勇者パーティを追放されたはずが、なぜか勇者もついてきた

コータ

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戦士の戦い

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 満月に照らされて、持っている剣や槍は一層輝いて見えた。俺は今、海面に隠れているヤブランを探している。

 フリージアとルゴサの前に設置していた防衛地点では、今もなお魔物達が群がっているのが遠間からでも分かった。

「アルダーよ。お前は出会った頃と比較してかなり強くなった。だからドラグーンとなっている時間も、段違いに長くなっている。それでも、もう長くは持たなくなってきておるぞ」

 龍の鎧となったコドランが、ご丁寧に残り時間が少ないことを教えてくれる。防衛地点の冒険者達は消耗しきっていた。危険な状況にあることは間違いない。

 だが俺は、少しも焦った様子を見せなかった。

「分かってるよコドラン。でも、心配しなくても大丈夫だ。アイツは時間切れなんてセコイ勝利は望んでない」
「ほう、その推測の根拠は何だ?」

 そろそろ来る頃だな、と思った。左手に持った槍を前に出すように構え、剣は自身の顔付近に置いている。

「見た目は化け物だが、アイツは戦士だ。やり合えば分かるもんなんだよ……相手の魂が」

 言い終えた瞬間、海面から何かが飛び出した。まるで反応できなかったかのように、遅れて水飛沫が舞い上がる。俺は龍の槍を少しだけ引き、突くように前に出した。

「ほおう! 君はそんなこともできるのか」

 海から上がってきたヤブランは感心している。光の衝撃波が奴に向かって飛び、もう少しで当たるところだったが、ギリギリでかわされてしまう。

「ならば、僕も技を見せるとしよう」

 奴の言葉に構わず、俺は何度か槍を小さく引いては出している。何度も発せられる衝撃波をかわしながら、金色の体毛が輝き始めた。

「お前は一体何なんだ? 本当に魔物か?」

 戦い始めて以来、ヤブランにはずっと疑問を感じている。意味の分からない言動もあるが、特に不明なのは種族だ。

 魔物といっても色々な種類の生き物がいる。死霊やゾンビ、魔獣や虫、人型の悪魔など、数え上げればきりがないほどだ。種族によってできる攻撃や弱点も異なる為、俺達は必死になって奴らを研究する。

 さっきから戦っていて、アイツだけはどんな種族にも分類できなかった。つまり、可能な行動と不可能な行動を判別できない。

「アルダー君。見て分かるだろ? 僕は魔物だよ。今はね!」

 ヤブランは真っ直ぐに飛び込んでくる。小石程度の大きさに見えるくらい離れていたのに、もう視界全体を覆うまでに接近していた。

「何を考えているんだ? お前は」

 予想よりは早かったが、衝撃波は奴にまともに命中した。普通の魔物なら粉々になって吹き飛ぶ攻撃を、ヤブランは喰らいつつも踏ん張り、やがて衝撃波を突き破る。

「ハハハハ! 今度は君、終わりかもよ」
「あ? ……が! ……」

 奴が衝撃波を突き破ったと分かったとき、俺は飛ばされていた。一瞬だけ奴の頭部が見えたことを考えると、頭突きを受けたのだろう。

「ギャウウウゥー!」

 魔物達の悲鳴が聞こえる。よく分からないが、俺は魔物の群れを貫きながら何処かに飛ばされているようだ。恐らく防衛地点付近であろう山を大きく砕いたところで、やっと勢いは止まった。

「痛ててて! 何て奴だ。……ん?」

 ヤブランは浜辺に降り立ち、身体中から魔力を放出している。そして両手を水平に広げると、黒く大きな槍のようなものを何本も空中に作り出す。恐らく十本以上はあるだろう。

「君にコイツを防げるかな~?」

 奴が両手を胸の前に突き出すと、空中に待機していた黒い槍が、全てこちらに解き放たれる。まるでミカのフリージングアローを黒く染めたような魔法だった。

「? おいおい! ヤブラン、お前何やってんだ!?」
「ブウワアア!!」

 ありとあらゆる魔物達の悲鳴が、防衛地点でひたすら飛び交っていた。ヤブランの放った無数の黒い槍は、俺に向かう前に沢山の魔物を貫通し続けている。浜辺から防衛地点までの道は、魔物のべっとりとした血で染め上げられていた。

「綺麗な道ができているね。ブラッドロードとでも言おうか! 美しいね~」

 ヤブランはまた金色の体毛を光らせている。どうやらあの攻撃には溜める時間がいるようだ。俺は奴の黒い槍をかわしつつ、全力で飛び立った。

「悪趣味な奴だな! 仲間を殺して楽しいか?」

 大上段から振り下ろす剣を、奴は紙一重でかわす。

「僕の仲間じゃないさ。あのオッサンの部下だよ。アルダー君、後ろ」
「何? うお!?」

 俺は後ろから猛烈な勢いで迫ってくる黒い槍をかわし、上空に飛んだ。一本だけではない。黒い槍は魔物達を貫きながらも未だコントロールを失わず、こちらを追いかけてくる。

 上空で無数の槍をかわし続けていると、今自分がどうなっているのか、ヤブランがどう動いているのかが分からなくなってくる。

「アイツに像を破壊させ、ヒロイックストーンは僕らがもらう。そう決めたんだよ。これからは、僕らが支配者なんだ!」

 不意に後ろから声がする。振り向く暇もなく俺は頭を殴りつけられ、地面に急降下していく。

「ぐうう! お前……」

 黒い槍はしつこく、あらゆる角度から未だに追いかけ続けてくる。気がつけば、ヤブランは目の前にいた。

「あのオッサンはここでお役ごめんさ! 利用するだけ利用して捨てる。最初からそのつもりだった!」

 今度は奴の左足での蹴りが胴体に決まった。龍の鎧に亀裂が入ったことが分かる。蹴りによって体に回転をかけられてしまったようだ。無数の黒い槍が腕をかすめ、肩や顔、足を斬っていく。

 俺は奴の魔法の集中砲火を喰らい、ついに鎧が持たないところまで来ていた。身体中から出血してしまい、死が音を立てて迫っている。

「がはっ……」
「さあ、アルダー君……さようならだ!」

 上から現れた奴は、鋭利な爪を振り上げた。これで終わらせるつもりだ。

 俺の首めがけて渾身の一撃を喰らわせようとしている奴に、一言だけ素っ気なく言った。

「ヤブラン君、後ろ」
「……はあ? うおっ!」

 奴は大きな声を出して身をのけぞらせている。俺を斬り裂いた黒い槍は、今度はヤブランに命中していた。

「僕の魔法が、ぬうう!」

 俺はただ奴の魔法を受けていたわけでは無かった。自分の体で黒い槍の方向を変え、当たるポイントにヤブランが来るように誘っていた。

 十本以上連動させている魔法なら、一度コントロールを狂わせるだけで、今度は術者本人に痛手を与えることができる。ドラグーン解除までの時間を考えての、一か八かの賭けだった。

 今度は金色の体毛が、無数の黒い槍に引き裂かれていく。

「だはああ! こ、これは……やるじゃないかアルダー!」
「これでとどめだ! ヤブラン」

 俺は今もって黒い槍に手こずっているヤブランを尻目に、龍の槍に魔力を溜めはじめた。この地にいるあらゆる存在のエネルギーを集め、ゆっくりと奴めがけて振りかぶる。

「舐めるんじゃない……こんな手で僕から勝利は掴めない」

 ヤブランはやっと黒い槍のコントロールを取り戻すと、全ての槍を分解して右手に集めている。右掌の上に禍々しい気が充満してき、やがて一つの巨大な玉を作り上げた。

 膨大な数に及ぶ魔物の死骸から、小さな黒い光が浮かび上がり、ヤブランの玉に吸い込まれていく。

「アルダーよ! 奴の作り上げているものは危険だぞ。恐らく、この島一つなら簡単に消し飛ぶ」
「……大丈夫だよコドラン。あの闇の玉ごと、アイツを消滅させてみせる」

 ヤブランは俺の声を聞いて笑った。見るからにダメージを受けているというのに、今も楽しそうにしているのが不思議だ。

「会えて良かったよ! やっぱり君はホークスに似ているね。さあ、天国行きのチケットだよ!」

 奴は巨大な闇の玉を、思い切り投げつけた。まるで空間が捻れるような奇妙な感覚を覚える。

「楽しかったぜヤブラン。お礼に地獄行きのチケットをやる!」

 俺は振りかぶっていた槍を、力一杯投げつけた。お互いの全力が、吸い込まれるようにぶつかり合う。闇の玉と光の槍は、俺達全ての命運を乗せて鍔迫り合いを続けていた。

 鎧が限界に近づいている。最後の力を振り絞り、俺は残った力を槍に注ぎ始めた。
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