6 / 21
怪力! 投げ捨て魔人(1)
しおりを挟む
彩佳市は、どちらかというと……いや、どこからどう見ても田舎である。
そのため、かつてのヤンキー漫画に出てきそうなアホな若者たちが、未だにあちこちを徘徊しているのだ。
そんな連中が、この場所にもいた。数人の若者たちが、野原にバイクを止めて雑談していたのである。赤、青、金色……さながら信号機のような髪の色と奇怪なデザインの特攻服は、彼らがどんな人間であるか如実に物語っていた。
「おい、猫がいるぜ」
一人の若者が、草むらを指差す。皆がそちらを見ると、一匹の三毛猫がいた。警戒しているような素振りで、若者たちをじっと見ている。
「なんだよ、きったねえ猫だな」
言いながら、別の若者が近づいて行く。すると、猫はフシャーッと鳴いた。威嚇の唸り声だ。
「なんだこいつ、調子のってんじゃねえぞ。ブッ殺してやろうか」
その若者は、残忍な表情を浮かべた。直後、ブンと蹴りあげる。当たっていれば、ただではすまなかっただろう。
だが、猫はあっさりと躱した。さらに、またしても威嚇の唸り声を上げる。よく見ると、猫の背後には小さな仔猫が数匹いた。どうやら、仔猫を守ろうとしている母猫らしい。
普通なら、こんな母猫など相手にしないであろう。しかし、彼は違っていた。
「この野郎、一度殺さねえと分からねえらしいな」
仲間の前という意識のせいか、若者は仔猫に近づいて行こうとする。母猫は唸るが、若者はまたしても蹴飛ばそうとした。
その時、不意に声が聞こえてきた。
「動物を……」
低い不気味な声とともに、森の中からのっそりと現れた者がいた。その瞬間、若者は恐怖のあまり絶句し立ち止まる。
それは、恐ろしく大きな男であった。巨岩を力ずくで擬人化したような体格、軽く二メートルを超えているであろう身長……だが何よりも不気味なのは、その顔である。日本人には見えない、異様に濃い造りであった。
「動物を……いじめるなあぁ!」
叫ぶと同時に、大男は若者の襟首を掴む。
次の瞬間、片手でブンブン振り回し始めた──
まるで円盤投げのように、若者を振り回す大男。回されている若者は、既に意識が飛んでいる。周囲で見ている者たちは、あまりの出来事に硬直していた。
やがて、大男は恐ろしい雄叫びを上げる。と同時に、若者を投げ捨てた──
若者は軽々と飛んでいき、草むらへと落下する。
一方、大男はギロリと他の者たちを見た。その目には、危険な光がある。
「動物を……動物を! いじめるなあぁぁ!」
吠えると同時に、大男は襲いかかって行った──
・・・
「店長! お先に失礼します!」
気をつけの姿勢から、海兵隊のごとき声で挨拶する大門大介。店長の梅津和子は、顔を引きつらせながらも笑顔で応対する。
「う、うん。いつもお疲れ様」
「はい! では、お先に失礼します!」
もう一度頭を下げると、大介は大股で歩き店を出ていく。
「はあ、あの子と話すと本当に疲れるわ。悪い子じゃないんだけどな……」
ブツブツ言いながら、仕事を続ける梅津。その時、またしても異様な者が入店してくる。
「あ、先輩。ちわっす」
後輩の日野が店に入って来た。特攻服に身を包んだ彼女は、梅津に向かい大きな声で挨拶する。
「先輩、じゃないよ……ったく、何しに来たんだい」
「あー、ひどい。あたしは客っスよ。せっかく、ジュース買いに来たのに。あたし、先輩の接客に対する姿勢ってものに疑問を感じちゃいますね」
「何が接客に対する姿勢だよ。あんたみたいなのに来られたら、アホが集まる店だと勘違いされるじゃないか」
ぶつくさ言いながら、棚の商品をチェックする梅津。その時、日野が何か思い出したのか、ぽんと手を叩いた。
「あ、そうだ。昨日、また変なのが出たらしいですよ」
「変なの? どんな奴?」
尋ねる梅津だが、不吉なものを感じていた。今度こそ、本当に大介が何かやらかしたのではないだろうか。あの男は、誰が見ても変なのだから。
「それがですね、ゴリラみたいなデカイ男が森の中から出てきて、人を襲ったらしいんですよ」
「ゴ、ゴリラ……」
その言葉を聞いた梅津は、大介の外見を思い浮かべた。百八十センチを超す長身、百キロはあろうかというガッチリした体格、あれならゴリラと言われても納得できる。
「あと、ものすごく濃い顔だったって話っスよ。外国人みたいな濃い顔だったとか」
「が、外国人みたいな濃い顔って……」
梅津は、思わず頭を抱える。ゴリラみたいな体格で、濃い顔……そんな男、このあたりでは大介以外にいるとは思えない。
明日、店に来たらそれとなく聞いてみよう……などと思いつつ、梅津はフウとため息を吐いた。
「このあたりには、まともな奴がいないのかい……」
・・・
その頃、大介は猫耳小僧や送り犬らと共に神社にいた。猫耳小僧と送り犬は、大介の持ってきた期限切れ寸前のパンを食べている。
「焼きそばパン、美味しいニャ!」
「美味しいワン!」
二人の喜びの声を聞き、大介も満足げに頷いた。
「そうか! 今日は弁当がなかったんだが……喜んでもらえて嬉しいぞ!」
二人にそう言うと、大介は再び正拳アゴ打ちの練習を続ける。ちなみに正拳アゴ打ちとは、空手の基本の技であるが……説明が少々ややこしいので割愛する(どうしても知りたい方はググることを勧める)。
神社はいつものように、暑苦しくも微笑ましい空気に満ちていたが……不意に、その空気をぶち壊す者が現れる。
「た、助けてえ……」
下から、声が聞こえてきたのだ。明らかに、尋常ではない様子である。猫耳小僧と送り犬は顔を見合せ、大介も鍛練の手を止める。
「な、何かあったのかニャ?」
不安そうに言う猫耳小僧に、大介は首を捻る。
「わからん。俺が行ってみるから、お前らはここにいろ」
言った直後、大介は石段を降りて行った。
「お前、大丈夫か」
言いながら、大介は男に近づいて行く。その男はラフな服装で、道路を這うようにして動いていた。まだ若く、大介と大して変わらない年齢だろう。
だが若者は、大介の姿を見るなり悲鳴を上げた。
「う、うわあぁぁ! もう許してえぇ」
叫びながら、尻餅をついた体勢で後ずさる。大介は面食らった。
「お、おい、ちょっと落ち着け。俺は何もしない。何があったのか説明しろ」
敵意はないことを示すため、両の手のひらを前に出し、近づいて行く大介。だが、若者は震えながら後ずさるばかりだ。
その状況を、さらに悪化させる者が乱入した。
「ちょっと! あんた聞いてるのかい!」
怒鳴りつける声は、いきなり現れた女から発せられたものである。長い黒髪、赤いコート、長身でグラマラスな体型……ただし、その口は耳元まで裂けていた。
その姿を見た時、若者は叫ぶ。
「ば、化け物だ!」
直後、若者は気絶した……。
「誰が化け物だい。ま、妖怪なんだけどさ」
言いながら、口裂け女は若者を見下ろす。その時、大介が恐る恐る尋ねた。
「あ、あのう……クチサケさんは、こんなとこで何をしてたんですか?」
「えっ……」
「いや、こないだも双太郎を連れて来てくれたし……なんか最近、よく会いますね──」
「は、はあ!? た、ただの偶然だよ! べ、別にあんたの周りをうろうろしてたわけじゃないから!」
顔を真っ赤にしながら、うろたえる口裂け女。まともな者なら、この態度に何かを感じたことだろう。
しかし、大介は残念な思考回路の持ち主である。ついでに鈍感でもある。どのくらい鈍感かというと、某ラノベのハーレムを作る主人公と同じくらいに鈍感なのである。
「そ、そうですか。偶然ですか……けど偶然でも、クチサケさんと会えるのは、とーっても嬉しいです!」
そう言って、濃い顔を近づけていく大介……口裂け女は、両手で思いきり突き飛ばした。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! こいつを助けてやるんじゃなかったのかい!」
「あ、そうでした。すみません」
そう言うと、大介は男を軽々と担ぎ上げる。
直後、恐ろしいスピードで走り出した──
「何をやってんだい、あいつは……」
呆れたような口調で、口裂け女は言った。しかし、大介の背中を見つめる彼女の眼差しは暖かい。まるで、我が子を見守る母のようだ……。
そんな彼女を見ている猫耳小僧は、とても困った顔をしていた。自身の猫耳をポリポリ掻きながら、独りで呟く。
「あいつらは、どっちもアホだニャ……」
一方、男を担いだ大介は──
「店長! 人が倒れてました! 助けてあげてください!」
喚くと同時に、大介はバイト先のコンビニへと入って行く……若者を担いだ状態で。
当然、店長の梅津は怒鳴り付けた。
「ちょ、ちょっとあんた! 何やってんの!」
「すみません! 人が倒れてるのを発見したものですから!」
「だ、だったらケータイで救急車を──」
言いかけて、梅津はハッとなった。この少年は今どき珍しく、ケータイを持っていないのである……履歴書に、そう書かれていた。
「そ、そうだったね……あんた、ケータイ持ってないんだよね。忘れてたよ。あんたにしては、よくやった方かもね」
呟くように言うと、梅津は電話で救急車を呼んだ。
やがて救急車が到着し、若者は病院に運ばれて行く。一方、大介は警官に事情を聞かれたが……。
「じゃ、じゃあ君は、神社のそばで彼を見つけたんだね?」
「はい! そうであります!」
直立不動の姿勢で、海兵隊のような声で答える大介。さすがの警官も、リアクションに困っているようだ……。
「そ、そうか。ところで君、名前は?」
「はい! 大門大介、十六歳です! 番創高校の一年生です!」
「き、君は十六歳なのかい!?」
驚愕の表情を浮かべる警官に、大介は敬礼する。
「はい! そうであります!」
そんなやり取りを横で見ていた梅津は、思わず頭を抱えていた。この少年は、確か番長だと称していたはずだ。番長とは、一応は不良少年の頭目のはずだが……大介は、警官に対し反抗する気配がない。それどころか、警官に純粋なる敬意を持って接している。
「そ、そうか。ところで、君は神社で何をしていたんだい?」
「はい! 修行であります!」
「しゅ、修行おぉ?」
「はい! 常日頃より自らを律し戒め修行に励み、事あらば牙なき人を守れるような番長でありたいと──」
「う、うん、分かったよ。君は偉いね。うんうん」
なだめるかのように、警官は大介の肩をポンポンと叩いた。
「とにかく、君のお陰で助かったよ。協力、ありがとう」
そのため、かつてのヤンキー漫画に出てきそうなアホな若者たちが、未だにあちこちを徘徊しているのだ。
そんな連中が、この場所にもいた。数人の若者たちが、野原にバイクを止めて雑談していたのである。赤、青、金色……さながら信号機のような髪の色と奇怪なデザインの特攻服は、彼らがどんな人間であるか如実に物語っていた。
「おい、猫がいるぜ」
一人の若者が、草むらを指差す。皆がそちらを見ると、一匹の三毛猫がいた。警戒しているような素振りで、若者たちをじっと見ている。
「なんだよ、きったねえ猫だな」
言いながら、別の若者が近づいて行く。すると、猫はフシャーッと鳴いた。威嚇の唸り声だ。
「なんだこいつ、調子のってんじゃねえぞ。ブッ殺してやろうか」
その若者は、残忍な表情を浮かべた。直後、ブンと蹴りあげる。当たっていれば、ただではすまなかっただろう。
だが、猫はあっさりと躱した。さらに、またしても威嚇の唸り声を上げる。よく見ると、猫の背後には小さな仔猫が数匹いた。どうやら、仔猫を守ろうとしている母猫らしい。
普通なら、こんな母猫など相手にしないであろう。しかし、彼は違っていた。
「この野郎、一度殺さねえと分からねえらしいな」
仲間の前という意識のせいか、若者は仔猫に近づいて行こうとする。母猫は唸るが、若者はまたしても蹴飛ばそうとした。
その時、不意に声が聞こえてきた。
「動物を……」
低い不気味な声とともに、森の中からのっそりと現れた者がいた。その瞬間、若者は恐怖のあまり絶句し立ち止まる。
それは、恐ろしく大きな男であった。巨岩を力ずくで擬人化したような体格、軽く二メートルを超えているであろう身長……だが何よりも不気味なのは、その顔である。日本人には見えない、異様に濃い造りであった。
「動物を……いじめるなあぁ!」
叫ぶと同時に、大男は若者の襟首を掴む。
次の瞬間、片手でブンブン振り回し始めた──
まるで円盤投げのように、若者を振り回す大男。回されている若者は、既に意識が飛んでいる。周囲で見ている者たちは、あまりの出来事に硬直していた。
やがて、大男は恐ろしい雄叫びを上げる。と同時に、若者を投げ捨てた──
若者は軽々と飛んでいき、草むらへと落下する。
一方、大男はギロリと他の者たちを見た。その目には、危険な光がある。
「動物を……動物を! いじめるなあぁぁ!」
吠えると同時に、大男は襲いかかって行った──
・・・
「店長! お先に失礼します!」
気をつけの姿勢から、海兵隊のごとき声で挨拶する大門大介。店長の梅津和子は、顔を引きつらせながらも笑顔で応対する。
「う、うん。いつもお疲れ様」
「はい! では、お先に失礼します!」
もう一度頭を下げると、大介は大股で歩き店を出ていく。
「はあ、あの子と話すと本当に疲れるわ。悪い子じゃないんだけどな……」
ブツブツ言いながら、仕事を続ける梅津。その時、またしても異様な者が入店してくる。
「あ、先輩。ちわっす」
後輩の日野が店に入って来た。特攻服に身を包んだ彼女は、梅津に向かい大きな声で挨拶する。
「先輩、じゃないよ……ったく、何しに来たんだい」
「あー、ひどい。あたしは客っスよ。せっかく、ジュース買いに来たのに。あたし、先輩の接客に対する姿勢ってものに疑問を感じちゃいますね」
「何が接客に対する姿勢だよ。あんたみたいなのに来られたら、アホが集まる店だと勘違いされるじゃないか」
ぶつくさ言いながら、棚の商品をチェックする梅津。その時、日野が何か思い出したのか、ぽんと手を叩いた。
「あ、そうだ。昨日、また変なのが出たらしいですよ」
「変なの? どんな奴?」
尋ねる梅津だが、不吉なものを感じていた。今度こそ、本当に大介が何かやらかしたのではないだろうか。あの男は、誰が見ても変なのだから。
「それがですね、ゴリラみたいなデカイ男が森の中から出てきて、人を襲ったらしいんですよ」
「ゴ、ゴリラ……」
その言葉を聞いた梅津は、大介の外見を思い浮かべた。百八十センチを超す長身、百キロはあろうかというガッチリした体格、あれならゴリラと言われても納得できる。
「あと、ものすごく濃い顔だったって話っスよ。外国人みたいな濃い顔だったとか」
「が、外国人みたいな濃い顔って……」
梅津は、思わず頭を抱える。ゴリラみたいな体格で、濃い顔……そんな男、このあたりでは大介以外にいるとは思えない。
明日、店に来たらそれとなく聞いてみよう……などと思いつつ、梅津はフウとため息を吐いた。
「このあたりには、まともな奴がいないのかい……」
・・・
その頃、大介は猫耳小僧や送り犬らと共に神社にいた。猫耳小僧と送り犬は、大介の持ってきた期限切れ寸前のパンを食べている。
「焼きそばパン、美味しいニャ!」
「美味しいワン!」
二人の喜びの声を聞き、大介も満足げに頷いた。
「そうか! 今日は弁当がなかったんだが……喜んでもらえて嬉しいぞ!」
二人にそう言うと、大介は再び正拳アゴ打ちの練習を続ける。ちなみに正拳アゴ打ちとは、空手の基本の技であるが……説明が少々ややこしいので割愛する(どうしても知りたい方はググることを勧める)。
神社はいつものように、暑苦しくも微笑ましい空気に満ちていたが……不意に、その空気をぶち壊す者が現れる。
「た、助けてえ……」
下から、声が聞こえてきたのだ。明らかに、尋常ではない様子である。猫耳小僧と送り犬は顔を見合せ、大介も鍛練の手を止める。
「な、何かあったのかニャ?」
不安そうに言う猫耳小僧に、大介は首を捻る。
「わからん。俺が行ってみるから、お前らはここにいろ」
言った直後、大介は石段を降りて行った。
「お前、大丈夫か」
言いながら、大介は男に近づいて行く。その男はラフな服装で、道路を這うようにして動いていた。まだ若く、大介と大して変わらない年齢だろう。
だが若者は、大介の姿を見るなり悲鳴を上げた。
「う、うわあぁぁ! もう許してえぇ」
叫びながら、尻餅をついた体勢で後ずさる。大介は面食らった。
「お、おい、ちょっと落ち着け。俺は何もしない。何があったのか説明しろ」
敵意はないことを示すため、両の手のひらを前に出し、近づいて行く大介。だが、若者は震えながら後ずさるばかりだ。
その状況を、さらに悪化させる者が乱入した。
「ちょっと! あんた聞いてるのかい!」
怒鳴りつける声は、いきなり現れた女から発せられたものである。長い黒髪、赤いコート、長身でグラマラスな体型……ただし、その口は耳元まで裂けていた。
その姿を見た時、若者は叫ぶ。
「ば、化け物だ!」
直後、若者は気絶した……。
「誰が化け物だい。ま、妖怪なんだけどさ」
言いながら、口裂け女は若者を見下ろす。その時、大介が恐る恐る尋ねた。
「あ、あのう……クチサケさんは、こんなとこで何をしてたんですか?」
「えっ……」
「いや、こないだも双太郎を連れて来てくれたし……なんか最近、よく会いますね──」
「は、はあ!? た、ただの偶然だよ! べ、別にあんたの周りをうろうろしてたわけじゃないから!」
顔を真っ赤にしながら、うろたえる口裂け女。まともな者なら、この態度に何かを感じたことだろう。
しかし、大介は残念な思考回路の持ち主である。ついでに鈍感でもある。どのくらい鈍感かというと、某ラノベのハーレムを作る主人公と同じくらいに鈍感なのである。
「そ、そうですか。偶然ですか……けど偶然でも、クチサケさんと会えるのは、とーっても嬉しいです!」
そう言って、濃い顔を近づけていく大介……口裂け女は、両手で思いきり突き飛ばした。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! こいつを助けてやるんじゃなかったのかい!」
「あ、そうでした。すみません」
そう言うと、大介は男を軽々と担ぎ上げる。
直後、恐ろしいスピードで走り出した──
「何をやってんだい、あいつは……」
呆れたような口調で、口裂け女は言った。しかし、大介の背中を見つめる彼女の眼差しは暖かい。まるで、我が子を見守る母のようだ……。
そんな彼女を見ている猫耳小僧は、とても困った顔をしていた。自身の猫耳をポリポリ掻きながら、独りで呟く。
「あいつらは、どっちもアホだニャ……」
一方、男を担いだ大介は──
「店長! 人が倒れてました! 助けてあげてください!」
喚くと同時に、大介はバイト先のコンビニへと入って行く……若者を担いだ状態で。
当然、店長の梅津は怒鳴り付けた。
「ちょ、ちょっとあんた! 何やってんの!」
「すみません! 人が倒れてるのを発見したものですから!」
「だ、だったらケータイで救急車を──」
言いかけて、梅津はハッとなった。この少年は今どき珍しく、ケータイを持っていないのである……履歴書に、そう書かれていた。
「そ、そうだったね……あんた、ケータイ持ってないんだよね。忘れてたよ。あんたにしては、よくやった方かもね」
呟くように言うと、梅津は電話で救急車を呼んだ。
やがて救急車が到着し、若者は病院に運ばれて行く。一方、大介は警官に事情を聞かれたが……。
「じゃ、じゃあ君は、神社のそばで彼を見つけたんだね?」
「はい! そうであります!」
直立不動の姿勢で、海兵隊のような声で答える大介。さすがの警官も、リアクションに困っているようだ……。
「そ、そうか。ところで君、名前は?」
「はい! 大門大介、十六歳です! 番創高校の一年生です!」
「き、君は十六歳なのかい!?」
驚愕の表情を浮かべる警官に、大介は敬礼する。
「はい! そうであります!」
そんなやり取りを横で見ていた梅津は、思わず頭を抱えていた。この少年は、確か番長だと称していたはずだ。番長とは、一応は不良少年の頭目のはずだが……大介は、警官に対し反抗する気配がない。それどころか、警官に純粋なる敬意を持って接している。
「そ、そうか。ところで、君は神社で何をしていたんだい?」
「はい! 修行であります!」
「しゅ、修行おぉ?」
「はい! 常日頃より自らを律し戒め修行に励み、事あらば牙なき人を守れるような番長でありたいと──」
「う、うん、分かったよ。君は偉いね。うんうん」
なだめるかのように、警官は大介の肩をポンポンと叩いた。
「とにかく、君のお陰で助かったよ。協力、ありがとう」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。
音喜多子平
キャラ文芸
【第六回キャラ文芸大賞 奨励賞】
人の世とは異なる妖怪の世界で生まれた猫又・鍋島環は、幼い頃に家庭の事情で人間の世界へと送られてきていた。
それから十余年。心優しい主人に拾われ、平穏無事な飼い猫ライフを送っていた環であったが突然、本家がある異世界「天獄屋(てんごくや)」に呼び戻されることになる。
主人との別れを惜しみつつ、環はしぶしぶ実家へと里帰りをする...しかし、待ち受けていたのは今までの暮らしが極楽に思えるほどの怒涛の日々であった。
本家の勝手な指図に翻弄されるまま、まともな記憶さえたどたどしい異世界で丁稚奉公をさせられる羽目に…その上ひょんなことから錬金術師に拾われ、錬金術の手習いまですることになってしまう。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
お命ちょうだいいたします
夜束牡牛
キャラ文芸
一つの石材から造り出された神社の守り手、獅子の阿形(あぎょう)と、狛犬の吽形(うんぎょう)は、祟り神を祀る神社に奉納されますが、仕えるべき主と折り合い上手くいかない。
そんな時、カワセミと名乗る女が神社へと逃げ込んできて、二対の生まれ持った考えも少しづつ変わっていく。
どこか狂った昔の、神社に勤める神獣と素行が悪い娘の、和風ファンタジー。
●作中の文化、文言、単語等は、既存のものに手を加えた創作時代、造語、文化を多々使用しています。あくまで個人の創作物としてご理解ください。
晴明さんちの不憫な大家
烏丸紫明@『晴明さんちの不憫な大家』発売
キャラ文芸
最愛の祖父を亡くした、主人公――吉祥(きちじょう)真備(まきび)。
天蓋孤独の身となってしまった彼は『一坪の土地』という奇妙な遺産を託される。
祖父の真意を知るため、『一坪の土地』がある岡山県へと足を運んだ彼を待っていた『モノ』とは。
神さま・あやかしたちと、不憫な青年が織りなす、心温まるあやかし譚――。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる