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イベリスの正体
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深い森を抜けた先にある小さな川に、一隻の船が止まっている。
夜のカトレア船着場は静かで、風の吹く音しか聞こえない。
インリッツは船上で、ただ静かに景色を眺めていた。
彼が乗っている船には、少なくとも20名ほど盗賊が隠れているようだった。
盗賊団の下っ端と思われる男が、退屈しのぎに彼に話しかける。
「アニキ、本当にフリージアの奴ら来ますかね?」
「あん? 奴らは来るわよ。あれだけ念を押したんだから、来なかったら相当おめでたいわ」
「ははは。まあそうっすよね! でもこんな時間に船着場にいるのは嫌ですわー。ここ、出るらしいっすよ」
「え? 出るって何がよ」
インリッツは片方の眉だけをあげ、怪訝な顔をして部下を見た。
背中には、彼の身長と同じくらい長い槍を背負っている。
「幽霊ですよ。ゆ、う、れ、い! このカトレアの船着場には出るって噂です」
「ま、まさか。アンタねえ。そんなこと信じるの子供くらいよ」
「本当らしいっすよ。20年ほど前、ここで殺された少年の霊がたまに出て来るそうなんです。顔は血みどろで、足元が見えなくて、人を見つけると近づいて来て……自分達の世界に引きずり込もうとするんだとか」
インリッツの動きが止まっている。微動だにしていない。
部下はもう少しだけ、彼をからかいたくなった。
「……そんなのデマに決まっているでしょうが。ちっとも怖くなんかないわよ。大体……」
「うわー。アニキの後ろに、子供がっ」
「ヒ、ヒャアアー!」
インリッツはとっさに後ろを向いて、持っていた槍を構えたが、そこには誰もいない。何かが川に落ちた音が聞こえた。
振り返ると、部下が前のめりに倒れている。首から上が無い。
驚いで振り返った瞬間に、持っていた槍で部下の首を切り落としていた。
「あたしったら、またやっちゃったわー。でもこの子がいけないよ。人を怖がらせたりするから」
後悔の念に駆られたが、彼が部下を殺してしまったのはこれが初めてではない。
「随分物騒なことをしてるんじゃねえか。怖い話は嫌いかい?」
舟着場の入り口から人影が見え、少しずつ顔が分かってくる。
レオンハルトだった。彼の他に、8名ほどの冒険者たちが後ろに続いている。
「あらん。ごめんなさいね。嫌なところ見せちゃったわね~。アタシ達これから出航するところなの。何か御用かしら?」
「……船の中を確認させてもらいたい。最近美術品がけっこう盗まれちまってね。犯人を探しているところだ」
「アタシ達が怪しいと睨んだわけね。ふう~ん。中を見る必要は無いわ。だって、アタシ達がその犯人だもの」
インリッツの言葉に、レオンハルトの後ろにいた冒険者達が動揺していた。
「おいおい! 随分あっさりと認めてくれるじゃねえか、イベリスさんよ。じゃあ話は早いぜ。アンタ達は牢獄行きか、その長い槍で抵抗するなら今すぐ死刑だ。どっちがいい?」
「どっちもお断りよぉ。アタシ達は、招かれざる客人を綺麗に掃除して町を出るの。それにイベリスはここにはいない。ほらアンタ達! 出て来なさいよ」
「あん? イベリスじゃねえだと?」
「騙されたってことよ! 哀れなボウヤ達」
船の中から20名ほどの盗賊達が姿を表した。
それぞれが剣や弓といった武器を持ち、すぐにでも襲って来そうな雰囲気を漂わせている。彼らの姿を見て、冒険者の1人がレオンハルトに耳打ちする。
「ランティスを含めたもう1つの部隊が到着していません。人数的に不利ですが、始めますか?」
「勿論だ。このままじゃ逃げられちまうぞ。すぐに始めるしかねえ!」
言うなりレオンハルトは走り出し、背中から白銀の剣を引き抜いた。
弓をかわしながら、一直線にインリッツの元へ向かう。
冒険者達が彼に続き、あっという間に盗賊船に乗り込む。
「あらあらあら~。可愛い男の子がいっぱい! アンタ達、たっぷり可愛がってあげなさい!」
ここは冒険者ギルド内にある牢屋。
町に盗賊団が押し寄せ、ギルドのメンバーはほぼ総動員で対処に向かった。
残っている数名は門を閉ざし、牢獄に入っている罪人が脱走しないように見張っていた。イベリス盗賊団の幹部、カレンの牢獄には一枚の札が貼られている。魔力を封じることができる結界を張っているのだ。
「お主達は実に勤勉じゃのう。そろそろワシをここから出したらどうじゃー?」
「お前はこの先もずっと牢屋だ。いい加減諦めろ」
カレンの牢屋には専用の看守がいる。
魔力を封じている限り、逃げ出す心配は無いのだが念の為配置することになった。胡座をかいていたカレンは、男を見て笑う。
「ワシがずっと牢屋に? 本当にそうかのう~。実はこんな所なんぞ、いつでも抜けれるんじゃよ」
「抜かせ! だったら今すぐそこから出てみろ! できもしないくせに強がるな」
「ほほ~。今すぐ出ればいいのか? 外ではもう戦いが始まっているようだしの。出てやるぞい」
彼女が立ち上がると、繋がれていた手錠はスルリと抜けて地面に落ちた。
両手に小さな光が集まっていく。
光が溢れるほどに膨れ上がると、彼女は両手を看守に向ける。
「な、馬鹿な!? 魔法は使えないはず……」
「ふふふ! こんなちっぽけな札では、ワシの魔力は抑えきれん! 他のヘッポコ魔法使いと一緒にするなよお!」
「そんな! この……う、うわあー!!」
牢屋全体が眩い輝きに包まれた瞬間、一気に大爆発が巻き起こった。
ギルドの受付付近にいた3人の男達が、爆音に驚いて飛び上がる。
「な、なんだ今の!?」
「下から音がした気がする。多分牢屋で何か起こったのかもしれない」
「行ってみよう!」
冒険者達が急いで地下の階段に向かうと、つかつかと登ってくるカレンを見つけた。
「貴様! どうやって外に出た? 看守は!? この煙は……?」
カレンは得意げに胸を張っている。
彼女の体から薄い水色の煙が出て、男達のほうに流れていく。
「安心せい、奴は峰打ちで止めておいたぞ。ワシは無益な殺生はしないのじゃ。お主達はもっと優しくしてやろうか? 弱そうだしの」
「こ、この! とにかく捕まえ……ろ……?」
3人の男達はふらつき、目を閉じてバタバタと倒れていく。
彼女の使用できる魔法の一つ、スリープ・ミストによって眠らされてしまったようだ。
カレンは部屋の中を物色し、宝箱に入っていた一枚のカードを懐にしまった。
「ワシのカードを処分しておらんとは、間抜けな奴らよ。さーていよいよじゃなあ! イベリスの手伝いに行くとするか」
魔法使いカレンは、楽しげにスキップをしながら外へ出て行った。
バルゴの銅像の周辺では、冒険者達と盗賊団の戦闘が続いている。
冒険者達は80名ほどで、盗賊団はおそらく70名程度いるようだった。
盗賊団には、ステータス補正の特性が持つものが多い。HPや防御力を上げるカード能力によって、なかなか決定打を与えられない。
「てええーい!」
大柄な盗賊の斧の一撃をかわし、サクラが斜め下から剣で顎を打ち上げた。
盗賊の大きな体が、勢いよく地面に叩きつけられる。
「み、峰打ち……決まったー! 僕強くなったかも」
「サクラ! 危ない」
誰かの声で振り返った勇者に、4人の男達が剣を振り上げて向かってくる。
「わ、わわわ~」
だが、彼らはサクラを斬る前に動きを止める。
両手両足が凍りつき、微動だにできなくなっていた。
目の前には、少しだけ不機嫌な顔をしているミカがいた。
「もう! ダメじゃない。ぼーっとしてちゃ」
「ミカ? どうしてここにいるの?」
「……この町が荒らされることが、許せなくて……つい出てきちゃったの。一緒に戦いましょう。町を守るために」
「そうだったんだ……うん! ありがとう。絶対守ろうね!」
サクラはミカの言葉に大きくうなづく。
剣や魔法が飛び交う中、勇者とミカは踊るように戦いを続ける。
戦況はこちらが有利になり、徐々に盗賊団のメンバーに焦りが出始めていた。
そんな中、1人の人物がゆっくりとこちらに近づいて来る。
目の前の敵に夢中になっているミカは、足音もなく近づいてくる者に気がつかなかった。やっと気がつき、振り返った彼女の腹部に、黒いブーツがめり込んだ。
「うぐ……あ……?」
ミカの体が宙に舞い、数メートル先まで飛ばされてしまった。
焦るサクラが駆けつける。
「み、ミカ!? 大丈夫? ミカ! え、君は……」
ミカは腹を抑えてうずくまっている。彼女を抱き寄せていた勇者の目に映ったのは、酒場にいた女マスターだった。全身黒づくめの、ボディラインがはっきりと出る服を着ている。
「久しぶりだな。勇者サクラ。銅像の中にある、ヒロイックストーンは俺達がもらうから、悪く思うなよ」
「え! ええ~!? な、何で? 何でマスターが!? だ、だって……酒場で働いてるんじゃ」
「本物のマスターなら、今酒場の奥で猿ぐつわされて寝てるぜ。俺がこの盗賊団の首領、イベリスだ」
サクラは頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚え、軽い混乱状態に陥った。
ミカが支えられていた腕を掴む。
「ぼーっとしてる場合じゃないわよ。サクラ!」
「うん! そ、そうだけど……僕超ビックリしちゃった」
ミカは腹を抑えながらも立ち上がると、イベリスを睨みつけた。
「イベリスだか何だか知らないけど、私達2人で戦えば勝てるわ。行くわよサクラ!」
「ま、待ってよミカ~」
サクラとミカは、イベリスに向かって勢いよく走り出す。
「面白え……お前らごと、バルゴの像をぶっ壊してやるよ!」
イベリスは両拳を突き合わせて気合を入れた。
夜のカトレア船着場は静かで、風の吹く音しか聞こえない。
インリッツは船上で、ただ静かに景色を眺めていた。
彼が乗っている船には、少なくとも20名ほど盗賊が隠れているようだった。
盗賊団の下っ端と思われる男が、退屈しのぎに彼に話しかける。
「アニキ、本当にフリージアの奴ら来ますかね?」
「あん? 奴らは来るわよ。あれだけ念を押したんだから、来なかったら相当おめでたいわ」
「ははは。まあそうっすよね! でもこんな時間に船着場にいるのは嫌ですわー。ここ、出るらしいっすよ」
「え? 出るって何がよ」
インリッツは片方の眉だけをあげ、怪訝な顔をして部下を見た。
背中には、彼の身長と同じくらい長い槍を背負っている。
「幽霊ですよ。ゆ、う、れ、い! このカトレアの船着場には出るって噂です」
「ま、まさか。アンタねえ。そんなこと信じるの子供くらいよ」
「本当らしいっすよ。20年ほど前、ここで殺された少年の霊がたまに出て来るそうなんです。顔は血みどろで、足元が見えなくて、人を見つけると近づいて来て……自分達の世界に引きずり込もうとするんだとか」
インリッツの動きが止まっている。微動だにしていない。
部下はもう少しだけ、彼をからかいたくなった。
「……そんなのデマに決まっているでしょうが。ちっとも怖くなんかないわよ。大体……」
「うわー。アニキの後ろに、子供がっ」
「ヒ、ヒャアアー!」
インリッツはとっさに後ろを向いて、持っていた槍を構えたが、そこには誰もいない。何かが川に落ちた音が聞こえた。
振り返ると、部下が前のめりに倒れている。首から上が無い。
驚いで振り返った瞬間に、持っていた槍で部下の首を切り落としていた。
「あたしったら、またやっちゃったわー。でもこの子がいけないよ。人を怖がらせたりするから」
後悔の念に駆られたが、彼が部下を殺してしまったのはこれが初めてではない。
「随分物騒なことをしてるんじゃねえか。怖い話は嫌いかい?」
舟着場の入り口から人影が見え、少しずつ顔が分かってくる。
レオンハルトだった。彼の他に、8名ほどの冒険者たちが後ろに続いている。
「あらん。ごめんなさいね。嫌なところ見せちゃったわね~。アタシ達これから出航するところなの。何か御用かしら?」
「……船の中を確認させてもらいたい。最近美術品がけっこう盗まれちまってね。犯人を探しているところだ」
「アタシ達が怪しいと睨んだわけね。ふう~ん。中を見る必要は無いわ。だって、アタシ達がその犯人だもの」
インリッツの言葉に、レオンハルトの後ろにいた冒険者達が動揺していた。
「おいおい! 随分あっさりと認めてくれるじゃねえか、イベリスさんよ。じゃあ話は早いぜ。アンタ達は牢獄行きか、その長い槍で抵抗するなら今すぐ死刑だ。どっちがいい?」
「どっちもお断りよぉ。アタシ達は、招かれざる客人を綺麗に掃除して町を出るの。それにイベリスはここにはいない。ほらアンタ達! 出て来なさいよ」
「あん? イベリスじゃねえだと?」
「騙されたってことよ! 哀れなボウヤ達」
船の中から20名ほどの盗賊達が姿を表した。
それぞれが剣や弓といった武器を持ち、すぐにでも襲って来そうな雰囲気を漂わせている。彼らの姿を見て、冒険者の1人がレオンハルトに耳打ちする。
「ランティスを含めたもう1つの部隊が到着していません。人数的に不利ですが、始めますか?」
「勿論だ。このままじゃ逃げられちまうぞ。すぐに始めるしかねえ!」
言うなりレオンハルトは走り出し、背中から白銀の剣を引き抜いた。
弓をかわしながら、一直線にインリッツの元へ向かう。
冒険者達が彼に続き、あっという間に盗賊船に乗り込む。
「あらあらあら~。可愛い男の子がいっぱい! アンタ達、たっぷり可愛がってあげなさい!」
ここは冒険者ギルド内にある牢屋。
町に盗賊団が押し寄せ、ギルドのメンバーはほぼ総動員で対処に向かった。
残っている数名は門を閉ざし、牢獄に入っている罪人が脱走しないように見張っていた。イベリス盗賊団の幹部、カレンの牢獄には一枚の札が貼られている。魔力を封じることができる結界を張っているのだ。
「お主達は実に勤勉じゃのう。そろそろワシをここから出したらどうじゃー?」
「お前はこの先もずっと牢屋だ。いい加減諦めろ」
カレンの牢屋には専用の看守がいる。
魔力を封じている限り、逃げ出す心配は無いのだが念の為配置することになった。胡座をかいていたカレンは、男を見て笑う。
「ワシがずっと牢屋に? 本当にそうかのう~。実はこんな所なんぞ、いつでも抜けれるんじゃよ」
「抜かせ! だったら今すぐそこから出てみろ! できもしないくせに強がるな」
「ほほ~。今すぐ出ればいいのか? 外ではもう戦いが始まっているようだしの。出てやるぞい」
彼女が立ち上がると、繋がれていた手錠はスルリと抜けて地面に落ちた。
両手に小さな光が集まっていく。
光が溢れるほどに膨れ上がると、彼女は両手を看守に向ける。
「な、馬鹿な!? 魔法は使えないはず……」
「ふふふ! こんなちっぽけな札では、ワシの魔力は抑えきれん! 他のヘッポコ魔法使いと一緒にするなよお!」
「そんな! この……う、うわあー!!」
牢屋全体が眩い輝きに包まれた瞬間、一気に大爆発が巻き起こった。
ギルドの受付付近にいた3人の男達が、爆音に驚いて飛び上がる。
「な、なんだ今の!?」
「下から音がした気がする。多分牢屋で何か起こったのかもしれない」
「行ってみよう!」
冒険者達が急いで地下の階段に向かうと、つかつかと登ってくるカレンを見つけた。
「貴様! どうやって外に出た? 看守は!? この煙は……?」
カレンは得意げに胸を張っている。
彼女の体から薄い水色の煙が出て、男達のほうに流れていく。
「安心せい、奴は峰打ちで止めておいたぞ。ワシは無益な殺生はしないのじゃ。お主達はもっと優しくしてやろうか? 弱そうだしの」
「こ、この! とにかく捕まえ……ろ……?」
3人の男達はふらつき、目を閉じてバタバタと倒れていく。
彼女の使用できる魔法の一つ、スリープ・ミストによって眠らされてしまったようだ。
カレンは部屋の中を物色し、宝箱に入っていた一枚のカードを懐にしまった。
「ワシのカードを処分しておらんとは、間抜けな奴らよ。さーていよいよじゃなあ! イベリスの手伝いに行くとするか」
魔法使いカレンは、楽しげにスキップをしながら外へ出て行った。
バルゴの銅像の周辺では、冒険者達と盗賊団の戦闘が続いている。
冒険者達は80名ほどで、盗賊団はおそらく70名程度いるようだった。
盗賊団には、ステータス補正の特性が持つものが多い。HPや防御力を上げるカード能力によって、なかなか決定打を与えられない。
「てええーい!」
大柄な盗賊の斧の一撃をかわし、サクラが斜め下から剣で顎を打ち上げた。
盗賊の大きな体が、勢いよく地面に叩きつけられる。
「み、峰打ち……決まったー! 僕強くなったかも」
「サクラ! 危ない」
誰かの声で振り返った勇者に、4人の男達が剣を振り上げて向かってくる。
「わ、わわわ~」
だが、彼らはサクラを斬る前に動きを止める。
両手両足が凍りつき、微動だにできなくなっていた。
目の前には、少しだけ不機嫌な顔をしているミカがいた。
「もう! ダメじゃない。ぼーっとしてちゃ」
「ミカ? どうしてここにいるの?」
「……この町が荒らされることが、許せなくて……つい出てきちゃったの。一緒に戦いましょう。町を守るために」
「そうだったんだ……うん! ありがとう。絶対守ろうね!」
サクラはミカの言葉に大きくうなづく。
剣や魔法が飛び交う中、勇者とミカは踊るように戦いを続ける。
戦況はこちらが有利になり、徐々に盗賊団のメンバーに焦りが出始めていた。
そんな中、1人の人物がゆっくりとこちらに近づいて来る。
目の前の敵に夢中になっているミカは、足音もなく近づいてくる者に気がつかなかった。やっと気がつき、振り返った彼女の腹部に、黒いブーツがめり込んだ。
「うぐ……あ……?」
ミカの体が宙に舞い、数メートル先まで飛ばされてしまった。
焦るサクラが駆けつける。
「み、ミカ!? 大丈夫? ミカ! え、君は……」
ミカは腹を抑えてうずくまっている。彼女を抱き寄せていた勇者の目に映ったのは、酒場にいた女マスターだった。全身黒づくめの、ボディラインがはっきりと出る服を着ている。
「久しぶりだな。勇者サクラ。銅像の中にある、ヒロイックストーンは俺達がもらうから、悪く思うなよ」
「え! ええ~!? な、何で? 何でマスターが!? だ、だって……酒場で働いてるんじゃ」
「本物のマスターなら、今酒場の奥で猿ぐつわされて寝てるぜ。俺がこの盗賊団の首領、イベリスだ」
サクラは頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚え、軽い混乱状態に陥った。
ミカが支えられていた腕を掴む。
「ぼーっとしてる場合じゃないわよ。サクラ!」
「うん! そ、そうだけど……僕超ビックリしちゃった」
ミカは腹を抑えながらも立ち上がると、イベリスを睨みつけた。
「イベリスだか何だか知らないけど、私達2人で戦えば勝てるわ。行くわよサクラ!」
「ま、待ってよミカ~」
サクラとミカは、イベリスに向かって勢いよく走り出す。
「面白え……お前らごと、バルゴの像をぶっ壊してやるよ!」
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