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決戦! 逆襲のシローラモ!(3)
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大門大介は、ゆっくりと階段を上がって行く。この先に、魔王アマクサ・シローラモが待っているはずだ。あの怪人は、怪しげな妖術を使い人類を粛正しようとしている。
ふと、彼の言葉が蘇った。
(人類は自分たちのことばかり考え、自然を破壊し生き物たちを絶滅させている。今こそ、意識の変革が必要なのだと僕は思う)
その言葉は、間違いとは言いきれないのが悲しいところだ。
だからといって、奴の計画を見過ごすことも出来ない。番長として、何が何でも止めなくては……大介は神妙な面持ちで、階段を上がって行った。
「大介くん、よくぞここまで来たね。どうしても、僕の邪魔をするつもりかい?」
アマクサ・シローラモは、先日会った時と変わらない格好だ。黄金の冠を被り紺色のマントを羽織り、その下は白ブリーフだけだ。いかにも楽しそうな表情で大介を見つめる。ゴミにまみれた廃墟の中にあって、天使のように美しいシローラモの顔……ここは他の階と違い、幻想的な雰囲気すら感じさせる。
「当たり前だ! 俺は、ひとりの人間も殺させない!」
「大介くん……今の人間は、自然を蝕む病原菌のごとき存在だ。君の友だちの妖怪とて、人間に見つかれば捕らえられ、実験動物と成り果てるのだよ」
「そんなことは、俺がさせない!」
怒鳴る大介を、シローラモは憐れむような目で見つめて首を振る。
「無理だよ。人間は、妖怪を奇妙な動物としか見ないだろう。人間はしょせん、そんな生き物だ。だからこそ、罰を与えねばならないのさ」
「ふざけるな!」
大介は、憤怒の形相でシローラモに迫っていく。
「あんたは世直しのつもりなんだろうがな、やっていることが無茶苦茶なんだよ! これじゃ世直しどころか、ただのテロじゃねえか!」
言いながら、大介はシローラモを指差した。
「あんただって、世直しの顛末がどんなものか知ってるだろうが! インテリが夢みたいな目標をもってやるから、いつも過激なことしかやらない! しかも革命の後では、気高いはずの心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていくんだ!」
「僕は人間ではない。魔王なのだよ。世直しなど、する気はない。その才能と力を、愚かな人間どもに利用されている者に言われたくないね」
シローラモの声が、感情を帯びてきた。
「そうかい、話し合いは平行線てわけか……ならば、力ずくで止めてやる!」
叫ぶと同時に、大介は突進する──
シローラモの動きは速く、かつ変則的だ。しかも、ひらりと動くマントが大介の視界を遮る。そのせいで、攻撃を当てることが出来ない。
「クソ、チョロチョロ動きやがって! 卑怯だぞシローラモ!」
怒鳴り、渾身の右ストレートを放つ大介。その瞬間、シローラモはすっと身を沈めてパンチを躱す。
直後にシローラモは大介の腕を掴み、綺麗な一本背負いを極めた──
「うぐっ!」
硬い床に背中を思い切り打ち付け、大介は思わず悲鳴にも似た声を洩らす。
そんな大介を、シローラモは涼しい顔で見下ろした。
「どうしたんだい? この程度で、もう終わりか? 僕を止めるのではなかったのか?」
からかうような口調のシローラモに、大介はギリリと奥歯を噛みしめる。
「あんたはそうやって、人間を上から見下していたんだろうが。あんたは永遠に、人間を見下すことしかしないんだ!」
怒鳴りながら、大介は立ち上がった。だがシローラモは笑みを浮かべつつ、軽やかに舞う。
「そんなことより、君はここにいていいのかな?」
「な、なんだと?」
困惑の表情を浮かべる大介に、シローラモは嘲笑うような表情を向ける。
「君は、本当に単細胞だな。おかしいと思わなかったのか? なぜ、僕がここにいるのかというと……君の目を、門のある場所から逸らすためだよ。本当の門は、地下にあるのさ。旅館の地下一階に、僕は門を出現させた。僕や下の階にいた三人は、ただの時間稼ぎだよ」
その言葉に、大介の表情が歪む。確かに、異様な気を感じるのだ。気は膨れ上がり、今にもこの地を包み込もうとしている──
大介の表情の変化を見て、シローラモはニヤリと笑った。
「今なら、君にもわかるだろう。冥界の亡者たちが今、地下より出現しているのさ。亡者たちは、人間を無差別に襲い殺していく。もう、誰にも止められないだろうね」
「ふざけるな! たかが亡者ごとき、俺が冥界へと押し戻してやる!」
大介は吠え、階段へと向かう。すると、シローラモの声が聞こえてきた。
「バカなことはやめるんだ。奴らは、後から次々と現れる。いくら君でも、勝ち目はないよ。ここでおとなしくしているんだ。奴らも、ここには入って来られない。無駄死にする気かい」
「やってみなければ分からないだろ!」
大介は階段を下りていく。その時、耳元にシローラモの声が聞こえてきた。
「正気かい? それとも、君は死ぬ気なのかい。死に急いでどうする?」
これはテレパシーなのだろうか? そんなことを思いつつ、大介は怒鳴り付ける。
「あんたみたいに生き急いでいるわけでも、人類に絶望してるわけでもない!」
「一階は既に、亡者たちが溢れているはずだよ」
またしても、耳元にきこえる声。大介は、階段を下りつつ叫んだ。
「大門の名は、伊達じゃない!」
シローラモの言葉通りであった。一階にたどり着いた大介が見たものは、一階に溢れんばかりの亡者の群れだった。佑清や獅子虎らと違い、その目は虚ろで光が無い。まるでゾンビのようだ。
大介は顔を歪めながら、亡者たちの前に立つ。まずは、群れを突破し門を閉ざさなくては。
「てめえら、よく聞け! この拳は大門の……いや、俺の魂だあぁ! てめえらごときに、食い尽くせるかあぁぁ!」
叫びながら、大介は突進した。
四方から、大介に襲いかかる亡者たち。だが大介の突きと蹴りを食らい、あっという間に倒される。
大介は襲い来る亡者たちを強引に薙ぎ倒していき、地下に向かおうとする。しかし、敵の数が多すぎた。圧倒的な数の差に押され、出口まで後退する。
「ちくしょう!」
吠える大介。しかし、亡者たちは止まる気配がない。逆に亡者たちの攻撃が、大介を襲う。さすがの大介も躱しきれず、何発もの重い打撃を受ける。知能は失われているが、その動きは生前のままだ……大介は後退し、思わず膝を着く。
「く、くそ……」
これまでに大介は三人と闘い、どうにか討ち果たしてきている。が、その体は無傷ではない。さらに今、押し寄せて来る幾多の亡者たちと闘い……もはや、大介は満身創痍であった。
だが、大介はなおも立ち上がる。
「負けられねえ……俺は負けられねえんだ!」
言いながら、必死の形相で向かっていこうとする大介。その時、彼の肩を叩く者がいた。
「アンタは、しばらく休んでな」
聞き覚えのある声だ。振り向くと、そこには白い巨獣が立っていた。イタチのような姿、赤い瞳、二メートルを超える巨体、そして透き通るような白い毛並み──
「ド、ドロイ! お前、何しに来た!?」
「あら、何しに来たって随分な言い方じゃないのよう。アタシは忘れてないわよ、アンタとの甘く激しい一夜を──」
「でたらめ言うんじゃないよドロイ!」
叫びながら現れたのは口裂け女だ。今回は、最初からマスクを取っている。
「く、クチサケさんまで……」
「大介、この騒ぎが無事に終わったら……クリスマスイブを二人で過ごす件、考えてあげてもいいよ」
言うと同時に、二人は亡者たちへと立ち向かっていく──
「やめてくれ! これは人間の問題だ! 妖怪には関係ない!」
絶叫する大介。だが無情にも、闘いは始まってしまった。
口裂け女の変幻自在の蹴り技が、亡者を次々とKOしていく。さらに、ドロイが群がる敵を薙ぎ倒していった。その様は、荒れ狂う怪獣のようである。亡者たちも、次々と蹴散らされていった。
人間が相手なら、ドロイの巨体と勢いに怯えて逃げ去っていっただろう。だが、相手は感情なき亡者である。彼らに感情はなく、ただただ前進し生あるものを攻撃する本能のみで動いている。
しかも、亡者たちは次々と出現して来る。さすがに、多勢に無勢の状況は圧倒的に不利だ。強者妖怪である二人も、数の力の前には徐々に押されていった。
「もう……もうやめてくれえぇぇ!」
天を仰ぎ、大介は叫ぶ。すると、またしても声が聞こえてきた。
「結局……遅かれ早かれ、こんな悲しみだけが広がって地球を押し潰すのさ。ならば人類は、自分の手で自分を裁いて……自然に対し、地球に対して贖罪しなければならない。大介くん、君はそれがわからないのかい」
嘲るかのようなシローラモの声が聞こえる。しかし、大介はそれを無視し立ち上がった。目の前で口裂け女が倒れ、ドロイがその巨体で庇っているのだ。
亡者たちが、ドロイに一斉に襲いかかる──
「くそう! 動け! 動いてくれえ! ドロイ、今助けるぞ!」
大介は、必死の形相でドロイに近づく。だが、既にドロイは亡者たちに囲まれてしまった。
肉を打つような音が響き、白い毛が舞い散る──
「やめろ! やめてくれえぇぇ! そいつらは妖怪だ! やるなら、俺をやれえぇぇ!」
叫ぶ大介。その時、彼の耳に奇妙な音が聞こえてきた。
あれは、バイクのエンジン音か!?
振り返ると、凄まじい爆音とともにこちらに近づく者がいる。一台の大型バイクと、それに跨がった革のツナギ姿の男だ。顔には、フルフェイスのヘルメットで覆われている……妖怪・首なしライダーだ。
「おい大介、情けねえなあ。こんな奴らにやられてんじゃねえよ」
そんなセリフを吐いた直後、首なしライダーは亡者の群れにバイクごと突っ込んでいく──
「オラオラ! 首なしライダーさまのお通りだ! 邪魔する奴らは跳ね飛ばすぞ!」
喚きながら、バイクは暴走していく。亡者たちは、次々と跳ね飛ばされていった。その間に、大介はどうにか立ち上がる。ドロイと口裂け女を助けるべく、必死の形相で近づいていった。
「二人とも! 今助けるぞ!」
ふたりを、まとめて連れ出そうとする。しかし、さすがの大介も口裂け女とドロイを運ぶのは至難の業だ。特にドロイは、軽く二百キロを超える巨体である。手こずっている間にも、亡者たちが三人に迫っていく。
その時だった。ひとりの亡者が、空中高く飛んでいく。
続いて聞こえてきた、奇妙な声──
「だ、大介を……いじめるなあぁ!」
かけ声と共に、またひとり亡者が吹っ飛んでいく。大介は、思わずそちらを向いた。
そこには、バンダナを巻いた濃い顔の大男がいる。筋肉に覆われた体に、革のベストを直接着たとんでもないスタイルだ。恐ろしい勢いで、群がる亡者たちを片っ端からぶん投げている。
こんなことが出来るのは、ひとりしかいない。
「お、お前は……投げ捨て魔人!」
そう、かつて大介と激闘を繰り広げた妖怪・投げ捨て魔人である。その投げ捨て魔人が、大介に近寄ろうとする亡者たちを蹴散らしているのだ。
大介は、胸に熱いものがこみあげてくるのを感じていた。だが、すぐに気持ちを切り替える。今はまず、口裂け女とドロイを助けなくてはならない。
「投げ捨て魔人! すまないが、ドロイを運んでくれ! 俺は、クチサケさんを運ぶから!」
その言葉に、投げ捨て魔人は無言で頷く。直後、ドロイの巨体を軽々と担ぎ上げた。そのまま、一気に走っていく。
「大介! 早く口裂け女を連れ出せ! こいつらは、俺が引き付ける!」
怒鳴ったのは首なしライダーだ。バイクで、亡者の群れの中を突っ切っていく。
「感謝するぞ! 首なしライダー!」
叫ぶと同時に、大介は口裂け女を抱き抱える。そのまま、投げ捨て魔人の後を追い走って行った。
森の中に、ふたりの体を横たえる。気を失ってはいるが、命に別状はなさそうだ。
「投げ捨て魔人! あの亡者どもを止めるぞ! 手伝ってくれるか!?」
その言葉に、投げ捨て魔人は力強く頷いた。
「もちろんだ。人間も、動物の仲間。動物をいじめる奴は許さん」
「ありがとう! では、行くぞ!」
ふたりは、亡者の群れの中に飛び込んでいった──
投げ捨て魔人や首なしライダーと共に、亡者たちを倒していく大介。だが、亡者たちの勢いは止まらない。次々と出現してきて、大介たちに襲いかかる。さすがの強者たちも、多勢に無勢で徐々に押されていく。
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「大介! 助けに来たワン!」
聞き慣れた声に、大介はぱっと振り向く。
そこには、彼の心の友である送り犬がいた。牙を剥きだし、亡者たちに飛びかかる。
さらに、もうひとり現れた。これまた、かつて激闘を繰り広げた自爆霊・ハイロウだ。ハイロウは俊敏な動きで、亡者たちを次々と倒していく。
「ハイロウ! お前も、俺を助けてくれるのか!」
ここが戦いの場であることも忘れ、大介は叫んでいた。すると、ハイロウは彼を睨む。
「勘違いするな。お前を助けに来たわけではない。お前を倒すのは俺、それだけだ」
言った直後、素早い動きで亡者に襲いかかっていく──
大介は、感激のあまり天を仰いだ。かつて拳を交えた妖怪たちが、自分を助けるために体を張って戦ってくれているのだ。
「シローラモ! 見ているか!」
天に向かい、大介は吠えた。天を睨み、さらに言葉を続ける。
「拳での語り合いで紡がれた、俺たちの絆を見ろ! 人間と妖怪はな、わかりあえるんだ! この絆をも否定するのなら、貴様こそがこの地球にとっての害悪だ!」
ふと、彼の言葉が蘇った。
(人類は自分たちのことばかり考え、自然を破壊し生き物たちを絶滅させている。今こそ、意識の変革が必要なのだと僕は思う)
その言葉は、間違いとは言いきれないのが悲しいところだ。
だからといって、奴の計画を見過ごすことも出来ない。番長として、何が何でも止めなくては……大介は神妙な面持ちで、階段を上がって行った。
「大介くん、よくぞここまで来たね。どうしても、僕の邪魔をするつもりかい?」
アマクサ・シローラモは、先日会った時と変わらない格好だ。黄金の冠を被り紺色のマントを羽織り、その下は白ブリーフだけだ。いかにも楽しそうな表情で大介を見つめる。ゴミにまみれた廃墟の中にあって、天使のように美しいシローラモの顔……ここは他の階と違い、幻想的な雰囲気すら感じさせる。
「当たり前だ! 俺は、ひとりの人間も殺させない!」
「大介くん……今の人間は、自然を蝕む病原菌のごとき存在だ。君の友だちの妖怪とて、人間に見つかれば捕らえられ、実験動物と成り果てるのだよ」
「そんなことは、俺がさせない!」
怒鳴る大介を、シローラモは憐れむような目で見つめて首を振る。
「無理だよ。人間は、妖怪を奇妙な動物としか見ないだろう。人間はしょせん、そんな生き物だ。だからこそ、罰を与えねばならないのさ」
「ふざけるな!」
大介は、憤怒の形相でシローラモに迫っていく。
「あんたは世直しのつもりなんだろうがな、やっていることが無茶苦茶なんだよ! これじゃ世直しどころか、ただのテロじゃねえか!」
言いながら、大介はシローラモを指差した。
「あんただって、世直しの顛末がどんなものか知ってるだろうが! インテリが夢みたいな目標をもってやるから、いつも過激なことしかやらない! しかも革命の後では、気高いはずの心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていくんだ!」
「僕は人間ではない。魔王なのだよ。世直しなど、する気はない。その才能と力を、愚かな人間どもに利用されている者に言われたくないね」
シローラモの声が、感情を帯びてきた。
「そうかい、話し合いは平行線てわけか……ならば、力ずくで止めてやる!」
叫ぶと同時に、大介は突進する──
シローラモの動きは速く、かつ変則的だ。しかも、ひらりと動くマントが大介の視界を遮る。そのせいで、攻撃を当てることが出来ない。
「クソ、チョロチョロ動きやがって! 卑怯だぞシローラモ!」
怒鳴り、渾身の右ストレートを放つ大介。その瞬間、シローラモはすっと身を沈めてパンチを躱す。
直後にシローラモは大介の腕を掴み、綺麗な一本背負いを極めた──
「うぐっ!」
硬い床に背中を思い切り打ち付け、大介は思わず悲鳴にも似た声を洩らす。
そんな大介を、シローラモは涼しい顔で見下ろした。
「どうしたんだい? この程度で、もう終わりか? 僕を止めるのではなかったのか?」
からかうような口調のシローラモに、大介はギリリと奥歯を噛みしめる。
「あんたはそうやって、人間を上から見下していたんだろうが。あんたは永遠に、人間を見下すことしかしないんだ!」
怒鳴りながら、大介は立ち上がった。だがシローラモは笑みを浮かべつつ、軽やかに舞う。
「そんなことより、君はここにいていいのかな?」
「な、なんだと?」
困惑の表情を浮かべる大介に、シローラモは嘲笑うような表情を向ける。
「君は、本当に単細胞だな。おかしいと思わなかったのか? なぜ、僕がここにいるのかというと……君の目を、門のある場所から逸らすためだよ。本当の門は、地下にあるのさ。旅館の地下一階に、僕は門を出現させた。僕や下の階にいた三人は、ただの時間稼ぎだよ」
その言葉に、大介の表情が歪む。確かに、異様な気を感じるのだ。気は膨れ上がり、今にもこの地を包み込もうとしている──
大介の表情の変化を見て、シローラモはニヤリと笑った。
「今なら、君にもわかるだろう。冥界の亡者たちが今、地下より出現しているのさ。亡者たちは、人間を無差別に襲い殺していく。もう、誰にも止められないだろうね」
「ふざけるな! たかが亡者ごとき、俺が冥界へと押し戻してやる!」
大介は吠え、階段へと向かう。すると、シローラモの声が聞こえてきた。
「バカなことはやめるんだ。奴らは、後から次々と現れる。いくら君でも、勝ち目はないよ。ここでおとなしくしているんだ。奴らも、ここには入って来られない。無駄死にする気かい」
「やってみなければ分からないだろ!」
大介は階段を下りていく。その時、耳元にシローラモの声が聞こえてきた。
「正気かい? それとも、君は死ぬ気なのかい。死に急いでどうする?」
これはテレパシーなのだろうか? そんなことを思いつつ、大介は怒鳴り付ける。
「あんたみたいに生き急いでいるわけでも、人類に絶望してるわけでもない!」
「一階は既に、亡者たちが溢れているはずだよ」
またしても、耳元にきこえる声。大介は、階段を下りつつ叫んだ。
「大門の名は、伊達じゃない!」
シローラモの言葉通りであった。一階にたどり着いた大介が見たものは、一階に溢れんばかりの亡者の群れだった。佑清や獅子虎らと違い、その目は虚ろで光が無い。まるでゾンビのようだ。
大介は顔を歪めながら、亡者たちの前に立つ。まずは、群れを突破し門を閉ざさなくては。
「てめえら、よく聞け! この拳は大門の……いや、俺の魂だあぁ! てめえらごときに、食い尽くせるかあぁぁ!」
叫びながら、大介は突進した。
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大介は襲い来る亡者たちを強引に薙ぎ倒していき、地下に向かおうとする。しかし、敵の数が多すぎた。圧倒的な数の差に押され、出口まで後退する。
「ちくしょう!」
吠える大介。しかし、亡者たちは止まる気配がない。逆に亡者たちの攻撃が、大介を襲う。さすがの大介も躱しきれず、何発もの重い打撃を受ける。知能は失われているが、その動きは生前のままだ……大介は後退し、思わず膝を着く。
「く、くそ……」
これまでに大介は三人と闘い、どうにか討ち果たしてきている。が、その体は無傷ではない。さらに今、押し寄せて来る幾多の亡者たちと闘い……もはや、大介は満身創痍であった。
だが、大介はなおも立ち上がる。
「負けられねえ……俺は負けられねえんだ!」
言いながら、必死の形相で向かっていこうとする大介。その時、彼の肩を叩く者がいた。
「アンタは、しばらく休んでな」
聞き覚えのある声だ。振り向くと、そこには白い巨獣が立っていた。イタチのような姿、赤い瞳、二メートルを超える巨体、そして透き通るような白い毛並み──
「ド、ドロイ! お前、何しに来た!?」
「あら、何しに来たって随分な言い方じゃないのよう。アタシは忘れてないわよ、アンタとの甘く激しい一夜を──」
「でたらめ言うんじゃないよドロイ!」
叫びながら現れたのは口裂け女だ。今回は、最初からマスクを取っている。
「く、クチサケさんまで……」
「大介、この騒ぎが無事に終わったら……クリスマスイブを二人で過ごす件、考えてあげてもいいよ」
言うと同時に、二人は亡者たちへと立ち向かっていく──
「やめてくれ! これは人間の問題だ! 妖怪には関係ない!」
絶叫する大介。だが無情にも、闘いは始まってしまった。
口裂け女の変幻自在の蹴り技が、亡者を次々とKOしていく。さらに、ドロイが群がる敵を薙ぎ倒していった。その様は、荒れ狂う怪獣のようである。亡者たちも、次々と蹴散らされていった。
人間が相手なら、ドロイの巨体と勢いに怯えて逃げ去っていっただろう。だが、相手は感情なき亡者である。彼らに感情はなく、ただただ前進し生あるものを攻撃する本能のみで動いている。
しかも、亡者たちは次々と出現して来る。さすがに、多勢に無勢の状況は圧倒的に不利だ。強者妖怪である二人も、数の力の前には徐々に押されていった。
「もう……もうやめてくれえぇぇ!」
天を仰ぎ、大介は叫ぶ。すると、またしても声が聞こえてきた。
「結局……遅かれ早かれ、こんな悲しみだけが広がって地球を押し潰すのさ。ならば人類は、自分の手で自分を裁いて……自然に対し、地球に対して贖罪しなければならない。大介くん、君はそれがわからないのかい」
嘲るかのようなシローラモの声が聞こえる。しかし、大介はそれを無視し立ち上がった。目の前で口裂け女が倒れ、ドロイがその巨体で庇っているのだ。
亡者たちが、ドロイに一斉に襲いかかる──
「くそう! 動け! 動いてくれえ! ドロイ、今助けるぞ!」
大介は、必死の形相でドロイに近づく。だが、既にドロイは亡者たちに囲まれてしまった。
肉を打つような音が響き、白い毛が舞い散る──
「やめろ! やめてくれえぇぇ! そいつらは妖怪だ! やるなら、俺をやれえぇぇ!」
叫ぶ大介。その時、彼の耳に奇妙な音が聞こえてきた。
あれは、バイクのエンジン音か!?
振り返ると、凄まじい爆音とともにこちらに近づく者がいる。一台の大型バイクと、それに跨がった革のツナギ姿の男だ。顔には、フルフェイスのヘルメットで覆われている……妖怪・首なしライダーだ。
「おい大介、情けねえなあ。こんな奴らにやられてんじゃねえよ」
そんなセリフを吐いた直後、首なしライダーは亡者の群れにバイクごと突っ込んでいく──
「オラオラ! 首なしライダーさまのお通りだ! 邪魔する奴らは跳ね飛ばすぞ!」
喚きながら、バイクは暴走していく。亡者たちは、次々と跳ね飛ばされていった。その間に、大介はどうにか立ち上がる。ドロイと口裂け女を助けるべく、必死の形相で近づいていった。
「二人とも! 今助けるぞ!」
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「だ、大介を……いじめるなあぁ!」
かけ声と共に、またひとり亡者が吹っ飛んでいく。大介は、思わずそちらを向いた。
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その言葉に、投げ捨て魔人は無言で頷く。直後、ドロイの巨体を軽々と担ぎ上げた。そのまま、一気に走っていく。
「大介! 早く口裂け女を連れ出せ! こいつらは、俺が引き付ける!」
怒鳴ったのは首なしライダーだ。バイクで、亡者の群れの中を突っ切っていく。
「感謝するぞ! 首なしライダー!」
叫ぶと同時に、大介は口裂け女を抱き抱える。そのまま、投げ捨て魔人の後を追い走って行った。
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その言葉に、投げ捨て魔人は力強く頷いた。
「もちろんだ。人間も、動物の仲間。動物をいじめる奴は許さん」
「ありがとう! では、行くぞ!」
ふたりは、亡者の群れの中に飛び込んでいった──
投げ捨て魔人や首なしライダーと共に、亡者たちを倒していく大介。だが、亡者たちの勢いは止まらない。次々と出現してきて、大介たちに襲いかかる。さすがの強者たちも、多勢に無勢で徐々に押されていく。
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「大介! 助けに来たワン!」
聞き慣れた声に、大介はぱっと振り向く。
そこには、彼の心の友である送り犬がいた。牙を剥きだし、亡者たちに飛びかかる。
さらに、もうひとり現れた。これまた、かつて激闘を繰り広げた自爆霊・ハイロウだ。ハイロウは俊敏な動きで、亡者たちを次々と倒していく。
「ハイロウ! お前も、俺を助けてくれるのか!」
ここが戦いの場であることも忘れ、大介は叫んでいた。すると、ハイロウは彼を睨む。
「勘違いするな。お前を助けに来たわけではない。お前を倒すのは俺、それだけだ」
言った直後、素早い動きで亡者に襲いかかっていく──
大介は、感激のあまり天を仰いだ。かつて拳を交えた妖怪たちが、自分を助けるために体を張って戦ってくれているのだ。
「シローラモ! 見ているか!」
天に向かい、大介は吠えた。天を睨み、さらに言葉を続ける。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
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