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盗賊団の襲撃
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冒険者ギルドを出た俺達は、とりあえず武器屋と防具屋に行って新しい装備を買った。防具屋を出た先にある長い登り階段を、サクラは悠々と駆け上がって行く。
荷物は全部俺持ちである。とっても怠い。
「何してるのアルダー! 遅い遅い! そうだ、家まで競争しよっか?」
「おいおい! 少しは待ってくれよ。競争なんかしないよ。俺の荷物がどれだけあるか、見てわかんだろぉ~」
サクラは本当に上機嫌で、今夜戦いに行くのを忘れているみたいだった。
何がそんなに楽しいんだか。ルンルンと階段をかけ登りながら、振り返っては俺をからかう。
「あー! 僕の挑戦から逃げるつもりだな。アルダーはそう言うところ、男らしくな……ぶ!?」
サクラは何かにぶつかったらしく、ちょっと跳ね返ったように見えた。
遠目から見るに、大きな腹に弾かれたのだろう。
「あらん~。ダメよお。よそ見しながら階段を駆け上がるなんて。運命の男とぶつかるなんて、現実ではありえないのよ」
「わああー! オカマのおじさんだ。久しぶりだね!」
俺は焦って階段を駆け上がった。
まさかイベリス盗賊団の頭と思われる奴に会うなんて!
サクラが何かされるのではと警戒したが、インリッツは穏やかな顔で立っている。
「ウフフフ。あなた、随分な荷物ねえ。2人で楽しくショッピングでもしてたってわけ?」
「そうです。あなたこそ何をしていたんですか?」
「ん~。何でしょうねえ」
奴は顎髭を摩りながら俺とすれ違い、ゆっくりと階段を降りていく。
「ボウヤ。あたしはねえ、もうこの町じゃ十分に稼がせてもらったのよ。だから……みんなにお別れの挨拶でもしようかと思っていたの。今夜ここを出るわ」
「……お別れだって? それはまた急な話ですね。しかも夜中に?」
「おじさん、他の町に商売しに行くの? 良いなあ。僕も久しぶりに旅したいのに、アルダーがこの町に引きこもってばかりで困るよ」
インリッツは振り返り、俺達を見上げる。自信に満ち溢れている表情だった。
「ええ、そうよ。今夜町から出て少しに西にある、カトレアの舟着場から出て行くわ。ちょっとしか話したことなかったけど、楽しかったわよ。じゃあね」
のんびりと歩くインリッツの後ろ姿を見て、俺はどうも妙だと思った。
不意に奴の足が止まり、こちらを振り返る。
「ああ……それから。私達のお船にはね、沢山のお宝が積んであるのよ。中には最近手に入った、価値ある美術品もいーっぱい! 狙われたら大変だから、誰にも私達のことは言わないでね! 誰にも……よ。ホッホッホ!」
インリッツは笑いながら歩き去って行った。何でそんなことを俺に伝えるんだ?
犯人は自分で、今夜逃げますとはっきり伝えているような物言いだった。
怪しいが俺がするべきことは一つしかない。
「サクラは先に帰っててくれ。俺はもう一度冒険者ギルドに戻る」
「えー? なんで?」
「ちょっと伝えなきゃいけないことができた」
俺は冒険者ギルドに戻り、レオンハルト達にインリッツが話していたことを伝えた。証拠を抑えると同時に、奴らを捕らえるチャンスがきたと、冒険者達は皆気合が入っている。
ギルドを出た俺は、次にミカの家に向かった。
彼女には、今夜何が起こるかを説明しておかないといけない。
「え? 町が襲われるの!?」
「多分そうなると思う。アイツらはバルゴの像を破壊するついでに、いくつか金目の物をかっぱらうつもりみたいなんだ。危険だから、今日は家から出ないほうがいいぞ」
「う、うん……。怖いことになったわね。大丈夫かしら」
「大丈夫だよ! ギルドのみんなやサクラ、それに俺がいるからな!」
ミカは俺を見て微笑んでいる。
なんて言うか……あのおてんばな子が、本当に綺麗になったものだ。
「そうね! アルダーがいればきっと大丈夫! いつだってそうだったもの。安心したわ」
「勿論、大船に乗ったつもりでいなよ! あれ、なんだその箱? 宝石でも入れてるのか?」
俺はミカのテーブルにある、黒い箱が気になった。
ガッチリと鎖で固められ、簡単には開けられないようにしてある。
彼女の部屋には、どうも不釣り合いに見えた。
「え? ああ! これね。別に何でもないのよ。気にしないで」
「ふーん、そうか」
「ねえ、アルダー。明日、ちょっと私に付き合ってくれない? お話ししたいことがあるの」
「お話したいこと? いいぜ。じゃあ、また明日な」
俺はミカの家を出て自宅に戻ると、少しだけ仮眠を取ることにした。
イベリス盗賊団とかいう連中に、この町を好きにさせるわけにはいかない。
心の中で、久しぶりに炎が灯ったようだった。
フリージアの夜は、いつもと変わらない様子だ。
田舎町らしく静かで、とても事件が起こりそうな雰囲気じゃない。
バルゴの像は、今日も勇ましく広場に佇んでいる。
「だ~れも来ないよう! ねえねえアルダー。本当に盗賊がやって来たりするのかなあ? 僕眠くなってきちゃった」
「幹部が言ったんだ。必ず来るはずだぞ。もう少し気合を入れてくれよ。何があるか分からないんだから」
眠い目を擦りつつ、サクラはうなづく。俺たちはバルゴの像の近くで貼っていた。他の冒険者達も、堂々と像の前で警備しているわけではない。
現行犯として一網打尽にする必要があったからだ。
「あれ? レオンハルト達はどうしたの?」
「アイツらは別行動だ。カトレアの船着場に向かっているよ。奴らが盗んだ証拠を掴み、逃げ道を絶ってしょっ引くのさ」
「え! カトレアの船着場って、オカマおじさんの船があるところじゃん! おじさん大丈夫かな?」
そうだ。だいぶ今更だけど、サクラにはちゃんと説明してなかった。
「実は俺とギルドのみんなは、オカマおじさんがイベリス盗賊団の頭だと睨んでる」
「……えー!!」
「ちょ、こら! 静かにしろ!」
飛び跳ねるように驚いたサクラを、俺は注意した。
今盗賊の奴らに見つかったら、それこそ失敗に終わるかもしれない。
「な、何て展開なのだ! アルダー。順を追って、出来る限り丁寧に説明してよ。2行くらいで」
「随分短いな! 説明するのは後だ。今日は盗賊をやっつけて、この町を守る! 詳しくは明日」
「もう~! アルダーったら適当なんだから~。……え? あの人達」
サクラが指差した先には、3人の若い男女がいた。
真っ直ぐにバルゴの像に歩いていく。一見するとただの町人のように見えるが、盗賊は騙すのが上手い。奥で隠れているギルドメンバーも気がついたらしい。奴らの行動を、漏らさず凝視している。
「ねえアルダー。あの人達」
「ああ。奴らかもしれない。まだ出るなよ、証拠を抑える」
3人の男女は世間話をしながら、ゆっくりと中央広場に入ってきた。
それぞれが大きめの道具袋を持っているようだ。
あの中に武器や、銅像を破壊する為の道具があるかもしれない。
「アルダー。あの人達、何か袋の中をゴソゴソし始めたよ。何してるんだろう?」
「もしかしたら、銅像を破壊する為の何かを持って来たのかもしれないぞ。ハンマーとか」
「まだけっこう距離があるけど、近づくのをやめたみたいだね。挙動不審な感じだよ!」
「そうだなあ。確かに挙動不審だ……怪しい」
奴らは大きな道具袋から、何やら木製の部品を取り出した。
女が紙を見ながら、男2人に指示を出しているようだ。
「す、凄い! なんか組み立て始めたよ。僕ああいうの凄く得意なんだ! あの人達なんかぎこちないね」
「ああ、凄くぎこちないな」
こんな所で何を組み立てようっていうんだ?
怪しいにも程があるだろ!
「え、ええー。ねえアルダー! あれってもしかして、投石器じゃない?」
「ほ、本当だ……間違いない。まさか投石器で銅像を壊すつもりか」
男達は出来上がった大きな投石器に石を入れ、早速バルゴの像めがけて発射した。彼らは操作しつつも、ちょっと首を傾げている。
石は綺麗な丸い軌道を描き、バルゴの像を大きく飛び越え路上に墜落した。
「アルダー! あの人達を捕まえるよ」
「お、おう! 行くか。それにしても、下手くそだなー」
俺達が走り出すと同時に、他の冒険者達も一斉に飛び出した。
3人の男女は逃げ出したが、間も無く冒険者達に取り押さえられる。
サクラはちょっと拍子抜けした感じだった。
「なんかアレだねー。簡単だったね。もしかして、これで終わりなのかな?」
「いくらなんでもそれは無いだろう。こんな間抜けな作戦で、成功する盗賊団なんてあるか」
俺達が呆気にとられていると、空から見覚えのある小さな生き物が飛んで来た。
「おおーい! お前ら、大変だぞ」
「コドランじゃないか。どうした?」
「ヘレボラスの塔周辺から、尋常ではない魔物共の気配がしておる! 今度は間違いない。徐々に気配が近づいている。この町に攻め入ってくるぞ」
ヘレボラスの塔から、魔物達が? 盗賊団の騒ぎで霞んでいたことだったが、嫌な時に重なる。夜の暗闇の中、奥から走ってくる音が聞こえる。あれはギルドにいた、受付のおっさんだ。
「大変だぞ! 盗賊団の連中が集団でこっちに向かってやがる。しかも、みんな武器を持っているぞ!」
「ええ! おじさんそれ本当!? アルダー、大変だよ」
何てことだ。ヘレボラスの塔の魔物と、イベリス盗賊団。
二つを同時に相手にしないといけないのか。
ドラグーンなら、両方まとめて相手にしても余裕で勝てる。
待っていれば向こうから来るわけだから、難しいことではない。
でも魔物の集団が押し寄せて来た場合、町の住民全員を守ることはできない。
誰かしらの犠牲が生じることは間違いないだろう。
魔物の集団は、フリージアからできる限り遠くで撃退するべきだ。
それなら……。
「サクラと冒険者達で、ここの盗賊を迎え討ってくれ。俺は魔物達を仕留めてくる。できるな?」
「そっか……魔物達が押し寄せて来たら、町が大変なことになっちゃうもんね。分かった! ここは僕達が守るよ。アルダー、気をつけてね」
俺は勇者に微笑んでからうなづくと、走りながらカードを胸に押し当てる。
コドランが俺に重なるようにくっつき、青い光が全身を包む。
少しずつ体が浮いていくのが分かる。
完全に飛行状態になった時、ミカの家が視界に入った。
窓から見上げる彼女と目があった気がする。
フリージアを出て向かった先には、想像もできない相手が待ち構えていた。
荷物は全部俺持ちである。とっても怠い。
「何してるのアルダー! 遅い遅い! そうだ、家まで競争しよっか?」
「おいおい! 少しは待ってくれよ。競争なんかしないよ。俺の荷物がどれだけあるか、見てわかんだろぉ~」
サクラは本当に上機嫌で、今夜戦いに行くのを忘れているみたいだった。
何がそんなに楽しいんだか。ルンルンと階段をかけ登りながら、振り返っては俺をからかう。
「あー! 僕の挑戦から逃げるつもりだな。アルダーはそう言うところ、男らしくな……ぶ!?」
サクラは何かにぶつかったらしく、ちょっと跳ね返ったように見えた。
遠目から見るに、大きな腹に弾かれたのだろう。
「あらん~。ダメよお。よそ見しながら階段を駆け上がるなんて。運命の男とぶつかるなんて、現実ではありえないのよ」
「わああー! オカマのおじさんだ。久しぶりだね!」
俺は焦って階段を駆け上がった。
まさかイベリス盗賊団の頭と思われる奴に会うなんて!
サクラが何かされるのではと警戒したが、インリッツは穏やかな顔で立っている。
「ウフフフ。あなた、随分な荷物ねえ。2人で楽しくショッピングでもしてたってわけ?」
「そうです。あなたこそ何をしていたんですか?」
「ん~。何でしょうねえ」
奴は顎髭を摩りながら俺とすれ違い、ゆっくりと階段を降りていく。
「ボウヤ。あたしはねえ、もうこの町じゃ十分に稼がせてもらったのよ。だから……みんなにお別れの挨拶でもしようかと思っていたの。今夜ここを出るわ」
「……お別れだって? それはまた急な話ですね。しかも夜中に?」
「おじさん、他の町に商売しに行くの? 良いなあ。僕も久しぶりに旅したいのに、アルダーがこの町に引きこもってばかりで困るよ」
インリッツは振り返り、俺達を見上げる。自信に満ち溢れている表情だった。
「ええ、そうよ。今夜町から出て少しに西にある、カトレアの舟着場から出て行くわ。ちょっとしか話したことなかったけど、楽しかったわよ。じゃあね」
のんびりと歩くインリッツの後ろ姿を見て、俺はどうも妙だと思った。
不意に奴の足が止まり、こちらを振り返る。
「ああ……それから。私達のお船にはね、沢山のお宝が積んであるのよ。中には最近手に入った、価値ある美術品もいーっぱい! 狙われたら大変だから、誰にも私達のことは言わないでね! 誰にも……よ。ホッホッホ!」
インリッツは笑いながら歩き去って行った。何でそんなことを俺に伝えるんだ?
犯人は自分で、今夜逃げますとはっきり伝えているような物言いだった。
怪しいが俺がするべきことは一つしかない。
「サクラは先に帰っててくれ。俺はもう一度冒険者ギルドに戻る」
「えー? なんで?」
「ちょっと伝えなきゃいけないことができた」
俺は冒険者ギルドに戻り、レオンハルト達にインリッツが話していたことを伝えた。証拠を抑えると同時に、奴らを捕らえるチャンスがきたと、冒険者達は皆気合が入っている。
ギルドを出た俺は、次にミカの家に向かった。
彼女には、今夜何が起こるかを説明しておかないといけない。
「え? 町が襲われるの!?」
「多分そうなると思う。アイツらはバルゴの像を破壊するついでに、いくつか金目の物をかっぱらうつもりみたいなんだ。危険だから、今日は家から出ないほうがいいぞ」
「う、うん……。怖いことになったわね。大丈夫かしら」
「大丈夫だよ! ギルドのみんなやサクラ、それに俺がいるからな!」
ミカは俺を見て微笑んでいる。
なんて言うか……あのおてんばな子が、本当に綺麗になったものだ。
「そうね! アルダーがいればきっと大丈夫! いつだってそうだったもの。安心したわ」
「勿論、大船に乗ったつもりでいなよ! あれ、なんだその箱? 宝石でも入れてるのか?」
俺はミカのテーブルにある、黒い箱が気になった。
ガッチリと鎖で固められ、簡単には開けられないようにしてある。
彼女の部屋には、どうも不釣り合いに見えた。
「え? ああ! これね。別に何でもないのよ。気にしないで」
「ふーん、そうか」
「ねえ、アルダー。明日、ちょっと私に付き合ってくれない? お話ししたいことがあるの」
「お話したいこと? いいぜ。じゃあ、また明日な」
俺はミカの家を出て自宅に戻ると、少しだけ仮眠を取ることにした。
イベリス盗賊団とかいう連中に、この町を好きにさせるわけにはいかない。
心の中で、久しぶりに炎が灯ったようだった。
フリージアの夜は、いつもと変わらない様子だ。
田舎町らしく静かで、とても事件が起こりそうな雰囲気じゃない。
バルゴの像は、今日も勇ましく広場に佇んでいる。
「だ~れも来ないよう! ねえねえアルダー。本当に盗賊がやって来たりするのかなあ? 僕眠くなってきちゃった」
「幹部が言ったんだ。必ず来るはずだぞ。もう少し気合を入れてくれよ。何があるか分からないんだから」
眠い目を擦りつつ、サクラはうなづく。俺たちはバルゴの像の近くで貼っていた。他の冒険者達も、堂々と像の前で警備しているわけではない。
現行犯として一網打尽にする必要があったからだ。
「あれ? レオンハルト達はどうしたの?」
「アイツらは別行動だ。カトレアの船着場に向かっているよ。奴らが盗んだ証拠を掴み、逃げ道を絶ってしょっ引くのさ」
「え! カトレアの船着場って、オカマおじさんの船があるところじゃん! おじさん大丈夫かな?」
そうだ。だいぶ今更だけど、サクラにはちゃんと説明してなかった。
「実は俺とギルドのみんなは、オカマおじさんがイベリス盗賊団の頭だと睨んでる」
「……えー!!」
「ちょ、こら! 静かにしろ!」
飛び跳ねるように驚いたサクラを、俺は注意した。
今盗賊の奴らに見つかったら、それこそ失敗に終わるかもしれない。
「な、何て展開なのだ! アルダー。順を追って、出来る限り丁寧に説明してよ。2行くらいで」
「随分短いな! 説明するのは後だ。今日は盗賊をやっつけて、この町を守る! 詳しくは明日」
「もう~! アルダーったら適当なんだから~。……え? あの人達」
サクラが指差した先には、3人の若い男女がいた。
真っ直ぐにバルゴの像に歩いていく。一見するとただの町人のように見えるが、盗賊は騙すのが上手い。奥で隠れているギルドメンバーも気がついたらしい。奴らの行動を、漏らさず凝視している。
「ねえアルダー。あの人達」
「ああ。奴らかもしれない。まだ出るなよ、証拠を抑える」
3人の男女は世間話をしながら、ゆっくりと中央広場に入ってきた。
それぞれが大きめの道具袋を持っているようだ。
あの中に武器や、銅像を破壊する為の道具があるかもしれない。
「アルダー。あの人達、何か袋の中をゴソゴソし始めたよ。何してるんだろう?」
「もしかしたら、銅像を破壊する為の何かを持って来たのかもしれないぞ。ハンマーとか」
「まだけっこう距離があるけど、近づくのをやめたみたいだね。挙動不審な感じだよ!」
「そうだなあ。確かに挙動不審だ……怪しい」
奴らは大きな道具袋から、何やら木製の部品を取り出した。
女が紙を見ながら、男2人に指示を出しているようだ。
「す、凄い! なんか組み立て始めたよ。僕ああいうの凄く得意なんだ! あの人達なんかぎこちないね」
「ああ、凄くぎこちないな」
こんな所で何を組み立てようっていうんだ?
怪しいにも程があるだろ!
「え、ええー。ねえアルダー! あれってもしかして、投石器じゃない?」
「ほ、本当だ……間違いない。まさか投石器で銅像を壊すつもりか」
男達は出来上がった大きな投石器に石を入れ、早速バルゴの像めがけて発射した。彼らは操作しつつも、ちょっと首を傾げている。
石は綺麗な丸い軌道を描き、バルゴの像を大きく飛び越え路上に墜落した。
「アルダー! あの人達を捕まえるよ」
「お、おう! 行くか。それにしても、下手くそだなー」
俺達が走り出すと同時に、他の冒険者達も一斉に飛び出した。
3人の男女は逃げ出したが、間も無く冒険者達に取り押さえられる。
サクラはちょっと拍子抜けした感じだった。
「なんかアレだねー。簡単だったね。もしかして、これで終わりなのかな?」
「いくらなんでもそれは無いだろう。こんな間抜けな作戦で、成功する盗賊団なんてあるか」
俺達が呆気にとられていると、空から見覚えのある小さな生き物が飛んで来た。
「おおーい! お前ら、大変だぞ」
「コドランじゃないか。どうした?」
「ヘレボラスの塔周辺から、尋常ではない魔物共の気配がしておる! 今度は間違いない。徐々に気配が近づいている。この町に攻め入ってくるぞ」
ヘレボラスの塔から、魔物達が? 盗賊団の騒ぎで霞んでいたことだったが、嫌な時に重なる。夜の暗闇の中、奥から走ってくる音が聞こえる。あれはギルドにいた、受付のおっさんだ。
「大変だぞ! 盗賊団の連中が集団でこっちに向かってやがる。しかも、みんな武器を持っているぞ!」
「ええ! おじさんそれ本当!? アルダー、大変だよ」
何てことだ。ヘレボラスの塔の魔物と、イベリス盗賊団。
二つを同時に相手にしないといけないのか。
ドラグーンなら、両方まとめて相手にしても余裕で勝てる。
待っていれば向こうから来るわけだから、難しいことではない。
でも魔物の集団が押し寄せて来た場合、町の住民全員を守ることはできない。
誰かしらの犠牲が生じることは間違いないだろう。
魔物の集団は、フリージアからできる限り遠くで撃退するべきだ。
それなら……。
「サクラと冒険者達で、ここの盗賊を迎え討ってくれ。俺は魔物達を仕留めてくる。できるな?」
「そっか……魔物達が押し寄せて来たら、町が大変なことになっちゃうもんね。分かった! ここは僕達が守るよ。アルダー、気をつけてね」
俺は勇者に微笑んでからうなづくと、走りながらカードを胸に押し当てる。
コドランが俺に重なるようにくっつき、青い光が全身を包む。
少しずつ体が浮いていくのが分かる。
完全に飛行状態になった時、ミカの家が視界に入った。
窓から見上げる彼女と目があった気がする。
フリージアを出て向かった先には、想像もできない相手が待ち構えていた。
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