勇者パーティを追放されたはずが、なぜか勇者もついてきた

コータ

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勇者が王様になった

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 俺達がフリージアに帰る日は、また1日延期となってしまった。王様からのご褒美というのは、今日もらえるらしいのだが。

 雲一つない青空を眺めながら、ちょっとだけウトウトしていると、気に食わないとばかりにコドランが小言を言ってくる。

「アルダーよ。こんな所で眠っている場合ではないのだぞ。お前にはしなくてはならぬことは山ほどあるはず」
「ん~。まあたまにはこうやってのんびりするのも良いじゃないか。しかし気持ちいいなあ。これは便利だ」
「早く地上に降りろ! とっととフリージアに戻らんか」

 普通なら、空を眺めながら寝っ転がるのは草原の上だ。だが俺は今、雲の上で浮かびながら寝っ転がっていた。龍の鎧を装備していると空を飛べるから、一度試してみたいと思っていたんだ。ポカポカして、ヤバイくらい気持ちいい。

「そう固いこと言うなよ~。なあコドラン。サクラから勇者のオーラっていうのが出ていたらしいんだが、お前なんか知ってるか?」
「何!? 勇者のオーラが発現したというのか! ……大したものだ」
「お! 知ってるんだ。一体どんなものなんだ?」
「オーラというのは、魔法でもカード特性でもない、隠し能力のようなものだ。勇者の場合は段階的に変わってくるが、まず最初は死霊やゾンビといった存在に効果を発揮する。奴らがオーラに触れると、消滅させることができるのだ」

 俺は聞いているうちに眠気が覚めた。

「それは凄いな! 勇者以外でもオーラを持っている人はいるのか?」
「オーラを発現できる存在は4種類しかない。更には効果もそれぞれ違う。ドラグーン、勇者、賢者、魔王だ。ドラグーンで戦う際、身体中から光が出ているだろう? あれがオーラだ」

 俺は少し驚いて起き上がり、地上を見ながらコドランに問う。

「魔王もオーラを持ってるのか? ちなみに俺のオーラ能力はどんなものだ?」
「持っている。魔王は時代や形態によって、纏うオーラは様々だ。お前の能力は、あらゆる防御やオーラを貫通する能力で、よりドラグーンの攻撃力を引き立たせることができる。これはホークスにはできなかったことだぞ」

 そんな隠し要素みたいなものがあったのか。カードを所持していても発現できない場合があるなんて。

「アルダーよ。勇者が迎えにきたようだ」
「ん? もう来たのか」

 俺は雲を抜けて地上に降りて行った。こうやって高い所から見ると、全てがちっぽけに見えてしまうから不思議だ。城門近くでサクラがこっちに手を振っている。

「おはよう! そろそろか?」
「アルダー! ドラグーンになってたんだ。もうみんな集まってるよ~」



 ここに来たのは何度目だろう。普通の姿に戻った俺と仲間達は、王の間にいる。ただ前回までと違うのは、一番前にいるのが俺で、後ろにいるのがミカとレオンハルト、ランティスだけということだ。意味深な笑顔を見せつつ、なぜかサクラは何処かに行ってしまった。

「アルダーに仲間達よ。朝早くから来てもらってすまぬ。昨日はよく眠れたか?」
「お気遣いありがとうございます。昨日はとてもよく眠ることができました。勇者がワガママを言って申し訳ありません。どうかお許しを」

 王様は俺の言葉を聞くと微笑を浮かべた。良かった、怒ってはいないらしい。

「いやいや! 褒美を約束しておったのじゃから、当然のこと。お、そろそろ来たようじゃぞ」

 王の間の大きく煌びやかな扉が開く。俺たちは後ろを振り向き、みんながあっと声を出しそうになった。サクラが兵士達に左右を守られつつ、王様の前まで歩いて行った。

「うーむ! 似合っておるぞ勇者サクラよ。ワシより似合っているかも」
「いえいえ、王様ほどではありません。僕、とってもお金持ちになった気分です!」

 なんとサクラは、王様とほぼ同じ服装になっていた。違いがあるとすれば、王冠を頭に乗せていないことだけだろう。

「さて、それでは被ってみよ」
「はいー!」

 王様から渡された冠を、勇者は勢いよく被った。でもサイズが合わなかったらしい、見て分かるくらいブカブカだ。

「ちょっとワシの王冠は合わなかったようだが、1日だけならいいじゃろ。ではワシは休ませてもらう。後は大臣の話を聞いておれば大丈夫」
「はい! ありがとうございますー!」

 王様は兵士数名を連れて出て行った。それにしても、これはどういうことだ。俺はビックリして口が開いたままだった。

「イェーイ! あ、そうだ。みんな立っていいよ。喋っても大丈夫」

 真っ先に話しかけたのはミカだった。

「サクラ! 一体どうしたの? どうしてあなたが王冠を?」
「エヘヘ! 実はね、僕に1日だけ王様をやらせてくれるんだって~。こんな経験二度とできないからね。速攻でOKしちゃったよ」

 レオンハルトとランティスも、相当驚いている様子だ。

「おいおい。1日王様をさせてもらえるなんて聞いたことないぜ。もしかして、俺達もやらせてくれるのか?」
「ええ? 僕達もできちゃうんですか! す、凄い」

 サクラはちょっと申し訳なさそうな顔をしている。

「ごめーん。王様をさせてくれるのは僕だけなんだって! でもみんなは、今夜の王宮のパーティには特別に招待してくれるって! ご馳走食べ放題だよ、やったね」

 昨日話していたのはそういうことだったのか。こんなご褒美をもらえる冒険者なんて初めて聞いた。俺としては、さっさと帰れたほうがありがたいのだが。

「長く冒険者をやってるが、前代未聞だな。王様は余程勇者を気に入ったらしい。じゃあ俺達は夜にまた来るからな。みんな、行こうぜ」

 レオンハルトは軽い足取りで王の間から出て行き、ランティスも続いた。

「サクラ、恥ずかしくない振る舞いをするのよ。分からないことがあったら大臣さんに聞いて」
「うん! 任せといて」

 ミカが扉から出て行き、俺が続こうとした時後ろから声がした。

「あ! 待って、アルダーはここに残るの」
「え? な……何で?」

 俺だけここに残る? 何だろう。凄く嫌な予感がする。

「アルダーは大臣と一緒に、1日僕の側近をするのだ! 大臣さん、アルダーをよろしくね」

 黒ひげを生やした、威厳のあるおじさんが深々と頭を下げる。

「お任せください王様。私がしっかりと補助をさせていただきますとも。アルダー殿もご安心を」
「そうかー。俺がサクラの側近か。……え? ええー!?」

 俺の声は多分城内まで響き渡った気がする。やっぱり巻き込まれるのか!




 想像していたより、エグランテリアの王様の1日は忙しいようだ。まずは軽く朝食をとり、俺と大臣はサクラを教会に連れて行く。神父様のありがたい話の最中に、俺は何度も寝落ちするサクラを起こし続ける。

「王様……王様~!」
「ふみゃ? は、はい~。誓います」
「何をだよ」

 次は会議とやらに出席させた。おっさん達の話でまたサクラは寝てしまうが、俺が聞いている限りあまり重要な内容とは思えなかったので、別に問題は無さそうだ。

 その後は挨拶に来た貴族とか、諸々のお偉いさんと謁見をした。元々の王様が相手をしなくて良いのかと不安になったが、大臣が前もって説明をしてくれたらしい。むしろ勇者だと知ったらみんな喜んでいた。

「ねえアルダー。王様って、けっこうすることが多いんだね」
「そうだなあ。俺はサクラを起こすことで必死だったから、特に忙しかったよ」

 お昼をしばらく過ぎてから、やっと空き時間ができた。勇者は王様の椅子にちょこんと座って、隣にいる俺を見上げている。

「でもね。楽しいのはここからなんだよ!」
「え? これから何かあるのか?」
「エヘヘ~。すぐ分かるよ」

 王の間が開き、一人の兵士がやって来て俺達にひざまずく。

「勇者王! 準備が整いました」
「うむ! ではまいろう。アルダー行くよ!」

 勇者はすっかり王様気分だ。沢山の兵士を引き連れ、城を抜け城門まで出たところで、俺は驚きのあまり固まってしまった。広場にはびっしりと町民が集まり、サクラが来るのを待っていたのだ。

「うわ! これは凄いな」
「う、うん!本当だね。こんなに来てくれるなんて思わなかった。みんなー! 来てくれてありがとうー!」

 サクラが手を振ると、広場を埋めつくさんばかりの民衆が歓声を上げる。一体どうしたと言うのか。

「町は暗い報告ばかり続いておりましたから、王様は何かできないかと考えていらっしゃいました。そこで閃いたのが、1日国王となった勇者殿が、みんなを元気づけるパレードをしようというものです。勇者様は快く承諾してくれましたので、準備は半日とかかりませんでしたよ」
「は……はあ……」

 兵士が俺達の側に走り寄り、静かにひざまづいた。

「勇者王! 準備が整いました。こちらへお願い致します」
「はーい!」

 連れられて行った先には馬車があり、周りを囲むように護衛の兵士がいる。他には楽器を持った兵士と吟遊詩人がいた。馬車は全体的に金を素材としていて、更にあらゆる箇所に宝石が散りばめられている。先頭には、黒くて髪の長い立派な馬が二頭いた。

「こ、これは……。パレード用の馬車ってやつか?」
「すご~い! 金ピカ馬車! 僕ワクワクしてきたよ」

 馬車はゆっくりと歩き出し、俺達は沢山の民衆にみられつつ町を進む。彼らは皆大きな声を上げ、さまざまな大きさの旗を降っていた。旗には勇者や俺の顔が書いてあって、ちょっと恥ずかしい。

「始まったね。僕も頑張らなきゃ! 君もみんなに手を振って。こんな感じ!」
「あ、ああ」
「あはは! アルダー変な顔になってるよ。面白~い」

 勇者は輝くような笑顔で手を振っている。俺は一応笑いながら声援に応えているつもりだが、サクラが言うにはできていないらしい。どうも苦手なんだよな、こういうの。町の中央通りを進むと、更に人は増えていく。

「どんどん人が増えていくなあ。うお……あれは……」

 俺は中央通りに、いつもは無い屋台が並んでいることに気がついた。あらゆる食べ物が並んでいるが、子供のおもちゃのような物も売っているようだ。

「大臣さん、あの仮面のような物は何ですか?」
「ああ、あれですか。手作りのお面ですよ。実は簡単に作れるのです」

 勇者の顔をしたお面や、人形のような物が売られている。それにしても、みんな凄い勢いで買っているみたいだ。

「みんなどんどん物を買っているみたいだな」
「うん! 僕達愛されてるね! 感激だよ~」

 大臣がホクホク顔になっている。

「いや~お二人には感謝しておりますぞ。今日はこのパレードだけで、どれほど儲かることか」

 儲かる? それって、もしかして……。

「もしかしてこのパレードって、有料なんですか?」
「はい。ほんのちょっとだけ……ね! それと旗だったり屋台だったり、色々と。いや~たまりませんなあ。実はね、ここ数年パレードしても、そんなに儲からなかったんですよ。マンネリというか」
「はあ……」

 これみるのにお金取ってるのか! みんなが振ってる旗も、屋台も全部金を取ってるということは、一体どれだけ儲けてるんだ?

 そうか。だからお王様は勇者を1日代理にしたのか! 確かに毎年王様が出てきても、有料だったら来なくなるよな。あんなおっとりした風貌で、油断できない人だ。

 まあ、強制参加させたり税金を上げる王様よりはずっとマシだろう。

「アルダー! もうすぐパレードも終わりらしいよ。楽しかったね!」
「うん……そうだな」
「でもね! 楽しいのはこれからだよ。これから僕達は、王様のたしなみをしに行くんだから」

 王様のたしなみ? 何の話か分からなかったが、俺はとりあえずついて行くしかなかった。
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