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ゴーレム退治と、恋の悩み

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 俺達がやって来た港町ローダンセは、ゴーレムの集団に襲われ壊滅の危機に瀕している。

 こんなに晴れた日だっていうのに、町の人々は可哀想だと思う。俺は一番船から近くにいるゴーレムから倒すと決めた。翼の力を使って、一気に間合いを詰めて剣を振る。

「……ん?」

 気がつけば港町の中心に自分がいる。最初にドラグーンになって戦った時と同じだ。目や感覚が動きについていけないくらい、速さが強化されている。

 振り向くと遥か遠くにさっきのゴーレムがいて、胴体から真っ二つになって地鳴りと共に崩れ落ちた。

 町にある宿屋や教会、民家の上に戦士が数人いる。皆弓矢を用いて戦っているが、ゴーレム相手には全く無力だと言っていいだろう。

 俺は宿屋の屋根の上に着地し、弓を持って震えている若い男に声を掛けた。

「かなり参ってるみたいだな。大丈夫か?」
「え? あ、あんた……どうやってここに?」
「まあ色々だ、あまり気にするな。敵はあのゴーレム達で全部か?」
「は……はあ。そうだよ。あんたも逃げたほうがいい。あんな化け物が襲ってきたんじゃ、この町はお終いだ」

 次々と民家が破壊され、人々は巨大な足の下敷きになっている。普通に考えれば確かに終わりだ。俺はガックリとうな垂れる男の肩を叩いた。

「大丈夫だ。今から全部倒してくる。丁度ここからグルっと一周する感じで」
「え、ええ!? あんた気は確かか? そんなこと無理に決まってるだろ! 早く逃げ……」

 俺は町の東側へ飛んだ。見渡す限りひしめいているゴーレム達の隙間を、吸い込まれるように通り抜けて行く。龍の剣が傍で暴れ回り、確かにゴーレム達に触れていった。

 俺は町全体を大きく周り、全てのゴーレム達とのすれ違いを済ませる。あっという間にさっきの男の所に戻った。

「終わったぞ。もう大丈夫だ」
「うわ! なんか……あんた一瞬消え……え!?」

 男は目の前の光景に愕然としている。ゴーレム達は全て細切れになり、次々と地面に倒れていった。思った以上に鎧は強くなっているようだ。

「う、嘘だろう? 本当にあんたがやったのか!?」
「ああ。じゃあ俺はこれで」

 あまりにもオーバーに驚かれるので、ちょっと恥ずかしくなった俺は直ぐに屋根から離れ、勇者達がいる船に向かった。

 サクラが港に降り立った俺に駆け寄ってくる。

「アルダーすごーい! なんか以前よりも強くなったね。さっすが!」
「全然大したことないよ。それより、これからどうするんだ? コドラン」
「ん? まあ後二日も猶予があるしな。今日のところはゆっくり休むのだ! 明日はお前達を特訓せねばならん!」

 ミカとランティスが、自分達の道具袋を調べて何か相談をしている。

「んー。ちょっと用意が足りない気がするわ。私ちょっと道具屋さんに行ったり、いろいろ準備してくる」
「僕もミカさんと一緒に行きますよ。魔王達との決戦の前です。万全の準備をする必要があります」

 二人は商店街のほうへ消えて行った。俺がドラグーン化を解くと、パタパタと羽ばたくコドランをサクラが捕まえる。

「僕はコドランちゃんと特訓してくるよ! これ以上アルダーに出番を取られるわけにはいかないもん。ねえ、昨日言ってたカードの魔法教えてよ~」
「うわ! これ離さんか勇者。やめい! こら!」

 コドランは勇者に何か教えていたらしい。気がつけば俺とレオンハルトの二人だけになっていた。

「みんなやることが決まってて良いねえ。お前さんはどうする?」
「俺か? うーん、特に何もないな」
「じゃあたまには俺に付き合え。釣りにでも行こうぜ」
「え? 釣り?」

 意外な誘いだった。確かにここは港町だし、釣りには良さそうな場所だけど。もう既に用具の準備は終わっているようだ。レオンハルトについて行った先には土手があり、小さな橋がある。

「今はゴーレムの処理とかで、釣りなんてしてる奴は全然いねえ。こういう時はチャンスなんだぜ」
「まあ、確かに忙しいだろうからな。みんなが忙しい時に釣りなんて悪いよ」
「お前さんのおかけで町は助かったんだぜ! 少しくらい遊んだところで、誰も文句は言わねえよ」

 俺は釣竿を渡された。実は釣りなんてしたことがない。胡坐をかいて、適当に餌を垂らし海辺に投げる。彼は俺の隣に座り、同じように釣竿を垂らしている。

「それにしてもお前はすげえよ。あれだけのゴーレムを瞬殺できるのは、多分他にいないだろう。あのヘレボラスとかいう機械兵器も、ゴーレムみたいなもんか?」
「ヘレボラスはあんなもんじゃなかった。盗賊団の幹部でエルフがいただろ? アイツが塔そのものを改良して作ったんだ。全てが規格外だったよ」
「へえ~。塔そのものを機械に変えちまうなんて、本当に凄え女だな」
「聞いた話だと、機械工作は趣味なんだってさ。武器や防具も作り出せるらしい」
「……マジか……」

 彼は釣竿を垂らしながら、何か考え事をしているようだった。

「なかなか魚は来ねえが、こうやって考え事をしながらできるのは釣りの良いところだな。アルダー、お前さんは最近随分と女のことで悩んでいるようだし」

 俺はドキッとしてレオンハルトを見た。

「な、何言ってんだよ! 悩んでなんかいるか」
「嘘だな。隠していてもバレバレだ。だって、お前さんが悩むことは一つしかないじゃねえか」
「何で女のことしか悩みが無いって言い切れるんだ?」

 彼は笑っている。決して悪意がない、親切な兄貴と話しているような感覚だった。

「男が悩むことって言ったら、大きく分けて三つに絞られるのさ。一つは金、もう一つは仕事、最後に女だ。お前さんは金には困ってないし、今やってる仕事も順調……そうなれば答えは女しかない」
「大雑把過ぎないか? その分類分けは」
「ミカとサクラの様子が変わってるし、お前さんも妙に二人と距離を置いてる。これは当たっていると見て間違いなさそうだ。鎌をかけてみたら反応は上々……つまり確定だ!」

 俺はちょっと悔しくなった。ここまで見抜かれているとは思っていなかったからだ。

「アルダー。お前さんは恋愛っていうものをちゃんとしたことがないな? だから分かってない。本当はどっちが好きか……そんなものは魂の奥でとっくに答えは出ている」
「くそ! そうだよ、わかってないよ。……悩んでるんだ。どうしたら答えが分かる?」

 レオンハルトは海を眺めながら、静かに水筒の水を飲み始める。目を細めて、静かに大海原の向こうまで見渡しているようだった。

「じきに分かるさ。大事なのは焦らないことだ。釣りでも戦いでも、恋愛でも一緒だ。お前さんが羨ましいねえ、俺は恋だ愛だなんてのはとっくに終わってる」
「……冒険者ギルドで仕事を請け負っていれば、出会いは星の数ほどあるだろ?」
「いいや。もう俺には必要ない。生涯で心底愛した女は一人だけだ。そいつと息子がいなくなった今、他の女を愛するなんてできねえ」

 彼の右腕にはタトゥーが入っている。そうか……聞きなれない単語だったが、きっと奥さんと子供の名前だろうと直感で思った。

「俺は町をブラついてくる。お前さんはもう少し釣りをして考えてみろ。失ってからじゃ遅い。大切な奴に気づくってことが、難しいけど人生では必要だ」

 レオンハルトはゆっくりと俺の前から去って行った。考えてみろと言われても、俺にはよく分からない。結局魚も釣れなかった。俺はゴーレムの残骸の処理を手伝って、夜中に宿屋に辿り着いた。

「みんなー。悪い、ちょっと遅れちまった。……あれ?」

 俺の部屋にみんな集まってもらうはずだったのだが、誰もいないし真っ暗だ。もう集まっているはずの時間なのだが、どうしたんだろう?

「全く。なん……おわっ!?」

 不意に部屋の灯りがついた。目の前で起きたことに、俺は驚いて飛び上がってしまった。
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