始めると、ハビエルが声を掛けてきた。
「なんだそれ?天幕か??」
「そうです。簡単に張れて便利ですよ。ハビエルさんはどうやって寝るんですか?」
「俺か?まあ今夜は天気もいいし、オオカミの毛皮も手に入った。荷台で寝るさ。それはそうと、狩りに行った二人はまだ帰ってこないか?」
そういえばそうだ。周囲にスキャンを掛ける。
有効範囲のギリギリに2人を見つける。こちらに戻ってきているらしい。
しばらくするとイザベルとアイダがそれぞれウサギを一羽ずつぶら下げて帰ってきた。
このウサギは魔物ではない、普通のノウサギのようだ。
アイダとアリシアがウサギを捌いていく。
イザベルが鍋に水を張って火に掛け、何やら袋から取り出した野草を刻み始めた。
見た感じはネギのようなニラのような……球根っぽい部分があるからノビルかもしれない。春菊のようにも見える葉はヨモギだろうか。
アイダとアリシアに捌かれた二羽のウサギは、ぶつ切りにされ鍋に投入された。
大量に浮いてくるアクを掬いきったところで、イザベルが刻んだ野草を投入する。
アリシアが味見をしながら塩を投入する。
「できました!ハビエルさんも一緒に食べますよね!!」
「おう!嬢ちゃん達なかなか良い手際だな!感心感心!」
そう言いながらハビエルが自分の木皿とスプーンを持ってやってきた。
焚火と鍋を囲んでの夕食が始まった。
始めて食べるウサギのスープは、鶏肉のような歯応えで癖のないあっさりした味だった。
味噌仕立てにしたら旨そうと思うのは、やっぱり日本人だからだろう。
西洋風にいうなら、シチューにしても旨そうだ。
こうして野営2日目の夜が更けていった。
食事を終えたハビエルは、さっさと馬車に戻る。交代で見張りをするような気はないらしい。
もっとも普段は単独行ということだから、野営する時は寝ていないか、あるいはあっさりと寝ているのだろう。
流石にハビエルのような豪胆さはない。俺達は交代で起きていることにした。
「カズヤ殿。昨日は見張りを任せてしまったので、今夜は私達が見張りをします。どうぞお休みください」
せっかくのアイダの申し出に甘えることにした。
流石に眠たい。
ハビエルが大声を上げている。
「大変!アイダちゃんが怪我してる!!」
アリシアがアイダに駆け寄り、血が滴っているアイダの左手を取って傷口を確認している。
「問題ない。かすり傷だ」
強がるアイダをアリシアが諭す。
「そんなこと言わないの。ほら!傷口を洗うから上着脱いで!」
BDUを脱いだアイダの二の腕辺りがぱっくりと裂けていた。
これは本来ならば10針ほどは縫わなければいけないような怪我だ。
「かすり傷なんかじゃないじゃない!ほら!腕を伸ばして!!」
アリシアが革袋を取り出し、アイダの傷口を洗う。
「ちょっと痛いけど我慢してね」
そういいながら、綺麗な布で傷口を押さえながら治癒魔法を掛ける。
アイダの左腕が淡い光に包まれ、数十秒後に収束した。
押し当てていた布をそっと外すと、その下からはピンク色の肌が見えた。
「よし!もう大丈夫。あと数日もすれば跡も消えて元通りの肌になるはずだよ!」
アリシアがにっこりとほほ笑む。
「ああ。いつもすまない」
「仲間でしょ!いいってことよ!」
アリシアがアイダの肩を軽く叩く。
「いやあ、とんだ災難だったな!まさかこんな所で一角オオカミの待ち伏せをくらうとはな。しかし兄ちゃんの魔法は何だ?タンって軽い音がしたと思ったら、ヤツらがバタバタと倒れていったが……」
「あれはお兄ちゃんの魔法だよ!すごいでしょう!!」
何故かイザベルが胸を張る。
「まあ詮索は無しにしよう。白いのの射撃もよかったな!それはそうと、あいつらから貰うもんを貰わにゃならん。なにせ一角オオカミの角と皮は高値で売れるし、魔石も貴重だ。お前達も手伝え!」
ハビエルが皆を促し、手近な一頭から解体を始めた。
あっという間に腹を裂き、自分の背丈の七割程のオオカミの皮をスルスルと剥いでいく。
価値があるのは胴体部分だけのようで、足先や頭部は落としてしまっている。
「俺が皮を剥ぐから、お嬢ちゃん達は魔石と角を回収してくれ。一角オオカミだけでなく、魔獣の類の魔石は心臓部にあるからな。学校で教わっただろう?」
「はい。大丈夫です!」
「あ!兄ちゃんは俺の手伝いな。そっち持ってくれ!」
はいはい。
アリシア達は皮を剥ぎ終わったオオカミから心臓をえぐり出して心臓にくっついている魔石を剥がし、頭部を探し出しては角を切り取っている。なかなかシュールな絵面だ。
一角オオカミの角は頭蓋骨から生えている感じらしい。サイのように皮膚や毛が硬化したものではなく、シカの角のように骨の一部のようだ。
しかし、心臓に石がくっついているのか……本来ならばまともに生きられるはずもないのだが。
そう言えばゴブリンから回収した魔石は小指の爪ほどの大きさの物から親指大の物まで色々な大きさがあった。自分達で狩った獲物から魔石を回収していたにせよ、ゴブリンが狩れるサイズの生き物など、そんなに大型だとは思えない。
「ハビエルさん。魔物は生まれた時から体内に魔石を抱えているのですか?魔物が成長するにつれて魔石が大きくなっていくのでしょうか?」
わからないことは知っている(かもしれない)人に聞いてみよう。
「なんだ兄ちゃん、変なこと聞くな?魔物が成長するって話は聞かねえな。ただ、同じ魔物でも取れる魔石の大きさは違うから、何かしらの成長はしてるのかもしれんな。兄ちゃん達はアルカンダラに行くんだろ?あっちにゃ長年魔物の研究ばかりしている学者さんがいるから、興味があるなら訪ねてみるといい」
なるほど。魔物を研究する機関のようなものがあるのかもしれない。
「よし!いっちょ上がりだ!次行くぞ!」
ハビエルに急き立てられるように、次のオオカミの解体に入る。
こんな感じでおよそ5分で1頭のペースで解体を続け、20枚の皮と30本の角、それに魔石を30個得た。
オオカミの魔石は透き通った琥珀色だった。
「しかし、ちょっと休憩のつもりが、とんだ道草になっちまった!ほれ!出発するぞ!」
ハビエルがオオカミの皮を荷台に乗せる。
俺達の乗るスペースが少々狭くなったが、こっちは便乗させてもらっている身だ。文句は言うまい。
またアイダとハビエルの会話が始まる。
どうやら次の町、エルレエラまではだいたい50キロメートルほどらしい。
馬車なら早朝にスー村を出れば、日暮れの頃には到着する。徒歩だと途中で野宿して、次の日の昼頃に到着することになる。
今回はスー村を10時ぐらいに出発したから、道程を6割から7割ほど行った辺りで日没になる。
ただ一角オオカミの襲撃で2時間余りロスしたから、だいたい半分辺りで野宿することになるだろうとの見立てだ。
イザベルとアリシアが眠たそうにしている。
ハビエルと話していたアイダも、口数が少なくなってきた。
そんな三人を見ていると、俺も眠たくなってきた。
さすがに先ほどの戦闘は堪えた。
自宅を守っていた時は高低差があったし、洞窟や森でゴブリン達を狩った時は一瞬でケリがついた。
だが、アリシアとイザベルは荷台に乗っていたとはいえ、オオカミの脚力なら簡単に飛び上がれる距離で、しかもアイダは肉薄しての戦いになったのだ。
俺自身の命の危険より、アリシアやアイダ、イザベルといった知り合って間もない娘達の方が心配だったのは、年齢差によるものだろうか。
荷馬車はガタゴトといい音を立てて進む。前方に見えていた山を左周りでかわしながら進むようだ。
うとうとしているうちに、すっかり日が陰っていた。
荷馬車がゆっくりと停まる。
「よし!今日はここで野営だ!みんな起きた起きた!日没までに野営の準備をせにゃあならん」
荷台を降りたイザベルが、辺りを確認し矢筒を背負い弓を持つ。
「ちょっと一狩りしてくる!」
「それなら私も!」
イザベルとアイダが駆けだしていった。
辺りは街道から少し離れた平坦な草地だ。10メートルほど離れた所を小川が流れ、その向こうは林になっている。イザベル達が向かったのは、川沿いの草地のほうだ。
小川では釣りは難しそうだから、イザベルの腕に期待しよう。
アリシアと二人で薪を拾いにいく。
しばらく雨が降っていない様子で、地面に落ちた枯れ枝は乾いている。
生えている木はカシやブナ、クヌギといった、いわゆるドングリのなる木だ。
枯れ枝を踏みつけ、簡単に折れるものを中心に集めていく。
指ほどの太さの物から、手首ほどの太さの物を拾い集め、一抱えごとに野営地へ運ぶ。
ハビエルは馬に水を与えていた。
アリシアが焚火の準備を始めた。
薪の量が少し心許ない。太めの枯れ木のみを拾い集め、野営地へ運ぶ。
テントを張り始めると、ハビエルが声を掛けてきた。
「なんだそれ?天幕か??」
「そうです。簡単に張れて便利ですよ。ハビエルさんはどうやって寝るんですか?」
「俺か?まあ今夜は天気もいいし、オオカミの毛皮も手に入った。荷台で寝るさ。それはそうと、狩りに行った二人はまだ帰ってこないか?」
そういえばそうだ。周囲にスキャンを掛ける。
有効範囲のギリギリに2人を見つける。こちらに戻ってきているらしい。
しばらくするとイザベルとアイダがそれぞれウサギを一羽ずつぶら下げて帰ってきた。
このウサギは魔物ではない、普通のノウサギのようだ。
アイダとアリシアがウサギを捌いていく。
イザベルが鍋に水を張って火に掛け、何やら袋から取り出した野草を刻み始めた。
見た感じはネギのようなニラのような……球根っぽい部分があるからノビルかもしれない。春菊のようにも見える葉はヨモギだろうか。
アイダとアリシアに捌かれた二羽のウサギは、ぶつ切りにされ鍋に投入された。
大量に浮いてくるアクを掬いきったところで、イザベルが刻んだ野草を投入する。
アリシアが味見をしながら塩を投入する。
「できました!ハビエルさんも一緒に食べますよね!!」
「おう!嬢ちゃん達なかなか良い手際だな!感心感心!」
そう言いながらハビエルが自分の木皿とスプーンを持ってやってきた。
焚火と鍋を囲んでの夕食が始まった。
始めて食べるウサギのスープは、鶏肉のような歯応えで癖のないあっさりした味だった。
味噌仕立てにしたら旨そうと思うのは、やっぱり日本人だからだろう。
西洋風にいうなら、シチューにしても旨そうだ。
こうして野営2日目の夜が更けていった。
食事を終えたハビエルは、さっさと馬車に戻る。交代で見張りをするような気はないらしい。
もっとも普段は単独行ということだから、野営する時は寝ていないか、あるいはあっさりと寝ているのだろう。
流石にハビエルのような豪胆さはない。俺達は交代で起きていることにした。
「カズヤ殿。昨日は見張りを任せてしまったので、今夜は私達が見張りをします。どうぞお休みください」
せっかくのアイダの申し出に甘えることにした。
流石に眠たい。
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