兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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◯キャバ嬢あるある。

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 ドアを開けたら、正面の部屋のドアも同時に開いた。知玄とものりだ。
「なに?」
「何でもないです」
 グフグフという笑い方が気持ち悪い。せっかくのイケメンが台無しだ。
「お兄さん」
「なに?」
「ただ呼んでみたかっただけです」
 何なんだよ、もう。
 部屋に戻ったら、テーブルの上で携帯が光っていた。着信だ。セフレだった。携帯をベッドに向かってぶん投げようとしたところで着メロが鳴った。ムカつきのあまりに俺は画面も見ずに電話に出た。
「何!?」
「あ゛? うるせぇ!!」
 真咲まさきだ。そっちからかけてきたくせに「うるせぇ」たぁどんなご挨拶。人違いでキレながら出た俺も大概だけど、真咲の即ギレ対応は迅速過ぎて笑う。「さすが『スナックゆりあ』の陰の支配者は切れ味が違うな」と褒めたら怒られた。だがすぐ猫なで声を出しやがって、「今暇ぁ?」とぬかす。今日は早く寝るつもりだったんだけど。まぁ、いいか。親父が家に居ねぇからゆっくり過ごせるぞと思いきや、知玄が気持ち悪いせいで居心地が悪いし。

「それをうちらの前で言うん!」
 カウンターの中で真咲はそう言ってぷっかーっと煙を吐き出した。俺と歳が一個しか違わないのに凄い迫力だ。
「だってここキャバじゃないもん」
 高志たかしさんは悪びれない。俺ら常連達は「キャバ嬢って、ちょっと仲良くなると暗い過去を打ち明けて来がちだけど、そういうの俺らは求めてねえから。」という話で盛り上がっている。
「それって、ただの自己紹介なだけじゃないんすか」
「うわぁ、若い子入ったからってカッコつけてるよ。あからさま過ぎて引くわ」
 真咲はゲラゲラ笑って言う。
「こんなヤツに騙されたらダメだかんね。コイツ自営の長男だし、付き合うとめんどいよ」
 新人さんは曖昧に笑った。
「そーそ、俺のいい所は顔だけだから」
「自分で言うなし」
 俺が煙草を灰皿に押し付けると、新人さんはすかさず灰皿を新しいのに交換した。
「お作りしましょうか?」
「じゃ、お願い。薄めで」
「薄め」
 一服点けて目を上げたら、新人さんは俺のボトルを構えてグラスを睨んでいた。
「ストップって言ってくださいね!」
「あ、はい」
 この店、また変な子を雇ったな。でも乳が大きいからいいけど。顔も可愛いし。眉毛が太くて、素朴で。
 水滴をきれいに拭われたグラスが目の前に差し出された。新人さんが真剣な目でこっちを見るので、
「ありがとうございます、いただきます」
 まるで知玄のように俺は言って、グラスに口をつけた。新人さんは素朴な笑顔を見せた。この子もそのうち、スレて真咲みたいになんのかな。
「名前、なんていうの?」
あかねです」
「茜ちゃんか」
 こんな掃溜めにいるより、知玄の隣にでもいる方が良さげな子だ。
 ポケットで携帯が鳴った。
「さて、そろそろ出よ」
「何でぇ、知白ともあき。まだ来たばっかじゃん」
 高志さんが肩を当ててくる。
「明日も来ますよ。来月は祭りの稽古だし、遊べる時に遊んどかないと」
「おっパブ行こうよ」
「やだよ。俺、女の子と戯れるなら密室がいいもん。ね?」
  茜は目を輝かせて「祭り……」と呟いた。やっぱ変な子だ。
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