異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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21.エルレエラへの旅路(5月4日)

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カルネおばさんとデボラ姉さん、カリナに見送られながら、二頭立ての荷馬車は街道を走り出した。
街道といっても舗装されているわけではない。荷馬車がようやくすれ違えるぐらいの幅に草が生えていないだけの、ただの土の道だ。

荷馬車には幌などはなく、四輪の上に木の箱を置き、前方に御者台を設けただけの作りだ。
分厚い蝋引きの布が畳んで木箱の上に載っているから、雨が降ってくればこの布を掛けるのだろう。

積まれた荷物は小麦の入った袋や、何かの木箱などだった。荷台の半分ほどが荷物で埋まっている。


俺達は荷物を後方に寄せ、御者台と荷物の間にスペースを確保した。

少々お尻が痛い。道の凹凸を車輪がダイレクトに拾っている。サスペンションのような機構は搭載されていないようだ。

荷物の中からエアマットを取り出し、膨らませてお尻の下に敷く。
シングルベッド1つ分のエアマットは、半分に折るとちょうど4人が座るのに良い広さと厚さになった。
これで多少はマシになるだろう。


ようやく余裕ができたところで、アイダとハビエルのとりとめのない話を聞きながら周囲の観察を始める。

道の前方にはいくつかの山が連なり、右側には昨夜野営をした川が流れ、左側には膝丈よりも少し低い高さの草が一面に生えている。
草原にも所々に木の茂った藪や林があり、木々の梢では鳥が囀っている。ハトよりも少し小さな体に黒く長い尾羽。水色の羽毛。見覚えのない鳥だ。

「カズヤさん、ウサギがいます!」

俺の隣に座っているアリシアが、斜め後方を指さす。

「ウサギ、狩る?」

イザベルが自分の弓を引きよせ、矢を番える。

「よしときな嬢ちゃん!まだ飯には早いし、この先にもいい狩場がある。お前さん達は馬車に慣れてないみたいだから、だいたい2時間で休憩を取ってやるからな。狩りがしたけりゃその時にしな!」

ハビエルの言葉に大人しく座りなおしたイザベルの頭を、アイダが優しく撫でている。

「お前さん達アルカンダラの学生だろ?こっちまではどうやって来たんだ?」

「はい。行商人の方の馬車に乗せてもらったり、歩いたりです」

「じゃあ魔物にも出くわしたか?どうだった?」

「そうですね……はぐれ小鬼やツノウサギ、オオネズミの群れぐらいですかね」

「イノシシの大きいのは獲りそこなったの!」

イザベルが身振り手振りで話に入っていく。

「ん?大きなイノシシってのは嬢ちゃんぐらいの大きさか?」

イザベルは首を傾げながら比較対象を探す。

「ううん、お兄ちゃんより大きかった!」

「そうか!こっちの兄ちゃんよりでかいか!そりゃただのイノシシじゃねえな。牙イノシシってやつだ。でっかい牙が顔に突き刺さりそうになってなかったか?」

「そう!そんな感じだった!矢は当たるんだけど、毛が硬くて鏃が刺さらないの!」

「そうだろうそうだろう。いいか嬢ちゃん。あいつらは首を落とすんだ。突っ込んできたらヒラリと躱して、ズバッと首を落とす。あいつらだけじゃない。どんな魔物も首を斬り落とせばイチコロだ。まあ魔石のある心臓当たりを吹き飛ばすか、火魔法をありったけぶち込んで黒焦げにしちまってもいいが、魔石はいい稼ぎになるし、何より牙イノシシの肉は旨いからな!その点、首を落とせば血抜きもできて一石二鳥ってやつよ!」

ハビエル先生の魔物狩り講座が始まった。
アイダやアリシア、イザベルが熱心に聞いている。

それにしても、この世界には実に様々な魔物がいるらしい。
いわゆる大型化した野生動物や昆虫、ミミズのような環形動物、火を吐くトカゲや馬を丸呑みにするほどの蛇、二足歩行し何らかの文化を持つ鬼の類、水辺や水中に潜む水妖、空を舞う大鷲の翼を持つライオン、そういった魔物との戦闘経験を、ハビエルは力強く語ってくれた。

「まあとにかくだ!魔物を退治する時は、まず首を狙えってことだ。そうすりゃ勝てる!」
どうやらハビエルは首狩りに特化した戦い方を好むらしい。

「ミミズみたいに、どこが首か分からない魔物は?」

「そりゃ切り刻め。剣が使えないなら風魔法で切り刻んでもいいぞ!口の中に炎を突っ込んでもいいけどな。どんな方法で魔物を討つにしても、魔石の回収だけは忘れるなよ!」

「はい!先生!!」

そんな話をしているうちに、道幅が急に広がった。
何やら端の方には杭が立ち並んでいる。

ハビエルはゆっくりと荷馬車の速度を落とすと、杭の内の一本の近くに馬車を寄せた。

「よし!ちょっと休憩だ!何か喰いたい奴は食っとけ!あと用足しもしとけよ!」

そう言うとハビエルは近くの茂みにさっさと向かう。どうやらその辺りがトイレらしい。

アリシア達3人は連れ立って別の茂みに向かった。

俺もハビエル側の茂みで用を足し、皆と少し離れた場所で一服する。

細長いタバコが減っていく間に、暇つぶしに周囲に索敵魔法を拡げる。
ちなみに索敵魔法を逆探知するような魔法は無いらしい。もっとも魔力を探知する魔法だから、索敵魔法そのものを探知しなくても相手側が索敵魔法を使えば術者の居場所は丸見えになってしまう。

周囲に薄く拡げていく方法では、どうやら300メートルぐらいが限界のようだ。
ただしこの方法では三次元の索敵が可能だった。
これをスキャンと呼ぶことにしよう。

それならレーダーのようにまず直線を伸ばしたらどうなるだろう。

この方法なら距離が飛躍的にアップした。数キロ先まで届いているようだ。
そのまま直線を小刻みに自分の周りに発射して線を面にしていく。イメージしているのはレーダーだ。
レーダーでなら、およそ4キロ先まで索敵範囲を拡げることができた。

しかしこの方法はひどく時間が掛かる。遠距離を荒く探る時はレーダー、精度を上げるにはスキャンと使い分けるほうが良さそうだ。

もっと密にレーダーを発射していくと、北西の方角およそ500メートルの位置に複数の魔力を探知した。
それもこちらに近づいている。

100メートルをおよそ30秒、時速に直すと12キロメートルほど。馬の並足か、人型の魔物の全力疾走か、あるいは犬型の魔物か。

慌てて皆の所に戻る。

「ハビエルさん!何かが近づいてくる!」

ハビエルが少し緊張した面持ちに変わっている。

「おう兄ちゃん、気付いたか。見かけに似合わず良い勘してるぜ。嬢ちゃんたちも荒事に備えな!この数と速度は一角オオカミだ。奴ら待ち伏せしていやがった」

オオカミと聞いて、アリシア達にも緊張が走る。

「いいか!どうせ逃げても追いつかれるし、逃げおおせても仲間がやられるだけだ。奴らをここで叩く。黒いのは馬を守れ!白いのは矢で牽制しろ!赤いのは皆の支援だ。とにかく魔法を撃ちまくれ!兄ちゃんは……なんだその不格好な杖は?まあいい、杖があるんなら魔法を撃て!俺は前に出るからな!」

ハビエルはそう言うと10歩ほど前で剣を構えた。刃渡り1メートルはあろうかという両手剣だ。
ハビエルはどうやら髪の色で3人を呼ぶことにしたらしい。

俺とアリシア、イザベルは荷馬車の荷台に上がる。

オオカミ達の群れは100メートルほどの距離に近づいていた。
奴らはそこで速度を落し、様子を伺うようにゆっくりと近づいて来ている。
その数は……ざっと30頭ぐらい。

俺は木箱の上に狙撃用のPSG-1とG36V、近接戦闘用のG36Cを置き、マガジンのゼンマイを巻き上げる。

彼我の距離50メートル強。この距離ならG36Vでいいだろう。
荷台の縁にバイポットを展開し、膝撃ちの姿勢で狙いを付ける。
動きが速い目標にエアガンの初速は致命的だ。とにかく初速を上げることをイメージする。

一際大きなオオカミが仲間を嗾けるように吠えた。

視界の端でイザベルが矢を番え、放つ。

同時に先ほどの大きな個体に向けて引き金を引く。

3.5倍スコープの中心で、オオカミの胸にパッと血しぶきが上がった。
そのまま次のターゲットに狙いを移す。

次々とBB弾を撃ち込み、オオカミを倒していく。
5匹倒したあたりで、スコープでは捉えにくい距離まで詰められた。

G36Vを置き、G36Cに持ち替える。
今度は立ち上がって、ダットサイトを覗きながらオオカミ達を撃っていく。

ハビエルは言葉のとおり、オオカミ達に囲まれながらも一刀のもとに首を斬り落としていた。

アイダも近づいたオオカミに果敢に挑んでいるが、力負けしているようだ。

アリシアも火の礫を放っているが、速度が遅いのかオオカミに躱されている。

アイダやアリシアの攻撃からひらりと身をかわしたオオカミを仕留めているのは、イザベルの矢だ。
どうやら正面からは矢が弾かれるようで、腹などの柔らかい場所を狙っている。


戦闘は15分も続いただろうか。
逃げていくオオカミ達をPSG-1で狙撃する。

こうして、襲撃はオオカミの全滅で幕を閉じた。
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