勇者パーティを追放されたはずが、なぜか勇者もついてきた

コータ

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ネクロマンサーとの戦い

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 今俺達は、洞窟の地下1階に降りてきている。
 奥に祭壇らしきものと魔法陣があった。今のところ魔物の影は見られない。
 どう考えてもヤバイ奴らが待ち構えているとしか思えないから、みんな緊張感を隠せないでいた。

「こりゃースゲエもん見ちまった。ここまでイかれてる魔物は初めてかもしれねえ。お前ら、上を見てみろよ」

 レオンハルトがまじまじと天井を見上げている。
 俺は凄く嫌な予感がしていたので、見上げるのが怖い。

「きゃ! ひ、酷いわ……こんな」
「え? 何が何がー? ……きゃああ! ヤバイ、ヤバイよアルダー」
「ああ。分かってる……」

 サクラに言われて、俺はようやく上を見る決心がついた。やっぱりだ。
 何人あるか分からない死体が、びっしりと天井に貼り付けられている。
 ランティスに至っては恐怖のあまり、歯をカチカチさせている様子だった。

「ひ……ひいい! に、にいちゃん」

 レオンハルトが怯えたランティスに笑いかける。

「大丈夫だって。俺と勇者様御一行もいるんだぜ。お前は大船に乗った気でいろよ。まあここには海はねえけどな!」
「ほう……お主達の中に勇者がいるのか?」

 俺は反射的に剣を構えた。姿は見えていないが、不気味な声は近くにいる。
 魔法陣の前に黒いもやが集まってきたかと思うと、徐々に丸く固まっていき、赤茶色のローブを着た老人が姿を現した。こいつは顔は人間だが、間違いなく魔物の類だろう。

 儀式とかやるのであれば、多分会話もできる奴だと思う。
 俺は少しだけ、目の前の気色悪い魔物と話してみることにした。

「こんな悪趣味なことしてる魔物は、なかなかお目にかかれないな。倒す前に1つ聞いておく。一体何をしてるんだ?」
「フヒヒ。我が儀式が悪趣味とな! 我より人間共の行いの方が、遥かに悪趣味だろうて。よろしい、殺す前に教えてやろう。我が行なっている儀式は、遥か昔に活躍した……我らが英雄を呼び出すためのものだ。この腐った世界、はびこる人間どもを1人残らず抹殺し、我らが王の世界とするためにな。まずはかの英雄にフリージアと呼ばれる町を滅ぼしていただく」

 魔物の爺さんの割には、悠長に話している。

「かの英雄? 一体誰のことだ?」
「その姿を見れば一目で分かる者だ。懐かしき我が友でもある。お主らに拝謁する機会を与えよう。喜びの悲鳴をあげるが良い。かの剣に首を飛ばされ、ハラワタを裂かれ……泣いて黄泉の世界に旅立つのだ」

 話を聞くに、コイツは魔王の下僕ってところか。
 あの魔法陣から誰かを召喚し、町ごと襲おうって腹のようだ。

「町を滅ぼすなんて、そんなことは僕らが許さないよ」
「……あなたは狂っているわ。ここで止めないと」
「……し、喋る魔物っているですね……怖い」

 ランティスはまだ声が震えている。こりゃ戦うのは無理っぽい。
 連れてくるんじゃなかったかも。

 レオンハルトがゆっくりとローブを着た老人に歩み寄る。まるで町で偶然会った知人に話しかけるように。彼は持っていた剣を床に落とし、両手を上げていた。

 俺はレオンハルトをじっと見据えている。魔物は少し呆けた顔になっていた。

「全く、物騒なことはやめようぜえ。爺さん、まずは話し合おう。俺達だって事を荒立てる気はねえんだよ。爺さんがどんなつもりかはしらねえが。今この状況でよお……召喚する時間なんて作れねえだろ?」
「……時間は作れる。我にはお主らの戦いなど造作もない」
「意地をはるなって。俺達も老人をいじめるような真似はしたくねえ。魔物とはいってもな。俺は敬老精神って奴をしっかり持ってるのさ。だからさあ……斬られなよ!」

 レオンハルトが背中に手を伸ばし何かを掴んだ。
 同時に魔物に向かって飛び上がり、背中の服が破れたかと思うと、中から細い白銀の剣が姿を現した。
 武器を捨てたと見せかけて、騙し討ちをするつもりだったのか!

 俺はレオンハルトに続くように走った。
 あの一撃がかわされたなら、俺の攻撃で仕留める。
 白銀の剣が、魔物のローブに触れる。
 次の瞬間には、魔物を真っ二つに切断していたように見えた。

「レオンハルト、やったか!?」
「……いいや。だめだ。こいつあ幻だ」

 魔物の残骸は煙となって消えた。どうやら、相当上位の魔法を使えるようだ。

「フヒヒヒ! 本当の我は、お主らには分からぬよ。さあ、これより儀式を始める。劇の主役が現れるまで退屈であろう。お主らに、1つ余興を見せてやる」

 サクラは魔物の話し方にイライラしているようだった。
 こういう時の彼女は、何をするか分からないから怖い。

「劇とか余興とかうるさいよ! コソコソ隠れてないで、堂々と僕と戦え!」
「前に出たら危ないわよ! ……ま、待ってサクラ……上が……」

 俺達の頭上には、死んだ人間達がロープに縛り上げられている。
 それら全てのローブに青い炎が灯り、焼き切れたかと思うと、雨でも降ったかのように落下してきた。これには俺も驚いて声を出してしまった。

「うおおお!? あんた。これが余興だっていうのか!?」
「フヒヒヒ……ここからが、余興だ」

 がっくりと崩れ落ちている死体の山から、腐った肉の臭いが漂ってきた。
 ランティスがあまりの悪臭に吐き気をもよおしたのか、口と鼻を手で抑えている。

「ランティス。あなた大丈夫なの?」
「は、はい。何とか……生きてます」

 俺は魔物を探しているが、一向に見当たらない。
 周囲を見渡しながら、ランティスの様子を見ようと近づいた。
 ミカとランティスの後ろに、何かがいる。俺は咄嗟に叫んだ。

「……危ない! 後ろを見ろ!」
「え? ……いやあああ!」

 ミカが悲鳴をあげた。

「グゥエアアア!」

 2人が振り向くと、息を引き取ったはずの男が立ち上がり、気味の悪い声を出して向かってくる。

 死体が生き返る? 生き返ったのではなく、恐らくはゾンビになったのだろう。
 男がランティスを押し倒し、蛆の湧いた口を大きく広げ、噛み付こうと顔を近づけた!

「うわああー!!」

 彼はゾンビの顔を必死に両手で突き放そうとしている。
 俺の剣が間に合いそうにない。

「ランティス! 危ない!」

 ミカが必死で杖をかざすと、彼女の頭上に急激な冷気の塊が発生した。
 冷気はやがて鋭利な刃となって、鳥よりも早く飛んでいく。
 氷の刃はゾンビのこめかみから上を貫通し、頭蓋骨の中にあった全てを破壊したようだ。

 男は開いた口をパクパクさせて横に倒れた。ランティスは恐怖のあまり失神寸前だ。彼女は冷気を操る魔法が得意だったのか。

「おいおいおい! コイツら死んでるのに立ち上がったぞ! ゾンビに違いねえな」
「きゃああー! グロテスク過ぎいぃ!」

 今度はサクラとレオンハルトのほうから声がする。
 見渡す限りの死体の山が、息を吹き返したように立ち上がった。
 これはえげつない状況だ。俺はこういう魔法を使う奴に覚えがある。

「どうやら、奴はネクロマンサーみたいだな。死体を操る魔物だ」

 レオンハルトが不快な顔でうなづいた。

「ああ、間違いねえな。気持ち悪いジジイだ」
「あ、アルダー。これって倒すしか……ないよね?」

 サクラはまた顔が真っ青になっている。
 あまりにも青過ぎて、スライムの集団に入ったら気がつかないかも。
 でも逃げ出さないあたりは、流石勇者だと思う。

「ああ。もう人間じゃない。コイツらだけなら大丈夫なはずだ」
「……分かっておらぬな。お主らの相手は、この屍共だけではないぞ」

 洞窟の奥から足音が聞こえた。同時に鳴き声のようなものも聞こえる。
 俺達が来た階段のほうからも、この階層からも聞こえていた。
 嫌な予感がする。ランティスが震えながら後ずさった。

「うわああ! ま、魔物の群れも来ちゃってますよお!」

 匂いを嗅ぎつけたのか、俺達のいるフロアに魔物達が押し寄せてきている。
 かなりまずい状況になってきていると思った。
 ネクロマンサーが何かを召喚する前に、俺達は殺されるかもしれない。

「ど、どうしようアルダー? 僕達」

 ドラグーンのカードを使ってみるか? いや、まだ早い。

 図書館から借りた書物によれば、龍の鎧には時間制限がある。
 Lvによって制限時間は大きく変わるが、今の俺のLvではまだまだ短い。
 それに、一度使ったら数時間は経たないと再使用できないらしい。
 使うタイミングを間違えたらそれこそアウトだ。

 俺はがむしゃらに走ってくるゾンビの首を切り払い、サクラに向かって叫んだ。

「大丈夫だ! コイツらは元々大した魔物どもじゃない! 一気にやれば勝てる。俺達なら、いけるはずだ!」

 サクラもゾンビを斬り伏せ、こっちに向かって笑った。

「そうだね! 僕達は負けない。みんな……こいつらまとめてやっつけるよ! 全力でいこう!!」

 初めて彼女に勇者らしさを感じた。
 持っていた剣を天高く上げ、俺達の士気を高めようとしている。
 こんな日が来るとは。
 成長したな~と親心に浸りつつ、俺は群がる魔物達をひたすら倒していった。
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