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魔法使いの本音
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フリージアの中央広場で、俺とヘザーは戦うことになった。
奴の杖から放たれる闇の炎は、喰らったら恐らく一発で終わるだろう。通常の火炎魔法に、悪霊達の呪いが上乗せされているようだ。
「フハハ……愉快! これは愉快ぞ」
「ちぃっ!」
ヘザーが杖を振りかざす度、黒い炎がいくつも飛び交って来る。俺はかわし続け、広場にいくつもあった花壇の陰に隠れた。
「ふむ? どうしたね。隠れてばかりいるなど、君らしくもない。私を倒すのではなかったのかな?」
「……ああ、今でもそのつもりだよ」
奴はバルゴの銅像の近くから動こうとしない。近づいて来てくれるなら、いくらでも攻撃しようがあるんだが。
「まあ来ないというのなら仕方あるまい。先に美術館にいた女を焼こうか、エリーシアを焼こうか。いや……いっそこの町全てを焼くというのもアリだな」
「はあ? お前何を言い出すんだ?」
奴の笑い声が聞こえる。まだ距離は遠い。
「私にしてみれば、こんな町の人間などどうでも良いのだよ。むしろ、いつ私の悪い噂を流し始めるか分かったものではない。可能性があれば摘むべきとは思わんかね?」
俺は溜息をついた。いよいよ杖に脳を侵食されたらしい。
「全く思わないな。可能性で裁かれたらたまったもんじゃない。そいつがどんな奴か判断できるのは、そいつが世の中で何をやってきたかだ。俺はいつもそう考えてる。お前が言ってるのはただの虐殺だ。いかれてるよ……杖に頭を支配されているんだ! 早くそいつを捨てろ」
ヘザーは少しの間だけ黙っていた。風の音だけが聞こえている。
「イカれてなどいないさ。それに私がお前を殺そうと思ったのは、この杖を握る前からだ」
「……何?」
声色が変わった気がした。奴はゆっくりと歩き出したようだ。だがまだ遠い。不意打ちを仕掛けるには距離があり過ぎる。
「今こそ正直に話してやろう。私はお前のことを役立たずなどと思ったことは無かった。むしろ優秀な戦士だと認めていたよ。何よりも戦略眼が素晴らしい。戦士でありながら、戦う魔物のことを徹底的に研究し、無謀を回避する姿勢に感心した。そして戦闘では、まだ若輩とは思えぬ腕っ節も見せてくれる。なるほどサクラも、お前に夢中になるわけだ」
俺は攻撃の機会を伺っていたが、ヘザーの言葉が気になって仕方がなかった。役立たずだと言っていたはずなのに、あれは嘘だったのか。
「じゃあ何で追放したんだよ……」
呟くように言った。距離は縮まってきているが、まだ奴に正確な場所を掴ませたくない。
「有能すぎたからさ。以前お前が言った予測どおり、サクラは強くなるだろう。お前もエリーシアも力を増し、確かにパーティは盤石になる。その姿は、実は私にも見えていた。だがね……それじゃあ駄目なんだよ。全く目立たないではないか! この私が!!」
「……へ?」
ヘザーは足を止めてしまったようだ。怒りに身を任せるように声を荒げている。
「私はね、世界の平和が欲しくて魔法使いになったわけではない。地位や名声を得て、今後の人生を栄光に満ちたものとするために、わざわざ冒険者ギルドなどに登録してやったんだ! 勇者と共に魔王を討伐してこそ、貴族や王族は私を認めてくれる。しかしお前がいれば、そのうち私の立ち位置が奪われてしまう!」
奴は黒い炎を乱射した。花壇や椅子、広場に設置されているあらゆる物が燃やされていく。死霊の呻き声が鳴り響き、俺は地獄の中にいるような錯覚を覚えた。
「つまり私は、勇者の相棒というポジションにいられなくなってしまうのだ。おお、何という悲劇であろう。あってはならない! だから替え玉も、しばらく前から用意していたんだ! お前もサクラも、別れる前日に宿屋で殺しておくべきだったと、ここに来る道中でずっと思っていたよ」
不意に俺の横を黒炎が通過していく。床にくすぶり消えていく炎は儚い。消えゆく姿を見て、俺は妙なことに気がついた。黒炎に纏わりついた死霊が、恨めしい目でこっちを見ている。
「さあ、お喋りはここまで良いだろう。そろそろ出てきたまえ。私は忙しい身だ」
「ああ、分かった。決着をつけよう」
俺は静かに花壇から立ち上がり、ヘザーと向かい合った。予想していたより距離がある。走って十数歩は掛かるだろう。
「……ん? んん? はてさて……君が右手に持っている物は何かな?」
「これか? 棍棒だよ。知ってるだろ?」
「いやいや! 勿論分かっているともさ。君は本当にそんなもので戦うつもりか? と私は問いたいのだよ」
「ああ。お前の相手は、コイツがあれば事足りる」
ヘザーは体を小刻みに震わせて笑い出した。憎しみに満ちた目が、やがて真っ直ぐに俺を見る。
「どこまでも、どこまでも……人を侮辱するのが得意な奴だな。お前は楽には殺さんぞ! アルダー!」
ヘザーは叫び声と同時に、こちらに杖を向けて黒い光を放つ。一瞬で炎が飛び交ってきた。
「く、うおお!」
俺は横に飛んで黒炎をかわした。ヘザーは気にせず魔法を撃ち続ける。逃げる戦士を焼こうと、沢山の炎が渦を上げて向かって来た。
「ハハハハ! どうしたのかな? 反撃しなくてはいけないだろうが! このままではお前は、息を切らして亡者の仲間入りだぞ!」
ここに燃える物が少なくて、大火事になる心配がなかったのは、本当に良かったと思う。俺は走りながら、ヘザーを大きく囲むように周る。
「ちょこまかしおって! いい加減に」
「分かった! いい加減打って出るぜ」
俺は黒炎を横に飛んでかわした後、一気にヘザーに向かって走り出す。いよいよと踏んだ奴は笑顔を浮かべ杖を向ける。次こそは外すまいと、慎重に狙いを定める。
「らあっ!」
掛け声と共に、俺は奴の十歩ほど前で棍棒を振り下ろす。魔王との戦いや今回で、破壊されかけていたレンガが弾け飛んだ。
「ぐむう! 何を小賢しい真似を……終わりだ、アルダー!」
吹き飛んだレンガや土がヘザーに掛かり、体勢を崩しかけた。だが奴は踏みとどまり、勝利を確信してもう一度杖を向ける。黒い輝きは間違いなく、俺を狙い定めていた。
「……!? な、何」
黒炎は俺の横を掠めて、遠くの民家に命中した。違和感を感じたヘザーは、自らの右腕を見て驚嘆した。
「こやつら! 何故私を!?」
黒炎に纏わりついていた死霊が、ヘザーの右腕を引っ張っている。自身の近くに、消え掛かっていた炎があることに気づかなかった。亡者は消えまいと必死にしがみつく。
「くう! 何をしておるか、魔法が使えぬではないか! 離せ! 離さんか」
「動けないか……ご苦労さん」
「ひ……あ、アルダー」
俺と奴の距離は、もう握手ができるところまで近づいていた。まあ、今からするのは勿論握手ではないけど。
「ま、待て……待つのだ! 私は」
「うおおおー!」
棍棒のひと振りがヘザーの脳天をとらえる。鈍い音が響き渡り、奴は杖を落とした。
「ぎゃああー!」
目が飛び出しそうなほど衝撃を受けている顔を、俺は思いきり左手で殴り飛ばす。何発か殴ると、奴は崩れ落ちた。
「ぐ、ぐぶぶぶ……ま、まららあ……あ」
「ふん! 気絶しやがったか。あっと忘れてた……杖」
杖は無造作に置かれたままだった。棍棒で二、三発叩くと、簡単に砕け散って石になった。前のめりに倒れているヘザーを横目に、俺は何かを忘れているような気がした。
「なかなか良かったわよ~。素晴らしい仲間割れね」
バルゴの銅像から声がする。そうだった、一番肝心な奴が残ったままだ。
「ゲオルート!」
俺は必死に銅像へ走る。ヒロイックストーンを奪われるわけにはいかない。広場の奥から、サクラとミカが走ってきた。思わず安堵の溜息が漏れる。
「アルダー! 僕もしかしてと思ったんだけど……」
「銅像は無事なの!?」
「銅像は無事みたいだ! だが用心してくれ、奴は近くにいる!」
二人はバルゴの銅像の側にいる。これなら、ゲオルートといえどどうにも出来ないはずだ。
「奴……? 誰のこと?」
ミカの問いかけに答えたのは俺ではなかった。
「私のことよ~。お嬢さん達」
今度は背後から声がする。振り返ると、気絶したヘザーの背中に座っているゲオルートがいた。
得意げに笑う奴の右手には、丸い宝石のような石が握られている。
「君は何者なの!? ヘザーは椅子じゃないよ~」
「勇者サクラちゃんね。初めまして……と言うべきかしら? その銅像……後ろに変な張り紙がついているわよ」
ミカが銅像の裏側を除くと、札のような物が貼り付けられている。ゲオルートの言葉を聞いて、俺は顔が青くなっていたと思う。
「何かしら? これ……」
「外して御覧なさいよ。とっても良いものが見れるわ」
札はペリッという音を立てて銅像から引き剥がされた。蜃気楼が消えるかのように、全く違う光景が姿を現わす。
「え、えええ……ど、銅像がー!」
サクラは声を上げて後ずさっている。ミカはただ呆然としていた。銅像は遠目からでも、跡形も無く壊されていたのが分かる。
いつ壊した? いつだ? いや、時間なら幾らでもあっただろう。俺は拳を強く握りしめゲオルートを睨みつけた。
魔女は涼しげな笑みを浮かべ、ヘザーの背中から立ち上がり歩み寄ってくる。丸い宝石は赤く輝き、奴の手の中で眠っていた。
奴の杖から放たれる闇の炎は、喰らったら恐らく一発で終わるだろう。通常の火炎魔法に、悪霊達の呪いが上乗せされているようだ。
「フハハ……愉快! これは愉快ぞ」
「ちぃっ!」
ヘザーが杖を振りかざす度、黒い炎がいくつも飛び交って来る。俺はかわし続け、広場にいくつもあった花壇の陰に隠れた。
「ふむ? どうしたね。隠れてばかりいるなど、君らしくもない。私を倒すのではなかったのかな?」
「……ああ、今でもそのつもりだよ」
奴はバルゴの銅像の近くから動こうとしない。近づいて来てくれるなら、いくらでも攻撃しようがあるんだが。
「まあ来ないというのなら仕方あるまい。先に美術館にいた女を焼こうか、エリーシアを焼こうか。いや……いっそこの町全てを焼くというのもアリだな」
「はあ? お前何を言い出すんだ?」
奴の笑い声が聞こえる。まだ距離は遠い。
「私にしてみれば、こんな町の人間などどうでも良いのだよ。むしろ、いつ私の悪い噂を流し始めるか分かったものではない。可能性があれば摘むべきとは思わんかね?」
俺は溜息をついた。いよいよ杖に脳を侵食されたらしい。
「全く思わないな。可能性で裁かれたらたまったもんじゃない。そいつがどんな奴か判断できるのは、そいつが世の中で何をやってきたかだ。俺はいつもそう考えてる。お前が言ってるのはただの虐殺だ。いかれてるよ……杖に頭を支配されているんだ! 早くそいつを捨てろ」
ヘザーは少しの間だけ黙っていた。風の音だけが聞こえている。
「イカれてなどいないさ。それに私がお前を殺そうと思ったのは、この杖を握る前からだ」
「……何?」
声色が変わった気がした。奴はゆっくりと歩き出したようだ。だがまだ遠い。不意打ちを仕掛けるには距離があり過ぎる。
「今こそ正直に話してやろう。私はお前のことを役立たずなどと思ったことは無かった。むしろ優秀な戦士だと認めていたよ。何よりも戦略眼が素晴らしい。戦士でありながら、戦う魔物のことを徹底的に研究し、無謀を回避する姿勢に感心した。そして戦闘では、まだ若輩とは思えぬ腕っ節も見せてくれる。なるほどサクラも、お前に夢中になるわけだ」
俺は攻撃の機会を伺っていたが、ヘザーの言葉が気になって仕方がなかった。役立たずだと言っていたはずなのに、あれは嘘だったのか。
「じゃあ何で追放したんだよ……」
呟くように言った。距離は縮まってきているが、まだ奴に正確な場所を掴ませたくない。
「有能すぎたからさ。以前お前が言った予測どおり、サクラは強くなるだろう。お前もエリーシアも力を増し、確かにパーティは盤石になる。その姿は、実は私にも見えていた。だがね……それじゃあ駄目なんだよ。全く目立たないではないか! この私が!!」
「……へ?」
ヘザーは足を止めてしまったようだ。怒りに身を任せるように声を荒げている。
「私はね、世界の平和が欲しくて魔法使いになったわけではない。地位や名声を得て、今後の人生を栄光に満ちたものとするために、わざわざ冒険者ギルドなどに登録してやったんだ! 勇者と共に魔王を討伐してこそ、貴族や王族は私を認めてくれる。しかしお前がいれば、そのうち私の立ち位置が奪われてしまう!」
奴は黒い炎を乱射した。花壇や椅子、広場に設置されているあらゆる物が燃やされていく。死霊の呻き声が鳴り響き、俺は地獄の中にいるような錯覚を覚えた。
「つまり私は、勇者の相棒というポジションにいられなくなってしまうのだ。おお、何という悲劇であろう。あってはならない! だから替え玉も、しばらく前から用意していたんだ! お前もサクラも、別れる前日に宿屋で殺しておくべきだったと、ここに来る道中でずっと思っていたよ」
不意に俺の横を黒炎が通過していく。床にくすぶり消えていく炎は儚い。消えゆく姿を見て、俺は妙なことに気がついた。黒炎に纏わりついた死霊が、恨めしい目でこっちを見ている。
「さあ、お喋りはここまで良いだろう。そろそろ出てきたまえ。私は忙しい身だ」
「ああ、分かった。決着をつけよう」
俺は静かに花壇から立ち上がり、ヘザーと向かい合った。予想していたより距離がある。走って十数歩は掛かるだろう。
「……ん? んん? はてさて……君が右手に持っている物は何かな?」
「これか? 棍棒だよ。知ってるだろ?」
「いやいや! 勿論分かっているともさ。君は本当にそんなもので戦うつもりか? と私は問いたいのだよ」
「ああ。お前の相手は、コイツがあれば事足りる」
ヘザーは体を小刻みに震わせて笑い出した。憎しみに満ちた目が、やがて真っ直ぐに俺を見る。
「どこまでも、どこまでも……人を侮辱するのが得意な奴だな。お前は楽には殺さんぞ! アルダー!」
ヘザーは叫び声と同時に、こちらに杖を向けて黒い光を放つ。一瞬で炎が飛び交ってきた。
「く、うおお!」
俺は横に飛んで黒炎をかわした。ヘザーは気にせず魔法を撃ち続ける。逃げる戦士を焼こうと、沢山の炎が渦を上げて向かって来た。
「ハハハハ! どうしたのかな? 反撃しなくてはいけないだろうが! このままではお前は、息を切らして亡者の仲間入りだぞ!」
ここに燃える物が少なくて、大火事になる心配がなかったのは、本当に良かったと思う。俺は走りながら、ヘザーを大きく囲むように周る。
「ちょこまかしおって! いい加減に」
「分かった! いい加減打って出るぜ」
俺は黒炎を横に飛んでかわした後、一気にヘザーに向かって走り出す。いよいよと踏んだ奴は笑顔を浮かべ杖を向ける。次こそは外すまいと、慎重に狙いを定める。
「らあっ!」
掛け声と共に、俺は奴の十歩ほど前で棍棒を振り下ろす。魔王との戦いや今回で、破壊されかけていたレンガが弾け飛んだ。
「ぐむう! 何を小賢しい真似を……終わりだ、アルダー!」
吹き飛んだレンガや土がヘザーに掛かり、体勢を崩しかけた。だが奴は踏みとどまり、勝利を確信してもう一度杖を向ける。黒い輝きは間違いなく、俺を狙い定めていた。
「……!? な、何」
黒炎は俺の横を掠めて、遠くの民家に命中した。違和感を感じたヘザーは、自らの右腕を見て驚嘆した。
「こやつら! 何故私を!?」
黒炎に纏わりついていた死霊が、ヘザーの右腕を引っ張っている。自身の近くに、消え掛かっていた炎があることに気づかなかった。亡者は消えまいと必死にしがみつく。
「くう! 何をしておるか、魔法が使えぬではないか! 離せ! 離さんか」
「動けないか……ご苦労さん」
「ひ……あ、アルダー」
俺と奴の距離は、もう握手ができるところまで近づいていた。まあ、今からするのは勿論握手ではないけど。
「ま、待て……待つのだ! 私は」
「うおおおー!」
棍棒のひと振りがヘザーの脳天をとらえる。鈍い音が響き渡り、奴は杖を落とした。
「ぎゃああー!」
目が飛び出しそうなほど衝撃を受けている顔を、俺は思いきり左手で殴り飛ばす。何発か殴ると、奴は崩れ落ちた。
「ぐ、ぐぶぶぶ……ま、まららあ……あ」
「ふん! 気絶しやがったか。あっと忘れてた……杖」
杖は無造作に置かれたままだった。棍棒で二、三発叩くと、簡単に砕け散って石になった。前のめりに倒れているヘザーを横目に、俺は何かを忘れているような気がした。
「なかなか良かったわよ~。素晴らしい仲間割れね」
バルゴの銅像から声がする。そうだった、一番肝心な奴が残ったままだ。
「ゲオルート!」
俺は必死に銅像へ走る。ヒロイックストーンを奪われるわけにはいかない。広場の奥から、サクラとミカが走ってきた。思わず安堵の溜息が漏れる。
「アルダー! 僕もしかしてと思ったんだけど……」
「銅像は無事なの!?」
「銅像は無事みたいだ! だが用心してくれ、奴は近くにいる!」
二人はバルゴの銅像の側にいる。これなら、ゲオルートといえどどうにも出来ないはずだ。
「奴……? 誰のこと?」
ミカの問いかけに答えたのは俺ではなかった。
「私のことよ~。お嬢さん達」
今度は背後から声がする。振り返ると、気絶したヘザーの背中に座っているゲオルートがいた。
得意げに笑う奴の右手には、丸い宝石のような石が握られている。
「君は何者なの!? ヘザーは椅子じゃないよ~」
「勇者サクラちゃんね。初めまして……と言うべきかしら? その銅像……後ろに変な張り紙がついているわよ」
ミカが銅像の裏側を除くと、札のような物が貼り付けられている。ゲオルートの言葉を聞いて、俺は顔が青くなっていたと思う。
「何かしら? これ……」
「外して御覧なさいよ。とっても良いものが見れるわ」
札はペリッという音を立てて銅像から引き剥がされた。蜃気楼が消えるかのように、全く違う光景が姿を現わす。
「え、えええ……ど、銅像がー!」
サクラは声を上げて後ずさっている。ミカはただ呆然としていた。銅像は遠目からでも、跡形も無く壊されていたのが分かる。
いつ壊した? いつだ? いや、時間なら幾らでもあっただろう。俺は拳を強く握りしめゲオルートを睨みつけた。
魔女は涼しげな笑みを浮かべ、ヘザーの背中から立ち上がり歩み寄ってくる。丸い宝石は赤く輝き、奴の手の中で眠っていた。
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