大門大介は番長である!

板倉恭司

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決戦! 逆襲のシローラモ!(2)

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「大介、ここだニャ」

「そうか、ありがとう」

 大介は、険しい表情で旅館を見上げた。傍らにいる猫耳小僧は、不安を隠しきれないようだ。落ちつかない様子で、周囲をキョロキョロ見回している。



 二人は、阿久静屋なる旅館に来ていた。もっとも、既に営業を停止している。いずれ、市が取り壊すことになっているらしい。周囲の豊かな自然とは不釣り合いな、けばけばしい外装と派手な看板には不快感すら覚える。
 しかし何より疑問なのは、その高さであった。恐らく四階分はあるだろう。四階建てとなると、旅館というよりはホテルに近い。なぜ、山奥にこんなものを建てたのだろうか。
 いや、そんなことはどうでもいい。大介は、猫耳小僧の方を向いた。

「ここまででいい。お前は帰れ。帰って、双太郎にこの地を離れるよう言ってくれ」

 途端に、猫耳小僧の目が吊り上がる。

「ニャニャ!? な、なんでだニャ!? ここまで来たんだから、俺も一緒に闘うニャ!」

「ダメだ。お前は帰れ! でないと怒るぞ!」

 強い口調に、猫耳小僧はしょぼんとなった。

「お、俺が弱虫だからかニャ……」

「違う。アマクサ・シローラモが粛正しようとしているのは人間だけだ。妖怪のお前には関係ない。これは、人間の手で始末をつけなきゃならない問題なんだ」

 そう言うと、大介は猫耳小僧の頭を撫でた。

「いいか、もし俺が殺られたら……その時は、お前が仇を討ってくれ。わかったな?」

「わ、わかったニャ」

「そうか。なら、早く帰れ。後のことは頼んだぞ」



 ガックリ肩を落として、とぼとぼ歩いていく猫耳小僧。その背中に、大介は頭を下げる。

「すまないな。お前の気持ちは嬉しいが、これは危険過ぎる。巻き込めないんだ」

 阿久静屋に侵入した大介は、ゆっくりと周囲を見回す。館内は沈黙に支配されており、様々な物の残骸が転がっている。古いパンフレットの類いや、ボロボロになったソファーなどなど。テーブルやカウンターなどは汚く汚れているものの、未だに現役で使えそうだ。

 なんだここは?

 大介には、はっきりとわかる。一見すると無人に思えるが、凄まじいまでの闘気が漂っているのだ。ここには、恐ろしい何かが潜んでいる──

「お前が、大門大介か」

 声と共に、奥から現れた者がいる。
 頭は、ツルツルに剃り上げられたスキンヘッドだ。口にはヒゲを生やし、体重は軽く百キロを超えているだろう巨漢である。奇妙なデザインの黒い胴着を着ており、見るからに異様な人物だ。

「ああ、俺が大門大介だよ。お前は、ここの番人か?」

 身構えつつ、大介は聞き返した。すると、思いもよらぬ言葉が返ってくる。

「俺の名は、バイソン・ベンケイ。プロ・カラテでもナンバー1の怪力の持ち主だ!」

「えっ?」

 わけがわからず、大介は困惑する。プロ・カラテとは何だろう。空手の一流派だろうか。

「大介、お前が用があるのは、アマクサ・シローラモだろう。奴は四階にいる。俺を倒さなくては、上の階に行くことは出来んぞ!」

 叫ぶと同時に、ベンケイは突進してきた──
 大介の顔面を襲う、ベンケイの正拳突き……それは、単なる力任せの突きではない。岩のように厳つい拳が、恐ろしい速さで飛んでくるのだ。さすがの大介も、上体を反らし躱すのがやっとである。
 しかも、攻撃は単発では終わらない。続けざまに、横殴りの鉤突きが襲う。ボクシングのフックのような突きだ。大介は躱しきれず、上腕でガードする。その威力は凄まじいものであった。腕が折れそうな痛みを覚える。実際、受ける角度とタイミングを間違えたら、腕が折れていたかもしれない。
 一方、ベンケイはニヤリと笑った。

「初手で葬るつもりだったが……さすが大介、噂に聞いていただけのことはあるな。だがな、プロ・カラテの名誉にかけても、必ずお前を倒す!」

「だから、プロ・カラテって何なんだよ!? つーか、バイソン・ベンケイってなんだ? リングネームかよ?」

 身構えつつも、大介は次々と湧いてくる疑問の答えを求めずにいられなかった。
 だが、返ってきたのは答えではなく、ベンケイの拳であった──

 ベンケイのパワーは、確かに凄まじいものだった。丸太のように太い腕に、岩のごとき体格。その体格が、猛牛のような勢いで突進し突き蹴りを放ってくるのだ。躱すタイミングを一瞬でも誤れば、その時に勝負は決する。
 一年前の大介なら、確実に倒されていたはずであった。
 だが、今は違う──

 見える……奴の動きが完璧に追える!

 この街に来て、大介は口裂け女という妖怪と出会った。彼女に一目惚れした大介であったが、口裂け女の態度はつれない。口説いてはひっぱたかれ、迫っては蹴り倒され、そんな親しいお付き合い……いやド突き合いの日々が、彼の戦闘能力を鍛え上げていたのである。

 口裂け女の速く変則的な攻撃に比べれば、ベンケイの直線的な攻撃は読みやすい。冷静に軌道を見切り、躱していく大介。躱しつつも、カウンターの攻撃を入れるタイミングを計っている。
 やがて、絶好のタイミングが訪れた。攻撃を躱され続けたベンケイは、完全に苛立っていた。強引に突進し、腕を振り上げる。大振りの右鉤突きを放とうとした。
 その瞬間、大介は飛び上がる。己の全力を右足に込めたジャンピングハイキックを放つ。
 大介の右足は、ベンケイの側頭部へと叩き込まれた。さすがのタフなベンケイも耐えられず、ガクンと崩れ落ちる。強烈なハイキックをカウンターでもらったため、脳震盪を起こし立っていられなくなったのだ。
 並のファイターならば、そのまま倒れていただろう。しかし、ベンケイもただ者ではない。必死の形相で足に力を入れ、立ち上がろうとする。そんなベンケイの顔めがけ、大介はとどめの一撃を叩き込む。空手の下段突きだ──
 大介の下段突きは、コンクリートブロックすら破壊できる。まともに食らえば、ベンケイの頭蓋骨は陥没していただろう。だが大介は、寸前で突きを止めた。

「ベンケイ、お前の敗けだ! では、通らせてもらうぞ」

 そう言うと、大介は立ち上がった。ベンケイは倒れたまま、フッと笑みを浮かべる。

「大介、お前の勝ちだ。まさか、プロ・カラテの俺が空手技で敗れるとはな。大した奴だ」

「ちょっと待て! だから、プロ・カラテって何だよ?」

 混乱する大介。だが、ベンケイは不敵な笑みを浮かべて首を振る。

「プロ・カラテ1の怪力とは言われた俺が、お前のようなガキに敗れるとはな。俺も、弱くなったもんだ。だが、悔いはない。闘いの中で死ねたのだからな」

 芝居がかった口調で言ったかと思うと、ベンケイはガクリと首を落とす。

「い、いや……お前は命に別状ないから! とりあえず、死にはしないから!」

 大介は叫ぶ。だが、ベンケイは起き上がろうとしない。とりあえず、闘いに敗れ死んでしまったという己の設定を、頑なに守っているようだ。
 あまりのアホらしさに思わず顔をしかめたが、すぐに側を通り過ぎて行った。この変人に構っている暇はない。一刻も早く、シローラモの計画を止めなくては──



 大介が立ち去った時、タイミングを計るかのようにベンケイはむっくりと起き上がった。

「敗けてしまったな……気晴らしに、おっぱいパブでも行くとするか」

 真顔でそんなことを呟きながら、ベンケイは立ち上がる。顔をしかめながら、少しずつ歩き出した。

「おっぱいパブにも、マムシの生き血酒があればいいのだが……」

 そう、マムシの生き血はベンケイの大好物なのだ──



 一方、大介は奥にある階段を昇り、二階へと到着する。ここは、下と比べるとさらに散らかっている。食器らしきものが転がり、だが、部屋の様子をのんびり見ている暇などなかった。
 到着と同時に、いきなり奇怪な声が聞こえてきたのだ。

「貴様が大門大介か?」

 言いながら、歩いて来たのは……ベンケイよりもさらに奇怪な見た目の男だった。真っ赤な髪と真っ白く塗られた顔、さらに奇妙なデザインの着物を身にまとった男である。
 大介はただならぬ闘気を感じ、思わず身構えた。

「ああ、俺が大門大介だ。貴様も、ここを守る番人か?」

「いかにも。我が名は、タイラノ佑清スケキヨなり。いざ尋常に、勝負!」

 叫ぶと同時に、佑清はいきなり逆立ちをしたのだ。
 直後、コマのように回転する──

「なんだと!?」

 驚愕する大介。佑清は逆立ちの状態でコマのように高速回転し、足をビュンビュン振り回して来る。大介は近づくことすら出来ない。かろうじて躱すと、後退し間合を離す。
 すると、佑清の動きが止まった。パッと立ち上がり、大介を睨み付ける。

「大門大介……この時代における屈指の武術家と聞いていたのだがな、我が火歩泳羅カポエイラの前には手も足も出んようだな!」

「カ、カポエイラだと?」

 ・・・

 カポエイラとは、ブラジルの奴隷たちの間に広まった武術である……が、最近の研究では、源平の時代に活躍した武士・平佑清が始祖だという説が浮上している。
 佑清は血のにじむような努力の末、逆立ちした状態から高速回転し連続蹴りを繰り出す新しい闘法・火歩泳羅を編み出し、源義経や武蔵坊ベンケイらと死闘を繰り広げたという。
 後に平家の敗北が決定的となった壇之浦の戦いで、佑清も海に身を投げたはずだったが、神風に飛ばされ……気がつくと、地球の裏側ブラジルに漂着していたのである。
 佑清はブラジルの原住民たちに自身の編み出した闘法を伝授し、これが現在のカポエイラの基となったと伝えられている。
 余談になるが、後に猫神家の遺産相続をめぐる連続殺人事件が起きたが、この騒動の中心人物である猫神佑清《ネコガミ スケキヨ》こと阿呆沼静馬《アホヌマ シズマ》は殺害されたというのが当時の見解であった。しかし実は、湖にて古式の火歩泳羅の練習中に不慮の事故で亡くなったのではないか、という新たな説も浮上している。
 死体となって発見された静馬は逆立ちの状態であったことも、この説の信憑性を高めている。

──明民めいみん書房刊『カポエイラの真実』より抜粋──

 ・・・

「大介よ! 我が火歩泳羅の秘技、とくと味わうがいい!」

 叫ぶと同時に、佑清はまたしても逆立ちする。そのまま高速で回転し突っ込んで来た。その様は、まさにハリケーンそのものである。周囲の物を蹴りで薙ぎ倒しつつ、大介へと迫って行く──
 しかし、大介は不敵な笑みを浮かべた。

「フッ……佑清! 貴様のカポエイラの弱点は見切ったぞ!」

 声と同時に、大介はダッシュする。
 体を沈めると同時に、スライディングキックを叩きこんだ──

「なんだと!?」

 コマの軸にあたる手にスライディングキックを受け、派手に倒れる佑清。しかし、大介の攻撃は止まらない。次いで、水面蹴りが放たれる──
 本来なら、立っている状態の軸足を刈るための技である水面蹴り。しかし今、バランスを崩し倒れた佑清の顔面に、大介の踵が炸裂したのだ。
 佑清は、蹴りのダメージにより意識を失った。

「なんてトリッキーな技なんだ。恐ろしい奴め」

 大介は倒れている佑清を一瞥すると、階段へと歩いていく。ここは二階で、シローラモは四階にいるらしい。恐らく、シローラモを止めるには、あとひとりを倒さねばならないのであろう。
 急がなければ。



 大介が立ち去った後、倒れている佑清に歩み寄る者がいた。

「佑清、起きろ」

 頬をはたかれ、佑清は目を開ける。目の前にはベンケイがいた。

「ベンケイか……我は、奴に敗れたのか」

「ああ、大介に負けたのだ。それより佑清、一緒におっパブ行かないか?」

「おっパブ? なんだそれは?」

 聞き返す佑清に、ベンケイは真面目な表情で答える。

「おっパブとは、おっぱいパブの略だ。上半身裸の美しい女性が、酒と料理でもてなしてくれる場所なのだよ」

「上半身裸!? というと、裸体でござるか!?」

 目を輝かせる佑清に、ベンケイは真顔で頷く。

「さよう、裸体だ」

「行くに決まっておろう! そんな天国のような場所があったとは!」

「では、行くとしよう。殴りあうより、おっパブの方が数倍楽しいからな」



 大介は階段を上がり、上の階へと到着する。この階だけ、やたら天井が高いのだが……どういう訳なのだろう。
 だが、そんなことを考えている暇などなかった。

「大門大介、よくここまで来たな」

 声とともに現れた者、それは戦国時代の野武士のごとき風体の男であった。身長は二メートル以上、体重は百キロを軽く超えている。着物姿だが、鍛えぬかれた体をしているのは一目瞭然だ。先ほどのバイソン・ベンケイが、小さく思えるほどの巨漢である。

「お前が、この階の門番か?」

 大介の言葉に、男は頷いた。

「そうだ。冥土の土産に教えてやろう……俺の名は獅子虎浄之進シシトラ ジョウノシンだ。いざ、尋常に勝負!」

 言うと同時に、獅子虎は巨体を踊らせ襲いかかってきた──

 獅子虎の攻撃は、速い上にキレがある。しかも、筋肉の塊のような体から繰り出される突き蹴りは、並みの人間なら一撃で絶命させられるであろう。
 数々の敵を討ち果たしてきた大介も、獅子虎の攻撃には防戦一方だ。
 相手の圧力に耐えられず、ジリジリと後退する大介。その時、何かにつまづき仰向けに倒れた。

「戦場で倒れるとは、なんと未熟な奴! その未熟さを地獄で悔いよ!」

 獅子虎は叫ぶと同時に、倒れた大介めがけ右足を降り下ろす。この巨体の踏みつけを食らったら、ひとたまりもないだろう。
 しかし、大介はニヤリと笑う。

「かかったな獅子虎!」

 大介の両手が伸び、獅子虎の右足をキャッチする。と同時に大介の両足が、獅子虎の左足へと巻き付く。
 そのまま、一瞬で引き倒した──

「なんだと!?」

 想定外の動きに、獅子虎は対応できず倒れる。しかし、大介の動きは止まらない。獅子虎の右足首を脇に挟み、同時に彼の太ももを己の両足でがっちりロックする。
 次の瞬間、踵に捻りを加え足関節を極めた──

「ぐおぉぉ!」

 吠える獅子虎……だが、それも無理はない。ヒールホールドを極められたのだから。
 ヒールホールドは一瞬で足を壊せるため、アマチュアの試合では禁止となっているケースもある危険な関節技だ。そのヒールホールドを、大介は手加減なしで極めたのだ。
 獅子虎の足は、完全に破壊されたはず。大介は立ち上がり、足を押さえる彼に複雑な表情を向ける。

「俺の勝ちだ。では、行かせてもらおう」

 そう言って、立ち去りかけた大介……だが次の瞬間、驚愕の表情を浮かべ振り向いた。
 獅子虎が笑っている。倒れた状態で、嬉しそうに笑っているのだ。

「大介、俺は嬉しいぞ。久しぶりに、全力を出せるのだからな」

 言いながら、獅子虎が懐より取り出した物……それは、短刀だった。奇妙なデザインの、黒い短刀である。
 それを鞘から抜いたかと思うと、いきなり己に突き刺したのだ。
 そして叫ぶ──

裏見念法うらみねんぽう! 獅子虎変化!」

 直後、獅子虎の体から霧のようなものが発生した。霧はたちまち周囲を覆い、視界を埋め尽くしていく。

「な、なんだこれは?」

 大介は慌てて身構える。だが霧は、現れた時と同じく唐突に消える。霧と入れ替わるかのように、そこには異形の者が出現していた……。
 虎のような顔。三メートルはあろう巨大な体は、縞模様の毛皮に覆われている。だが、首の周りにはたてがみが生えていた。
 まるで虎と人間とを、悪魔が気まぐれで合成させたような、恐ろしい姿の怪物だ。
 怪物は大介を見つめ、その口を開く。

「ライガージョー、推参……」

 その声は落ち着いたものであった。己に対する圧倒的な自信を感じさせる、低く渋い声。大介は、思わず後ずさりしていた。こいつは、掛け値なしの怪物だ。もはや、人間を……いや、妖怪をも超越している。

「大介! 我と闘え! 我を楽しませよ!」

 吠えると同時に、ライガージョーは襲いかかる。鉤爪の生えた手が、大介に迫る。
 大介は床を転がり、かろうじて躱した。こいつの強さは桁外れだ。人間どころか、妖怪のレベルすら超えている。今まで出会った中でも、最強の相手だ。
 体に震えが走る。本音を言うなら、今すぐにでも逃げ出したい。
 それでも、逃げるわけにはいかないのだ。

 こんなところで、止まってられねえ!

 自分が逃げ出したら、シローラモの計画を阻む者がいなくなってしまうのだ。
 大介は構えた。この怪物に勝つには、音速を超える拳をダース単位で叩き込むしかない。
 無論、ライガージョーの強靭な体に通用するかは不明だ。しかも、この怪物に勝ったとしても……その後には、アマクサシローラモが控えている。
 だがシローラモを止めるには、ライガージョーを倒すしかないのだ。
 すると、ライガージョーの動きが止まる。

「フッ、大介よ……実にいい表情だ。己の持つ全てを、この一撃にこめる。そんな気迫に満ちている。我は嬉しいぞ! この時代で、お前のような漢に出会えるとはな!」

 直後、獣の咆哮と共に、ライガージョーは襲いかかる──
 その時、声が響いた。

「待たんか二人とも」
 
 緊迫した空気の中に、いきなり乱入してきた者がいる。
 それはベンケイであった。足を引きずりながら、二人に近づいて来る。さらに、佑清も真面目くさった顔で後に続く。

「なんだベンケイ! 勝負の邪魔をするなら、貴様も殺すぞ!」

 怒鳴るライガージョー。だが、ベンケイはあくまで冷静だ。

「獅子虎……勝負の最中にすまないが、おっパブに連れて行ってくれないか? この足では、歩くのも億劫なのだ」

「おっパブ? なんだそれは?」

「それはだな……」

 ベンケイは言いかけたが、訝しげな様子でこちらを見ている大介に気づく。

「うむ、高校生にはまだ早いな。獅子虎、耳を貸してくれ」

 そう言うと、ベンケイはライガージョーの耳元に顔を近づけた。そして、おっパブとは何かを小声で説明する。
 すると、ライガージョーの虎面に変化が生じる。

「なんだ、と……そんな桃源郷のような場所があったとはな」

「そうなのだ。俺は佑清と二人で行くつもりであったが、俺の体にはダメージが残っていて歩くのがキツい。そこでだ、お前の力を借りようと思ったのだ。お前なら、我ら二人を運ぶことなど容易いだろう」

「フッ、もちろんだ」

 そう言うと、ライガージョーは大介の方を向いた。

「大介、この勝負しばらく預ける。俺は、この二人と一緒におっパブに行かねばならんのでな」

 言葉の直後、ライガージョーは壁を殴りつける。
 地響きのような音ともに、建物全体が揺れるような衝撃が走る……やがて壁が崩れ、巨大な穴が空いた。
 ライガージョーはベンケイと佑清を小脇に抱えると、唖然としている大介に振り向いて見せる。

「フッフッフ……もし我と決着をつけたいなら、十八歳になってからだ」

「な、なんのことだ? おっパブってなんだよ?」

 呟く大介。だが、ライガージョーはお構い無しだ。

「お前に、ひとつ予言しておこう。アマクサシローラモの前に対峙する時……その時こそ、貴様にとって最大の試練が訪れる! 蝕の時を生き延びたなら、また会おう!」

 言葉の直後、ライガージョーの背中に巨大な翼が生える。コウモリのそれにも似た、まがまがしい形状の翼だ。
 ライガージョーは翼を広げ、ベンケイと佑清を抱えたまま飛び去って行った──

「だから、おっパブって何なの?」

 ひとり残された大介は、呆然とした表情で呟いた。そう、大介は童貞な上に格闘バカである。したがって、おっパブなどという単語は彼の辞書にはない。とても残念な少年なのである。







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