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村人大不安(1)

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「なあ、ガイ」

「な、何だよ、カツミさん?」

「静かに付いて来れないのか、そいつは! もう少しおとなしくさせろ!」

 カツミは大声を上げ、楽しそうにガイの周りを跳び跳ねている者を指差す。

「な!? なー、カツミはすぐ怒鳴るにゃ。声も顔も体もでっかくて、とってもうるさいにゃ。でも、ガイはとーっても優しいにゃ」

 そう言いながら、ガイにまとわりつき、顔をこすりつけるチャム。すると、ガイの顔が一瞬にして赤くなる。

「お、お前!? いきなり何しやがる!?」

「な? な……お、怒ったにゃ? ごめんにゃ……ニャンゲン人はすりすりされるの嫌いだったかにゃ?」

 怒られたとでも思ったのか、悲しそうな顔をするチャム。だが、タカシが彼女の肩を叩く。

「何を言ってるんですチャム! すりすりされて嫌な男はいません! ガイくんは照れてるんですよ。ガイくんは本当に、顔に似合わぬ純情ボーイですなあ! ああ青春青春! 懐かしいな──」

「ブッ殺すぞ……」

 陽気なタカシの発言を遮り、ガイは凄まじい形相で睨みつける。さすがのタカシも身の危険を感じたらしく、神妙な顔で口を閉じた。

「チッ……なあチャム、お前ケットシー村に帰らなくていいのか?」

 ガイはムスっとした顔を作りながらも、ぎこちない口調で尋ねる。

「なー? いいにゃいいにゃ。ニャントロ人はあちこち旅をするのも大好きだにゃ。それにチャムは、ガイと一緒に旅をしたいにゃ!」

 そう言うと、ガイを見つめながら喉をゴロゴロ鳴らすチャム。ガイは、またしても頬を赤くした。

「えっ、なっ……バ、バカ言ってんじゃねえ!」

 そんな二人を、ヒロユキは不安そうに見つめる。チャムは、どこまで付いて来るのだろうか。

「ギンジさん、もしもチャムがぼくたちの世界にまで付いて来たら、どうすればいいんですか?」

「知るか。決めるのはチャムとガイだ。それよりヒロユキ、ホンチョー村ってのはどんな所だ?」

「いや、特にこれといった特徴はなかったと思いますが……ゲームの時は、特にイベントはなかったですしね」



 コルネオの悪企みによる襲撃を撃退した後、一行はケットシー村にさらに二日ほど滞在した。ダイアウルフの肉や毛皮を渡し、また村を襲った男たちから奪った武器や持ち物、所持金などをニャントロ人たちと山分けした。その代わり、保存の効く干し肉や干した果物などをもらったのだ。
 村を襲った男たちは、カツミとギンジの二人にさんざん脅され、さらにはガイに全員ブン殴られ、最後にタカシのマシンガントークに丸一日付き合わされ、肉体と精神の両方にかなりの深傷を負った状態で解放された。

 その後、一行はどこに行くか話し合った。

「ホンチョー村に行くべきです。真っ直ぐ行けば、無用な争いは避けられます。この世界を抜け出るヒントは、魔法使いたちのいる城塞都市のガーレンにあると思いますが……そこを真っ直ぐ目指すとなると、他の種族や怪物との争いは避けられません。少し遠回りになりますが、まずホンチョー村に寄り、そこから街道に出るべきです。そのルートなら……せいぜい山賊くらいしかでません。山賊なら、脅かせば逃げていくでしょう」

 いつになくヒロユキが強硬に主張し、その意見をギンジが後押しする……という形になった。まあ、この世界に関する知識をヒロユキ以外の誰も持っていない以上、反対意見は言えないワケだが。
 一行はニャントロ人たちにさよならを告げて、ホンチョー村に向かった……はずだったが、なぜかチャムも一緒に付いて来てしまったのだ。

「なー、チャムはガイと一緒に行きたいにゃ」

 当然、ヒロユキは反対した。いずれ、ガイは元の世界に帰る。元の世界には、ニャントロ人のチャムは連れて行けないのだ。一緒に過ごす時間が長ければ長いほど、別れが辛くなる。だったら、ここに置いて行く方がいい……だが意外にも、ヒロユキに賛成したのはカツミだけだった。
 ガイはうつむきながら、こう言った。

「別に、いてもいいじゃねえかよ……」

 タカシはヘラヘラ笑いながら、

「いやあ、チャムの可愛らしさが、ささくれだった我々の心を癒してくれます! 連れて行きましょう! 何なら我々の世界にも連れて行きましょう!」

 などと、陽気な口調で言う。さらに、確実に反対するだろうと思われていたギンジまでもが賛成したのだ。

「とりあえずは、連れて行ってもいいと思うぜ。この世界の知識はいくらあっても困らない。チャムの知識も必要かもしれない」

 誰が言い出した訳でも決めた訳でもないのに、その度胸と交渉術、冷めた迫力でいつの間にかリーダーのような存在になっているギンジ……そのギンジに言われてしまっては、ヒロユキもカツミも何も言えない。
 かくして、六人となった一行はホンチョー村を目指して歩き始めた。



 そして今、一行の先頭を歩いているのがチャムとガイだ。チャムは先頭に立ち、ガイの周囲を楽しそうにピョンピョン跳び跳ねながら、ホンチョー村までの道案内をしている。
 彼らの後ろから、タカシとカツミが付いて歩いていた。タカシは相変わらず、ヘラヘラ笑いながら周囲をキョロキョロ見回しながら進んで行く。カツミは大量の荷物と武器の詰まったギターケースを背負い、黙々と歩んでいる……が、時おりタカシやガイに鋭くツッコミを入れていた。
 その後を、ヒロユキとギンジが続いている。ヒロユキはケットシー村での一件以来、人が変わったように歯を食いしばり、皆に付いて歩いている。横で歩いているギンジの方がむしろ辛そうだ。

 二度の休憩を挟んだものの、一行はどうにか目指す村らしき場所にたどり着いた。日は沈みかけてはいるが、まだ明るさは残っている。この時間帯なら、村人たちとも接触できるだろう。

「なー、着いたにゃ。チャムも来るのは初めてだにゃ……ニャンゲン人いないにゃ。静かだにゃ」

 チャムが辺りを見回し、不思議そうに言う。
 確かに、人の気配は感じられない。村は木でできた柵に囲まれ、その内側には小さな畑がある。牛や鶏の鳴き声もする。また、そういった動物たちの存在に伴う独特の匂いも、辺りにたちこめている。さらに木造の粗末な造りの家が十件以上あるが、その内の幾つかの煙突からは煙が出ている。
 人間が生活している痕跡は確かにあるのだが、しかし人の姿は見えない。

「どうなってるんでしょうねえ……えー、もしもし! 誰かいませんか!」

 無神経なタカシが村の中にずかずか入り込み、大声を出す。
 すると、疲れきったような声が聞こえてきた。

「また来たのか……」

 声とともに、年老いた男が一軒の家の中から姿を現した。痩せた体ではあるが、長年の野良仕事で鍛えられた手をしている。表情は暗く、こちらを警戒する目でこちらを見ていた。

「また来たのか、って……私らは、この村に来たの初めてですよ。ちょいと旅をしてましてね。まあ私らは、ここらへんのことは何も知らない人間でして、今日一晩だけでも泊めていただけると助かります」

 タカシはヘラヘラ笑いながら、老人に身振り手振りを交えて話し続けた。そのタカシの雰囲気に、老人の表情が徐々に和んだものに変わっていく。

「では、お前らは……山賊ではないのだな?」

 タカシの言葉が途切れた瞬間、狙っていたかのように老人が言葉を発した。

「はあ!? 山賊!? 何を言うのですか、お爺さん! 我々のどこが山賊ですか? 見てください、この可愛らしい猫娘を! そして見てください、この青春真っ只中の爽やかな青年と……それを見守る中年を!」

 言いながら、タカシは後ろの者たちを示す。
 しかし後ろにいるのは、顔の右側に大きな火傷痕のある人相の悪い少年と、百九十センチあるスキンヘッドの大男である。さらに後ろには、銀髪頭の不気味な男が、鋭い目付きで村を観察するかのようにあちこちジロジロ見ている。

「ま、まあ人相はアレですが、悪者ではないですから! では失礼して!」

 タカシはそう言うと、皆を勝手に招き入れた。







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