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2.自宅防衛戦②(4月29日)

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とりあえず遠距離で叩けるだけは叩いた。
スコープから目を放し、立ち上がって双眼鏡で周囲を監視する。

南の森で動く物はいない。
そのまま反時計回りに監視を続ける。

西の森では動く物は見つからない。西側の森は向かって右奥、南西側に向かって伸びているようだ。
逆方向の東の森は、南東側に伸びている。つまり南西側から南東側に弧を描く頂点にこの家がある。
大昔の川床の後ですと言われれば納得するような立地だ。

北の森は家に迫っている。距離およそ50メートル。
その森の木陰にヤツラはいた。
数は同じ程度か……また木陰からちらちらと武器を覗かせている。

東側に敵の姿がないことを確認して、陣地を北面に移す。
屋上の北等の角には階段室がある。その上にはタラップで登れる。

PSG-1を担いでタラップを上る。矢には無防備になるが、この位置が一番視界がいい。
階段室の上は落下防止の縁などないから、腹這いになってぎりぎりまで近づく。
姿勢を下げると銃口は上を向くから、二脚バイポットは畳んだ状態だ。

そのまま狙いを定める。
今回は無防備に顔を出しているようなヤツはいない……サバイバルゲームのように武器に当てたらヒット扱いになんてならないよな……
ブッシュの薄そうなところを狙い、狙撃を開始する。ああ……観測手スポッターが欲しい。

マガジン一つ分を撃ち切るが、恐らく5匹も倒せていない。
時間があるようなので、マガジンチェンジではなく給弾を行う。
ついでに双眼鏡で周囲を再確認する。

南と西、東には異常はない。やはりヤツラは北側に集中している。
こちらが本隊か?とすると南側に別動隊を回して突撃させる作戦だったか。

とはいえ、南からの突撃なんぞいくら待っても始まらない。始まる前に粉砕したからな。
気になるのは本隊の数だ。ちょうど半数というなら20匹ぐらいだろう。だが捨て駒になる可能性もある別動隊に半数も裂くだろうか。俺が指揮官なら裏取りさせる別動隊の数は1/5ぐらいに絞り、特に声が大きいヤツを充てる。

おう……自分で予想していてゲンナリしてきた。本隊は100匹規模ということか……
極力数を減らそう。

再びPSG-1を構える。多少藪が深くても、狙うしかない。

マガジンを2個空にする頃には、追加で10匹ほどは倒したはずだ。
あとは状況が変わらないと狙撃は難しい。

階段室のタラップを降りて屋上に戻り、G36Vを手に取る。

南に向けてソーラーパネルの傾斜がついているから、北側を守る時にはソーラーパネルが屋根代わりになる。その代わり間口が大きく開いてしまうから、上方よりも前方への備えが必要だ。
アルミのテーブルを立てて、高さ1.2メートルほどの盾にする。

テーブルの上端からG36Vを立射で構え、キャリーハンドル基部に付いている3.5倍スコープを覗く。
彼我の距離50メートル。本来ならギリギリBB弾が届くかどうかの距離。
PSG-1で起きた不思議な現象がG36Vでも起きるだろうか。
セレクターをセミオートにセットし、ヤツラが潜む藪に向かって3発ずつ撃ち込む。

タタタッ!タタタッ!タタタッ!

着弾の直後に、ヤツラの胴体から上だけが藪から転がり出てきた。
うへえ……結構グロい……

済まんな。こっちも命がけなのだ。
いや、もしかしたら理性的な第一次遭遇を果たせたのかもしれない。
最初に背を向けて逃げ出さずに、にこやかに握手でも交わしていればあるいは……

いやいや無理だ。頭ではわかっていても怖いモノは怖い。

“人は見かけじゃないの!大事なのは心よ!”とかいうやつなら、きっと上手くやるんだろう。
飢えた野良犬に囲まれて吠えたてられても、“まあワンちゃんかわいい!お腹すいているのね!これ食べる?”とか言って熟れたトマトなんぞ差し出す人種もどうやら世の中にはいるらしい。一瞬後には自分の手が熟れたトマトを握り潰すようにぐちゃぐちゃに引き裂かれるのだろう。是非見てみたいものだ。

そんなことはさておき、降りかかる火の粉は自分で払うしかないではないか。
自衛隊や警察がいるなら助けを求めてもいいだろう。“ゴブちゃん可愛い!”的な博愛主義者を犠牲に捧げてもいい。
だがそんなものが無い以上、自分の身は自分で守るしかない。多少過剰防衛になるかもしれないが、それも仕方ない。

そんな言い訳を考えている間に、周囲の気配が変わった。

突撃が来る。

ひと際大きな槍が森から突き出された。
次の瞬間、一斉に森からヤツラの群れが飛び出てきた。
森から自宅敷地までは約50メートル。小学生の足でも全力疾走で10秒もあれば到達する。ヤツラの身長からいけばもう少し掛かるかもしれないが、何せ時間はない。

セレクターをフルオートに切り替え、左端から右に向かって薙いでいく。
きちんと狙いを付ける余裕はない。スコープの端で手足が吹き飛ばされていくヤツラが見える。
すまん……あとで止めを刺してやる……

G36Vの発射速度は毎分700発程度。ヤツラの戦列の左端から右端に到達するまで約20秒。
だいたい200発のBB弾を放って、柵のギリギリ手前で突撃をかろうじて阻止した。

後に残されたのは、手足を失って苦しみ悶えるゴブ達およそ30匹。
G36Vのマガジンを交換してから、PSG-1を構えて一匹づつ止めを刺す。

ヒュッ!
風を切る音と共に、ソーラーパネルに何かがぶつかり甲高い音を立てる。
思わず首を竦すくめた俺の周りに、次々と矢が飛来する。
慌ててソーラーパネルの陰に身を隠す。

目の前に落ちてきた矢を拾う。
鏃はどうやら鉄製のようだが、さほど鋭利ではない。これが刺されば相当痛いだろう。
毒でも塗ってあるかと思ったが、そんなことはないようだ。柄は木製。矢羽根は何かの鳥の羽根だ。

どうやら矢は西のほうから撃たれている。
ソーラーパネルの下を移動し、射点を見極めるために双眼鏡を覗く。

いた。弓隊は北西側およそ100メートルの森の端から曲射している。
数はおよそ20匹。矢は家まで届いているものもあれば、倒れたゴブ達に刺さっている矢もある。腕はあまり良くないらしい。
しかし放置もしておけない。俺が首を竦めているうちに再突撃などされたら今度こそ食い止められない。

早急に排除する。
PSG-1で一匹づつ狙撃する。
最初の15発で15匹を倒すと、残りは弓を捨てて森へと逃げ込んだ。
何せBB弾が100メートル先に着弾するまで数秒掛かるから、この距離で動いている標的を狙撃などできない。G36Vのように弾幕を張るなら別だが……

矢の攻撃が途絶えたのを何かと勘違いしたのだろう。本隊側の動きが慌ただしくなる。
次の瞬間、再突撃が始まった。

森から次々とヤツラが飛び出してくる。
俺はG36Vに持ち替え、フルオートで弾幕を張る。
途中でマガジンのゼンマイが切れるが、巻きなおす時間もマガジンチェンジの時間も惜しい。
G36Cに持ち替え撃ち続ける。ヤツラはもう柵に取りついているからドットサイトに頼る必要もない。

柵に取りつくヤツラを狙うために、屋上の縁から身を乗り出す。
ヤツラは槍を投げてきた。家の外壁やソーラーパネルの架台に当たり、鈍い音を立てる。
槍を持つヤツを最優先で撃つ。

数匹が柵を乗り越えた所でG36CからMP5A2に持ち替える。G36Cより一回り銃身が短いMP5A2のほうが、身を乗り出すような撃ち方には向いている。
柵を乗り越えたヤツラはナイフしか持っていないようだ。

玄関のひさしの下にいたヤツを屋上の左右に走り回って狙い撃つ。
どうやらこいつが最後の一匹らしい。

なんとか凌ぎきったようだ。

見上げた太陽はすっかり真上に来ていた。
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