兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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●兄弟水入らずの内緒話。

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 僕ったらまたなんてことを! 僕はまたしても兄の匂いにクラっときてしまい、押せ押せで兄に貪りついてしまった。膝の上に兄を乗せて、なんとか身体を繋げようと頑張ったが、この体位でこちらから仕掛けるのはちょっと無理だった。いや、無理でよかったのだ。僕がしたかったことはそれじゃない。それはそれでしたかったけれども!
 無我夢中で兄を浴槽の縁まで追い詰めた僕を、兄は火照った顔で見上げた。例の、うっかり兄弟でしてしまった事件の時は、兄の方からキスをしてきた。今度は僕の方から唇を兄の唇に重ねた。息継ぎするのもままならないキス……になるかと思ったら、兄の手が僕の胸を押し返した。
「すみません!」
 僕は慌てて兄から離れ、再度、膝を抱えた。兄は顔にバシャバシャとお湯をかけて、何か汚いものが着いたのを落とそうとするかのように、口の周りを丹念にこすった。それに僕はちょっと傷つきながらも、謝罪を続けた。
「本当にすみませんでした。僕がしたかったのはこういうことではなくて、お兄さんにまた謝ろうと思ってたんです。あの時ついクラっときてお兄さんの寝込みを襲ってしまったこと。僕が噛みついた痕、くっきり残っちゃいましたし。最近、僕、うっすらお兄さんに避けられている気がしていたので、まだ怒ってるのかなぁと思って」
 すると兄は一瞬きょとんとして、それから目を逸して言った。
「すまん、そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「ふえぇ!?」
 思わず変な声が出た。自分が謝罪するはずが、兄に謝らせるとは、なにごとか。ヤバい、また失言をしてしまった……。
 ぴちょん、と、兄と僕との間に雫が落ちた。今更ながら、近いなと思う。極限まで脚を縮こめて、それでも爪先が兄の爪先に当たるほどだ。親指の爪が長すぎることが気になりだす。迂闊に兄の爪先に当ててしまったら、怪我をさせてしまいそうだ。
知玄とものり
 不意に呼ばれて、僕は目を上げた。
「はい」
「お前さ、最近は付き合ってる女子いねぇの?」
 えっ。さっきまでいい雰囲気だったのに、そういうこと聞きます?
「いませんけど……急に、何を?」
「兄弟水入らずで内緒話をしようって、お前が言ったんじゃん」
「言いましたけど、ほんとうにただ、僕はお兄さんにごめんなさいを言いたかっただけで、恋バナがしたかったんじゃないです。でも……」
「でも?」
 もしも許されるのならば、僕はお兄さんへの愛を語りたい。兄弟同士で恋をしても全然構わないというのなら。そういう恋バナならば、一晩中語り続けても、尽きることはないだろう。だが僕だって、そんなの世間が許してくれないことくらい、解っている。
 兄は僕をじっと見つめたまま、僕の答えを待っている。
「お兄さんの方こそ、最近どうなんですか」
 質問に質問で返すのは卑怯だ。でも、どうせ兄は僕の本心を打ち明けられることなんか望んではいないのだから、いいのだ。
「彼女は要らね。嫁は欲しいけどな」
 兄は僕から視線を逸し、遠くを見るような目をして続けた。
「恋だのなんだのにはもう飽きた。あとは長男としての務めを果たすだけだ」
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