兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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●暖かくなってきたので。

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 先日の出来事以来、僕と兄の距離が縮まったかといえば、そんなことはなく。一つ屋根の下で暮らし一つの食卓を囲む、僕達は正真正銘の家族だというのに、へたをすると盆暮れ正月に顔を合わせるだけの親戚ほども、接点がない。
 夕方、 部屋を出たら、ちょうど兄が階段を上がってくるところだった。兄はパンツ一丁姿で、スポーツ刈りの金髪頭をバスタオルでごしごし拭きながらやってきた。気候が暖かくなれば、井田いだ家の男達はいつもこんな感じ。僕だってそうだし、父なんかは素っ裸で堂々と歩き回る。別段珍しいことではないけれど、僕は滅多に見れないものを見たかのように、兄の裸身に目を奪われた。仕事柄鍛え上げられてよく引き締まった身体つき。筋骨隆々で男らしく逞しいが、普段衣服に隠されている部分の肌は、雪のように真っ白だ。
「なんだよ」
 兄が僕を見上げる。兄は小柄だが、最近また日焼けをしてきて精悍さを増したシャープな美貌の威圧感が半端ない。僕はおろおろと視線を逸らした。つい、先日のことを意識してしまう。あのときは無我夢中だったけれど、僕はこんなに美しい人を抱いたのか。
「お兄さん」
「何」
 兄の不機嫌さマックスの声色に、僕は怯んだ。これまでの人生で僕が兄に相対して怯まなかったことなどなかったのに、僕はまるで見知らぬ通りすがりの人にいきなり怒られたかのように狼狽し、混乱した。そのせいか、思わぬ言葉が口をついて出た。
「また、そんな格好で歩いて」
 うわ言っちゃったー! 兄は即座に「はぁ?」と眉間に深いシワを寄せた。
「いつものことだろ」
 チンピラらしい、どすの利いた声だ。
「うー、そうですけど、お隣さんが回覧板をまわしに来たり宅急便屋さんが来たら、どうするんですかー!」
 我が家の造りはごく普通の民家とはだいぶ違っていて、プレハブ二階建ての二階が居住スペースで、一階には、家業の事務所と従業員休憩所として使われている広い土間があって、トイレと風呂場はその土間の脇にある。風呂に繋がる通路は土間から丸見え。ということは、風呂から裸のまま出てきたタイミングで、不意に客が訪ねて来た場合、恥ずかしい格好で鉢合わせることになるんですが……と、僕の脳内は、失言をどうにか取り繕おうと、忙しい。
 兄はフンッと鼻を鳴らした。
「回覧板は朝には来るし、宅急便ならいつも事務所の方に行くだろ」
「うー」
「うちが他所ん家よりも早いのは、近所中知ってることだ」
「そうですけど、でもぉ」
「でも、なんだよ」
「……目のやり場に困ります」
 言い方! 兄はポカンと口を開けた。その表情は先日、あれをした最中に見せた顔そのままだ。あのとき、どうやら兄は寝惚けていたようで、途中まで自分が何をしているのか気づいていなかったようだった。濃厚な口づけの最中、兄はふと唇を離すと、その表情かおで、
『だ……』
 と言いかけた。ん? もしかしてその「だ」って、「誰?」の「だ」ですかね?
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