世にも異様な物語

板倉恭司

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コンビニでアイスを買ったら……

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 川端誠カワバタ マコトは、ガラス越しにじっとコンビニの中を見ていた。
 視線の先にいるのは、ひとりの若い女だ。髪は黒いが、瞳は形が良く鼻も高い。欧米人の血が入っているのかもしれない。とにかく、ここらでは中々お目にかかれない美人だ。
 手足は長くすらりとした体型で、身長は高からず低からず。タンクトップの胸元は豊かで、ホットパンツを履いた下半身のラインはもはや芸術的だ。
 見ているだけでわ押し倒してやりたくなる……そんなことを考えつつ、誠はじっと女を観察していた。女は、ゆっくりと店内を物色している。他に客はいない。
 誠はタバコを吸い、スマホを見ている……ふりをしつつ、なおも女から目を離さない。
 やがて女は、買い物かごの中にアイスクリームを入れた。途端に、誠はニヤリと笑う。この夏の暑い時期に、コンビニでアイスを買った……つまりは、家がここから近いということだ。しかも、買い物かごの中身から察するに、ひとり暮らしである可能性が高い。
 これはイケるかも……そんなことを思いつつ、誠はじっと待った。

 やがて、女はコンビニを出た。ビニール袋をぶら下げ、すたすた歩いていく。後ろを警戒する様子はない。誠はというと、そっと後を付いていった。尾行には慣れている。これまでに、何人もの女の後を付けたことがあった。
 女は、アパートに入っていく。階段で二階に行き、鍵を使わずドアを開けた。
 見ている誠は、思わず笑っていた。あの女、鍵をかけずドアを開けた。ということは、鍵をかける習慣がないのかもしれない。
 そっとドアノブに触れてみる。ひねってみると、呆気なく開いた。
 これは、鴨が葱を背負ってやって来たようなものだ。あとは、あの体をいただくだけである。誠は、一気に部屋に押し入る──

「えっ?」

 口から出たのは、そのセリフだった。
 室内には、先ほど買ったビニール袋が見える。床に無造作に置かれていた。しかし、女の姿はどこにもない。さほど広くない部屋であり、身を隠すような場所などないのだ。
 直後、背後から微かな音が聞こえた。すたん、という音だ。続いて、背中に何かが飛びついてきた。さらに、首と胴に何かが巻き付く。
 不意を突かれた誠は、立っていられなくなり仰向けに倒れる。
 そこで、ようやく悟った。女は部屋に入ると同時に飛び上がり、異常な身体能力で玄関口の天井にへばりついていたのだ。自分が部屋に入ると同時に着地し、絞め技をかけてきた──
 だが、今となっては遅すぎた。首に巻き付いた腕は、きつく気道と動脈を絞め上げていく。誠は意識を保てなくなり、気を失った、



 それから、どのくらいの時間が経ったのだろう。
 気がつくと、誠は異様な部屋にいた。剥き出しのコンクリートに囲まれており、天井には裸電球がぶら下がっている。家具らしきものはなく。巨大な丸テーブルと椅子が五つ置かれている。
 その巨大な丸テーブルの上に、誠は縛り付けられていた。どういう縛り方をしたのか、手足は全く動かせない。口には猿ぐつわをされており、声を出すことも出来なかった。
 そして、あの女が楽しそうな表情で誠を見下ろしている。今は、ポケットのたくさん付いた作業服のようなものを着ていた。

「さーて、今からサイコロを振ります。何が出るか、楽しみだね!」

 女は、椅子の上に置かれた物たちに言った。その置かれた物とは、人の生首である。中年男性で、表情は苦痛に歪んでいた。どうやら本物のようだ。
 五つの椅子全てに、ひとつずつ生首が乗っている──
 そんな異様な室内で、女は四角いものを両手で持っている。正六面体で、一面が座布団くらいの大きさだ。

「ほーら! 転がれ転がれサイコロ!」

 言いながら、女は四角いもの……いや、サイコロを放った。
 サイコロは転がり、ひとつの面を上にして止まる。そこには、右足と書かれていた。

「右足!」

 女はサイコロを頭上高くあげ、楽しそうに叫ぶ。直後、ポケットから何かを取り出す。
 それはナイフだった。先の鋭く尖ったダガーナイフである。
 女はナイフを振り上げ、誠の右太ももに突き刺した──
 痛みのあまり、誠は悲鳴をあげようとする。だが、猿ぐつわのため声は出ない。
 一方、女はケラケラ笑いだした。ナイフを突き刺したまま、再びサイコロを持ち上げる。

「さーて、次はどこが出るかな!?」

 誠は、ようやく理解した。コンビニで獲物を物色しているつもりだったが、獲物は自分の方だった。
 あの女は、コンビニにいる時から誠に目を付けていたのだ。この狂った遊戯は、誠が死ぬまで続く。
 周りを囲んでいる生首は、この女が仕留めた獲物なのだ──

「ほーら! 転がれ転がれサイコロ!」

 女は叫びながら、サイコロを放った。サイコロは転がり、ピタッと止まる。

「左腕!」

 サイコロを頭上高くあげ、叫ぶ女。直後、またしてもポケットからナイフを出す。
 ニヤリと笑いながら、女はナイフを突き刺した──
 




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