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勇者が突然帰ると言い出した
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イベリス盗賊団との戦いから1日が過ぎた。
町は盗賊団に破壊された施設の修理や、捕まった奴らの対応などで朝から騒がしい。俺はと言うと、疲れたのでお昼まで寝る予定だった。
だが、予定は完全に狂わされてしまったのである。いつも元気いっぱいの女勇者によって。
「アルダー! アルダー、起きて! そろそろ行くよ」
「……もう食えないよ。う、うん?」
「何も食べてないじゃん! 早く起きなよー。もうお迎えが来るよお」
夢の中にいた俺は、サクラの声で目を覚ました。ベットの上で目が合う。
「おはよう。なんだ? どっか行くのか?」
「うん! 僕ちょっと里帰りしたくなっちゃった。だからアルダーも行こ!」
「ああ、里帰りか。良いんじゃねえの……って、え! 里帰り!?」
「きゃあー」
俺はビックリして飛び起きた。彼女は俺の勢いでベットの外まで飛んでいる。
「もう! 痛いよアルダー。もうちょっとでお迎えの人が馬車で来るんだよ。早く支度支度~」
「支度支度って……どうやって帰るつもりなんだよ? 馬車なんていつ用意したんだ?」
「へへーん! 実はね、昨日町長に言ったら馬車の送迎と、船のチケットまでくれたんだよ! ルゴサまでは馬車で行って、そこから豪華客船で2日くらいかな。これも僕の活躍のおかげだね」
俺は空いた口が塞がらない。サクラのやつ、町長にそんなことを頼んでいやがったのか。彼から見たら、孫にお願いされたようなものなんだろう。
「ま、まあサクラが里帰りしたいのも分かったし、経路も把握したけど。なんで俺が行くの?」
「うんうん! あのね、僕のお父さんとお母さんに、アルダーを紹介したいなって思ったの」
「紹介? ……なんで?」
「り、理由は分かりきってるでしょ! 僕の相棒だからだよ! もうお迎えの人来ちゃうよ。早くー」
なんだよ、相棒って……。今日は用事があるんだし、少し不安だがサクラには一人で行ってもらおう。
「あのさ。実は俺今日、ミカと……」
「あ!! キタキタ! 馬車が走ってきたよ」
窓の奥を見ると、見たこともないような立派な布と器材で作られた馬車がやってきた。白髭を蓄えた執事のような人が手綱を握っている。
「お待たせ致しました。勇者サクラ様ですかな?」
「はいそうでーす! こっちがアルダーです。いつでも行けるよ」
「いや、ちょっと待った! 俺は行けない!」
「え!? な、なんで?」
「今日は用事があるし、明日は図書館の仕事もある。サクラ、悪いが一人で帰ってくれ」
サクラはビックリした顔で固まった後、子供のように駄々をこね始めた。
こうなると長いんだよな、勇者は。
「ヤダヤダー! どうしてそんな約束してるの? 図書館だって1日くらい何とかなるよ。行こうよアルダー。早くー!」
「ダメだ勇者。いいか、大人の世界って言うのは厳しいんだぞ。俺は行かない。いいか、俺はずぇったいに行かないからな!!」
「見て見てアルダー、もうすぐ町門だよ! やっぱり馬車だとすぐだね。豪華客船ってどんなのだろ? 僕すっごく楽しみだよ」
「……ああ。俺にも見えてるよ。そうだな~……きっと乗り心地いいんじゃないか」
俺は勇者の泣き顔に負けた。結局馬車の荷台に俺は乗ってしまっている。ミカにも図書館にも、一応連絡しなきゃと思っていると、見覚えのある声がした。
「アルダーにサクラじゃない! どうして馬車に乗っているの!?」
「あ! ミカ、ごめん! ちょっと止めてくれ」
「ミカおはよー! 僕少しの間里帰りするんだ。しばらく両親に会ってなかったから」
「ちょ、ちょっと待ってよ! アルダーは今日、私と遊びに行く約束だったじゃない!」
この状況はまずい! 良いタイミングだ。ここで降りることにしよう。
「そ、そうだよな。サクラ、今更だけど……先に約束していたのはミカとだし。俺やっぱり降り……」
「ダメだよ今更! とにかく僕とアルダーの旅行は決まったの。アルダーはちょっとの間図書館も休むから、ミカ伝えておいて!」
「こ、この自己中勇者! 何を勝手なことを言っているのよ! アルダー……分かっているでしょ? 早く降りて」
怖え。ミカを怒らせるのはもうコリゴリだ。
「うむ……そういうことだから。サクラは有意義な里帰りを楽しんでくれ」
「ダメだよ。ダーメ! アルダーは馬車から降ろさないから。おじさーん、出発してください!」
サクラが俺の腕を掴んで離さない。これでは動けないぞ。
「今回は大事なことがあるんだから。僕は両親にアルダーを紹介するの! だからミカの用事は今度にして!」
ミカの目の色が変わった。
「両親に紹介!? それって……。あなた……どうしても譲らないつもり?」
「譲りません。僕は絶対に」
「ふーん。分かったわ」
言うなりミカは、馬車の中に颯爽と乗り込んだ。
「ちょ、ちょっとー! どうしてミカが乗ってくるの?」
「私ね、実は前からエグランテリアには行ってみたいと思っていたのよ。船は少しくらい乗員が増えても大丈夫でしょう? 私も同行させてもらうわ」
「ええー!? ダメだよ! そんなの絶対にダメ! ミカには降りてもらうから。絶対……ずぇったいに降りてもらうからね!」
「凄いわ。私こんなに大きな馬車に乗るの初めて。揺れも少ないし快適ね!」
「……ああ。確かに快適だよな。俺もここまで良いのは初めてだ。帰って来た時はオンボロの馬車だったし」
「ぐぬぬぬぬ……どうしてミカまで、僕の里帰りについてくるのさ~」
結局ミカを乗せて馬車は走り出し、今はルゴサの町に向かっている。豪華客船とやらには、夕方には乗ることになりそうだ。
「おや? あれは……」
執事のようなおじさんが、何か見つけたようだ。遠くから二人の冒険者が、馬に乗って近づいてくる。
「旦那! こっちの道は魔物のせいで通れなくなっちまってるよ。迂回したほうがいいぜ。よければ、俺達が案内しようか?」
「僕達この辺りを警備していたんです。魔物が多くなって来ているので、おじさんだけでは危険ですよ」
この声は間違いない。レオンハルトとランティスだった。今日はやたらと偶然が重なる。
「二人とも、もう働いているのか?」
「おや~? アルダーじゃねえか。お前さん、一体何処に行こうってんだ?」
「二人ともお疲れ! 実はね、僕の里帰りに付き合ってもらうの」
「へえ~! お嬢ちゃんも実家が恋しくなったか。まあいいや、警護ついでに聞かせてくれよ」
森林を抜けて平地に出て、しばらく進んだところでやっとルゴサの町が見えた。やっぱり馬車だとあっという間だ。
「おじさん、送ってくれてありがとう! 町長さんの紹介だけあって、すっごく快適だったよ」
「どう致しまして。それでは、楽しい船旅を」
執事のようなおじさんの馬車が遠ざかって行くが、レオンハルトとランティスは残ったままだ。
「あれ? 帰りは護衛をつけないのか?」
「はい。護衛はつけますよ。でもにいちゃんが……」
「ああ。実は他の仲間に、おっちゃんの護衛を頼んでおいた。良かったらなんだけどよ、俺達もエグランテリアに行っていいか?」
「「え!?」」
サクラとミカの声が重なった。イベリスにも勝てたそうだし、意外と二人は息が合うようだ。
「実はなあ。前からエグランテリアのギルドはのぞきに行きたかったんだ。それによ。最近遊んでなかったから、観光もしたいし……近くの浜では、ほら! 海水浴をしてるらしいじゃねえか」
「にいちゃんは海水浴のお姉さんを見るのが目的でしょ? 全く不潔です」
「ちょっと違えよ! 海水浴のお姉ちゃん達と遊ぶのが目的だ! ガッハッハ」
海水浴のお姉さん達は、正直に言うと俺も見たい。
「俺は良いと思う。せっかくの機会だし、みんなで行こうか!」
「うーん。ま、いっか。じゃあみんな、僕についてきて! 船はこっちだよ!」
俺達はサクラに先導され、豪華客船に向かった。しかし彼女は方向音痴の為、結局俺が苦労して船着場を見つけることになる。一体どうなるんだ、これから。
アルダー達が、フリージアを離れエグランテリアに向かっている頃、グラジオラス大陸の城に邪悪な気配が漂っていた。以前ヘザー達が来た時、誰も座っていなかった王座に何者かがいる。
王の間には、見渡す限りの魔物がひしめき、みなひざまずいていた。
「ヤブラン。報告ご苦労だった」
「ありがたきお言葉。全ては魔王様の計画どおりに進んでおります」
「うむ……エリオネルはいるか?」
彼の言葉を聞いて、黒い影が姿を現わす。ヤブランは笑った。
「ハハハハ! ドラグーンにやられたんじゃなかったの? 君、逃げ帰って来たんだろ? カッコ悪」
「……死んだふりをしてやり過ごしました。奇跡的な生還でしたよ。ああいうお優しい人は、必要以上に追い打ちをしないんですよ」
「エリオネルよ。お前の作戦は失敗したようだな」
目の前の存在に恐れてか、エリオネルは深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。人間どもを同士討ちさせようなどという考えが愚かでした」
「分かっておればよい。だが、次は許さぬぞお~。お前の今までの功績に免じて見逃そう。して、あと一人足りんな。アイツはどうした?」
ヤブランが顎に手をあて、少し考え込んだ。
「もしかしたら、勇者達に会いに行ってるのかもしれません。好戦的ですからね」
「ふん! 勝手な真似をしおるわ。まあ良い。我が野望が叶い、世界全てを手に入れる日は近い。必ず計画どおりに動くのだぞ。良いな?」
エリオネルは平伏して答える。ヤブランはニッコリと笑った。
「勿論です。僕は昔から、魔王様の命令には絶対に服従ですから」
魔王は大きな体を揺らして笑う。
彼の大きな声は城中はおろか、まるで大陸全体に聞こえているようだった。
町は盗賊団に破壊された施設の修理や、捕まった奴らの対応などで朝から騒がしい。俺はと言うと、疲れたのでお昼まで寝る予定だった。
だが、予定は完全に狂わされてしまったのである。いつも元気いっぱいの女勇者によって。
「アルダー! アルダー、起きて! そろそろ行くよ」
「……もう食えないよ。う、うん?」
「何も食べてないじゃん! 早く起きなよー。もうお迎えが来るよお」
夢の中にいた俺は、サクラの声で目を覚ました。ベットの上で目が合う。
「おはよう。なんだ? どっか行くのか?」
「うん! 僕ちょっと里帰りしたくなっちゃった。だからアルダーも行こ!」
「ああ、里帰りか。良いんじゃねえの……って、え! 里帰り!?」
「きゃあー」
俺はビックリして飛び起きた。彼女は俺の勢いでベットの外まで飛んでいる。
「もう! 痛いよアルダー。もうちょっとでお迎えの人が馬車で来るんだよ。早く支度支度~」
「支度支度って……どうやって帰るつもりなんだよ? 馬車なんていつ用意したんだ?」
「へへーん! 実はね、昨日町長に言ったら馬車の送迎と、船のチケットまでくれたんだよ! ルゴサまでは馬車で行って、そこから豪華客船で2日くらいかな。これも僕の活躍のおかげだね」
俺は空いた口が塞がらない。サクラのやつ、町長にそんなことを頼んでいやがったのか。彼から見たら、孫にお願いされたようなものなんだろう。
「ま、まあサクラが里帰りしたいのも分かったし、経路も把握したけど。なんで俺が行くの?」
「うんうん! あのね、僕のお父さんとお母さんに、アルダーを紹介したいなって思ったの」
「紹介? ……なんで?」
「り、理由は分かりきってるでしょ! 僕の相棒だからだよ! もうお迎えの人来ちゃうよ。早くー」
なんだよ、相棒って……。今日は用事があるんだし、少し不安だがサクラには一人で行ってもらおう。
「あのさ。実は俺今日、ミカと……」
「あ!! キタキタ! 馬車が走ってきたよ」
窓の奥を見ると、見たこともないような立派な布と器材で作られた馬車がやってきた。白髭を蓄えた執事のような人が手綱を握っている。
「お待たせ致しました。勇者サクラ様ですかな?」
「はいそうでーす! こっちがアルダーです。いつでも行けるよ」
「いや、ちょっと待った! 俺は行けない!」
「え!? な、なんで?」
「今日は用事があるし、明日は図書館の仕事もある。サクラ、悪いが一人で帰ってくれ」
サクラはビックリした顔で固まった後、子供のように駄々をこね始めた。
こうなると長いんだよな、勇者は。
「ヤダヤダー! どうしてそんな約束してるの? 図書館だって1日くらい何とかなるよ。行こうよアルダー。早くー!」
「ダメだ勇者。いいか、大人の世界って言うのは厳しいんだぞ。俺は行かない。いいか、俺はずぇったいに行かないからな!!」
「見て見てアルダー、もうすぐ町門だよ! やっぱり馬車だとすぐだね。豪華客船ってどんなのだろ? 僕すっごく楽しみだよ」
「……ああ。俺にも見えてるよ。そうだな~……きっと乗り心地いいんじゃないか」
俺は勇者の泣き顔に負けた。結局馬車の荷台に俺は乗ってしまっている。ミカにも図書館にも、一応連絡しなきゃと思っていると、見覚えのある声がした。
「アルダーにサクラじゃない! どうして馬車に乗っているの!?」
「あ! ミカ、ごめん! ちょっと止めてくれ」
「ミカおはよー! 僕少しの間里帰りするんだ。しばらく両親に会ってなかったから」
「ちょ、ちょっと待ってよ! アルダーは今日、私と遊びに行く約束だったじゃない!」
この状況はまずい! 良いタイミングだ。ここで降りることにしよう。
「そ、そうだよな。サクラ、今更だけど……先に約束していたのはミカとだし。俺やっぱり降り……」
「ダメだよ今更! とにかく僕とアルダーの旅行は決まったの。アルダーはちょっとの間図書館も休むから、ミカ伝えておいて!」
「こ、この自己中勇者! 何を勝手なことを言っているのよ! アルダー……分かっているでしょ? 早く降りて」
怖え。ミカを怒らせるのはもうコリゴリだ。
「うむ……そういうことだから。サクラは有意義な里帰りを楽しんでくれ」
「ダメだよ。ダーメ! アルダーは馬車から降ろさないから。おじさーん、出発してください!」
サクラが俺の腕を掴んで離さない。これでは動けないぞ。
「今回は大事なことがあるんだから。僕は両親にアルダーを紹介するの! だからミカの用事は今度にして!」
ミカの目の色が変わった。
「両親に紹介!? それって……。あなた……どうしても譲らないつもり?」
「譲りません。僕は絶対に」
「ふーん。分かったわ」
言うなりミカは、馬車の中に颯爽と乗り込んだ。
「ちょ、ちょっとー! どうしてミカが乗ってくるの?」
「私ね、実は前からエグランテリアには行ってみたいと思っていたのよ。船は少しくらい乗員が増えても大丈夫でしょう? 私も同行させてもらうわ」
「ええー!? ダメだよ! そんなの絶対にダメ! ミカには降りてもらうから。絶対……ずぇったいに降りてもらうからね!」
「凄いわ。私こんなに大きな馬車に乗るの初めて。揺れも少ないし快適ね!」
「……ああ。確かに快適だよな。俺もここまで良いのは初めてだ。帰って来た時はオンボロの馬車だったし」
「ぐぬぬぬぬ……どうしてミカまで、僕の里帰りについてくるのさ~」
結局ミカを乗せて馬車は走り出し、今はルゴサの町に向かっている。豪華客船とやらには、夕方には乗ることになりそうだ。
「おや? あれは……」
執事のようなおじさんが、何か見つけたようだ。遠くから二人の冒険者が、馬に乗って近づいてくる。
「旦那! こっちの道は魔物のせいで通れなくなっちまってるよ。迂回したほうがいいぜ。よければ、俺達が案内しようか?」
「僕達この辺りを警備していたんです。魔物が多くなって来ているので、おじさんだけでは危険ですよ」
この声は間違いない。レオンハルトとランティスだった。今日はやたらと偶然が重なる。
「二人とも、もう働いているのか?」
「おや~? アルダーじゃねえか。お前さん、一体何処に行こうってんだ?」
「二人ともお疲れ! 実はね、僕の里帰りに付き合ってもらうの」
「へえ~! お嬢ちゃんも実家が恋しくなったか。まあいいや、警護ついでに聞かせてくれよ」
森林を抜けて平地に出て、しばらく進んだところでやっとルゴサの町が見えた。やっぱり馬車だとあっという間だ。
「おじさん、送ってくれてありがとう! 町長さんの紹介だけあって、すっごく快適だったよ」
「どう致しまして。それでは、楽しい船旅を」
執事のようなおじさんの馬車が遠ざかって行くが、レオンハルトとランティスは残ったままだ。
「あれ? 帰りは護衛をつけないのか?」
「はい。護衛はつけますよ。でもにいちゃんが……」
「ああ。実は他の仲間に、おっちゃんの護衛を頼んでおいた。良かったらなんだけどよ、俺達もエグランテリアに行っていいか?」
「「え!?」」
サクラとミカの声が重なった。イベリスにも勝てたそうだし、意外と二人は息が合うようだ。
「実はなあ。前からエグランテリアのギルドはのぞきに行きたかったんだ。それによ。最近遊んでなかったから、観光もしたいし……近くの浜では、ほら! 海水浴をしてるらしいじゃねえか」
「にいちゃんは海水浴のお姉さんを見るのが目的でしょ? 全く不潔です」
「ちょっと違えよ! 海水浴のお姉ちゃん達と遊ぶのが目的だ! ガッハッハ」
海水浴のお姉さん達は、正直に言うと俺も見たい。
「俺は良いと思う。せっかくの機会だし、みんなで行こうか!」
「うーん。ま、いっか。じゃあみんな、僕についてきて! 船はこっちだよ!」
俺達はサクラに先導され、豪華客船に向かった。しかし彼女は方向音痴の為、結局俺が苦労して船着場を見つけることになる。一体どうなるんだ、これから。
アルダー達が、フリージアを離れエグランテリアに向かっている頃、グラジオラス大陸の城に邪悪な気配が漂っていた。以前ヘザー達が来た時、誰も座っていなかった王座に何者かがいる。
王の間には、見渡す限りの魔物がひしめき、みなひざまずいていた。
「ヤブラン。報告ご苦労だった」
「ありがたきお言葉。全ては魔王様の計画どおりに進んでおります」
「うむ……エリオネルはいるか?」
彼の言葉を聞いて、黒い影が姿を現わす。ヤブランは笑った。
「ハハハハ! ドラグーンにやられたんじゃなかったの? 君、逃げ帰って来たんだろ? カッコ悪」
「……死んだふりをしてやり過ごしました。奇跡的な生還でしたよ。ああいうお優しい人は、必要以上に追い打ちをしないんですよ」
「エリオネルよ。お前の作戦は失敗したようだな」
目の前の存在に恐れてか、エリオネルは深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。人間どもを同士討ちさせようなどという考えが愚かでした」
「分かっておればよい。だが、次は許さぬぞお~。お前の今までの功績に免じて見逃そう。して、あと一人足りんな。アイツはどうした?」
ヤブランが顎に手をあて、少し考え込んだ。
「もしかしたら、勇者達に会いに行ってるのかもしれません。好戦的ですからね」
「ふん! 勝手な真似をしおるわ。まあ良い。我が野望が叶い、世界全てを手に入れる日は近い。必ず計画どおりに動くのだぞ。良いな?」
エリオネルは平伏して答える。ヤブランはニッコリと笑った。
「勿論です。僕は昔から、魔王様の命令には絶対に服従ですから」
魔王は大きな体を揺らして笑う。
彼の大きな声は城中はおろか、まるで大陸全体に聞こえているようだった。
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