兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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○「俺に頭下げてもしょうがねぇだろ」

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 医者は別に仕事を休むことはないと言ったけど、親父とお袋が今日ぐらいは休んどけと言うから、部屋でゴロゴロしていた。期待はしてなかったがやっぱり、昼も待たずに親父から降りて来いと言われた。
「おぅ、来たな。そこ座れや。ちっと電話番してるだけでいい」
 親父に言われて、俺はお袋の事務机に着いた。
「何、母さん達、まだかかるって?」
「ああ。面倒臭ぇ事になったってよ。ま、人が死んだ後っつうのは、いつでも面倒臭ぇもんだけどな」
 親父はため息を吐いて携帯を持ち、お袋に電話をかけた。
 お袋と知玄とものりは役場に行っている。おチビのことで届出をする為だ。だが、男Ωが産んだ子の出生届と死亡届を出すというのは前例がないらしく、お袋と知玄は担当者と揉めているらしい。
 そうなると思った。俺が保健所に妊娠届を出しに行った時も「前例がない」って言われたもんな。保健所の窓口では一旦保留にして後で連絡すると言われたが、いくら待てども連絡は来ず、こちらから何度催促しても、まともな返事を得られなかった。それで、母子手帳も貰えないままだ。
「それは困ったな……」
 俺は椅子の背もたれに背中を預けて、右に左にと椅子を回した。死亡届まで出して埋葬許可証を貰わんことには、おチビを病院から連れて帰ることも出来ない。おチビは今頃どうしている? 連れ帰れなければどうなるんだ。
「しょうがねぇ。じい様を頼るか」
 親父は早速、本家の祖父じいさんに電話をかけた。
 俺はやっと電話番の任務を解かれたが、二階に戻るのが億劫で、応接ソファに寝そべった。
 親父と事務所に二人きり。スゲー気詰まりだ。煙草でも吸えればなと思って、そうか、もうおチビは腹の中にいないんだから、煙草でも酒でもいくらでもやって構わないんだなと気付いた。そんな気は、全然起こらねえけど。
 親父は気持ち悪いほど何も言わねえ。昨夜、俺とお袋と知玄の三人で「すみませんでした」と頭を下げた時も、「俺に頭下げてもしょうがねぇだろ」って言ったきりだ。
「なぁ、アキよ」
 不意に話しかけられて、うたた寝をしていた俺はビクッとした。
「何だよ」
「朝子の奴、何でお前のこと、俺に黙ってたんだろうな」
「さあ知らね。お袋に聞けば?」
 本当は知ってる。親父の事が大好きだからに決まってんじゃん。お袋は親父をがっかりさせたくなかったんだ。ガキの頃の俺は親父にそっくりで、目に入れても痛くないほど可愛がられていた。親父の自慢の息子が本当は欠陥品オメガだなんて、お袋には言えなかったんだ。だから俺がΩだという事は、お袋と俺だけの秘密。五歳でΩだと判明した時、俺はお袋にそう約束させられた。
「ま、それが俺の甲斐性ってこったな」
 親父の呟きに、俺は「好きに思ってれば」と答えて目を閉じた。
 お袋が恐れたような反応を、親父はしなかった。俺の読み通り。親父はなぎさの親父さんみたいな掌返しはしない。いや、読みというよりは、単なる願望だ。親父にまで裏切られたら、きっと立ち直れなかった。
 ややこしかった案件は、じいちゃんが誓二せいじさんを連れて直々に役場に足を運んだことで、一発解決した。市内随一の有力者と弁護士のコンビ、マジ強ぇ。
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