兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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○牡蠣食えば……。

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「あはは違いますって。ただの思いつきで。どこまでやれるか実験的な。つか俺、彼女いねぇし。でも飯食い行くだけなら……」
 通話を終え、携帯を畳む。はぁ。半月以上引き籠っていたら、夜のテンションにアゲていくのが辛い。だが、あんまり人付き合いを疎かにするのもなんなんで、今夜は高志たかしさんの誘いに乗ることにする。夕飯抜いたせいで、丁度小腹が空いてきたことだし。
 もう夜の九時。知玄とものりの野郎はまだ帰って来ねえ。今日はバイト休みだったんに、オーナーに電話で急遽呼び出された。もはや学生バイトの勤務形態じゃねえ。そろそろ親父にチクりを入れた方がいいかもしれん。
 上着を羽織り、ポケットに財布と携帯、そして煙草の代わりにミルク飴を詰め込む。この間、俺が咳をしてたら知玄がこれと同じ飴をくれたんだが、のど飴でもねぇのに結構効くんだ。
 大寒の前日。昼間は晴れていたが、それだけに夜は風が強くて寒かった。スナック『ゆりあ』は物凄く暇で、ママは十時を待たずに店じまいをした。そして高志さんとママと俺の三人で、高志さんの知り合いがやっている創作居酒屋に邪魔することになった。
「今夜のおすすめは?」
 高志さんが店の大将に聞いた。
「新鮮な生牡蠣が入ってるよ」
「おー、いいね。アキ、生牡蠣食ったことあるか」
「いや、ないっすね」
「アキにも食ったことのねぇもんがあるんか」
 高志さんは嬉しそうだ。うちもバブル時代は羽振りがよくて、てっちりとかウニとか色々、珍しいもんを食わしてもらったけど、親父が貝類を好かないせいで、牡蠣は一度も食卓に上ったことがない。俺も自分からは食いたいと思わねぇし。
「お待たせしました」
 各人の目の前にひとつずつ、大ぶりの生牡蠣が差し出された 。高志さんとママはすごいデカイと喜んでいるが、俺はグロいなと思った。
「これ、どうやって食えばいいの」
「ツルッといけツルッと!」
 いやどう見ても固体じゃん。液体を飲むように飲めるかよ。でも高志さんが本当にツルッといったから、俺もかぼすを搾ってツルッといってみた。お、結構いける。
 だが中った……。
 深夜、死ぬほど吐きそう、でも吐かない! と、便所と土間を行ったり来たりしていたら、知玄が帰って来た。
「あれお兄さん、こんな所で何してるんですか」
「牡蠣……中っ……」
 俺は口を手で押さえた。なんか喉元までせり上がってくる。冷や汗と震えが止まらない。「お前こそ、今何時だと思ってんだよ」という一言が言えない。
「えぇっ。我慢しないで全部吐いちゃった方がスッキリしますよ」
 嫌だ、人生で一度も吐いたことない記録に傷をつけたくないっ。
「吐けないんなら僕がお手伝いします。この間、泥酔してた時みたいに」
 どういうこと!? 食中りよりもショックなんだけど! うちひしがれる俺を知玄は便所に引き摺って行き、やめろというのに背中をゴシゴシ擦った。
「怖がらなくていいですよー。僕がついていますからねー」
「ぅ……まじ……ぎもぢわる……っ*****」

 くそう、知玄の野郎め。確かに楽にはなったけれども……。むしゃくしゃしたのでバイトの件を親父にチクると、親父は即オーナーに電話して、元の週三勤務に戻させた。
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