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三百年前の魔王
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グラジオラス大陸に隠されている祠は、魔王軍の幹部達が使っている本拠地だった。
今、その祠が異様な地鳴りと赤い光に包まれている。魔物達は恐れ喚き、魔王軍の幹部である獅子のダンタルト、死霊を束ねる長エリオネルも戸惑っていた。魔女ゲオルートとヤブランを除いて、誰一人立っていられない。
「な、何だ!? 何が起こっているのだ?」
「これは大変ですよ! ヤブランさん、ちょっと!」
やがて赤い光は消え去り、地震も止まった。ヤブランと魔女は黙って王座の手前を見つめている。
「な、何ですか? これは……」
エリオネルはやっと立ち上がり周囲を見回した。祠の内部が様変わりしている。本来中心に行くほど地下に降りる形になっていて、王座は最も奥にあるはずだった。
だが今は、祠の正門より少し高い位置にまで王座が上がってしまっている。闇の底まで続いているかのような階段は消えてなくなり、代わりに赤い色をした絨毯が敷かれていた。
ヤブランは振り向き、戸惑う幹部達に声を掛ける。
「この祠はね。彼が封印されるまでは、本来こういう形になっていたんだ。あるべき姿に戻っただけだよ。驚いただろ?」
「……ヤブラン、彼が来るわ」
「おっと! 楽しみだー」
中央にある王座の前に、黒く細い一筋の光が差し込んだ。光はやがて大きく太くなっていき、静かに一つの影を作る。
黒い光は去り、残された影も晴れていく。全てが消え去った後に残ったのは、ただ一人の人間だった。
「な、何!? 人間ではないか! ヤブラン、貴様は魔王様が蘇ると申したはず!」
ダンタルトが声を荒げてヤブランに詰め寄る。だが金色の体毛を持つ魔物は、彼の言葉など聞いていなかった。魔女ゲオルートは、静かに目を閉じたままの男に近づく。
「本当にお久しぶりね。セツア」
彼女の声が聞こえたのか、男はゆっくりと両目を開いた。フリージアの絵画に描かれていた、四英雄の中心にいた男そのものだった。唯一の違いは、今は漆黒の鎧を身に纏っていることくらいだ。
「……ここは? 君達は誰だ?」
「ウフフ……私を忘れてしまったの? こんな身なりになったのなら、確かに分からないわね」
ゲオルートは懐から一枚の手紙を取り出して、彼の前に差し出す。彼女の瞳はうっすらと濡れていた。男は手紙の内容を読み、微かに目が震える。
「そうか……君だったのか。姿が変わっていたから分からなかった」
「会いたかったわセツア……そしてごめんなさい。あなたを封印から解くのに、もう三百年も掛かってしまったのよ」
「三百年……では、君は……」
ヤブランが小走りで魔女の隣にやって来る。
「セツア! 僕のことも覚えているかい?」
「君は……さあ、知らないな」
「かー! やっぱりそうだよね。でもこの名前は覚えているだろ? ヤブランだよ。君が名づけてくれたじゃないか」
「……ヤブラン? 本当にヤブランなのか? あんなに小さかったのに、ここまで大きくなるとは驚いた」
金色の体毛を持つ魔物は、男の前で尻尾を降っている。今までの残虐さなど嘘のように振舞っていた。
エリオネルとダンタルトは、後ろのほうでオロオロしている。魔王ヴァルフォより遥かに強い、真の魔王が復活すると説明を受けていたのに、蓋を開けてみれば人間にしか見えない。
不意に祠の正門が開く音がした。
「ほう~。随分とこの祠も様変わりしたでないか。お前達……我に何か言うべきことは無いのか?」
声の主は魔王ヴァルフォだった。勇者サクラとミカによって崩壊した体は、大陸に戻ってくるまでに元どおりになり、祠に辿り着く頃には以前よりも大きくなっていた。
「ヴァ……ヴァルフォ様」
ダンタルトは狼狽して後ずさり、エリオネルは何も言わずただ俯いている。二匹が恐れていたことが現実になった。魔王の報復が始まると恐れ震えている。ヴァルフォは地鳴りのような足音を出しながら近づく。
しかし、ヤブランとゲオルートは余裕の笑みを浮かべたままだ。封印から解き放たれた男は、涼しい顔でヴァルフォを見つめていた。
俺はレオンハルト達とカトレアの船着場を出発し、フリージアの冒険者ギルドに辿り着いていた。すぐに牢屋に向かうと、ガックリとうな垂れたヘザーがいる。
「よお! 貴族の魔法使いさんよ、アンタに面会だぜ」
レオンハルトの言葉にも、奴は聞いているのか微妙な反応だ。どっと老け込んでいて、二十代の青年にはとても見えない。
俺はどうにも可哀想になってきて、面会するのはやめようかと考えていた矢先に、勇者サクラとミカが走りこんできた。
「アルダー! ヘザーと面会するんでしょ? 僕も混ぜて!」
「ごめんなさいアルダー。私止めたんだけど、サクラったら聞いてくれなくて」
正直に言うと悩んだ。どうしてもエリーシア達との旅について、詳細を聞いておきたい。しかし、もはやヘザーは弱りきっている。これ以上気を病んだらどうなってしまうのか。
「なあ、サクラ。見てのとおりヘザーは相当辛い状況だ。ここは一旦……」
「ヘザー! そんな所で寝てないで起きて! みんなで面会に来たんだよ」
聞いちゃいない。サクラは物凄い勢いで鉄格子を揺らし始めた。俺はとにかく彼女を止める。
「こらこら! やめなさい勇者! いいかい……今アイツは話せる状態じゃ」
「早くー! エリーシアのことを教えてよ! ヘザー」
勇者の言葉に、今まで何の反応も示さなかったヘザーが顔を上げる。
「エリーシア? そうだ……アイツのせいで……私は。ああ! くそおおお!」
突然髪をかき上げ、唸るような声を出している。ヤバイ! 相当危険な精神状態に違いない。
「男の子がウジウジしちゃダメ! とにかくお話しするのだ! 僕らと別れてから今までのこと全部教えて!」
「こら! 無茶なこと言うんじゃない勇者」
「……いいだろう。全てを話そう」
やつれた顔をしたヘザーがのそりと顔を上げる。俺はますます心配になった。
「え? ほ、本当に大丈夫か?」
「ああ、不思議なくらい落ち着いてきたよ」
ヘザーは薄暗い牢屋の中で、俺達と別れてからの一部始終を話し始めた。グラジオラス大陸での失敗、四英雄の加護を受ける話をエリーシアから聞いたこと、戦士が殺されたこと、そして全てが失敗に終わったこと。
俺は声にならないショックを受けていた。まさかゲオルートが、ここまでエリーシアやヘザー達を利用していたとは。きっと周りにいたみんなも、同じことを思っただろう。
「……以上だ。私が知っていることは全て話した。後は一人にしてくれ」
ヘザーはまた廃人のように黙り込む。サクラは鉄格子の前で立ったまま動かない。彼女の背中を、俺は優しく叩いた。
「行こうぜ、サクラ」
「ん? うん。ヘザー……また来るよ」
ミカやレオンハルト、ランティスは既に外に出ていて、サクラは少し遅れて出て行った。最後に俺がドアから出ようと言う時、ヘザーの声が背中越しに聞こえた。
「アルダー……すまなかった。全ては私の責任だ」
耳を疑った。まさかあのヘザーが謝ってくるなんて。俺は振り返り、久しぶりに笑顔を見せた。
「気にするなよ。早くここから出られると良いな。俺も、また面会に来る」
「……お前なら勝てる。今なら分かる……」
アイツは少し笑ったような気がする。ドアから出た先には、神妙な面持ちをしたみんながいた。最初に話しかけてきたのはレオンハルトだ。
「すげえ話だったな。ヘザーの奴はモンステラのナイフで、美術館の女を刺した。戦士ロブを殺した罪まで着せようってか、とんでもねえ魔女だ。そんな奴に取り憑かれていたなんて、あの娘も運がないねえ! まあ、美人ほど狙われやすいっても言うしな」
ランティスは彼の言葉に、ちょっと嫌な気持ちになったようだ。
「にいちゃんはこんな時でもふざけてるんだから! アルダーさん、とにかくこれからどうするんですか?」
「ああ……始祖の大地って所に行ってこようと思う。そこでゲオルート達は待ってると言ってた。他に当てもないしな。決して放っておくことはできない連中だ。恐らくコドランなら場所を知ってると思うから、これからアイツを読んでみるよ」
ミカが心配そうな顔で側に来た。
「始祖の大地っていう所はよく分からないけれど、明らかに罠よ。それでも行くつもりなの?」
「行くよ。もう選択肢は一つしかない。最後のヒロイックストーンが奪われれば、世界が滅びるって話だからな。何を企んでいるのか知らないが、全力で止めるだけだ」
ずっと俯いて黙っていたサクラが顔を上げ、気合の入った声を出した。
「どんなことをするのか知らないけど、世界を滅ぼすわけにはいかない! 僕は絶対に阻止してみせる。そしてエリーシアを……。みんな! 明日の朝、良かったら僕と一緒に来てほしい。みんなの力を貸してほしいんだ!」
レオンハルトは笑って歩き去って行く。ランティスは黙って後ろに続いた。
「おうよ! こんな大一番に乗らない手はねえやな。倒したい奴も残ってるしよ」
ミカは表情を曇らせ、静かに俺を見上げる。
「アルダー、私は……」
「分かってる。君は無理しなくていいよ。今までだって、町を守る為に助けてくれてたんだからな。俺達が帰って来るのを、のんびり待っててくれ」
サクラがミカにニッコリと笑ってみせた。
「大丈夫だよ! 帰ったら美味しい料理ご馳走してね。じゃあ僕とアルダーは、旅立ちの準備をして来るから」
「ええ。明日見送りに行くわ……気をつけてね」
二人とも何故か喧嘩してたこともあったけど、今では凄く仲がいいんだな。ホッとした俺は、サクラと二人でまずは教会に行くことにした。美術館にいた女性の見舞いと、指輪の解析を聞く為だ。
教会までの道はほとんど人気がなかった。サクラは元気そうに、俺の後ろをついて来る。ここは褒めてやらないとな。
「さっきは立派だったぞ勇者。頼もしくなってきた。こりゃ俺がいなくても大丈夫かな!」
「えへへ! まあ僕が言い出さないと、みんな来てくれないでしょ。敵は超いっぱいいるんだから、少しでも味方がいないと大変だよ! 魔王軍の幹部は残ってるみたいだし、それに……」
あれ? なんか妙に声のトーンが落ちてきているな。
「それに……エリーシアが……エリーシアが」
背中に何かが当たっている。サクラが寄りかかり、やがてしがみついてきた。体が震えていることが分かる。
思わず足を止めた。彼女は俺の背中で泣き出している。
今、その祠が異様な地鳴りと赤い光に包まれている。魔物達は恐れ喚き、魔王軍の幹部である獅子のダンタルト、死霊を束ねる長エリオネルも戸惑っていた。魔女ゲオルートとヤブランを除いて、誰一人立っていられない。
「な、何だ!? 何が起こっているのだ?」
「これは大変ですよ! ヤブランさん、ちょっと!」
やがて赤い光は消え去り、地震も止まった。ヤブランと魔女は黙って王座の手前を見つめている。
「な、何ですか? これは……」
エリオネルはやっと立ち上がり周囲を見回した。祠の内部が様変わりしている。本来中心に行くほど地下に降りる形になっていて、王座は最も奥にあるはずだった。
だが今は、祠の正門より少し高い位置にまで王座が上がってしまっている。闇の底まで続いているかのような階段は消えてなくなり、代わりに赤い色をした絨毯が敷かれていた。
ヤブランは振り向き、戸惑う幹部達に声を掛ける。
「この祠はね。彼が封印されるまでは、本来こういう形になっていたんだ。あるべき姿に戻っただけだよ。驚いただろ?」
「……ヤブラン、彼が来るわ」
「おっと! 楽しみだー」
中央にある王座の前に、黒く細い一筋の光が差し込んだ。光はやがて大きく太くなっていき、静かに一つの影を作る。
黒い光は去り、残された影も晴れていく。全てが消え去った後に残ったのは、ただ一人の人間だった。
「な、何!? 人間ではないか! ヤブラン、貴様は魔王様が蘇ると申したはず!」
ダンタルトが声を荒げてヤブランに詰め寄る。だが金色の体毛を持つ魔物は、彼の言葉など聞いていなかった。魔女ゲオルートは、静かに目を閉じたままの男に近づく。
「本当にお久しぶりね。セツア」
彼女の声が聞こえたのか、男はゆっくりと両目を開いた。フリージアの絵画に描かれていた、四英雄の中心にいた男そのものだった。唯一の違いは、今は漆黒の鎧を身に纏っていることくらいだ。
「……ここは? 君達は誰だ?」
「ウフフ……私を忘れてしまったの? こんな身なりになったのなら、確かに分からないわね」
ゲオルートは懐から一枚の手紙を取り出して、彼の前に差し出す。彼女の瞳はうっすらと濡れていた。男は手紙の内容を読み、微かに目が震える。
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「会いたかったわセツア……そしてごめんなさい。あなたを封印から解くのに、もう三百年も掛かってしまったのよ」
「三百年……では、君は……」
ヤブランが小走りで魔女の隣にやって来る。
「セツア! 僕のことも覚えているかい?」
「君は……さあ、知らないな」
「かー! やっぱりそうだよね。でもこの名前は覚えているだろ? ヤブランだよ。君が名づけてくれたじゃないか」
「……ヤブラン? 本当にヤブランなのか? あんなに小さかったのに、ここまで大きくなるとは驚いた」
金色の体毛を持つ魔物は、男の前で尻尾を降っている。今までの残虐さなど嘘のように振舞っていた。
エリオネルとダンタルトは、後ろのほうでオロオロしている。魔王ヴァルフォより遥かに強い、真の魔王が復活すると説明を受けていたのに、蓋を開けてみれば人間にしか見えない。
不意に祠の正門が開く音がした。
「ほう~。随分とこの祠も様変わりしたでないか。お前達……我に何か言うべきことは無いのか?」
声の主は魔王ヴァルフォだった。勇者サクラとミカによって崩壊した体は、大陸に戻ってくるまでに元どおりになり、祠に辿り着く頃には以前よりも大きくなっていた。
「ヴァ……ヴァルフォ様」
ダンタルトは狼狽して後ずさり、エリオネルは何も言わずただ俯いている。二匹が恐れていたことが現実になった。魔王の報復が始まると恐れ震えている。ヴァルフォは地鳴りのような足音を出しながら近づく。
しかし、ヤブランとゲオルートは余裕の笑みを浮かべたままだ。封印から解き放たれた男は、涼しい顔でヴァルフォを見つめていた。
俺はレオンハルト達とカトレアの船着場を出発し、フリージアの冒険者ギルドに辿り着いていた。すぐに牢屋に向かうと、ガックリとうな垂れたヘザーがいる。
「よお! 貴族の魔法使いさんよ、アンタに面会だぜ」
レオンハルトの言葉にも、奴は聞いているのか微妙な反応だ。どっと老け込んでいて、二十代の青年にはとても見えない。
俺はどうにも可哀想になってきて、面会するのはやめようかと考えていた矢先に、勇者サクラとミカが走りこんできた。
「アルダー! ヘザーと面会するんでしょ? 僕も混ぜて!」
「ごめんなさいアルダー。私止めたんだけど、サクラったら聞いてくれなくて」
正直に言うと悩んだ。どうしてもエリーシア達との旅について、詳細を聞いておきたい。しかし、もはやヘザーは弱りきっている。これ以上気を病んだらどうなってしまうのか。
「なあ、サクラ。見てのとおりヘザーは相当辛い状況だ。ここは一旦……」
「ヘザー! そんな所で寝てないで起きて! みんなで面会に来たんだよ」
聞いちゃいない。サクラは物凄い勢いで鉄格子を揺らし始めた。俺はとにかく彼女を止める。
「こらこら! やめなさい勇者! いいかい……今アイツは話せる状態じゃ」
「早くー! エリーシアのことを教えてよ! ヘザー」
勇者の言葉に、今まで何の反応も示さなかったヘザーが顔を上げる。
「エリーシア? そうだ……アイツのせいで……私は。ああ! くそおおお!」
突然髪をかき上げ、唸るような声を出している。ヤバイ! 相当危険な精神状態に違いない。
「男の子がウジウジしちゃダメ! とにかくお話しするのだ! 僕らと別れてから今までのこと全部教えて!」
「こら! 無茶なこと言うんじゃない勇者」
「……いいだろう。全てを話そう」
やつれた顔をしたヘザーがのそりと顔を上げる。俺はますます心配になった。
「え? ほ、本当に大丈夫か?」
「ああ、不思議なくらい落ち着いてきたよ」
ヘザーは薄暗い牢屋の中で、俺達と別れてからの一部始終を話し始めた。グラジオラス大陸での失敗、四英雄の加護を受ける話をエリーシアから聞いたこと、戦士が殺されたこと、そして全てが失敗に終わったこと。
俺は声にならないショックを受けていた。まさかゲオルートが、ここまでエリーシアやヘザー達を利用していたとは。きっと周りにいたみんなも、同じことを思っただろう。
「……以上だ。私が知っていることは全て話した。後は一人にしてくれ」
ヘザーはまた廃人のように黙り込む。サクラは鉄格子の前で立ったまま動かない。彼女の背中を、俺は優しく叩いた。
「行こうぜ、サクラ」
「ん? うん。ヘザー……また来るよ」
ミカやレオンハルト、ランティスは既に外に出ていて、サクラは少し遅れて出て行った。最後に俺がドアから出ようと言う時、ヘザーの声が背中越しに聞こえた。
「アルダー……すまなかった。全ては私の責任だ」
耳を疑った。まさかあのヘザーが謝ってくるなんて。俺は振り返り、久しぶりに笑顔を見せた。
「気にするなよ。早くここから出られると良いな。俺も、また面会に来る」
「……お前なら勝てる。今なら分かる……」
アイツは少し笑ったような気がする。ドアから出た先には、神妙な面持ちをしたみんながいた。最初に話しかけてきたのはレオンハルトだ。
「すげえ話だったな。ヘザーの奴はモンステラのナイフで、美術館の女を刺した。戦士ロブを殺した罪まで着せようってか、とんでもねえ魔女だ。そんな奴に取り憑かれていたなんて、あの娘も運がないねえ! まあ、美人ほど狙われやすいっても言うしな」
ランティスは彼の言葉に、ちょっと嫌な気持ちになったようだ。
「にいちゃんはこんな時でもふざけてるんだから! アルダーさん、とにかくこれからどうするんですか?」
「ああ……始祖の大地って所に行ってこようと思う。そこでゲオルート達は待ってると言ってた。他に当てもないしな。決して放っておくことはできない連中だ。恐らくコドランなら場所を知ってると思うから、これからアイツを読んでみるよ」
ミカが心配そうな顔で側に来た。
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「行くよ。もう選択肢は一つしかない。最後のヒロイックストーンが奪われれば、世界が滅びるって話だからな。何を企んでいるのか知らないが、全力で止めるだけだ」
ずっと俯いて黙っていたサクラが顔を上げ、気合の入った声を出した。
「どんなことをするのか知らないけど、世界を滅ぼすわけにはいかない! 僕は絶対に阻止してみせる。そしてエリーシアを……。みんな! 明日の朝、良かったら僕と一緒に来てほしい。みんなの力を貸してほしいんだ!」
レオンハルトは笑って歩き去って行く。ランティスは黙って後ろに続いた。
「おうよ! こんな大一番に乗らない手はねえやな。倒したい奴も残ってるしよ」
ミカは表情を曇らせ、静かに俺を見上げる。
「アルダー、私は……」
「分かってる。君は無理しなくていいよ。今までだって、町を守る為に助けてくれてたんだからな。俺達が帰って来るのを、のんびり待っててくれ」
サクラがミカにニッコリと笑ってみせた。
「大丈夫だよ! 帰ったら美味しい料理ご馳走してね。じゃあ僕とアルダーは、旅立ちの準備をして来るから」
「ええ。明日見送りに行くわ……気をつけてね」
二人とも何故か喧嘩してたこともあったけど、今では凄く仲がいいんだな。ホッとした俺は、サクラと二人でまずは教会に行くことにした。美術館にいた女性の見舞いと、指輪の解析を聞く為だ。
教会までの道はほとんど人気がなかった。サクラは元気そうに、俺の後ろをついて来る。ここは褒めてやらないとな。
「さっきは立派だったぞ勇者。頼もしくなってきた。こりゃ俺がいなくても大丈夫かな!」
「えへへ! まあ僕が言い出さないと、みんな来てくれないでしょ。敵は超いっぱいいるんだから、少しでも味方がいないと大変だよ! 魔王軍の幹部は残ってるみたいだし、それに……」
あれ? なんか妙に声のトーンが落ちてきているな。
「それに……エリーシアが……エリーシアが」
背中に何かが当たっている。サクラが寄りかかり、やがてしがみついてきた。体が震えていることが分かる。
思わず足を止めた。彼女は俺の背中で泣き出している。
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