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逃亡する勇者
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国王が殺害された知らせは、サザランズのみならず世界中に響き渡ることとなり、俺達はみんな混乱していた。
第一王子であるトラウドが急遽国王代理を勤めることとなり、勇者セツアの捜索は毎日続けられることとなる。俺達は城に向かったが、トラウドは会ってもくれない。
途方に暮れた四英雄は、トボトボとセツアの家に戻るしかなかった。
「もう! 何なのよ。どうして私達と会ってもくれないわけ? 事情聴取すらもないみたいだけど」
サンドロンはカンカンに怒っている。こういう時の彼女には迂闊な言葉は言えない。ミカもそこは同じだったからな。
「落ち着いて下さいサンドロンさん。僕もおかしいとは思っているんです。何より、セツアが国王様を殺すなんて信じられません」
「そうよ! セツアがそんなことをするはずがないわ」
バルゴがなだめにかかっている。こいつだって気が気ではないだろうに、見た目より中身は大人かもしれない。ティアンナは何も言わず、ただ地面を見て歩いていた。
「俺達は、これからどうすればいいのかな? さっぱり分からん」
「ホークスさん。出来ることといえば、僕達なりに調査するしかないかと。事件の真相を解明しなければ、するべき行動も見えてはこないでしょう」
「でも、私達が調べられることなんて……あら? ねえみんな! セツアの家が」
サンドロンが驚くのも無理はない。びっしりと町民達がセツアの家を囲んでいたからだ。昨日のような暖かい眼差しなど何処にもなく、冷たい雰囲気が漂っていた。
町民達に隠れて見えないが、ヨハナの弱々しい声と、おっさんの罵倒するような声が聞こえてくる。嫌な光景に出くわしたものだ。
「ホークス、これってもしかして……」
「ああ、行こう!」
心配そうに身を強張らせるサンドロンを、励ますように声をかけ俺は走った。人混みを掻い潜りセツアの家前に来ると、体格のいいおっさんや若い男がヨハナに何か言っている。
「てめえの旦那のせいで、国が滅茶苦茶になっちまったじゃねえか! どう落とし前つける気だこら!」
「主、主人は人殺しなんて……」
「逃げたんだから犯人だって確定したようなもんなんだよ! 殺人犯の家族なんだから、お前らも同罪だ。こんなご大層な家勿体ねえや。さっさと売り払って出ていくか、旦那共々死刑台に立って焼かれちまえ」
サンドロンが怒りを露わにしている。ヨハナの側でシャロットは怯えて、小さな体を震わせていた。
「アイツら……なんて酷いことを! ……ホークス?」
「任しといてくれ」
俺は柄の悪いおっさんと若い男達の側までやって来た。鬱陶しい奴は何処にでもいるものだと、溜息をつきたくなる。
「……やめろよ」
「ああん? ほほ~、誰かと思えば……殺人犯と同じパーティの戦士じゃねえか」
「勝手に決めつけるな、おっさん」
「ああ!? てめえの仲間は殺人犯で間違いねえんだよ! 逃げ回っているんだからな」
こいつの理屈はどうもおかしいな。短絡的というか極端というか。
「逃げ回っていたら犯罪者で、関わっていた奴も全員同罪だっていうのか? こんな朝っぱらから酒臭い息を振り撒いている連中に言われても、何の説得力もないぞ。働いてないだろ? お前ら」
「う、うるせえ! てめえには関係ねえだろ」
確かに関係ない。だが、お前らが手を出そうとしている連中と俺は関係があるんだよ。
「お前はただ不満の吐き口が欲しかっただけだ。本当は彼女達を責める必要がないと分かっているくせに、偽物の正義を振りかざして暴れる。どうしようもないくらい性格の悪い野郎だ」
ちょっと言い過ぎたかもしれない。まあいいかと思っていると、ピキピキとこめかみに血管を浮かび上がらせたおっさんが懐から何かを取り出した。
「うるせえうるせえ! お前ら全員悪党だ、何が四英雄だ!」
奴が投げつけた何かは、俺ではなく違う誰かを狙ったものだった。振り向くと、シャロットの幼い顔にべったりと割れた卵がくっ付いていて、続くように若い男達が卵を投げていくのが分かった。
シャロットが泣き出して、ヨハナが必死に守っている姿を見て、我慢ならない怒りが吹き出す。
「……お前……」
俺は右手でおっさんの胸ぐらを掴み持ち上げる。随分と腹が出ていて、身長も高かったが何の問題もない。奴は苦しみながら腕を掴むが、その程度で離しはしない。
「ぐう!? や、やめろこの野郎! 痛い目に会いてえのか」
「痛い目に合うのはお前だろ。起きている時に寝言を言うな」
「ううう! お、お前ら! やっちまえ」
四、五人の若い男達が、棍棒を持って俺に向かって来る。ここまで来たらブチのめしても正当防衛だろう。そう思っている矢先、奴らが倒れこんで急に動けなくなった。
バルゴの拘束魔法により、奴らは全く動けなくなっていた。騒ぎを聞きつけて兵士達がやって来たのを確認してから、俺はおっさんを地面に投げ落とす。
「お前らのやっていることは最低だ、二度と彼女達に手を出すな」
「……ぐ……この」
言い返して来るのかと思ったが、特に何も言ってこなかったところを見ると、根は小心者なんだろう。男達は兵士に連れて行かれ、サンドロンとバルゴはヨハナとシャロットに駆け寄っていた。
一週間ほどしても、セツアは見つからない。俺達はヨハナとシャロットが心配だったので、もう少しだけサザランズにいることにした。
シャロットは毎朝俺を起こしに来る。ある時は朝から泣いて抱きついて来たこともあった。
「ねえお兄ちゃん! パパは悪いことしてないよね? パパはちゃんと帰って来るよね?」
「……勿論だよ。君のパパは、世界一強くて正しいんだ。だから安心して」
誰と話す時でも、俺はほとんど嘘を言うことはなかった。でも、今回俺は嘘をつくしかなかった。とても言えないじゃないか。お父さんは悪い魔王になっていくんだよ……なんて酷いことを、どうして伝えられるだろう。
ヨハナはシャロットの前では明るく気丈に振る舞っていたが、台所の陰で泣いている姿を何度か目撃している。いたたまれない気持ちになっていた俺達は、とにかく近くで支えようと決めた。
そんな矢先だった。俺が借りている部屋に、一枚の紙が置いてあったのは。
「今夜、君だけでサザランズの外れにある、よろず屋の裏に来てほしい。誰にも言わないでくれ、頼む」
俺とは比べ物にならないほど綺麗な字だった。筆跡からして男だろう。もしかしたら……。
夜ご飯をみんなで食べている時、バルゴが不思議そうな顔で俺を見ていた。
「どうしたんですかホークスさん。何だか落ち着きがないですけど」
「……ん? いや、そんなことないぞ。ちょっと太ったような気がしてさ、どうやって痩せようか悩んでいたんだ」
「ふふふ! ヨハナさんの料理は美味しいものね。帰ったらダイエットしましょ!」
「ああ、本当だな! ははは」
少しの仕草にもすぐに気がつくあたり、やっぱり優秀な連中なんだと実感する。ティアンナは黙ったまま、何の変化もないけど。みんなが寝静まった頃、俺はこっそりと家から抜け出した。
酒場や劇場といった華やかな場所からどんどん離れ、全く人気のない寂れた通りによろず屋はあった。裏手に回った俺は、想定していた通りの人物を見つける。奴は敷かれていた藁の上で座っていた。
「まだサザランズにいたなんてな。よく見つからないもんだ」
「……ホークス」
奴の目から光が無くなっているのは、決して真夜中だからじゃないだろう。
「セツア。教えてくれよ。お前が国王を殺害したのか?」
「違う! 私は殺していない……。王の間についた時には、既に亡くなっていたんだ。もう犯人の目星はついている」
「え? 誰だよ、犯人って!」
「……トラウド王子だ」
多分俺は、奴の前で間抜けな顔を晒していたと思う。
「あ、あの王子がか!? 何で」
「……簡単に言えば、妬みと恐怖から行動したのだろう。私は今どうするべきか悩んでいる。素直に城に向かえば投獄され、真実を闇に葬り私を処刑するだろう。もしくは……」
「もしくは? 何だよ」
ふと考えたことがある。今何故奴が俺を呼び出したのか知らないが、ここで上手く説得することができれば、将来魔王にならなくて済むのではないか。未来を変えることができるんじゃないか。
セツアはしばらく黙った。時間にしてみれば少ししか経っていないのだろうけど、俺には苦しいほど長く感じる。
「ヨハナとシャロットはどうしてる?」
「お前が帰って来るのを待ってるよ。みんな、早く会いたいって思ってる。彼女達は辛そうだ……お前の奥さんも娘さんも、今必死で周囲の目から耐えているんだ」
「……そうか。二人に伝えてほしい……本当にすまないと」
セツアは立ち上がり、俺が来た方向とは逆へ歩き出した。ここでいなくなられては困る。俺は焦って走り出す。
「待てよ! とにかく今、二人に会って……?」
奴はいつの間にかいなくなっていた。俺にそんなことを伝えさせる為に、お前は呼んだのか? だとしたら馬鹿野郎だと、声を大にして叫びたかった。自分で言えよって怒鳴りたかった。
家に帰ってから、ヨハナに話そうか悩みに悩んで、気がつけば朝まで寝れなかった。日差しを浴びながら窓辺で考えごとをしていると、サンドロンが勢いよく扉を開けて来る。
「ホークス! 起き……あら、起きてたの?」
「ああ。どうした?」
「大変よ……ティアンナがいなくなってしまったの! 彼女の手紙が置いてあったのだけど。どうやらセツアがいたらしくて、一人で追いかけに行っちゃったのよ!」
「……ティアンナが!?」
俺達はティアンナとセツアを探しに行くことになった。ヨハナから聞いた話だが昨日、いつまでもセツアが捕まらないことに業を煮やしたトラウドは、正式に王位を継承した後、世界中の国王と会議をしていたらしい。
トラウドが全ての国王に突きつけた要望はこうだった。
勇者セツアは犯罪者であり、見つけ次第直ちに捕らえ本国に連れて来ること。もしセツアを庇うこと、何かしらの手助けを行うことがあれば、サザランズへの敵対行為と見なし、場合によっては武力制裁も辞さない。
サザランズは他国と比較して、武力は圧倒的に上だった。平和協定を結ぶことで存続している多くの国は、従う以外に道はなかったんだろう。
この要望で大きな被害を受けたのはセツアだけではない。奴とゆかりのある人間は、世界中で酷い目に遭うこととなり、それが新たな魔王を誕生させる火種になった。
第一王子であるトラウドが急遽国王代理を勤めることとなり、勇者セツアの捜索は毎日続けられることとなる。俺達は城に向かったが、トラウドは会ってもくれない。
途方に暮れた四英雄は、トボトボとセツアの家に戻るしかなかった。
「もう! 何なのよ。どうして私達と会ってもくれないわけ? 事情聴取すらもないみたいだけど」
サンドロンはカンカンに怒っている。こういう時の彼女には迂闊な言葉は言えない。ミカもそこは同じだったからな。
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「そうよ! セツアがそんなことをするはずがないわ」
バルゴがなだめにかかっている。こいつだって気が気ではないだろうに、見た目より中身は大人かもしれない。ティアンナは何も言わず、ただ地面を見て歩いていた。
「俺達は、これからどうすればいいのかな? さっぱり分からん」
「ホークスさん。出来ることといえば、僕達なりに調査するしかないかと。事件の真相を解明しなければ、するべき行動も見えてはこないでしょう」
「でも、私達が調べられることなんて……あら? ねえみんな! セツアの家が」
サンドロンが驚くのも無理はない。びっしりと町民達がセツアの家を囲んでいたからだ。昨日のような暖かい眼差しなど何処にもなく、冷たい雰囲気が漂っていた。
町民達に隠れて見えないが、ヨハナの弱々しい声と、おっさんの罵倒するような声が聞こえてくる。嫌な光景に出くわしたものだ。
「ホークス、これってもしかして……」
「ああ、行こう!」
心配そうに身を強張らせるサンドロンを、励ますように声をかけ俺は走った。人混みを掻い潜りセツアの家前に来ると、体格のいいおっさんや若い男がヨハナに何か言っている。
「てめえの旦那のせいで、国が滅茶苦茶になっちまったじゃねえか! どう落とし前つける気だこら!」
「主、主人は人殺しなんて……」
「逃げたんだから犯人だって確定したようなもんなんだよ! 殺人犯の家族なんだから、お前らも同罪だ。こんなご大層な家勿体ねえや。さっさと売り払って出ていくか、旦那共々死刑台に立って焼かれちまえ」
サンドロンが怒りを露わにしている。ヨハナの側でシャロットは怯えて、小さな体を震わせていた。
「アイツら……なんて酷いことを! ……ホークス?」
「任しといてくれ」
俺は柄の悪いおっさんと若い男達の側までやって来た。鬱陶しい奴は何処にでもいるものだと、溜息をつきたくなる。
「……やめろよ」
「ああん? ほほ~、誰かと思えば……殺人犯と同じパーティの戦士じゃねえか」
「勝手に決めつけるな、おっさん」
「ああ!? てめえの仲間は殺人犯で間違いねえんだよ! 逃げ回っているんだからな」
こいつの理屈はどうもおかしいな。短絡的というか極端というか。
「逃げ回っていたら犯罪者で、関わっていた奴も全員同罪だっていうのか? こんな朝っぱらから酒臭い息を振り撒いている連中に言われても、何の説得力もないぞ。働いてないだろ? お前ら」
「う、うるせえ! てめえには関係ねえだろ」
確かに関係ない。だが、お前らが手を出そうとしている連中と俺は関係があるんだよ。
「お前はただ不満の吐き口が欲しかっただけだ。本当は彼女達を責める必要がないと分かっているくせに、偽物の正義を振りかざして暴れる。どうしようもないくらい性格の悪い野郎だ」
ちょっと言い過ぎたかもしれない。まあいいかと思っていると、ピキピキとこめかみに血管を浮かび上がらせたおっさんが懐から何かを取り出した。
「うるせえうるせえ! お前ら全員悪党だ、何が四英雄だ!」
奴が投げつけた何かは、俺ではなく違う誰かを狙ったものだった。振り向くと、シャロットの幼い顔にべったりと割れた卵がくっ付いていて、続くように若い男達が卵を投げていくのが分かった。
シャロットが泣き出して、ヨハナが必死に守っている姿を見て、我慢ならない怒りが吹き出す。
「……お前……」
俺は右手でおっさんの胸ぐらを掴み持ち上げる。随分と腹が出ていて、身長も高かったが何の問題もない。奴は苦しみながら腕を掴むが、その程度で離しはしない。
「ぐう!? や、やめろこの野郎! 痛い目に会いてえのか」
「痛い目に合うのはお前だろ。起きている時に寝言を言うな」
「ううう! お、お前ら! やっちまえ」
四、五人の若い男達が、棍棒を持って俺に向かって来る。ここまで来たらブチのめしても正当防衛だろう。そう思っている矢先、奴らが倒れこんで急に動けなくなった。
バルゴの拘束魔法により、奴らは全く動けなくなっていた。騒ぎを聞きつけて兵士達がやって来たのを確認してから、俺はおっさんを地面に投げ落とす。
「お前らのやっていることは最低だ、二度と彼女達に手を出すな」
「……ぐ……この」
言い返して来るのかと思ったが、特に何も言ってこなかったところを見ると、根は小心者なんだろう。男達は兵士に連れて行かれ、サンドロンとバルゴはヨハナとシャロットに駆け寄っていた。
一週間ほどしても、セツアは見つからない。俺達はヨハナとシャロットが心配だったので、もう少しだけサザランズにいることにした。
シャロットは毎朝俺を起こしに来る。ある時は朝から泣いて抱きついて来たこともあった。
「ねえお兄ちゃん! パパは悪いことしてないよね? パパはちゃんと帰って来るよね?」
「……勿論だよ。君のパパは、世界一強くて正しいんだ。だから安心して」
誰と話す時でも、俺はほとんど嘘を言うことはなかった。でも、今回俺は嘘をつくしかなかった。とても言えないじゃないか。お父さんは悪い魔王になっていくんだよ……なんて酷いことを、どうして伝えられるだろう。
ヨハナはシャロットの前では明るく気丈に振る舞っていたが、台所の陰で泣いている姿を何度か目撃している。いたたまれない気持ちになっていた俺達は、とにかく近くで支えようと決めた。
そんな矢先だった。俺が借りている部屋に、一枚の紙が置いてあったのは。
「今夜、君だけでサザランズの外れにある、よろず屋の裏に来てほしい。誰にも言わないでくれ、頼む」
俺とは比べ物にならないほど綺麗な字だった。筆跡からして男だろう。もしかしたら……。
夜ご飯をみんなで食べている時、バルゴが不思議そうな顔で俺を見ていた。
「どうしたんですかホークスさん。何だか落ち着きがないですけど」
「……ん? いや、そんなことないぞ。ちょっと太ったような気がしてさ、どうやって痩せようか悩んでいたんだ」
「ふふふ! ヨハナさんの料理は美味しいものね。帰ったらダイエットしましょ!」
「ああ、本当だな! ははは」
少しの仕草にもすぐに気がつくあたり、やっぱり優秀な連中なんだと実感する。ティアンナは黙ったまま、何の変化もないけど。みんなが寝静まった頃、俺はこっそりと家から抜け出した。
酒場や劇場といった華やかな場所からどんどん離れ、全く人気のない寂れた通りによろず屋はあった。裏手に回った俺は、想定していた通りの人物を見つける。奴は敷かれていた藁の上で座っていた。
「まだサザランズにいたなんてな。よく見つからないもんだ」
「……ホークス」
奴の目から光が無くなっているのは、決して真夜中だからじゃないだろう。
「セツア。教えてくれよ。お前が国王を殺害したのか?」
「違う! 私は殺していない……。王の間についた時には、既に亡くなっていたんだ。もう犯人の目星はついている」
「え? 誰だよ、犯人って!」
「……トラウド王子だ」
多分俺は、奴の前で間抜けな顔を晒していたと思う。
「あ、あの王子がか!? 何で」
「……簡単に言えば、妬みと恐怖から行動したのだろう。私は今どうするべきか悩んでいる。素直に城に向かえば投獄され、真実を闇に葬り私を処刑するだろう。もしくは……」
「もしくは? 何だよ」
ふと考えたことがある。今何故奴が俺を呼び出したのか知らないが、ここで上手く説得することができれば、将来魔王にならなくて済むのではないか。未来を変えることができるんじゃないか。
セツアはしばらく黙った。時間にしてみれば少ししか経っていないのだろうけど、俺には苦しいほど長く感じる。
「ヨハナとシャロットはどうしてる?」
「お前が帰って来るのを待ってるよ。みんな、早く会いたいって思ってる。彼女達は辛そうだ……お前の奥さんも娘さんも、今必死で周囲の目から耐えているんだ」
「……そうか。二人に伝えてほしい……本当にすまないと」
セツアは立ち上がり、俺が来た方向とは逆へ歩き出した。ここでいなくなられては困る。俺は焦って走り出す。
「待てよ! とにかく今、二人に会って……?」
奴はいつの間にかいなくなっていた。俺にそんなことを伝えさせる為に、お前は呼んだのか? だとしたら馬鹿野郎だと、声を大にして叫びたかった。自分で言えよって怒鳴りたかった。
家に帰ってから、ヨハナに話そうか悩みに悩んで、気がつけば朝まで寝れなかった。日差しを浴びながら窓辺で考えごとをしていると、サンドロンが勢いよく扉を開けて来る。
「ホークス! 起き……あら、起きてたの?」
「ああ。どうした?」
「大変よ……ティアンナがいなくなってしまったの! 彼女の手紙が置いてあったのだけど。どうやらセツアがいたらしくて、一人で追いかけに行っちゃったのよ!」
「……ティアンナが!?」
俺達はティアンナとセツアを探しに行くことになった。ヨハナから聞いた話だが昨日、いつまでもセツアが捕まらないことに業を煮やしたトラウドは、正式に王位を継承した後、世界中の国王と会議をしていたらしい。
トラウドが全ての国王に突きつけた要望はこうだった。
勇者セツアは犯罪者であり、見つけ次第直ちに捕らえ本国に連れて来ること。もしセツアを庇うこと、何かしらの手助けを行うことがあれば、サザランズへの敵対行為と見なし、場合によっては武力制裁も辞さない。
サザランズは他国と比較して、武力は圧倒的に上だった。平和協定を結ぶことで存続している多くの国は、従う以外に道はなかったんだろう。
この要望で大きな被害を受けたのはセツアだけではない。奴とゆかりのある人間は、世界中で酷い目に遭うこととなり、それが新たな魔王を誕生させる火種になった。
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