兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

文字の大きさ
上 下
68 / 86

○誰も何も言わないからといって……。

しおりを挟む
「許されるわけねーだろが、このバカッタレがーっ!!」
「ぎゃーっ!!」
 まさかのジャーマンスープレックス。仁美の火葬が終わった途端、親父があらぶりだした。そうだよな、一つ屋根の下で息子達が過ちを犯しているのを止めない親なんか、いるわけがない。しかし、怒られるのは俺だけだろうと思ったら、逆に知玄とものりがとっちめられてしまうとは。

「で、番契約はどうやったら解けんでや」
「αがΩに対して解除するって一言言えばいいだけだって、誓二せいじさんが言ってました」
 知玄はぐすっと鼻をすすり上げた。
 まるで魔法だ。親父は半信半疑そうな顔で、顎を擦っている。
「アキよ。本当なんきゃ」
「うん、解除権があるのはαだけなんだって」
 しかもαは番を解消してもノーダメージだ。一方、Ωはといえば、ショックで身体を壊すし、一生他のαとは番契約を結べない。発情期ヒートにはαを無差別に惹きつけるフェロモンを出すし、ヤられれば妊娠する。庇護してくれるαを喪ったΩの行く末は悲惨だ。
 なんて、詳細は語らない。知玄を迷わすような事は言えない。俺だって、この番契約は解除されるべきだと思うし。
「ほら、知玄。兄ちゃんに番を解消しますって言え。オメーが兄ちゃんを解放するんだ。オラ、けじめをつけろや!」
 親父にせっつかれて、とうとう、知玄が折れた。
「僕、井田知玄は、お兄さ……井田知白ともあきさんとの番契約を、解除します……」
 
 翌日から急に暖かくなった。桜は三月の間に満開になり、四月を待たずに全部散った。だが俺の二十二歳の誕生日は冬が戻って来たように寒く、朝からみぞれまじりの冷たい雨が降った。日曜だというのに、親父から一階の事務所に呼び出された。
「調子はすっかりいいのか」
「お陰様で、久しぶりに煙草がどちゃくそ美味ぇ」
 俺が煙を吐き出すと、親父はあからさまに顔を顰めた。
「アキよ。お前、少しは自分の健康に気ぃ遣いな」
 今更何を言うか。酒と煙草は紳士の嗜みだとか言って、俺に十三からやらせてたのは誰だっつうの。
「急に俺を娘扱いすんなって。Ωはガキを産むってだけで、あとはただの男と変わんねえの」
「それぐらい、おめえらの世代よか俺らの方がよく知ってんだよ。それにしても」
 親父は俺が言うことを聞かねえから諦めたのか、自分も煙草に火を点けた。
「お前、よくちゃんと医者に通ったな」
「うん?」
「仁美を身籠ってた時によ。さすが俺の息子だ、胆が据わってらいな。孕んだ男Ωは病院にも行かず、一人で部屋とか公衆便所とかでガキぃ産んで、そのまま棄てっちまうのが定石だっつうのに」
「ふん、なりふりなんか構ってらんねぇだろ」
 親父は笑った。
「俺と母さんの子育ては失敗じゃなかったってこったな。まぁ、知玄の方はもう少し教育が要るみてえだが」
「どうだか」
「ところでアキよ」
「何?」
「今年は仕方ねぇが、来年こそ修業に出な。却って丁度いいだろ、同期が同い年ばっかのが。お前には期待してる。外で一杯学んで、俺の会社を継いででかくしろよ」
「へいへい」
 結局、それが果たされることはなかった。俺が修業に出て三年もせず、親父の会社は連鎖倒産の波に呑まれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...