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14.娘が3人に増える(5月3日)
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翌朝目覚めると、ガレージの打ちっぱなしのコンクリートの壁が見えた。
結局昨日はアイダとイザベルの介抱をしながらアリシアと話し込んでいるうちに、そのままガレージで眠り込んでしまった。
途中で腹の虫を鳴かせてしまったアリシアと一緒に、ガレージに保管していた非常用食料などを食べ、またそれもアリシアの疑問の種になりといった具合で、話が尽きなかったのだ。
当のアリシアは、アイダとイザベルに時折治癒魔法を掛けるものだから、魔力を使い果たして指を吸いたがった。今でも俺の膝に頭を乗せ、左手中指に吸い付いている。
魔力は魔素を含む食品を食べることで回復するとアリシアが言っていた。大気中に含まれる魔素も吸収できるらしいが、食べるほうが圧倒的に吸収率がいいらしい。
とすれば、アリシアが頻繁に魔力切れに陥るのは、この世界の食べ物を食べさせていないからだろう。
この世界で生きていくなら、そろそろ真剣に食料をどうするか考えなければいけない。
食べ物か……この娘たちの職業訓練の中に、“狩りの獲物の正しい処理の仕方”なんてカリキュラムがあればいいのだが。
アリシアの真っ赤な長い髪を手で漉きながら、ぼんやりと考える。
しかし、寝顔は3人ともまだ幼い。
アリシアは15歳だと言っていた。
一日や一年の概念はどうやら同じようだから、15歳は15歳なのだろう。
同じ職業訓練校の学生というのだから、他の2人もだいたい同じぐらいの年齢なのだろうが。
それにしても、そろそろ起きてもらわなければ俺の指がふやけてしまいそうだ。
アリシアの口からそっと指を抜き、太ももに預けてあった頭をどかせる。
「ん……カズヤさん……」
アリシアがゆっくりと目を開いた。
「起こしてしまったか?」
「いえ、大丈夫です……アイダとイザベルは?」
アリシアが身体を起こして、2人の顔を覗き込む。
先にアイダが、そしてイザベルがゆっくりと目を開いた。
「アリシア……ここは……?」
「アリシア……アイダ……生きてた……」
アリシアが2人に抱きつき、喜んでいる。
俺はそっとガレージを出た。ここは3人にしておいたほうがいいだろう。
昨日の朝食は粥だったから、今朝はホットケーキを焼いた。
もっと消化に良い物をとも思ったが、脂肪分さえ控えれば大丈夫だろう。
卵や牛乳はそんなに日持ちのするものではない。さっさと食べてしまいたい。
卵か……そういえば生卵を安心して食べることができるのは日本独自の衛生管理のおかげらしい。
そのうち卵かけご飯を食べられる日は来るのだろうか……
焼きあがったホットケーキを皿に盛り、蜂蜜を掛ける。
飲み物は……ペットボトルの紅茶でいいか。
アウトドアで使うアルミのトレイに乗せ、ガレージに戻る。
アイダとイザベルは起き上がり、アリシアと同じようにエアマットの上で毛布に包まって座っている。
「カズヤさん!今ちょうど2人にカズヤさんのことを話してたんです!」
アリシアが俺の方を振り向いて、満面の笑みで何やら不穏なことを言っている。
だいたい本人がいないところで語られる内容は、実態とかけ離れていることが多いのだが……
「アイダと申します。剣を少々使えます。この度は私達の命をお救いいただき、感謝しても感謝しきれません」
アイダと名乗った少女は深々と頭を下げた。
日に焼けた肌にショートカット。少々堅苦しい話し方も、切れ長の瞳に宿る真面目さの表れか。
「えっと……イザベルです!えっと……この度はおしゅっ……あれ?なんだっけ?……とにかく!ありがとうございましゅ!」
「あ……あの!イザベルちゃんはあがり症なので!その……」
イザベルは褐色の肌に銀色の長い髪。ツインテールのでもすれば似合いそうな雰囲気の女の子だった。
「イザベルちゃんは弓の腕は確かなんです!だってほら耳が……」
「アリシアちゃん!これはダメ!」
イザベルが耳の辺りを押さえてアリシアに抵抗している。
「カズヤ殿。イザベルはミッドエルフなのです。少々浮世離れした所もありますが、根はいい子ですので、どうかご容赦を」
アイダが何故か頭を下げる。
「ああ。皆元気になってよかった。俺のことはアリシアから聞いたと思うが、イトー・カズヤだ。たまたまあの洞窟を探索している最中にアリシアに出会った。もっと早く再調査をすればよかったのだが、皆が生きている可能性に思い当たるのに少々時間が掛かってしまった。その間に辛い思いを余計にさせたかもしれない。すまなかった」
俺も頭を下げる。
昨日アリシアが泣いていた姿を思い出す。
別に誰かが悪いわけではないのだが、こうせずにはいられなかった。
グウウウウ!
静寂を破って誰かの腹の音が響いた。
皆が一堂に笑い出す。
「腹は減ってないか?飯にしよう」
そう言ってアリシアにホットケーキの載った皿を渡す。
「甘い匂い!お兄ちゃんナニコレ!」
ん?お兄ちゃん……だと?
年甲斐もなく動揺している自覚がある。お兄ちゃんなどと呼ばれたのは何年ぶりだろう。
「あ……カズヤさんごめんなさい。イザベルったら甘えんぼさんなところがあるから」
アリシアがフォローに入ってくれた。
「いや、それはいいんだが……イザベル。これはホットケーキっていって、朝ごはんやオヤツで食べるものだ」
ホットケーキやパンケーキを朝食として出している家庭はまだ珍しい。一部のファストフードやホテルぐらいかもしれないが、まあそんなことはいいのだ。
「ほっとけーき!食べていいの?」
いやちょっと待て、手づかみはダメだ。
慌てて皆にフォークを渡す。
真っ先にイザベルがホットケーキを口に運んだ。
「あまーい!!アイダちゃんこれ美味しいよ!」
イザベルの声で我に返ったように、アイダとアリシアがホットケーキをフォークで器用に切って口に運ぶ。
「ほんとだ。甘い!カズヤ殿!これはもしや蜂蜜ですか!」
「蜂蜜をこんなにたくさん……すごいです……」
あっという間にホットケーキを1枚食べ終わったイザベルが、皿に残った蜂蜜をぺろぺろと舐めている。
アリシアとアイダもすぐに食べ終わってしまった。
コップに紅茶を注ぎ、3人に渡す。
「これは……茶色い水?でもいい香りだ……しかも甘い……カズヤ殿は毎日こんな贅沢を?」
「いや、今日は特別だ。期待はするなよ?」
そんなに贅沢な食生活を送っていたつもりはない。
だが、恐らくこの世界で同じ食生活を送ることはできないだろう。期待されても困る。
「さて、食べ終わったならアリシアと一緒に風呂に入ってこい。その間にアイダとイザベルの服は準備しておく」
「わかりました!行こうみんな!!」
アリシアが3人の手を引いて玄関の方へ回っていく。
トラップやトイレの使い方もちゃんと教えているようだ。
俺はキッチンで洗い物をしてから、3人の着替えとタオルを準備する。
Tシャツにボクサーパンツと短パンでいいだろう。
キッチンでタバコを吸っている間に、3人が上がってきた。
「カズヤさん!またアレやってもらってもいいですか?」
髪が濡れたままのアリシアが俺を呼ぶ。
ドライヤーが気に入ったらしい。
「これは……風と火の魔道具ですか!?魔道具で髪を乾かすとは……」
魔道具ではないのだが……まあいいか。
髪も乾かし終えた3人を寝室に連れて行き、ゆっくり休むように言い聞かせる。
俺も風呂に入り、娘達の服もまとめて洗濯して、2階のベランダに干す。
今日は快晴だ。
寝室を覗くと、3人ともベッドで抱き合うように寝ていた。
さて、今日は何をしよう。
結局昨日はアイダとイザベルの介抱をしながらアリシアと話し込んでいるうちに、そのままガレージで眠り込んでしまった。
途中で腹の虫を鳴かせてしまったアリシアと一緒に、ガレージに保管していた非常用食料などを食べ、またそれもアリシアの疑問の種になりといった具合で、話が尽きなかったのだ。
当のアリシアは、アイダとイザベルに時折治癒魔法を掛けるものだから、魔力を使い果たして指を吸いたがった。今でも俺の膝に頭を乗せ、左手中指に吸い付いている。
魔力は魔素を含む食品を食べることで回復するとアリシアが言っていた。大気中に含まれる魔素も吸収できるらしいが、食べるほうが圧倒的に吸収率がいいらしい。
とすれば、アリシアが頻繁に魔力切れに陥るのは、この世界の食べ物を食べさせていないからだろう。
この世界で生きていくなら、そろそろ真剣に食料をどうするか考えなければいけない。
食べ物か……この娘たちの職業訓練の中に、“狩りの獲物の正しい処理の仕方”なんてカリキュラムがあればいいのだが。
アリシアの真っ赤な長い髪を手で漉きながら、ぼんやりと考える。
しかし、寝顔は3人ともまだ幼い。
アリシアは15歳だと言っていた。
一日や一年の概念はどうやら同じようだから、15歳は15歳なのだろう。
同じ職業訓練校の学生というのだから、他の2人もだいたい同じぐらいの年齢なのだろうが。
それにしても、そろそろ起きてもらわなければ俺の指がふやけてしまいそうだ。
アリシアの口からそっと指を抜き、太ももに預けてあった頭をどかせる。
「ん……カズヤさん……」
アリシアがゆっくりと目を開いた。
「起こしてしまったか?」
「いえ、大丈夫です……アイダとイザベルは?」
アリシアが身体を起こして、2人の顔を覗き込む。
先にアイダが、そしてイザベルがゆっくりと目を開いた。
「アリシア……ここは……?」
「アリシア……アイダ……生きてた……」
アリシアが2人に抱きつき、喜んでいる。
俺はそっとガレージを出た。ここは3人にしておいたほうがいいだろう。
昨日の朝食は粥だったから、今朝はホットケーキを焼いた。
もっと消化に良い物をとも思ったが、脂肪分さえ控えれば大丈夫だろう。
卵や牛乳はそんなに日持ちのするものではない。さっさと食べてしまいたい。
卵か……そういえば生卵を安心して食べることができるのは日本独自の衛生管理のおかげらしい。
そのうち卵かけご飯を食べられる日は来るのだろうか……
焼きあがったホットケーキを皿に盛り、蜂蜜を掛ける。
飲み物は……ペットボトルの紅茶でいいか。
アウトドアで使うアルミのトレイに乗せ、ガレージに戻る。
アイダとイザベルは起き上がり、アリシアと同じようにエアマットの上で毛布に包まって座っている。
「カズヤさん!今ちょうど2人にカズヤさんのことを話してたんです!」
アリシアが俺の方を振り向いて、満面の笑みで何やら不穏なことを言っている。
だいたい本人がいないところで語られる内容は、実態とかけ離れていることが多いのだが……
「アイダと申します。剣を少々使えます。この度は私達の命をお救いいただき、感謝しても感謝しきれません」
アイダと名乗った少女は深々と頭を下げた。
日に焼けた肌にショートカット。少々堅苦しい話し方も、切れ長の瞳に宿る真面目さの表れか。
「えっと……イザベルです!えっと……この度はおしゅっ……あれ?なんだっけ?……とにかく!ありがとうございましゅ!」
「あ……あの!イザベルちゃんはあがり症なので!その……」
イザベルは褐色の肌に銀色の長い髪。ツインテールのでもすれば似合いそうな雰囲気の女の子だった。
「イザベルちゃんは弓の腕は確かなんです!だってほら耳が……」
「アリシアちゃん!これはダメ!」
イザベルが耳の辺りを押さえてアリシアに抵抗している。
「カズヤ殿。イザベルはミッドエルフなのです。少々浮世離れした所もありますが、根はいい子ですので、どうかご容赦を」
アイダが何故か頭を下げる。
「ああ。皆元気になってよかった。俺のことはアリシアから聞いたと思うが、イトー・カズヤだ。たまたまあの洞窟を探索している最中にアリシアに出会った。もっと早く再調査をすればよかったのだが、皆が生きている可能性に思い当たるのに少々時間が掛かってしまった。その間に辛い思いを余計にさせたかもしれない。すまなかった」
俺も頭を下げる。
昨日アリシアが泣いていた姿を思い出す。
別に誰かが悪いわけではないのだが、こうせずにはいられなかった。
グウウウウ!
静寂を破って誰かの腹の音が響いた。
皆が一堂に笑い出す。
「腹は減ってないか?飯にしよう」
そう言ってアリシアにホットケーキの載った皿を渡す。
「甘い匂い!お兄ちゃんナニコレ!」
ん?お兄ちゃん……だと?
年甲斐もなく動揺している自覚がある。お兄ちゃんなどと呼ばれたのは何年ぶりだろう。
「あ……カズヤさんごめんなさい。イザベルったら甘えんぼさんなところがあるから」
アリシアがフォローに入ってくれた。
「いや、それはいいんだが……イザベル。これはホットケーキっていって、朝ごはんやオヤツで食べるものだ」
ホットケーキやパンケーキを朝食として出している家庭はまだ珍しい。一部のファストフードやホテルぐらいかもしれないが、まあそんなことはいいのだ。
「ほっとけーき!食べていいの?」
いやちょっと待て、手づかみはダメだ。
慌てて皆にフォークを渡す。
真っ先にイザベルがホットケーキを口に運んだ。
「あまーい!!アイダちゃんこれ美味しいよ!」
イザベルの声で我に返ったように、アイダとアリシアがホットケーキをフォークで器用に切って口に運ぶ。
「ほんとだ。甘い!カズヤ殿!これはもしや蜂蜜ですか!」
「蜂蜜をこんなにたくさん……すごいです……」
あっという間にホットケーキを1枚食べ終わったイザベルが、皿に残った蜂蜜をぺろぺろと舐めている。
アリシアとアイダもすぐに食べ終わってしまった。
コップに紅茶を注ぎ、3人に渡す。
「これは……茶色い水?でもいい香りだ……しかも甘い……カズヤ殿は毎日こんな贅沢を?」
「いや、今日は特別だ。期待はするなよ?」
そんなに贅沢な食生活を送っていたつもりはない。
だが、恐らくこの世界で同じ食生活を送ることはできないだろう。期待されても困る。
「さて、食べ終わったならアリシアと一緒に風呂に入ってこい。その間にアイダとイザベルの服は準備しておく」
「わかりました!行こうみんな!!」
アリシアが3人の手を引いて玄関の方へ回っていく。
トラップやトイレの使い方もちゃんと教えているようだ。
俺はキッチンで洗い物をしてから、3人の着替えとタオルを準備する。
Tシャツにボクサーパンツと短パンでいいだろう。
キッチンでタバコを吸っている間に、3人が上がってきた。
「カズヤさん!またアレやってもらってもいいですか?」
髪が濡れたままのアリシアが俺を呼ぶ。
ドライヤーが気に入ったらしい。
「これは……風と火の魔道具ですか!?魔道具で髪を乾かすとは……」
魔道具ではないのだが……まあいいか。
髪も乾かし終えた3人を寝室に連れて行き、ゆっくり休むように言い聞かせる。
俺も風呂に入り、娘達の服もまとめて洗濯して、2階のベランダに干す。
今日は快晴だ。
寝室を覗くと、3人ともベッドで抱き合うように寝ていた。
さて、今日は何をしよう。
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