勇者パーティを追放されたはずが、なぜか勇者もついてきた

コータ

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ヘザーとパオリーナ

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 ヤブランが王の間に入った時、セツアはそこにはいなかった。

 キョロキョロと探し回っていると、バルコニーに佇む背中を見つける。ヤブランは嬉しそうにコッソリと近づいていく。脅かしてやろうという悪戯心に駆られていた。

「……だ。……ない」
「……?」

 たった一人で喋っているのが聞こえて、どうにも不思議な気持ちになる。彼の知っているセツアは、独り言などしなかったからだ。

「……私が決めたこと……?」

 彼を脅かすことはできなかった。こちらを振り向いて涼しい顔をしている。

「あ、ああ! セツア、こんな所にいたんだ。丁度探していたんだよ」

 気づかれたヤブランは右手を後頭部に回し、苦笑いをしてみせた。セツアは少しの間黙っていたが口元だけで笑った。

「それは手間をかけたな。何かあったのか?」
「うん。もうすぐ儀式の日が来るだろ? そろそろヒロイックストーンを、僕に貸しておいてくれないかい?」

 彼は無言で懐にしまっていた四つの石を取り出すと、ヤブランに手渡した。

「へへ! ありがとう。それとさあ、君が独り言をいうなんて珍しいね」
「……私が何を話していたか聞こえたか?」
「え? あ、いや。聞こえなかったけど」
「そうか……」
「……?」
「何でもない……今のは気にするな。もう直ぐだ。君が求めていた魔物だけの世界が実現する。人間達は二度と生まれ落ちてくることも無いだろう。君達にとっての楽園だ」

 星さえも淀んでいるような空。見上げているセツアはまるで他人事のように話している、そうヤブランは感じた。

「君にとっても楽園になるはずだよ。ゲオルートにとってもね」
「……ああ」
「勇者達は生きているだろうし、儀式の日には特攻してくるだろうよ。でも僕らにはかなわない。どう考えても駒が足りないしね。キラカードも三枚しかない」
「ヤブラン。君は残り二枚のキラカード……誰が所持していると思う?」
「ん? さあね。誰でもいいんじゃないの。もう死んでいるかもしれないし」

 古くから、世界中に五枚あると伝えられているキラカード。現在所持していることが分かっているのは、勇者サクラとアルダー、ミカの三人だった。

「君の言うとおり所持者は死んだのかもしれない。又は生きているが、存在を隠し続けている。或いはただのカードの裏に本物が隠されている。現世にいるかどうか、我々の敵になりうるかどうかで、戦局も大きく変わるかもしれない」

 ヤブランはクスクス声で笑う。魔王の前では、流石に大笑いをする気にはなれなかった。

「もしそんな奴らが出てきても問題ないさ。僕が殺してやるよ。キラカードを持った奴が増えたところで、もう勝てるはずがないんだ」
「……ならば、任せた」

 彼はもう一度背中を向け、それきり話そうとはせず沈黙が流れる。ヤブランはそっとバルコニーを後にしたが、やはりセツアの様子が気にかかっていた。




 モンステラ城の会議室に重い空気が流れ始めている。

 正直な話、俺は今回の戦いはやりたくないと思った程だ。魔王セツアにとって有利過ぎる展開じゃないか。きっとサクラも、気持ちが沈んでいるだろうな、と思ってチラリと隣を見る。

「……スヤスヤ。やっぱり苺味は美味しいね。お姉さん、もう一個下さい……」
「!? お、おい勇者」

 サクラは気持ち良さそうに眠っていた。世界が終わるかもしれないって時なのに、昼寝ができる神経が分からん。俺は静かに揺すって、なるべくみんなに気づかれないように起こそうとした。

「……ふえ? どうしたの……お姉さん」

 俺より先にコドランが反応する。

「どうしたのではない! 我らは今夜中に支度を整え、明日にはグラジオラス大陸へ出発するぞ。奴を必ず止めてみせる」
「……あ。そうだねっ。僕もそう思っていたよ! さっすがコドランちゃん」

 思ってないだろ! さっきまで夢の中で何食ってたんだよ!

 俺が呆れ返っていた時、突然ミカの隣に座っていたパオリーナが立ち上がり、みんなに向けて声を発した。

「待って下さい! 本当にその作戦で良いんですか? 私はグラジオラス大陸の町に住んでいたんですが、その祭壇なら四つとも見たことがあります」

 彼女の言葉に、俺と同じくらい驚いた顔をしたのはコドランだった。

「なぬ!? お前はまさかネリネの町に住んでいたというのか?」
「そうです。以前は魔物達も大人しかったので、花を摘みに遠出をしたりすることもできたんです。遠目からでしたけど、一つは塔の上、二つ目は山の上。三つ目は湖の近くで、最後はネリネの町から少し離れた所にある、ジークラムの教会付近です」

 これは有益な情報だと思った俺は立ち上がり、道具袋から地図を取り出してパオリーナの元へ歩み寄る。彼女に筆を渡した。

「この地図に印をつけてくれないか?」
「あ、はい! えーと……こんな感じかなあ」

 パオリーナの隣にいたヘザーの顔が、みるみる険しくなる。俺達と冒険している時は、大体こんな表情だったな。そして何かに気がついたように話し出す。ヘザーの隣にいるイベリスは興味が無さそうだ。

「私達は気がつかなかったが、どれも魔王城からは近いな。というよりも……まるで魔王城を囲むような位置関係になっている。これは偶然か……。そうは思えぬ」

 パオリーナはうなづき、またみんなに聞こえるようにハキハキと喋り出した。

「私……見たんです。他の所には全然魔物がいなかったのに、一箇所だけ何度も強そうな魔物がやってきては、色々と作ったり、見張りを置いていたりしていたのを。きっとあそこに違いないはずなんです!」

 他の祭壇では全く見かけなかった魔物達が、唯一何度も訪れていた祭壇? もしかしたら、そこで当たりの可能性は充分にありそうだと思った俺は、急くように答えを求める。

「どれだ? 教えてくれ」

 こういった大一番で、定番なのは塔だろう。湖の近くという線もありえない話じゃない。または……。

「ジークラムの教会です」

 意外な回答だった。俺が質問を頭に巡らせている時、飛び上がるようにヘザーが立ち上がった。

「教会だと? 馬鹿な……。つまり君は、我々にそこを集中攻撃するべきだと。そう言うのかい?」
「はい」
「ぐ……君の考えは間違っている。世界を滅ぼす決定打を放つ輩が、守りを固めることが難しい場所をわざわざ選ぶか? 私は聖龍の言うとおり、四つに別れての分散攻撃をかけるべきだと思う。教会など外れだと思うが、念の為数には入れる。あくまで本命ではない」
「間違っていません! だって見たんですから。とっても怖そうなライオンの魔物を」

 二人はどうやら熱くなってきているようで、お互いの温度が間にいる俺にも伝わってくるようだ。パオリーナの最後の言葉で、怠そうに聞いていたレオンハルトが体を起こし、上目遣いにこっちを見た。

「ダンタルトか! アイツがわざわざ来ているってんなら、当たりかもな。ハズレであっても俺は教会に行くかもしれん」

 レオンハルトはいつも、ややこしくなるようなことを言うんだから困る。ここはサクラに判断を仰いでみるのもいいかな。結局、最後は勇者の判断だろうし。

「サクラ……どうするんだ?」
「……すー。すー……苺のケーキをもう一個……」

 また眠ってる~。近くにいた女王様に起こされたサクラは、寝ぼけ眼で今までのやり取りを教えてもらい、やっとシャキッとした顔で立ち上がる。もう世界終わったかもな。

「ありがとうございます女王様、よく分かりました。分散攻撃か! 一点集中か! 僕は絶賛考え中です。とりあえず明日決めましょう。今日は解散」

 思わず声が出た。

「ちょっと待った! 明日には出発するんだぞ。今日のうちに決めないと駄目じゃないのか?」
「もう今日は充分考えたよっ。明日の朝決めたほうが、きっと正解を選べる気がするの。だってもう疲れたもん」

 傍で女王様が笑っている。全く呑気な二人である。

「まあ、頼もしい勇者様ですこと。明日でもよろしいのではありませんか? 船の用意は出来ていますし、兵士達も進路を変えることは問題ありません」
「女王様、兵士達とは何のことでしょう?」

 さっきまで黙っていたランティスが不思議そうな顔で問いかけると、女王様はまるで弟を見るような目で答えた。

「明日より、船数隻を同行させていただきます。負けたら滅んでしまうのですもの。何もしないで消えてしまうより、戦って死にたいと、兵士達が私にこぞって訴えてきたのです」

 モンステラの兵士達が助っ人か。今は少しでも戦力が欲しいところだったから、正直ありがたい。勇者サクラは女王様に、世界が崩れる前の太陽みたいな笑顔を見せた。

「ありがとうございます女王様っ! 僕達は必ず魔王セツアを倒して、世界を絶対救っちゃいます!」

 心配だ。まあこんな時こそ、サクラみたいな楽観的な奴が必要なんだろう。

 俺だって諦めちゃいない。必ずセツアやゲオルートを倒してみせる。いつか必ず、前みたいにのんびりした暮らしを取り戻してやるさ。

 いつになく気合が入っていたのを覚えている。そして案の定眠れなくなってしまい、城の屋上で夜風に当たっていたところで、偶然にも同じく寝れない彼女がいたのだった。
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