兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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○身過ぎ世過ぎ。

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「お兄さん、その痣……」
 言いかけるや、知玄とものりはガバッと立ち上り、犬の様に空気の臭いを嗅ぐと、部屋を飛び出した。俺はのろのろと後を追った。知玄のでかい声が二階まで響いてくる。
「兄は今、体調が悪くて人に会える状態ではありませんっ」
 誰と話してるんかと思ったら誓二せいじさんだった。
「知玄、お前は二階うえに行ってろ」
「でも……」
「いいから行け。誓二さん、事務所で話そ」
 知玄は不承不承といった感じだったが、大人しく二階へ上がっていった。
「本当に具合が悪いみたいだな」
 誓二さんの表情が曇る。
 要件はなんて事ない。東京に良さげな物件を見付けただと。貰ったパンフを、俺は事務机に隠した。ここなら知玄には見つからない。
 茶の間に戻るなり、知玄は俺を炬燵の脇に押し倒した。
「なに?」
「僕、心配です」
「誓二さんが俺になんかするんじゃないかって?」
「いえ、それもありますけど、そうじゃなくて。最近、お兄さんの元気がないので……」
 知玄は俺の臭いを嗅ぎ、首筋を舐めた。密着する熱い身体と、熱を持ったあれ。口では俺を労るが、身体は俺を犯したがっている。俺は知玄の背中をトントンと叩いた。
「するんなら部屋でしよ」

「どんな体位がいいですか?」
「横んなって、後ろから抱えてするやつ」
「お兄さん、それ好きですよね」
 身体に負担がかかりにくいからな。でもやっぱ、挿入されるだけでちょっとキツい。内蔵を大きな手でぎゅっと鷲掴みされる感じ。知玄がゆっくり腰を使い始める。段々、下腹が苦しいのを通り越して痛くなってくる。腹に力が入らないよう、大きく深呼吸する。
「大丈夫ですか、痛くない?」
 知玄は俺を気遣いながらも、苦しい体位なりに突き上げようとして来るし、前を乱暴に扱いてくる。
「ダメ、それきっつい。前、触んないで。ゆっくり動いて……ん、それくらい……」
 発情期ヒートの時みたいに、中が熟れて痺れる感じ。頭がぼうっとして、馬鹿になりそう。だけど、発情期の、辛くて頭がおかしくなる感じはしない。
 知玄の荒々しい息遣いが首筋にかかる。盛ってんな。αとΩは共鳴するというから、知玄が盛ってるってことは俺もまた盛ってるってことかもしれん。むしろ、俺が原因で知玄がこうなっているのかも。こんな時に、いや、こんな時だからこそ、か。弱った身体が、αの気を惹き、たすけを得ようとしている。Ωは業が深い。誓二さんならこれを「Ωの身過ぎ世過ぎだ」って言う。
 知玄は性欲の奴隷状態になりつつも、健気に何くれと俺の世話を焼こうとする。俺の身体が冷えないよう、下履きをずらすのは必要最小限で、重ねた毛布と布団がずり落ちないように気を配り、俺を包み込もうと必死だ。かと思えば俺の額を触り、熱が上がり過ぎていないか確かめる。本人は額に汗を滲ましている。発情ラットの時のαらしい振る舞いだ。荒々しいのに、死ぬほど優しい。
 問題はただ、俺と知玄が実の兄弟だっていうこと。兄貴が弟にこんな気遣いを求めちゃ駄目だ。
 静かな寝息を立てている知玄の腕の中から、俺はそっと抜け出す。茶の間が夕飯の時のまんまだから、食器を片付けて洗ってから寝なきゃ。
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