大門大介は番長である!

板倉恭司

文字の大きさ
上 下
7 / 21

怪力! 投げ捨て魔人(2)

しおりを挟む
 その翌日、大門大介はいつものようにバイトをしていた。
 棚に商品を並べていた時、店に誰かが入って来た。大介は立ち上がり、大きな声で挨拶をする。

「いらっしゃいませ……あれ、双太郎じゃないか?」

 意外そうな顔をする大介。そう、彼の目の前には、暗井双太郎が立っていたのだ。学校の制服姿で、何やら困った様子でこちらを見ている。

「双太郎、どうしたんだ?」

「いや、どうしたじゃないですよ。最近、この辺りでゴリラみたいな大男が暴れてるって聞いたんで……ひょっとしたら、大介さんかと思って」

 双太郎の顔は真剣である。彼もまた、この周辺に出没する怪人の噂を聞きつけ、心配して駆けつけて来たのだ。
 しかし、大介は首を傾げるだけだった。

「お前は、何を言ってるんだ? 俺は、そんなことはしていない。そもそも、俺にはゴリラほどの筋肉はない」

「は、はあ、そうですか……でも、やってることが大介さんそのものなんですよね」

「何だと? それはどういうことだ?」

「いや、聞いた話なんですが……動物をいじめてると、森の中から出てくるらしいです」

 双太郎の言葉に、大介は首を捻る。森の中から出てくる、ということは……もしかしたら、森に住んでいる妖怪かもしれない。
 そんな大介に向かい、双太郎は喋り続ける。

「それで、動物をいじめるな! なんて言いながら、凄い力でぶん投げるらしいんですよ。みんな、投げ捨て魔人って呼んでます」

「投げ捨て魔人? なんだそりゃ?」

 首を捻る大介に、双太郎は真剣な顔つきで答えた。

「その魔人は、すっごく力が強いらしいんです。動物をいじめる人間を見つけると、そいつの腕を掴んだままブンブンと回して、最後に遠くに放り投げるみたいです。だから、投げ捨て魔人て呼ばれてるんですよ」

「ほう、それは凄いな。是非とも、会ってみたいものだ」

「凄いな、じゃないですよ……誉めてどうするんですか。そいつは、洒落にならないんですよ。これまでに、十人以上が病院送りにされてます」

「うーむ、それは許せんなあ」

 大介は、腕を組んで考えてみた。その時、顔を引きつらせた梅津が彼をつつく。

「大介くーん、君は今、何をしなきゃならないのかなあ?」

「あっ! す、すみません!」

 慌てて頭を下げ、大介は双太郎の方を向いた。

「というわけだ、すまんな双太郎。続きは、また後でな」



 バイトが終わった後、大介は役満神社へとママチャリを走らせる。双太郎たちが、待っているはずなのだ。
 神社に到着した大介は、ママチャリを停めて石段を上がっていく。すると、楽しそうな声が聞こえてきた。

「これが、ボボボの北郎だよ。いろんな悪い妖怪を、アフロヘアーの北郎が懲らしめるんだ」

「ニャニャニャ! この本は面白そうだニャ!」

 聞いているだけで、思わず笑みがこぼれてしまいそうな会話だ。双太郎と猫耳小僧と送り犬は、気が合うらしい。大介は微笑みながら、石段を上がって行った。

「よう、お前たち」

 その声に、皆が一斉にこちらを向いた。

「大介は、いっつも遅いのニャ。バイトなんか、辞めて欲しいのニャ。そうすれば、もっといっぱい遊べるのニャ」

 文句を言う猫耳小僧。だが、送り犬がたしなめる。

「それは困るワン。バイトを辞めたら、大介はお金が稼げないワン。僕たちも、弁当がもらえないワン」

 そんなことを言う送り犬を、ニコニコしながら見ていた大介。
 その時、彼の頭に閃くものがあった。

「そうだ! 双太郎、その投げ捨て魔人とやらは、動物をいじめていると出てくるんだったな?」

「へっ? は、はあ、そうですが?」

 突然のことに、戸惑う双太郎。すると、猫耳小僧が口を挟んだ。

「大介、何を言ってるニャ。俺たちにも分かるように言って欲しいニャ」

「そ、それもそうだな。よし双太郎、投げ捨て魔人について、この二人にも説明してあげてくれ」

「は、はい」

 双太郎は、投げ捨て魔人の説明を始めた。あくまでも噂程度であるが、動物をいじめているとものすごい大男が出て来てブン投げられると……猫耳小僧と人面犬は、目を丸くして聞いていた。

「なんて、アホな奴だニャ」

 呆れ顔で言う猫耳小僧。一方、送り犬は首を傾げる。

「そんな奴がいるとは、知らなかったワン。そいつは新参者だワン。にしても、迷惑な奴だワン」

 その言葉に、大介も頷いた。

「ああ。そいつのせいで病院送りにされた人間がいるらしい。だから、お前たちに協力して欲しいんだ。みんなで、投げ捨て魔人を捕まえよう」

 そう言って、大介は二人を見つめた。だが意外にも、猫耳小僧は首を振る。

「ちょっと待つニャ。なぜ、俺たちが協力しなきゃいけないんだニャ?」

「えっ……」

「悪いのは、動物をいじめる人間だニャ。そんな奴、襲われて当然だニャ」

 猫耳小僧の言葉に、大介は何も言えず下を向いた。だが、すぐに顔を上げる。

「確かに、お前のいう通りだ。しかし、このまま犠牲者が増えるのも見逃せん。頼む、俺に協力してくれ!」

 言いながら、大介は頭を下げる……。
 それを見た猫耳小僧は、ふうとため息を吐いた。

「しようがない奴だニャ。人間がどうなろうと知ったことじゃないけど、大介の頼みとなれば断れないニャよ。で、どうするニャ?」

「俺にいい考えがあるんだ」



 そして三人は、目撃情報が多発している場所へと移動したのだが……。

「これのどこが、いい考えなんだニャ。大介は、アホなのかニャ」

 呆れたような口調で言う猫耳小僧。彼の目の前では、大介が送り犬を足蹴にしている……演技なのがバレバレだが。

「どうだ、この野郎。もっといじめてやる」

 棒読みの口調で言いながら、大介はなおも蹴飛ばすが……その蹴りが当たっていないのは見え見えであった。

「こんなのに、騙されるバカはいないニャ」

 猫耳小僧がかぶりを振った時、茂みからガサリという音が聞こえてきた。続いて、巨大な男が出現する。身長は二メートル以上、大介が見上げてしまうほどの巨体だ。肩幅も広くガッチリした体格であり、大介が小さく見えるほどだった……。
 しかも、その顔は異様に濃い造りである。まるで、昭和のアニメの登場人物のようだ。

「お前が、投げ捨て魔人か?」

 大介の問いに、大男は不気味な声で返す。

「ど、動物を……」

「はあ? お前、人の話を聞いてるのか? 俺は、お前が投げ捨て魔人かどうか聞いたんだぞ?」

 同じ問いを繰り返す大介。だが、相手の耳には入っていないらしい。

「動物を……いじめるなあぁ!」

 叫ぶと同時に、巨漢は突進して来た。大介の両腕を掴むと同時に、ブルンブルン回転し始める──

「う、うわあぁぁぁ!」

 大介は思わず叫んでいた。彼の百キロを超す巨体が、軽々と回されているのだ。その様は、二人のむくつけき大男がダンスをしているかのようだ。

「ッアアアア!」

 奇怪な雄叫びと共に、巨漢は大介を放り投げた。大介は高く飛んでいき、草むらへと落ちる。
 それを見たとたんに、猫耳小僧と送り犬は慌てて駆け寄った。

「大介! 大丈夫かニャ!」

「大丈夫かワン!」

 だが次の瞬間、二人は唖然となっていた……大介は、一瞬にして飛び起きたのだ。

「フッ、さすがだな。だがな……その程度では、俺は倒れんぞ!」

 叫ぶと同時に、再び投げ捨て魔人へと襲いかかる。だが、魔人も怯まない。大介の腕を掴み、またしてもグルグル回転し始める──

「動物を……」

 呟きながら、魔人はグルグル回転している。振り回されている大介はというと、凄まじい形相でじっと耐えていた。

「動物を! いじめるなあぁぁぁ!」

 叫ぶと同時に、魔人は大介をぶん投げた。大介はまたしても軽々と飛ばされ、草むらへと落下する。
 常人ならば、立ち上がることすら出来ないはずのダメージのはずだった……しかし、大介はすくっと立ち上がる。気迫のこもった表情で魔人を睨んだ。

「投げ捨て魔人よ! お前の言っていることは、実にもっともだ! お前の気持ちも、理解できる部分はある! 奴らのしたことは、同じ人間として恥ずかしいとも思う! だがな、お前はひとつ重大なことを忘れているぞ!」

「……?」

 大介の言葉に、怪訝な表情を浮かべる魔人。

「いいか、よく聞け! 人間だって、動物だろうがあぁ! お前のやっていることも、人間という動物をいじめていることに代わりはない!」

 吠えながら、魔人を睨む大介。すると、魔人の表情にも変化が生じた。口を開け、戸惑っているような顔つきだ。
 動揺の色を隠せない魔人に、大介はなおも叫ぶ。

「自分よりも弱いとわかっている人間たちを、片っ端からぶん投げていく……お前のやっていることは、紛れもなく弱い者いじめだあぁぁ! 動物をいじめているのは、お前も同じではないのか! お前に、奴らを責める資格があんのか!?」

 大介の心からの叫びに、魔人は戸惑い、後ずさりしていた……驚異の怪力を誇り、大介ですら圧倒した投げ捨て魔人。
 だが今は、大介の気迫の前に押されていた。彼の全身全霊をかけた叫びが、魔人を怯ませたのだ……。
 そんな魔人に向かい、大介は拳を固めた。

「投げ捨て魔人よ! 歯を食いしばれ! こいつはな、動物である人間からの……魂の折檻だあぁぁ!」

 叫ぶと同時に、大介は全体重をかけた拳を放つ。

「喰らえ投げ捨て魔人! これが起死回生の! 投げっ放しパンチだ!」

 直後、大介のパンチが顔面に炸裂する──
 投げ捨て魔人は、軽々とぶっ飛んで行った。



「さあ、帰るとするか」

 大介の言葉に、猫耳小僧と送り犬が心配そうに見上げた。

「大丈夫かニャ?」

「大丈夫かワン?」

 心配そうに聞いてきた二人に、大介は微笑んでみせた。

「体は痛むが、大丈夫だ。それより、今日はお前たちのお陰で奴をおびき出せた。本当にありがとう」

 言いながら、大介はしゃがみこむ。両腕を広げ、二人を抱き寄せた。



 そんな三人を、大木の陰から地団駄踏んで見ている者がいる。

「くそう、くそう! 大介の奴、いつになったら私に気づくんだ! 奴は、どこまで鈍感なのだ!」

 口裂け女は、悔しそうに三人を見つめていた。









しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

もしも北欧神話のワルキューレが、男子高校生の担任の先生になったら。

歩く、歩く。
キャラ文芸
神話の神々と共存している現代日本。 高校に進学した室井浩二の担任教師となったのは、北欧神話における伝説の存在、ワルキューレだった。 生徒からばるきりーさんと呼ばれる彼女は神話的非日常を起こしまくり、浩二を大騒動に巻き込んでいた。 そんな中、浩二に邪神の手が伸びてきて、オーディンの愛槍グングニルにまつわる事件が起こり始める。 幾度も命の危機に瀕した彼を救う中で、ばるきりーさんは教師の使命に目覚め、最高の教師を目指すようになる。 ワルキューレとして、なにより浩二の教師として。必ず彼を守ってみせる! これは新米教師ばるきりーさんの、神話的教師物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

その寵愛、仮初めにつき!

春瀬湖子
キャラ文芸
お天気雨。 別名、狐の嫁入りーー 珍しいな、なんて思いつつ家までの近道をしようと神社の鳥居をくぐった時、うっかり躓いて転んでしまった私の目の前に何故か突然狐耳の花嫁行列が現れる。 唖然として固まっている私を見た彼らは、結婚祝いの捧げだと言い出し、しかもそのまま生贄として捕まえようとしてきて……!? 「彼女、俺の恋人だから」 そんな時、私を助けてくれたのは狐耳の男の子ーーって、恋人って何ですか!? 次期領主のお狐様×あやかし世界に迷い込んだ女子大生の偽装恋人ラブコメです。

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

あやかし坂のお届けものやさん

石河 翠
キャラ文芸
会社の人事異動により、実家のある地元へ転勤が決まった主人公。 実家から通えば家賃補助は必要ないだろうと言われたが、今さら実家暮らしは無理。仕方なく、かつて祖母が住んでいた空き家に住むことに。 ところがその空き家に住むには、「お届けものやさん」をすることに同意しなくてはならないらしい。 坂の町だからこその助け合いかと思った主人公は、何も考えずに承諾するが、お願いされるお届けものとやらはどうにも変わったものばかり。 時々道ですれ違う、宅配便のお兄さんもちょっと変わっていて……。 坂の上の町で繰り広げられる少し不思議な恋物語。 表紙画像は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID28425604)をお借りしています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...