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ミカの町案内

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 俺とサクラはミカに連れられて、フリージアを探索している。
 さっきまでは教会、武器屋、道具屋と周り、次は公園を紹介してくれるらしい。

 この村……じゃなかった。この町は驚くほど大きくなっている。
 俺が住んでいた頃の、2倍以上は面積が増えていそうだ。

「聞いてたよりずっと大きいじゃん! アルダー先生の情報は古すぎましたな。新鮮な情報は冒険者にとって大切なんだよ。しっかりしたまえ! な~んてね」

 イタズラっ子のような目で言ってくるサクラに、疲れていた俺は気の無い返事を返す。

「いやいや、普通こんなに大きくなってると思わないだろ。でも人はそんなに増えてないな」
「そうなの。大抵の人はルゴサとか、元々大きな町に行っちゃうのよ。武器屋のロドマンとか、後継者がいないって毎日愚痴ってるわ」

 うーん、やっぱり若い力が不足しているみたいだぞ。
 これは俺の再就職には好都合だな。ただ、武器屋とか防具屋はやりたくない。
 職人の仕事は見るからにしんどいからだ。

「ねえねえミカ! あの噴水の所にある像は何なの?」
「あれは300年ほど前、この町で生まれた英雄バルゴの銅像よ」
「ふーん、すっごい怖い顔してるんだね。僕会ったらすぐお財布出しちゃうかも!」
「英雄が金取ろうとするかよ」

 英雄バルゴか。俺もここで生まれ育ったので、名前だけは聞いたことがある。
 一体どんな英雄だったかはしらないが。

「何でも、ドラグーンっていう騎士と一緒に戦ったそうよ。とても勇ましくて豪胆で、どんな大きな魔物にも怯まなかったって話だったわ」
「な、なんか強そー! アルダーもそんな感じだったら良かったのに」

 俺は驚きのあまり足が止まった。

「ちょっと待った! バルゴって、ドラグーンと一緒に戦っていたのか!?」
「え? そうよ。アルダーこの町の出身なのに知らなかったの?」
「全然興味なかったから、ほとんど知らなかった。ドラグーンについて調べられないかな?」

 ミカは微笑みながら答えた。
 笑顔の美しさに、俺はちょっとドキッとしてしまう。

「調べたいのなら、丁度いい場所があるわよ。私の職場だけど」

 彼女の職場は図書館と呼ばれる施設だった。なかなかに広い。

「うわー、凄い凄い! 本がいっぱいあるよぉ!」
「静かにしろ。ここは騒いじゃいけない所なの。ミカ、ドラグーンの文献って何処にあるんだ?」
「えーと。確か……。あったわ。これがドラグーンにまつわる本よ。この1冊だけしかなかったの」

 俺は椅子に座って本を読み始め、隣にミカが座っている。
 サクラは好奇心を揺さぶられたらしく、いつの間にか何処かに行ってしまった。

 本はあまりページ数もなく、ドラグーンがいかにマイナーであるかが分かる。
 俺は夢中になってページを開いていった。

 書物によると、300年前活躍していた英雄バルゴには、ホークスという名の相棒がいたらしい。彼はドラグーンと書かれたカードの持ち主であり、龍と一体化して戦うことができたとか。

 以降龍のカードを用いて戦う戦士は、そのままドラグーンと呼ばれることになったが、ある時から全く見られなくなったらしい。

「これだ……間違いない」
「間違いないって、何が?」

 ミカは不思議そうな顔をしている。
 彼女はきっと俺が戦ったところを見ていないんだろう。
 俺は懐から金色の輝きを纏うカードを取り出した。

「このカード、本に書いてある物と同じなんだ。つまり俺は、ホークスと同じ力を与えられてる」
「え!? じゃあアルダーは、ドラグーンになる力を持ってるってこと?」
「うん。多分そういうことみたいだ。この本借りてもいいかな?」
「勿論いいわ。アルダーって、そんなに凄かったんだ……私知らなかった」

 彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめている。
 こんな綺麗な娘に至近距離でガン見されると、シャイな俺は照れてしまう。

「全然大したことないよ。というか……俺もドラグーンについては今日知ったんだ。さて、今日はもう家に……って。俺まだ家無かったわ」

 本を閉じてため息をついた。そうだった。
 俺もサクラも、一番大事な寝床が決まっていないのだ。

「お家がないの? 以前使っていた所は?」
「うん。そうなんだよ。前の家はもう取り壊されてるんだ。どうしたもんかねー。町長の所に行こうかな」
「アルダーって、忘れっぽいところは変わらないのね」

 彼女はそう言うとクスクス笑っている。

「俺そんなに忘れっぽいとこあったか?」
「あったわよ! 私に剣を教えてあげるって言っといて、全然教えてくれなかったり。ブールソールの浜に行く約束も忘れたでしょ? 買い物に付き合ってくれる約束も、勉強を教えてくれる約束だって忘れたわ!」

 す、すげえ。ミカの奴、よくそんなに覚えていられるな。
 確かにあった、俺も段々思い出してきた。これは素直に謝ったほうが良さそうだ。

「ま、まじかー。ヤバイくらい忘れてたな。ホントごめんな」
「いいのよ、私が小さい頃の話だし。これからは気をつけてね」
「ああ、気をつける!」
「それで、町長のお家にするの?」

 どうしようか……。あの家狭いんだよなあ。サクラはともかく、俺はもう永住するつもりだから、ちゃんとした家を探したいというのが本心だ。

「いや~。町長の家はやめようかな。お金は残ってるし、宿屋に泊まりながら探すよ」
「そっか。実は私に考えがあるんだけど」
「え? 考えって何?」
「私の家、けっこう広いんだけど。良かったらしばらく住んでみない?」

 ミカの家かー。たしかあそこは大家族で、かなり間取りも広かったはずだ。
 これは本当にありがたいお誘いだと思う。
 じゃあ折り入って、少しの間サクラと一緒に泊めてもらうとするか。

 ミカは末っ子だったはずだけど、この4年で新しい子供が生まれてる可能性もある。
 あれだけの人数だと、きっと毎日大変だろう。
 俺もしっかり手伝いをしながら、お金を貯めていくか。

「ま、マジで? それはありがたい。じゃあ、頼む! 俺小さい子供の世話とかも頑張るからさ」
「え!? ……もう。いきなり何言ってるの」

 あれ? 何か微妙な反応だったぞ。
 なんで顔が赤くなっているのか俺には謎だった。

「どうした? ああ、それとサクラにもしっかり言っておくよ」
「大丈夫よ、彼女のことも考えているから」

 良かった。ミカのおかげで俺達は野宿しなくてすむ。
 さっきは見栄で宿屋に泊まるとか言ったが、実は俺達にはほとんど金が残っていない。
 ヘザーに半分以上持っていかれたからだ。
 反対しておけば良かったと、今では後悔している。

「アルダー。なんか分かったの? ……あれ?」

 サクラが戻ってきた。
 どうも微妙なリアクションをしているが、何かおかしなことでもあるんだろうか。

「ああ、まだ触りの部分しか読んでいないけど、求めていた内容だよ。それと、しばらくの間厄介になる家が見つかった」
「ふーん。そうなんだ……」

 あれ? なんかリアクション薄くないか? 普段の派手な動きが見られないぞ。
 まあ、サクラも疲れているのかもしれないな。
 俺達は図書館を出ると、ミカの家に向かうことになった。
 サクラが、普段は絶対にしない小声で聞いてくる。

「ねえ……ミカってさ。アルダーのお友達?」
「え? ああ。そういうことになるかな。まあ世話をしてたし、妹みたいな感じだよ」
「そ、そっかー。妹さんって感じなんだね」

 俺達は図書館を出ると、もう一度町長の所に行った後、サクラの希望で美味しいレストランと、ご当地グルメのお店に行ってとにかく食べた。勇者様は食い意地がはっているが、あれで全く太らないのが不思議でならない。ミカもそんなサクラを見て楽しそうにしていた。

 気がつけばもう夜だった。
 少し先を歩いていたミカが、サクラに笑いかけた。

「サクラ。少しだけ狭いけど、あなたのお家はここがいいんじゃないかな? 勇者様が泊まるかもって家主さんに言ったら、大喜びで紹介してくれたのよ」

 これは凄い家だ!
 白塗りの小さなお城という表現がピッタリなのではないかと思う。
 女子なら、誰でもこんな家には一度住みたいと思うに違いない。

「え? ホントにいいの! 僕少しの間しかいれないと思うけど、ありがとう! でもやっぱり……お高いんでしょ?」

 誰が見ても思う。きっとここの家賃は高いと。

「お家賃は、ズバリ……」

 ミカが溜めを作った。俺達2人は食い入るように彼女を見つめる。
 自然と全員が息を止めていた。

「なんと、無料でございまーす!」

「「ええー!!」」

 10万になります! とか言われると思っていたので、俺達の衝撃はかなりのものだった。
 素晴らしすぎる高待遇だと思う。
 あれ? でも俺達って、二人でミカの家にお世話になるんじゃないのか?

「はい! これが鍵だから、無くしちゃダメよ」
「あ、ありがとうー! こんなにしてくれるなんて、僕は今猛烈に感動してる!」
「うん。長旅で疲れてるでしょうから、もう今日はゆっくり休んで。アルダーは、もう少しだけ付き合ってもらうわよ」
「あ、ああ。分かった。じゃあなサクラ、おやすみ」
「あ……うん。おやすみ」

 それからミカと二人でしばらく歩いた。どうも違和感を感じる。
 こんな中央から離れた土地に、ミカの家はなかったはずだ。
 比較的新しく建てられた建物ばかりだし、見覚えが全くない。

「ここよ。入り口は狭いけど、気をつけて入って」
「え!? ここって」

 俺は想像もしていなかった、小さな煉瓦造りの家に呆然とした。

「どうしたの?」
「あのさ、家ってもっと広くなかったか? 大家族だったし」
「言ってなかった? 私今は一人暮らししてるの。さあどうぞ」

 ミカが一人暮らしを始めているとは知らなかったが、本当にいいのだろうか。
 俺は人生で初めて、女の子の部屋というものに入って行った。
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