勇者パーティを追放されたはずが、なぜか勇者もついてきた

コータ

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魔王が作り出した世界

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 始祖の大地は深い霧に包まれ、森はひっそりと眠っているかのようだ。

 黄金の龍ヤブランが、勇者サクラ目掛けて前足を振り下ろす。激しい地鳴りが大地に鳴り響いた。

「わ、わわわー! ビックリしたあ」

 前足が地面にめり込んでいる。サクラはすぐ隣にいたが、ダメージを受けることはなかった。

「……くそ! 調子が狂って仕方がない。この僕を助けやがって……」
「? 死にそうになってるんだから、助けるのは当たり前でしょ?」
「僕らは敵だろうが! 勇者なら倒さなきゃいけないんだよ! ……疲れる奴め。もういい!」

 ヤブランは大きく息を吸い込むと、右を向いて光弾を吐き出した。霧がみるみる晴れていき、大きな一本道が見える。サクラは驚いて立ち上がり、穴から這い出て周囲を見渡していた。

「神殿はあっちだ……とっとと向かえ」
「すごーい! 君の吐いた所だけ、霧が全部晴れちゃったよ。ありがとう!」
「フン! やる気が失せたから帰るだけだ。お前なんか、セツアに殺されちまえ」
「酷いよヤブランちゃん! 僕は魔王なんかに負けないよ」

 ヤブランはサクラを睨みつつ飛び上がり、大きな羽を羽ばたかせて飛び去って行った。

「よーし! 迷子になってるみんなを助けつつ、神殿に向かわなきゃ!」

 サクラは再び走り出す。霧が晴れた先には草原があり、更に奥には森が見えている。




「はあ……はあ……。みんな、一体何処にいるのかしら?」

 ミカは森の中をひたすら歩いている。ヤブランの光弾は届いていない為、今もなお深い霧に包まれたままだ。

「……けて」
「? 誰かいるの?」

 子供の声が聞こえる。ミカが森の中を見渡していると、大きな大木の前で座り込んでいる子供がいた。背中越しだったが、女の子であることが分かる。

「誰か……あたしを助けて」
「子供がこんな所に? ねえあなた」
「怖いよう……怖いよう」

 始祖の大地に何故子供がいるのか。ミカは魔女ゲオルートの罠ではないかと考える。しかし、万が一本当に子供だとしたら。彼女はゆっくりと慎重に、女の子に歩み寄る。

「何処から来たの? お父さんやお母さんは?」
「お父さんもお母さんもいない。魔物に食べられちゃったの! あたしもきっと食べられちゃう!」
「大丈夫よ。お姉ちゃんが、あなたを守ってあげる。ねえ、こっちを向いて」

 女の子はまだ、えんえんと泣き続けていた。ミカは警戒を解くことはしなかったが、出来る限り優しい声をかけることに努めていた。

「本当? お姉ちゃんが、あたしを守ってくれるの?」
「そうよ。だから立って、お姉ちゃんと一緒に行きましょう」

 泣き声が止み、森の中に静寂が訪れる。女の子は背中を向けたまま、静かに立ち上がった。

「お姉ちゃんじゃ無理だよ。きっと死んじゃう」
「死なないわ……だから安心して、私と一緒に……?」

 女の子が振り返った時、ミカは喋りかけた言葉が飛び、思考すらも止まってしまった。目の前にいたのはよく知っている存在だった。幼き頃の、自分自身がそこにいる。

「わ……私……?」
「死んじゃうんだよ、お姉ちゃんは。こんな姿になって……!」
「!? ……きゃああ!」

 女の子は突如顔だけが膨らみ始め、皮を突き破って骸骨が飛び出した。大きく膨れ上がった骸骨の亡霊となり、ミカに近づいてくる。

「お、お化け……きゃあ! 来ないで!」

 気がつけば彼女は、一目散に駆け出していた。不意に思い出す。子供の頃怖くて仕方のなかったお化けの絵。気味の悪い化け物じみた絵は、今現実の存在となって自分を追いかけている。

 やがて深い森の中に入り込み、自分が何処にいるのかも分からなくなってしまった。咄嗟に後ろを振り向くが、もうお化けの姿はない。

「はあ……良かった。もういなくなってる」

 森の中にある、大きな一本道に彼女は出ていた。一体どちらに進めばいいのか分からず、しばらく考えていると、正面から何かが歩いて来た。

「……今度は誰?」

 ミカは冷静になり、伝説の杖ガンバンテインを構えている。近づいてくる何かは、形が分かるにつれて恐ろしさが蘇ってくる。先ほどのお化けだった。

「わ、私を追いかけて来たの!? こ、この!」

 ガンバンテインをお化けに向け、彼女は凍結魔法フリージング・ダストを放った。お化けは一瞬体を震わせて横に飛ぶ。

「かわした? それなら」

 彼女のカード能力である三連魔法の効果により、追尾する形で二発目のフリージング・ダストが放たれる。お化けは妙にバタバタしながら、二発目もかわしてみせた。

「まだ三発目があるわ。今のうちに次の魔法を……」
「いきなり何するの? やめてよミカー!」
「……また喋ってきた? わ、私はそんなことに騙されないんだから」

 三発目のフリージング・ダストは、謎のバリアによって防がれてしまう。焦るミカの隙をついて、お化けはミカに走り寄る。がっちりと両腕を掴まれてしまった。

「え、ちょ……きゃああー! 離して、お化け!」
「お化けじゃないよ! 僕だよ、サクラだよ!」
「嘘よ。どう見てもあなたお化けじゃない! へ?」

 お化けと揉み合っていると、後ろから更にもう一体お化けがやってきた。ミカは恐怖のあまり錯乱状態に陥ってバタバタ暴れ、揉み合っているお化けの頭をポカポカと叩きだす。

「イタタタ! 痛い~! 酷いよミカ」
「嫌ー! 離してよ、離して!」
「サクラさん、そのまま抑えておいて下さい!」

 奥にいたお化けはミカに接近すると、両手から緑色の暖かな光を放った。目の前で蠢いていたお化け達は消えてなくなり、代わりにサクラとランティスが姿を現している。

「酷いよ~。僕の賢さが下がったらどうするのさ! ミカの乱暴者!」
「え? え……。私、今まで……お化けに……」

 ランティスが苦笑いしている。

「多分ミカさんはこの霧の幻術で、僕らがお化けに見えてしまったんですよ。解除の魔法リリィースを使ったのでもう大丈夫です」
「ふえ? わ、私……幻覚を見ていたの? はああ。良かった」

 ミカは心の底から安堵してため息をついた。頭を押さえつつも、サクラはニコニコと笑っている。

「僕殺されちゃうと思ったよー。でもミカって、見かけによらず子供なんだね。お化けが怖いなんて」
「な!? わ、私は別に……怖がってなんかないわよ。ただ、ちょっと……」
「え? 何?」
「……何でもない! いいから、早く神殿に向かうわよ」

 サクラを先頭に三人は走り出した。やがて森を抜け、始まりの神殿が霧の向こうに見え始める。

「そういえばサクラとランティスは、どうして幻術にかかっていないの?」
「いいえ。幻術にはかかってしまいましたが、解除の魔法を使っただけですよ」
「あれ? うーん。僕はどうしてかな。多分ミカより、大人だからかも。い、痛い痛い、引っ張うないで、フガ!」

 ミカは怒ってサクラのほっぺを引っ張っている。

「もう~。イライラする……って、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 早く行かないと」
「あ……あれは……にいちゃん!」

 ランティスは大きな声を上げ、二人を抜かして全力で駆けて行った。少年の前にはレオンハルトと、怪しく笑うゲオルートの姿があった。




 俺と魔王セツアはほぼ同時に動き出し、神殿最深部の中央で激突した。

「行くぜ魔王……!」

 奴の黒くデカイ杖と、龍の剣が火花を散らす。今までの鬱憤を晴らすが如く、連続で斬りつけているが、セツアは全て杖で防ぎ切っている。

 奴は魔法による反撃を試みているようだが、瞬きさえ許さない斬撃で封じ込まれ、徐々に後退している。

「龍の鎧を、ここまで使いこなせるとはな。君はやはり素晴らしい戦士だ」
「お前なんかに褒められたって、何にも嬉しくない!」

 俺は奴の杖を剣で弾き、思い切り後ろ蹴りを放つ。膝を上げてブロックしたセツアは、勢いよく数メートル先まで吹き飛んだ。

「熱くなっているところすまない。ここは神聖な場所だ……少し戦場を変えてもいいかな?」
「……は? また逃げようっていうのか。その手には乗らない」
「安心してくれ。逃げも隠れもしない。そして私自身に有利な所で戦うわけでもない」

 黒い魔王のオーラが、一層禍々しく動き始める。やがてセツアの胸の辺りから小さな白い玉が現れ、少しずつ大きくなっていく。玉は全てを包み込み、やがて俺は真っ白な光を全身に浴びていた。

「……ここは?」

 光が消え去った後に現れたのは、何もない荒野。人も魔物も、あらゆる生き物の存在を確認できない世界。全てが滅んだような虚しい空間で、俺達は向かい合っていた。

「私が作り上げた幻想世界、バトルフィールドの一つだ。ここならどんなに暴れても、世界の何かを壊すことはない。そして私が作り出したからといって、何一つ有利に働くことはない。条件は対等だ」

 この言葉、信じていいのか? 俺は奴を注意深く観察している。魔物も人間も、強い奴ほど嘘つきであることを、嫌という程経験してきた。

「へえ、バトルフィールドねえ。お前は凄い奴だな。こんな魔法まで使うことができるのか」
「私に使えない魔法はない。これから君に見せることになるだろう。そしてバトルフィールドには制限時間がある。この砂時計が全て落ちた時、我々は祭壇の前に戻り、君は永遠の眠りについているだろう」

 いつの間にかセツアの近くに、趣のある砂時計が置かれていた。

「一つ間違ってるぜ。死ぬのは魔王、お前のほうだ」

 俺の言葉を聞いて、奴は優しく微笑む。天使か悪魔か、得体の知れない化け物は静かに呟く。

「懐かしいね。三百年前も君は、同じことを私に言った」
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