兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

文字の大きさ
上 下
18 / 86

◯まるで子供の悪戯のように。

しおりを挟む
 漫画一冊読み終わらした丁度そのときに、知玄とものりはやってきた。
「お邪魔しますー」
 ドッキリ番組のレポーターみたいなひそひそ声で言い、ドアの隙間から滑り込んできた。
「ちゃんと細工はしてきたか?」
「バッチリですよ」
 知玄は親指を立てた。知玄の部屋の方から、ロックの重低音が聴こえてくる。俺が部屋にこもって「また何かやってる」だけならお袋は気にも留めないが、知玄が部屋にいないとなれば大騒ぎだ。だから部屋にいる風に装えと、知玄に予め言い含めておいたんだ。
 知玄は寒そうに自分で自分の二の腕を擦った。
「来な」
 俺は被っていた毛布を少し上げ、知玄を招き入れた。二人で頭まですっぽり被った毛布の下、知玄は喋り出した。
「この部屋、エアコン利かせ過ぎじゃないですか?」
「いいんだよ。暖かい季節だからこそ、わざと部屋の気温下げて、布団被って寝んの」
「贅沢ですねぇ」
 くっくっと知玄の喉が鳴る。
「この毛布いいな、肌触りが良いし、お兄さんの匂いがいっぱいします」
「いいだろ。そのまま朝まで眠っててもいいよ」
「それは嫌です」
 不意打ちで脇を擽ってやると、知玄は女の子みたいにキャッと言って身をよじった。そして仕返しとばかりに俺の横っ腹を擽ろうとする。毛布の下で互いに手や足でつつき合う。親に内緒で夜更ししているガキのテンションで、笑いを噛み殺しつつじゃれ合う。子供のおふざけと違うのは、やがて始まるのは本気の喧嘩ではなく本気の愛撫ってことだ。
 毛布の中に熱と湿気が籠る。俺達は薄く汗ばみながら、触り合った。蒸し暑さに我慢できなくなると、胸の辺りまで毛布を剥いだ。
 俺は知玄の顔にかかる猫っ毛を手櫛でかき上げた。鼻筋と鼻筋を擦り合わせ、キスをする。
 知玄のキスはこなれているのに、地味にヘタクソ。だが下手さが気にならないくらい、興奮は最高潮に達していて、夢中で貪り合う。唇が離れると、知玄は俺を仰向けに転がし、のしかかってきた。
「本当にいいんですよね?」
 知玄は今にも泣き出しそうな顔だ。
「おう。ただし、約束はちゃんと守れよ」
「はい」
 約束は、大声を出さないこと、俺が嫌がることをしないこと、そして絶対に口外しないこと。
「ほんとに守れる?」
「守れます」
 知玄は真剣な顔で断言した。
 これ、本当なら兄ちゃんである俺が止めないといけないやつ。カエル事件の教訓を活かせてねぇ、と、霞がかった頭で考える。
 まだ小学校に上がる前だ。おたまじゃくしを獲ってきて知玄に見せた。俺は観察したらすぐ田んぼに帰すつもりだった。でも知玄が飼いたいって駄々をこねたから、水槽を作ってやった。そしたら数週間後、おたまじゃくしがカエルになって大脱走。俺達は親父にすげー怒られた。知玄がぴーぴー泣いて可哀想だった。その一件で思った。弟の我儘は聞くもんじゃないって。
 知玄が後ろから、俺の手首を強く引っ張る。シーツに俯した身体が持ち上がり、結合が深くなる。
「……っ!」
「ごめんなさい、痛かったですか?」
 口では労るようなことを言いながら、知玄は容赦なく腰を打ちつける。意識が飛びそう。でも俺がしっかりしないと。これ以上過ちを重ねないように。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...