灰色のエッセイ

板倉恭司

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厳罰化ってどうなん? という話

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 私はたまに、昼間のワイドショーなどを観ることがあるのですが……何か大きな事件が起きると、必ず出て来る言葉があります。

「こんな刑じゃ甘いよ! もっと重くしろ!」

「えっ、こんな年数で出てきちゃうの!? これじゃあ、いつまで経っても犯罪は無くならないよ! 厳罰に処さないと駄目だよ!」

 こういう発言をするコメンテーターは、どの番組にも一定数いるようです。局としても「犯罪者には厳罰を!」というスタンスで番組作りをする方が楽なのでしょう。
 まあ犯罪者への厳罰化は、被害者の感情を考えた場合、当然の意見ではあります。
 しかし、その厳罰化が根本的な解決になるのかと言えば、それはどうかな? と言わざるを得ません。



 まず、厳罰化のメリットとして挙げられるのが、この意見です。

「罰を重くすれば、抑止力になる。刑が重いと、罪を犯そうという気持ちにストップがかかる」

 私は、この意見は間違いであると思います。罪を重くしても、抑止力にはなりません……あくまでも、私個人の考えですが。
 なぜ、そう言いきれるのかといいますと……実のところ、犯罪についての罰を、正確に把握している人など一般人ではまずいないからです。
 例えばの話、皆さんは他人に暴力を振るったことがありますか? はいと答えた方にお聞きしたいのですが、暴力を振るった結果が傷害罪になるかもしれないことを考慮していたのでしょうか? また傷害罪が、十五年以下の懲役刑であることはご存知でしょうか?
 こんなことは言うまでも無いですが、人を殴る前にそんなことを考える人などいません。そもそも、傷害が何年くらいの刑であるか……知っている人の方が、むしろ少ないのではないでしょうか。もちろん、知っていたからといって自慢できる知識でもないですが。
 そもそも、罪を犯す前に「待てよ、これは懲役○年の犯罪だからやめておこう」などと考えストップがかかるような人は、最初から犯罪とは無縁のタイプの人間です。

 さらに面倒な話をしますと……私の知人には、かつて刑務所に入っていた人が数人います。彼らが口を揃えて言っていたことがあります。

「刑務所は、本当にバカばっかりだよ」

 知人たちから聞いた話によれば、受刑者の八割が中卒だそうです。高卒がエリートで、大卒に至っては……東大出の官僚のごとき存在だそうです。
 まあ、学歴のみで人を判断するのは間違いでしょう。ただし、刑務所の場合は本当にレベルが違うらしいんですよね。
 知人が真顔で言っていたのですが、文盲に近いようなレベルの人間が二人いたそうなんですよ。この平成の世の中において、にわかには信じがたい話ですが……本当に、小学校一年で習うような、簡単な漢字が読めない人間が二人いたそうなのです。
 また、偶数や奇数が分からない人もいたそうです。受刑者は刑務所に入った直後「右向け右!」「二列縦隊!」などのような軍隊式の訓練をやらされるそうなのですが……訓練を担当する監守が「いいか、奇数の番号の者と偶数の者に分かれる。偶数と奇数が分からない者はいるか!」と皆の前で聞いたところ、手を挙げた者が二人いたそうです。すると監守も慣れたもので「いいか、一が奇数で二が偶数だ……」などと説明を始めたとか。
 この時に知人は「えらい所に来てしまった」と内心で頭を抱え、これまでの生き方を深く反省したと言っていました。
 まあ、これは極端な例ではありますが……基本的に、犯罪に手を染めるような人間は頭が良くないです。そんな人間たちに、刑法の知識などあるはずもありません。

 その知人の話には、さらなる続きがあります。同じ房に強盗未遂と傷害で逮捕された人がいたらしいのですが……仮に、その強盗を後藤さんとしましょう。その後藤さんは他の受刑者とは違い、大卒できちんとした仕事をしていました。
 ところが商売に失敗し、資金のやりくりがつかなくなり……ヤケになり強盗をしたものの、こちらも失敗してしまったそうです。
 その強盗の仕方もまた、お粗末なものでして……どうやって金を作ろうか、と金策に頭を悩ませていたところ、銀行から出てきた人が目に映ったそうです。しかも、革のカバンを大事そうに持っていたとか。
 その人を見た瞬間、後藤さんの中で何かが弾けました。銀行から出てきた人にタックルし、カバンをひったくって走ろうとしたのです。
 しかし世の中、そう上手くはいきません。タックルしても相手は倒れず、カバンも離れません。後藤さんは焦り、相手を殴ってしまいましたが……直後、あっさり取り押さえられたそうです。
 結果、強盗未遂と傷害で懲役五年……後藤さんは、こう言っていたとか。

「強盗が五年以上の懲役だなんて知らなかった」

 要は、刑法が改正されていようがいまいが、普通の人はそんなものは知らないということです。
 実際、一般人は犯罪などとは無縁の世界に生きています。窃盗が懲役何年で、殺人が何年か……などという知識は、あるはずがありません。したがって、刑を重くしたところで、犯罪の抑止力にはならないでしょう。そもそも重くなった事実すら、大半の人は知らないのですから。

 上で述べたのは、あくまでも個人的な意見ですが……テレビなどで「もっと刑を重くしろ!」と吠えている人たちは、結局のところ罪に対する罰は何年が適切であるかなどということは考えず、ただただ感情に任せて怒鳴っているだけのように見えます。
 最終的には、軽い罪でも機械的に極刑を宣告するような社会になれば、彼らは満足するのでしょうか。それは確実に、今よりも退化した社会であるような気がしますが……と思ったら、すぐ近くの国がそうらしいですね。





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