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魔王との決着
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フリージアの民家が立ち並んでいた路地裏は、魔王によってぐちゃぐちゃに荒らされてしまっていた。火だるまになってしまった家もあれば、既に瓦礫の山になっている家もある。
勇者サクラ達は魔王を取り囲み、最後の攻撃を仕掛けようとしていた。周囲には銀色の小さな光が浮かび上がり、一気に気温が低下している。
「ふええ~。さ、寒いよ~」
勇者はプルプルと震えだした。魔王はミカの姿を見て鼻で笑っている。
「フン! 何をするかと思えば……貴様の凍結魔法なぞ我には……?」
歩き出そうとした時、彼は自分の足が動かなくなっていることに気がつく。ミカが気づかれないように使用していたフリージングダストが、巨大な足首から下を凍らせていた。
「ほう……しかしこの程度、直ぐに動けるようになるぞ。まさか、これが切り札か?」
「違うわ。私の切り札はこっちよ」
ミカは肩と水平に広げていた両手を、胸の前で交差させた。賢者のカードが彼女の前に浮遊し、眩い輝きを放っている。
「わ、わわわー! なんか沢山ある」
勇者は驚いて周りを見渡している。町のあらゆる所から、十本はあると思われる氷の刃が姿を現した。ミカはあらゆる建物に隠すようにして、フリージングアローをいくつも作り出して待機させていた。
「ほおう。一気に押し切ろうというわけだな。だがこんなもの、我には通じぬのだ!」
無数の氷の刃が一斉に飛びかかる。魔王は全身から、割れんばかりの絶叫と共に炎を吐き出す。猛烈な勢いで吹き出した炎が、貫こうとする刃をみるみる溶かしていった。
「暑いな~。寒いんだか暑いんだか分からねえよ」
レオンハルトは傍らで様子を見ている。屋根の上から眺めているイベリスも同様だった。二人は静観しつつ、直ぐに加勢できるように身構えていた。
無数にあった氷の刃は、ついに最後の一本が溶けきり、ダメージを与えることができなかった。
「ハッハッハ! 小娘、どうやら終わったようだぞ~」
得意気に話しながら氷の足枷を解こうとする魔王を見て、ミカは笑っている。
「まだよ。このくらいじゃ終わらないわ」
彼女の言葉どおり、新たな攻撃が始まった。胸の前で賢者のカードがひらひらと廻っている。今度は魔王を取り囲むように十本のフリージングアローが姿を現していた。
「むう! な、何だと!? これは一体」
言いかけた言葉を待つこともなく、至近距離から無数の刃が突っ込んできた。
「グウワアア! お、おのれー!」
魔王は全身を刃にえぐられ、黄色い汁を流し悶絶している。次の瞬間、身体中から黒い光を放った。魔力の大半を解き放ち、氷の刃を強引に消滅させていく。
「は……はあ……。まさか山彦の特性を持つカードとはな。だが、まだ我の魔力は残っている。これで、お前達に策は無くなった」
魔王は自身を縛りつけている氷の足枷を消滅させた。身体中から汁を垂れ流し、排泄物が溜まったような臭いを漂わせながら、静かに歩みを進める。
ミカは動じていない。様子を見ていたサクラも同じだった。勇者はオーラを放ちながら、今も魔力を貯めている。
「気に食わんな。もう少し絶望した顔が見たかったが……恐怖故に表情まで固まったか……?」
魔王は違和感を感じて足を止めた。彼が踏み込むのを待っていたかのように、十本のフリージングアローが姿を表した。ミカのカードは、今も煌き続けている。
「これで最後よ。……フリージング・パニッシュメント」
「な、お……おい。まさか」
彼女は静かに杖を向ける。宣告を受けた魔王の身体中に、深々と氷の刃が突き刺さった。
「ウグアアー!! グゲ、ウウウ!」
「サクラ! 今よ!」
「う、うん!」
魔王は絶叫している。弾き返すだけの魔力は、今すぐに溜めることはできない。勇者は魔王目掛けて跳んだ。
サクラが高々と振り上げた聖なるつるぎは、溜め込んだ魔力により膨大な光を放っている。長くなった光の刀身は、巨大な魔王でさえやすやすと斬り裂く。
「くらえー!」
大上段から振り下ろした一刀は、魔王の脳天から尻の先まで、全てを一直線に両断した。大きく体の真ん中から裂けてしまい、今にも崩れ落ちる寸前だった。
「ブア……ア……ア」
「させないわ! はああ!」
魔王は体から触手を這い出し、自らを接着させようとしたが、ミカが作り出した氷の壁が中心に割って入った。氷の壁は分厚く巨大で、触手は自らの半身に触れられず彷徨う。
「ここで出番ってわけだな!」
イベリスが飛び、魔王の左半身に猛烈な攻撃を仕掛けた。今までの鬱憤を晴らすかのように、猛烈な乱撃を見舞っている。
「おうよ! たっぷりお返しといこうぜ!」
レオンハルトも同様に魔王の右半身を攻撃する。体を回転させながら魔法剣を発動させ、全てを八つ裂きにしていった。
今が戦いを終わらせる最後のチャンスだった。勇者は右手に渾身の魔力を込め、正面に剣を突き出す。
「これで終わりだよ魔王! ええーい!!」
渾身の力で放った攻撃魔法ライト・ブレイクが、魔王の両半身に命中している。消滅されかけている体を、魔王は必死に保とうと踏ん張っていた。
「ギイヤアア! やめてくで! まだ、死ぃぬわげ」
側で見ていたミカが、そっとサクラの右手に両手を添えた。勇者は彼女を見てうなづく。二人の魔力を合わせたライト・ブレイクは、更に巨大な光となって魔王を包み込む。
「ブワアア!! ……アア……ア……」
勇者の攻撃魔法は、遥か彼方まで飛び去っていき、魔王は跡形も無く消え去っていた。先程までの騒ぎが嘘のように、辺りは急激に静かになっている。
「や……やったー! ミカ、僕らやったよー!」
「痛い! 待ってサクラ! 今身体中痛いんだから! ちょっと!」
サクラは興奮して、側にいたミカに抱きつく。レオンハルトは安堵の溜息をついて座り込む。輝くような笑顔のサクラを見て、ミカは嫌がりながらも笑っていた。
フリージアとルゴサの中間に位置する防衛地点では、俺とヤブランが全力でぶつかり合っていた。奴の放った闇の玉と、俺が投げた龍の槍が押し合っている。
「やるねえ! 流石はドラグーン。だが、この魔法は僕の力だけじゃない」
戦況は圧倒的に俺達が有利になっていた。膨大な数の魔物の群れは、ほとんどが倒されていて、今は無残な死体だらけだ。しかし、今はそれが仇になった。
倒れている魔物達から、奇妙な光が昇り闇の玉に吸い込まれていく。どうやら魔物の死骸から力を吸い取っているらしい。
「ちいい! 最初からこれが狙いか!? こいつらの死体から力を奪って、作った魔法で消すつもりだったのか?」
俺は両手から気を発生させ、少しでも光の槍に力を与えようとする。しかし、何か圧迫するような強烈な力を感じた。間違いなく押し負けている。
「いーや。違うよアルダー君、最初からじゃない。さっき君とやり合っているうちに思いついたのさ。これで本当に終わり……グッドエンドだよ!」
ヤブランは両手から魔力を発し、闇の玉を更に押し込んでくる。目に見えて分かるほど、龍の槍は後退してきた。このままでは俺達の善戦は全て無意味になり、世界が絶望に包まれる。
「終わりじゃない……。終わらせちゃいけない! この地にいるみんなも、人類も、決して滅びさせちゃいけないんだ」
「何でそう思うのか不思議だね。人間なんてクズばっかりじゃないか。何ならアルダー君、君だけは救ってやってもいいよ。というか、今逃げれば大丈夫でしょ?」
俺はニヤニヤと笑っている奴の言葉を聞かなかった。そんな選択肢は無い。龍の槍は、手で掴めるところまで後退していた。
「まだだ! 俺は諦めない!」
俺はもう一度槍を左手で掴んだ。激しく押してくる闇の玉を、どうにかして押し返さなくてはいけない。龍の鎧にあったヒビが深くなっていく。
「お人好しさんだね~。そんなことしても無駄なのに。じゃあ、いよいよ天国への旅立ちかな!」
闇の玉に重なっていて、はっきり姿は見えなくなってしまったが、奴は恐らく全力を出している。今までとは明らかに異なるプレッシャーを感じた。
どうすればいい? 考えろ、考えろ。少しでも動けば、この闇の玉は大地に直撃してしまう。打開策を探しながら、一方ではサクラやミカのことが浮かんだ。みんなの笑顔が浮かんだ。
「アルダーよ……お前だけでも逃げることは可能だぞ。このままで良いのか」
「……変なこと聞くなよコドラン。このままでいい。何とかして、この玉の軌道だけでも……?」
俺は言いかけて妙なことに気がついた。魔物の死骸からは相変わらず黒い光が昇ってくる。しかし同時に、小さな白い光も集まってきていた。
「コドラン、この光は?」
「おお……おお! これはあやつらの魔力だろう」
「へ? ああ、そうか!」
俺は大地を見回していた。魔物はほぼ全滅し、残った冒険者達が戦いを見守っている。そしてみんなが、こちらに手を広げて何かを送っていた。集まってくる光は、自分達に残された魔力に違いなかった。
「ああ、怠いねー。そんなことしても無駄なのにさ~」
「無駄じゃない。絶対に無駄じゃない!」
ヤブランの言葉を否定し、俺は槍を力強く握りしめる。彼らの力が、体に溢れてくるのが分かった。今までもこれからも、俺は助けられて生きていることを実感した。
同時に感謝したい気持ちが溢れ、死にかけた俺の体を力強く鼓舞している。
「まだ限界じゃないんだ。本当はもっと力が出る」
「わお! 死ぬ直前で頭がおかしくなったのかい? アルダー君」
ふと今までの戦いを思い出していた。死にかけた中で生還した時、勇者を助けようと走った時、あらゆる記憶を辿る。必死の経験を思い出した時、やがて俺の体から激しいオーラが湧き上がった。
「お、おいおい。君は……本当にまだ力が?」
「覚悟しろ、ヤブラン」
俺は龍の槍をもう一度振りかぶった。闇の玉が自身に接触して、焼けるような痛みが走る。鎧は半壊しているが、きっと問題ない。
「うおおおー!」
思い切り左手を振り切り、新たな力が加わった龍の槍をもう一度投げる。
ドラグーンの力と、冒険者達の力が追加されたことで、槍は全てを凌駕する奇跡となった。
勇者サクラ達は魔王を取り囲み、最後の攻撃を仕掛けようとしていた。周囲には銀色の小さな光が浮かび上がり、一気に気温が低下している。
「ふええ~。さ、寒いよ~」
勇者はプルプルと震えだした。魔王はミカの姿を見て鼻で笑っている。
「フン! 何をするかと思えば……貴様の凍結魔法なぞ我には……?」
歩き出そうとした時、彼は自分の足が動かなくなっていることに気がつく。ミカが気づかれないように使用していたフリージングダストが、巨大な足首から下を凍らせていた。
「ほう……しかしこの程度、直ぐに動けるようになるぞ。まさか、これが切り札か?」
「違うわ。私の切り札はこっちよ」
ミカは肩と水平に広げていた両手を、胸の前で交差させた。賢者のカードが彼女の前に浮遊し、眩い輝きを放っている。
「わ、わわわー! なんか沢山ある」
勇者は驚いて周りを見渡している。町のあらゆる所から、十本はあると思われる氷の刃が姿を現した。ミカはあらゆる建物に隠すようにして、フリージングアローをいくつも作り出して待機させていた。
「ほおう。一気に押し切ろうというわけだな。だがこんなもの、我には通じぬのだ!」
無数の氷の刃が一斉に飛びかかる。魔王は全身から、割れんばかりの絶叫と共に炎を吐き出す。猛烈な勢いで吹き出した炎が、貫こうとする刃をみるみる溶かしていった。
「暑いな~。寒いんだか暑いんだか分からねえよ」
レオンハルトは傍らで様子を見ている。屋根の上から眺めているイベリスも同様だった。二人は静観しつつ、直ぐに加勢できるように身構えていた。
無数にあった氷の刃は、ついに最後の一本が溶けきり、ダメージを与えることができなかった。
「ハッハッハ! 小娘、どうやら終わったようだぞ~」
得意気に話しながら氷の足枷を解こうとする魔王を見て、ミカは笑っている。
「まだよ。このくらいじゃ終わらないわ」
彼女の言葉どおり、新たな攻撃が始まった。胸の前で賢者のカードがひらひらと廻っている。今度は魔王を取り囲むように十本のフリージングアローが姿を現していた。
「むう! な、何だと!? これは一体」
言いかけた言葉を待つこともなく、至近距離から無数の刃が突っ込んできた。
「グウワアア! お、おのれー!」
魔王は全身を刃にえぐられ、黄色い汁を流し悶絶している。次の瞬間、身体中から黒い光を放った。魔力の大半を解き放ち、氷の刃を強引に消滅させていく。
「は……はあ……。まさか山彦の特性を持つカードとはな。だが、まだ我の魔力は残っている。これで、お前達に策は無くなった」
魔王は自身を縛りつけている氷の足枷を消滅させた。身体中から汁を垂れ流し、排泄物が溜まったような臭いを漂わせながら、静かに歩みを進める。
ミカは動じていない。様子を見ていたサクラも同じだった。勇者はオーラを放ちながら、今も魔力を貯めている。
「気に食わんな。もう少し絶望した顔が見たかったが……恐怖故に表情まで固まったか……?」
魔王は違和感を感じて足を止めた。彼が踏み込むのを待っていたかのように、十本のフリージングアローが姿を表した。ミカのカードは、今も煌き続けている。
「これで最後よ。……フリージング・パニッシュメント」
「な、お……おい。まさか」
彼女は静かに杖を向ける。宣告を受けた魔王の身体中に、深々と氷の刃が突き刺さった。
「ウグアアー!! グゲ、ウウウ!」
「サクラ! 今よ!」
「う、うん!」
魔王は絶叫している。弾き返すだけの魔力は、今すぐに溜めることはできない。勇者は魔王目掛けて跳んだ。
サクラが高々と振り上げた聖なるつるぎは、溜め込んだ魔力により膨大な光を放っている。長くなった光の刀身は、巨大な魔王でさえやすやすと斬り裂く。
「くらえー!」
大上段から振り下ろした一刀は、魔王の脳天から尻の先まで、全てを一直線に両断した。大きく体の真ん中から裂けてしまい、今にも崩れ落ちる寸前だった。
「ブア……ア……ア」
「させないわ! はああ!」
魔王は体から触手を這い出し、自らを接着させようとしたが、ミカが作り出した氷の壁が中心に割って入った。氷の壁は分厚く巨大で、触手は自らの半身に触れられず彷徨う。
「ここで出番ってわけだな!」
イベリスが飛び、魔王の左半身に猛烈な攻撃を仕掛けた。今までの鬱憤を晴らすかのように、猛烈な乱撃を見舞っている。
「おうよ! たっぷりお返しといこうぜ!」
レオンハルトも同様に魔王の右半身を攻撃する。体を回転させながら魔法剣を発動させ、全てを八つ裂きにしていった。
今が戦いを終わらせる最後のチャンスだった。勇者は右手に渾身の魔力を込め、正面に剣を突き出す。
「これで終わりだよ魔王! ええーい!!」
渾身の力で放った攻撃魔法ライト・ブレイクが、魔王の両半身に命中している。消滅されかけている体を、魔王は必死に保とうと踏ん張っていた。
「ギイヤアア! やめてくで! まだ、死ぃぬわげ」
側で見ていたミカが、そっとサクラの右手に両手を添えた。勇者は彼女を見てうなづく。二人の魔力を合わせたライト・ブレイクは、更に巨大な光となって魔王を包み込む。
「ブワアア!! ……アア……ア……」
勇者の攻撃魔法は、遥か彼方まで飛び去っていき、魔王は跡形も無く消え去っていた。先程までの騒ぎが嘘のように、辺りは急激に静かになっている。
「や……やったー! ミカ、僕らやったよー!」
「痛い! 待ってサクラ! 今身体中痛いんだから! ちょっと!」
サクラは興奮して、側にいたミカに抱きつく。レオンハルトは安堵の溜息をついて座り込む。輝くような笑顔のサクラを見て、ミカは嫌がりながらも笑っていた。
フリージアとルゴサの中間に位置する防衛地点では、俺とヤブランが全力でぶつかり合っていた。奴の放った闇の玉と、俺が投げた龍の槍が押し合っている。
「やるねえ! 流石はドラグーン。だが、この魔法は僕の力だけじゃない」
戦況は圧倒的に俺達が有利になっていた。膨大な数の魔物の群れは、ほとんどが倒されていて、今は無残な死体だらけだ。しかし、今はそれが仇になった。
倒れている魔物達から、奇妙な光が昇り闇の玉に吸い込まれていく。どうやら魔物の死骸から力を吸い取っているらしい。
「ちいい! 最初からこれが狙いか!? こいつらの死体から力を奪って、作った魔法で消すつもりだったのか?」
俺は両手から気を発生させ、少しでも光の槍に力を与えようとする。しかし、何か圧迫するような強烈な力を感じた。間違いなく押し負けている。
「いーや。違うよアルダー君、最初からじゃない。さっき君とやり合っているうちに思いついたのさ。これで本当に終わり……グッドエンドだよ!」
ヤブランは両手から魔力を発し、闇の玉を更に押し込んでくる。目に見えて分かるほど、龍の槍は後退してきた。このままでは俺達の善戦は全て無意味になり、世界が絶望に包まれる。
「終わりじゃない……。終わらせちゃいけない! この地にいるみんなも、人類も、決して滅びさせちゃいけないんだ」
「何でそう思うのか不思議だね。人間なんてクズばっかりじゃないか。何ならアルダー君、君だけは救ってやってもいいよ。というか、今逃げれば大丈夫でしょ?」
俺はニヤニヤと笑っている奴の言葉を聞かなかった。そんな選択肢は無い。龍の槍は、手で掴めるところまで後退していた。
「まだだ! 俺は諦めない!」
俺はもう一度槍を左手で掴んだ。激しく押してくる闇の玉を、どうにかして押し返さなくてはいけない。龍の鎧にあったヒビが深くなっていく。
「お人好しさんだね~。そんなことしても無駄なのに。じゃあ、いよいよ天国への旅立ちかな!」
闇の玉に重なっていて、はっきり姿は見えなくなってしまったが、奴は恐らく全力を出している。今までとは明らかに異なるプレッシャーを感じた。
どうすればいい? 考えろ、考えろ。少しでも動けば、この闇の玉は大地に直撃してしまう。打開策を探しながら、一方ではサクラやミカのことが浮かんだ。みんなの笑顔が浮かんだ。
「アルダーよ……お前だけでも逃げることは可能だぞ。このままで良いのか」
「……変なこと聞くなよコドラン。このままでいい。何とかして、この玉の軌道だけでも……?」
俺は言いかけて妙なことに気がついた。魔物の死骸からは相変わらず黒い光が昇ってくる。しかし同時に、小さな白い光も集まってきていた。
「コドラン、この光は?」
「おお……おお! これはあやつらの魔力だろう」
「へ? ああ、そうか!」
俺は大地を見回していた。魔物はほぼ全滅し、残った冒険者達が戦いを見守っている。そしてみんなが、こちらに手を広げて何かを送っていた。集まってくる光は、自分達に残された魔力に違いなかった。
「ああ、怠いねー。そんなことしても無駄なのにさ~」
「無駄じゃない。絶対に無駄じゃない!」
ヤブランの言葉を否定し、俺は槍を力強く握りしめる。彼らの力が、体に溢れてくるのが分かった。今までもこれからも、俺は助けられて生きていることを実感した。
同時に感謝したい気持ちが溢れ、死にかけた俺の体を力強く鼓舞している。
「まだ限界じゃないんだ。本当はもっと力が出る」
「わお! 死ぬ直前で頭がおかしくなったのかい? アルダー君」
ふと今までの戦いを思い出していた。死にかけた中で生還した時、勇者を助けようと走った時、あらゆる記憶を辿る。必死の経験を思い出した時、やがて俺の体から激しいオーラが湧き上がった。
「お、おいおい。君は……本当にまだ力が?」
「覚悟しろ、ヤブラン」
俺は龍の槍をもう一度振りかぶった。闇の玉が自身に接触して、焼けるような痛みが走る。鎧は半壊しているが、きっと問題ない。
「うおおおー!」
思い切り左手を振り切り、新たな力が加わった龍の槍をもう一度投げる。
ドラグーンの力と、冒険者達の力が追加されたことで、槍は全てを凌駕する奇跡となった。
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