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魔王との決戦へ

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 港町ローダンセに来てからというもの、雲ひとつない快晴が続いている。

 俺達は港から船に乗り、始祖の大地に向かっていた。到着まであまり時間は掛からない。みんなは船上に待機している。サクラは海を興味津々で眺め、ミカは静かに前だけを見ていた。

「ねえアルダー。始祖の大地に入る為の門は二つなんだよね? 僕らが向かっている門と、その反対側にある門。魔王はどっちから来るのかな?」
「さあな。俺にも分からない。奴の考えを読む材料が足りな過ぎる。ただ、どんな手を使って来るかは予想できるけどな」

 伝説の杖ガンバンテインを持ったミカは、周囲を注意深く見回し始めた。

「そうよね。私も薄々感じてる」

 船首に立っていたランティスが呟く。

「僕が彼なら……することは一つだと思っています」

 舵を取っていたレオンハルトは、ため息をついて酒をガブリと飲み干した。

「俺達はとことん不利だぜ。アイツらの作戦が読めていながら、正面から行くしかねえんだからよ」

 サクラはちょっと混乱しているみたいだ。思わずパタパタ飛んでいたコドランを捕まえる。

「ぐわ! これ、何をするのだ勇者よ!」
「コドランちゃん! なんか、僕だけみんなの言ってることが分からないよ」
「ええい! 直ぐに分かるから大丈夫だ。始祖の大地が見えてきたぞ」

 やっぱりだ。遠目からだと小石のようだったが、何かがいることは明らかだった。ガーゴイルやクラーケンがうようよしていて、船もいくつかある。俺は面倒臭そうに頭を掻いた。

「やっぱり待ち伏せか……俺達を始祖の大地に入れないつもりだ」
「ええー!? 入れなかったら僕困っちゃう。どうするのアルダー?」

 いつの間にか船首には、レオンハルトを除いた全員が集まっていた。ミカがいつになく力強い目で、待ち伏せている魔物達を見ている。

「答えは簡単でしょ。あそこにいる全員を倒して、何としても門に入るわ!」
「す、凄い数ですよ……驚くほど多いです」

 ランティスの緊張が伝わってくる。コドランが静かに俺の側に飛んできた。

「分かっていると思うが、まだドラグーンにはなるなよ。いいな?」
「大丈夫だ。それに……カードを使うまでもない」

 俺はサクラから借りた、青いほうの聖なるつるぎを鞘から抜いた。続くようにサクラが剣を構え、ランティスが槍を上げ、ミカが杖を胸の前に持つ。

 まず先に襲いかかって来たのは、巨大なガーゴイルの群れとクラーケン達だ。ガーゴイル達はそれぞれ武器を持っている。

「キエエェー!」

 奇声を発しながら飛びかかってくるガーゴイルの剣を、俺は紙一重でかわしつつ首元を斬りつけた。

「ギ……アアア!」

 一瞬で胴体と首が海に落とされていく。サクラ達も必死で応戦し、ガーゴイル達は少しずつ数を減らしていった。しかし、弓を持っている連中は俺では無理だった。

「喰らえー! セイント・シール」
「ブワ……アア……!」

 弓を構えるガーゴイル達は、サクラの攻撃魔法によって撃ち落とされていく。的が大きい為か、彼女の魔法でも問題なく当てることができる。

 最初にクラーケンを相手にしたのはミカだ。船そのものに攻撃が当たってしまったらまずい為、なるべく遠間でケリをつける必要がある。

「まとめて倒すわ!」

 クラーケンが触手を伸ばし船を捕まえようとするが、あと一歩の所で奴らは動けなくなる。彼女が全方位に放っているフリージング・ダストが、クラーケン達を凍りつかせていった。カード能力である三連魔法により、クラーケン達を含めて沢山の魔物達に攻撃が当たる。

 ランティスはミカの鮮やかな攻撃に感動していた。

「す……凄い。これなら余裕で倒せますよ!」
「ランティス! 甘く見ちゃだめだ。時間がない」

 俺は飛びかかってくるガーゴイル達を斬り落としながら、太陽を見上げる。コドランは険しい顔をしていた。

「もう太陽は一番高い位置にある。だが我々は思いのほか前に進めておらぬ。奴らの思惑どおりになっているぞ」

 やっぱりそうだよな。このままじゃ島に入る為のワープゾーンが閉じてしまう。ガーゴイルとクラーケンは全滅したが、船から沢山のダークマージ達が出て来た。巨大な蜂や気味の悪いクラゲもいる。

 船に乗っていたダークマージ達は一斉に杖を向ける。気がつけばあらゆる魔法が船に向かって飛び交っていた。

「あ、危ない! 船がやられちゃうよ」

 サクラはマジックバリアを作り出し、何とか船ごと守っていた。

「ランティス、風の魔法を使えたよな?」
「は、はい! できますよ」
「じゃあ頼んだ! 追いつく方法としてはこれしかない!」

 ランティスが意を決して走りだし、帆を畳んだ後に船の後尾まで向かった。レオンハルトは唐突な行動に驚いている。

「皆さん、僕に任せて下さい! にいちゃん、しっかり操縦してね!」
「ああ? どうしようってんだよ?」

 呆気にとられたレオンハルトを気にせず、ランティスは輝きの槍を両手で掲げる。後方から一瞬、突風が吹いたかと思うと、船の速度が急激に増していった。

 ランティスは後方に向けて風魔法を放っている。船は一気に速度を増し、魔物達の包囲網を抜けていく。

 俺は船首から身を乗り出す勢いで、ワープゾーンを探した。

「コドラン! 門ってやつは何処にあるんだ!?」
「右奥にある渦だ! 急いで突っ込め!」

 確かに右前方に渦が広がっているが、少しずつ閉じ始めているのが分かる。ランティスは風魔法の勢いを強め、船はギリギリで渦の中に飛び込んで行った。

「入れた! みんな、僕達とにかく中に入れたよ!」
「気を抜かないでサクラ。ここからが問題よ」

 ミカの言うとおりだ。渦の中は真っ暗で、船が何処に向かっているのか分からない。まるで無の世界をただ進んでいるかのようだ。コドランがいつになく真面目な声で呟いた。

「中心にある神殿を目指すぞ。そこが奴らの目的地、始まりの神殿だ」

 やがて虚無の向こうに、小さな光が見えた。徐々に大きくなった光は、あっという間に俺達を飲み込んでいく。

「う、うわああー!」
「きゃあ!」

 後ろでランティスとミカの悲鳴が聞こえる。強い衝撃に驚いたようだ。船は島に激突して停止した。レオンハルトが剣とナイフをいくつも装備して、真っ先に船を降りる。

「さあて、急ぐとしようぜ! 始まりの神殿とやらによ」
「そうだな。魔王達のほうが早く到着しているはずだ。これ以上時間をかけるわけにはいかない」

 俺は剣を持ったまま船から飛び降り、サクラ達も続いた。島の中は、あらゆる美しい植物に満ちている。巨大な樹木だらけの道を進んで行くが、生き物の姿は見当たらない。

「コドラン。神殿がどっちにあるか分かるか?」
「うむ。我について来るがよい」

 コドランは真っ直ぐに飛んで行く。俺達は後を追って走り続けた。これが世界の始まりの場所か。何というか、全てに温かみを感じる。やがて俺達は湖に出て、次に草原に入っていた。

 ついに見つけた! 草原の真ん中に巨大な神殿が佇んでいる。走りながらサクラが叫んだ。

「み、みんな~。あれだよ! 神殿があるよー!」
「本当ね! 魔王達はどうしたのかしら。もしかして……」
「あらあら~。嫌だわあ。思っていたより、早く着いてしまったようね」

 神殿のすぐ近くから声がした。決して忘れられない、忌々しい声が。

「あ……エリーシア!」

 サクラが思わず声をあげ、俺達は足を止める。神殿の正門に続く階段を背にして、魔女ゲオルートが立っていた。俺は先頭に立ち、奴を見上げる。

「よお。言われたとおりに来たぞ」
「ウフフ! そんなに私が恋しかったの?」
「ある意味恋しかったかもな。どうしても倒したかったんだ。お前達はここで終わる」

 ゲオルートの背後から黒い霧が現れ、一人の男が姿を現した。

「終わるのは私達ではないよ。君達人間だ」

 サクラは俺の隣まで歩みを進め、彼に剣を向ける。

「魔王……とうとう現れたね! 僕の名は勇者サクラ。君を倒してエリーシアを解放する。そして、この世界を平和にしてみせる!」

 セツアは涼しい顔をしている。漆黒の鎧が怪しい輝きを放っていた。

「私は魔王にして勇者……勇者にして魔王……セツアだ。君の挑戦を受ける」

 龍のカードが光を増している。まるで鎖を引き千切ろうとする猛獣のように、俺を急かしている。分かっているよ。俺は光り輝くカードを懐から取り出し、胸の前に持ってくる。

「魔王も魔女も敵じゃない。ドラグーンがお前達を倒す」

 みんなが俺の側に来た。サクラはオーラを発現させ、ミカは杖を構える。ランティスは槍を持って後方に下がり、レオンハルトは二本の剣を鞘から抜いた。眩い光の中にコドランが飛び込み、龍の鎧は完成した。

 美しい自然に囲まれた神殿の前で、俺達の戦いは始まろうとしていた。
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