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覚悟はありますか? という話
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ロシアがウクライナに進攻してから、だいぶ経ちました。ネットを見ていると、このような意見をよく目にします。
「世界の歴史を見れば、早々に降伏した国の人間はひどい目に遭っている。だから、徹底的に抗戦しなくてはならない」
なるほど、もっともな話ではあります。その意見は正しいのでしょう。
ただ、こういう意見を主張する人に私は聞きたいのですよ。あなたは、自分が戦う立場になっても徹底的に抗戦するのですか? いや、抗戦できるのですか? と。
以前、某サイトで私宛てにこのようなメッセージが来ました。要約すると次の通りです。
「あなたは喧嘩で逮捕されることを恐れているようだが、死んだり障害を負うくらいなら刑務所に入った方がマシだ。普通の人には、暴漢に襲われたら手加減して押さえ込むような力はないから後のことなど気にせず反撃し倒すしかない。その後は、司法書士に頼んでいい弁護士を紹介してもらうのが現実的な対処法」
正直、呆れてしまいました。この方は、「普通の人」が、暴漢に襲われたら倒せると思っているようです。この方の言う普通の人とは、なろう主の「父親に古武術を仕込まれた普通の高校生」なんでしょうか。そもそも、襲われたら逃げるという選択肢がないようです。あと、司法書士が扱うのは基本的に民事事件であり、刑事事件では出番がないのですが……そもそも、いい弁護士を雇うには金がかかります。普通の人では無理ですね。
はっきり言ってしまうと、この方は頭の中ではいっぱい戦っているのでしょうね。だから、現実世界で暴漢に襲われても倒せると思っているのでしょう。普通の人が暴漢に襲われたら、逃げずに動画などで覚えた古武術の技で倒す。あとは司法書士に電話すれば何とかなる……そう信じているのでしょう。あまりにも非現実的な対処法ではあります。
まあ、大半の人は信じたいことを信じるものです。ただ、昨今はこういう人が目に付くようにはなってきていますね。冒頭の徹底的抗戦を主張する人も、おそらく同類であると思われます。
こういう人は、己の弱さとまともに向き合ったことがないのではないか、と私は思っています。己の弱さに薄々気づきながら、そこから目を逸らして過激なことを考えたり口にしたりすることで、自分をごまかして生きているのではないでしょうか。
私は高校生の時、ヤンキーと喧嘩してボコボコにされた挙げ句、公園で土下座させられたことがあります。
格闘技のジムでも、数えきれないくらいボコボコにされてきました。三分間のスパーリングにて、ローキックで五回ダウンさせられたことがあります。ローキックでダウンさせられるというのは、本当に特殊なんですよ。やる気はあるのに、足に力が入らない。立つことが出来ず崩れ落ちる。これは、かなり悔しいですね。
また、パンチによるダウンも何度も経験しました。顔面へのパンチによるダウンは、意識が飛ぶのですよ。いいパンチが入ると、痛いと感じた直後に目の前が暗転し、気がつくと倒れています。殴られた記憶すら、飛んでいるケースもあります。これは、漫画やアニメのように根性で耐えられるものではありません。
一方、腹へのパンチは苦しいです。腹に拳か当たった一瞬後に、硬いものが内臓を貫いた……そんな感触ですね。これまた、根性で耐えられるようなものではありません。
こうした体験を経て、私は自分の弱さを思い知らされた気がします。人間は、いざとなれば簡単に意識を失うのですよ。また、意識があっても苦しさのあまり倒れてしまうことも珍しくありません。さらに言うと、強い恐怖で動けなくなることも経験しました。未だに鍛え続けている理由のひとつは、そうした体験にありますね。
格闘技には、残酷な一面があります。辛い練習をしても、そんな自分より遥かに強い人の存在を思い知らされてしまう。自分が弱いことを、否応なしに知らされるのですよ。以前にも書きましたが、格闘技を長くやっていると「私は強いです」などと不用意に口に出来なくなりますね。
ここで冒頭の話に戻りますが、もし侵略されたら徹底抗戦する……という考え方には、私も反対はしません。間違いだとも思いません。ただ、そういうことを口にしたり書き込んだりする以上は、自分も最後まで降伏せず徹底抗戦する、という覚悟があるのかと問いたいのですよ。
もっとも、尋ねれば「ある」と答えるのかもしれません。ただ申し訳ないですが、そう答える人の大半は現実の痛みを知らない方です。空手黒帯のローキック一発で戦意を失うタイプでしょうね。
あるいは「俺は兵士じゃないから戦わない」と答えるのかもしれません。「兵士たちは、国を守るため徹底抗戦しろ。絶対に降伏せず、どんなケガを負っても玉砕覚悟で最後まで戦え。俺は兵士ではないから戦わず逃げる」という考え方なのかもしれません。そうなると話にならないですが。
こういう人は反戦を説く意見を「頭お花畑」などとバカにしますが、戦う覚悟なき徹底抗戦主張も同じだと思います。
なお、念のため付け加えますが……私は、ロシアとウクライナの戦争に対し「徹底抗戦しろ」という意見を言うつもりはありませんし「降伏しろ」というつもりもありません。徹底抗戦も降伏も当事者が決めることであり、日本人が口出しすべきことではない……という考えです。
最後に、私が「武術は殺せるから格闘技より強い」的な発言をする人が嫌いなのも、本気の覚悟が感じられないからなんですよね。前科が付くこと、懲役に行くことの意味や、裏社会で生きることになる怖さを(頭だけでなく)体で理解した上で「いざとなったら、私は相手を殺します」という本物の覚悟を持った人には、私は何も言えません。
ところが、大半の武術マニアは「殺せる方が強い。だから俺は偉い」というマウントを取りたいだけなんですよ。殺すことに伴う責任や法的な罰などを、頭の中だけで処理しているのですよね。
男に二言はない、という言葉があります。また、昔のヤクザやヤンキーたちの間では「てめえ、吐いたツバ飲まんとけよ」という言い回しがあったそうです。いずれも、自分の言葉に責任を持て、という意味を持っています。しかし今は「殺す」「徹底抗戦」などと、ネットで無責任に言ってしまえる人が本当に多いようですね。
そういえば昔、格闘家の佐竹雅昭さんがとある番組に出演した時「口でうだうだ言うより、やったもん勝ちですよ」と発言し物議を醸しました。しかし、今の時代は「言ったもん勝ち」なのかもしれないですね。
「世界の歴史を見れば、早々に降伏した国の人間はひどい目に遭っている。だから、徹底的に抗戦しなくてはならない」
なるほど、もっともな話ではあります。その意見は正しいのでしょう。
ただ、こういう意見を主張する人に私は聞きたいのですよ。あなたは、自分が戦う立場になっても徹底的に抗戦するのですか? いや、抗戦できるのですか? と。
以前、某サイトで私宛てにこのようなメッセージが来ました。要約すると次の通りです。
「あなたは喧嘩で逮捕されることを恐れているようだが、死んだり障害を負うくらいなら刑務所に入った方がマシだ。普通の人には、暴漢に襲われたら手加減して押さえ込むような力はないから後のことなど気にせず反撃し倒すしかない。その後は、司法書士に頼んでいい弁護士を紹介してもらうのが現実的な対処法」
正直、呆れてしまいました。この方は、「普通の人」が、暴漢に襲われたら倒せると思っているようです。この方の言う普通の人とは、なろう主の「父親に古武術を仕込まれた普通の高校生」なんでしょうか。そもそも、襲われたら逃げるという選択肢がないようです。あと、司法書士が扱うのは基本的に民事事件であり、刑事事件では出番がないのですが……そもそも、いい弁護士を雇うには金がかかります。普通の人では無理ですね。
はっきり言ってしまうと、この方は頭の中ではいっぱい戦っているのでしょうね。だから、現実世界で暴漢に襲われても倒せると思っているのでしょう。普通の人が暴漢に襲われたら、逃げずに動画などで覚えた古武術の技で倒す。あとは司法書士に電話すれば何とかなる……そう信じているのでしょう。あまりにも非現実的な対処法ではあります。
まあ、大半の人は信じたいことを信じるものです。ただ、昨今はこういう人が目に付くようにはなってきていますね。冒頭の徹底的抗戦を主張する人も、おそらく同類であると思われます。
こういう人は、己の弱さとまともに向き合ったことがないのではないか、と私は思っています。己の弱さに薄々気づきながら、そこから目を逸らして過激なことを考えたり口にしたりすることで、自分をごまかして生きているのではないでしょうか。
私は高校生の時、ヤンキーと喧嘩してボコボコにされた挙げ句、公園で土下座させられたことがあります。
格闘技のジムでも、数えきれないくらいボコボコにされてきました。三分間のスパーリングにて、ローキックで五回ダウンさせられたことがあります。ローキックでダウンさせられるというのは、本当に特殊なんですよ。やる気はあるのに、足に力が入らない。立つことが出来ず崩れ落ちる。これは、かなり悔しいですね。
また、パンチによるダウンも何度も経験しました。顔面へのパンチによるダウンは、意識が飛ぶのですよ。いいパンチが入ると、痛いと感じた直後に目の前が暗転し、気がつくと倒れています。殴られた記憶すら、飛んでいるケースもあります。これは、漫画やアニメのように根性で耐えられるものではありません。
一方、腹へのパンチは苦しいです。腹に拳か当たった一瞬後に、硬いものが内臓を貫いた……そんな感触ですね。これまた、根性で耐えられるようなものではありません。
こうした体験を経て、私は自分の弱さを思い知らされた気がします。人間は、いざとなれば簡単に意識を失うのですよ。また、意識があっても苦しさのあまり倒れてしまうことも珍しくありません。さらに言うと、強い恐怖で動けなくなることも経験しました。未だに鍛え続けている理由のひとつは、そうした体験にありますね。
格闘技には、残酷な一面があります。辛い練習をしても、そんな自分より遥かに強い人の存在を思い知らされてしまう。自分が弱いことを、否応なしに知らされるのですよ。以前にも書きましたが、格闘技を長くやっていると「私は強いです」などと不用意に口に出来なくなりますね。
ここで冒頭の話に戻りますが、もし侵略されたら徹底抗戦する……という考え方には、私も反対はしません。間違いだとも思いません。ただ、そういうことを口にしたり書き込んだりする以上は、自分も最後まで降伏せず徹底抗戦する、という覚悟があるのかと問いたいのですよ。
もっとも、尋ねれば「ある」と答えるのかもしれません。ただ申し訳ないですが、そう答える人の大半は現実の痛みを知らない方です。空手黒帯のローキック一発で戦意を失うタイプでしょうね。
あるいは「俺は兵士じゃないから戦わない」と答えるのかもしれません。「兵士たちは、国を守るため徹底抗戦しろ。絶対に降伏せず、どんなケガを負っても玉砕覚悟で最後まで戦え。俺は兵士ではないから戦わず逃げる」という考え方なのかもしれません。そうなると話にならないですが。
こういう人は反戦を説く意見を「頭お花畑」などとバカにしますが、戦う覚悟なき徹底抗戦主張も同じだと思います。
なお、念のため付け加えますが……私は、ロシアとウクライナの戦争に対し「徹底抗戦しろ」という意見を言うつもりはありませんし「降伏しろ」というつもりもありません。徹底抗戦も降伏も当事者が決めることであり、日本人が口出しすべきことではない……という考えです。
最後に、私が「武術は殺せるから格闘技より強い」的な発言をする人が嫌いなのも、本気の覚悟が感じられないからなんですよね。前科が付くこと、懲役に行くことの意味や、裏社会で生きることになる怖さを(頭だけでなく)体で理解した上で「いざとなったら、私は相手を殺します」という本物の覚悟を持った人には、私は何も言えません。
ところが、大半の武術マニアは「殺せる方が強い。だから俺は偉い」というマウントを取りたいだけなんですよ。殺すことに伴う責任や法的な罰などを、頭の中だけで処理しているのですよね。
男に二言はない、という言葉があります。また、昔のヤクザやヤンキーたちの間では「てめえ、吐いたツバ飲まんとけよ」という言い回しがあったそうです。いずれも、自分の言葉に責任を持て、という意味を持っています。しかし今は「殺す」「徹底抗戦」などと、ネットで無責任に言ってしまえる人が本当に多いようですね。
そういえば昔、格闘家の佐竹雅昭さんがとある番組に出演した時「口でうだうだ言うより、やったもん勝ちですよ」と発言し物議を醸しました。しかし、今の時代は「言ったもん勝ち」なのかもしれないですね。
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