兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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その後の兄と弟。

☆僕のことが嫌い?(上)

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※2014年6月の話。
 
 じりじりとクソあっちぃ。まだ午前九時、まだ六月なのに、真夏の真っ昼間のような暑さだ。
「こんにちは」
 声を掛けてきたのは、毎日この時間帯に通りかかる老夫婦だ。
「ちわっす」
「ご苦労様、精が出るね」
「どもっす」
 平日のこんな時間に、庭の草むしりに励むいい歳した俺は、この人らにはどう見えているのだろう。母親に養われている、ただの無職のでぶ? だといいな。と願うまでもなく、ただのでぶにしか見えないだろうなと思う。欲をいえば、夜勤明けのでぶに見えていてほしい。
 ドスドスと、腹の内側から蹴りあげられる。「クソ狭い!」と文句を言ってるみたいだ。へいへいわかったよ。俺はよっこらせと立ちあがり、腰を伸ばす。チビ助も、俺の腹の中で身体を伸ばした。腹が横に引き伸ばされる感じ、実際、黒いTシャツの上からでも、腹が真横に伸びているのがよくわかる。
 産院の助産師は、草むしりとか雑巾がけみたいなしゃがんでする運動は、股関節のストレッチになって安産にもいいと言っていた。だが実践してみると、前屈みになるから腹が潰れがちになって、チビ助には苦しい体勢なんじゃないかなって思う。俺自身もだいぶ苦しい。
「まあ、このくらいでいいか」
 きれいになったのは庭のごく一部だが、これ以上続けると、熱中症になりそうだ。毎日少しずつむしっていって、ぐるりと一周むしり終える頃には、きっと最初にむしった部分は草むしたジャングルになっている。空梅雨でいい感じに曇り時々雨三日、晴れ一日のサイクルが繰り返されるせいで、雑草が元気いっぱいだ。大家さんはぎっくり腰をやっちゃって草むしりに来れないというので、仕方なく俺がむしっている。
 いっぱい汗をかいた。シャワーを浴びるために服を脱ぐ。洗面所の鏡に映った腹は、だいぶ大きく突き出してきた。これからもっと大きくなる。今は、服を着てればただのメタボ。よく見れば腹の下の方ではなく上の方がせり出していて、肥満の腹とは違う感じ。臨月にはちゃんと妊夫に見えるはずと助産師から言われたけど、見えてどうするんだよな。いまだ、妊娠中の男Ωなんて珍しく奇妙な存在なんに。
 裸の腹を見下ろし、撫でてみる。不思議なもんで、こういう時に限ってチビ助は微動だにしない。俺が服着て動き回ってる時は、痛ぇほどに蹴ってくるのにな。
 シャワーを浴びて着替えたら、歯医者へ行く。徒歩圏内に歯医者があるのは有り難いが、平日真っ昼間から呑気に歩いて歯医者に通ういい歳したでぶってどうなのかなと思う。ただの、健康に気を遣うタイプのニートか。それならそれでいいけど、最近は団塊世代の集団退職の影響で、俺の世代の無職率が下がって来てるっていう。そんな中でニートをし続けるのんきな奴というのは、世間にはどう見えるのか。せめて不運にも職にあぶれた可哀想なニートと思われてほしい。
 などと心配するのは俺だけな訳で、歯医者の受付は顔色を変えることもない。だからっつって、ここで母子手帳を出して妊夫歯科健診を受けたくて来ましたって言ったら、引かれるんだろうな。
「今日はどのような症状で?」
「いや、歯の健診と歯石取りをしてもらいたく……」
「かしこまりました。順番でお呼びしますから、あちらに掛けてお待ちください」
 結局、誤魔化してしまった。あ、でももし自分で気付いてないだけで、虫歯とか埋もれた親不知とかがあったりして抜歯でもすることになって、レントゲン撮るってなったら、妊娠してるって伝えなきゃまずくないか。どうしよう、今からでも言うべき? 母子手帳をサッと出してパッと「すんません妊夫歯科健診でした」って言うべき?
 迷ってるうちに順番が来てしまった。診察椅子に仰向けに寝て待っていると、さっきまで大人しかったチビ助が急に暴れ出した。服の上からも見てわかるほどに、ドゥルンドゥルンと激しく動いている。これ、エイリアンが腹突き破って登場する前ぶりじゃん。やばい。背後を歯科衛生士が往来する足音がひっきりなしに聴こえる。「きゃあ! なにこれ」とか言われたらどうしよう。
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