灰色のエッセイ

板倉恭司

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闇サイト殺人事件の話

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 かつて、闇サイトで知り合った男三人がOLを拉致し、金を奪って殺すという凶悪な事件がありました。
 闇サイト殺人事件と呼ばれている、この事件については詳細に書きたいところですが……あまりにも不快な部分があります。なので、ここでは概要のみに留めます。知りたい方はご自身で調べてみてください。ただ本当に不快な事件ですので、読む際には注意が必要かもしれません。
 もっとも、私がここで取り上げたいのは、この事件のあまりのお粗末さについてです。事件は本当にひどいものですが、今さら糾弾するつもりはありません。



 事件の犯人である男たち三人がしたことは、最終的には強盗殺人罪となりました。
 突然ですが、皆さんは強盗という罪に対する刑罰の重さがどの程度のものか、ご存知でしょうか。実に、懲役五年以上です。金がないから数百円をカツアゲした……などという罪でも、強盗という罪名が付いた時点で、五年以上の求刑が来るわけです。
 最近、執行猶予だ実刑だという言葉がワイドショーでも飛び交っていますが、強盗の場合は、初犯でも執行猶予が付かないケースがほとんどだと聞きました。
 ちょっと悪さ慣れした人間なら、この程度のことは皆知っています。なので、プロもしくはプロに近いような連中は、基本的に個人相手の強盗はやらないとか。理由は、割に合わないから、だそうです。

「同じ百万円を盗っても、窃盗なら二年で済むし、初犯なら執行猶予が付く。ところが、強盗なら六年はくらう。強盗は本当に割に合わない」

 かつて強盗で逮捕された知人は、しみじみと語っていました。
 ましてや強盗殺人ともなると、その罰はさらに重くなります。強盗殺人の場合、最低でも無期懲役、死刑も当たり前という恐ろしい罰が待っているのです。
 殺人罪の場合は、初犯ならひとり殺しても死刑になる可能性は低いという話です。しかし強盗殺人の場合は、ひとり殺しただけで死刑になることも有り得ます。
 余談になりますが、犯罪者を主人公にしたアクション映画で、主人公が仲間に向かい「余計な血は流すな。殺しは絶対にやらない」などと言ったりするシーンがあります。
 これは、主人公が根は善人であることを観客に伝えるため、というのが主な理由なのでしょうが、リアリティという観点から見た場合もっともな話だと知人は言っておりました。
 どこの国でも、窃盗より強盗の方が罪は重いでしょう。まして、強盗殺人は重罪です。警察の捜査に対する気合いの入り方がまるで違うそうです。
 犯罪のプロもしくはプロに近いような連中の中でも、人殺しだけはタブー視する人間が多いという話も聞きました。それは綺麗事ではなく、自身の身の安全のため、という部分もあるようですね。まあ、ヤクザやマフィアはまた別ですが。

 そういったことを踏まえて、この闇サイト殺人事件を見てみると、本当に呆れるばかりです。
 三十歳を過ぎた大人が三人集まり、やったことは通り魔的な強盗殺人。三人寄れば文殊の知恵という言葉がありますが、せめてもう少しマトモな知恵は浮かばなかったのでしょうか。発想は中二レベルですよね。にもかかわらず、何故このようなことをしでかしたのでしょうか?
 ここからは私の推測ですが、彼らはネット上で作り上げた虚像に振り回されていたのではないかと思います。
 私は、彼らがネットでどのようなやり取りをしていたかは知りません。しかし、恐らくはこんなものだったのではないでしょうか。

A:「俺、昔から凄いヤンチャしてて、ケンカも負けなしだぜ。裏の仕事にも詳しいよ」

B:「俺もケンカでは負けたことねえし、金と女に不自由したことはねえ」

C:「AさんもBさんも大したもんですね。まあ、俺も裏稼業では相当稼ぎましたよ。いっぺん会って、情報交換しませんか?」

 そんなやり取りを経て、実際に彼ら三人は会ってしまいました。当然ながら、会った先でも彼らは嘘の武勇伝を語り続けます。そんな中、話題は裏の仕事へと移りました。

「やっぱり、手っ取り早く稼げるのは強盗でしょ」

 恐らく、誰かがこんなことを言い出したのかと思われます。すると「確かに強盗は手っ取り早いよな。俺も今まで、何件もやったよ。一度も捕まってないけどな」などと言い出す奴もいて、さらに残りのひとりも「確かに手っ取り早いよね」などと話を合わせます。
 ここで、ちょっとでも知識のある人間がいれば「おいおい、強盗なんか止めとけ。割に合わないから」と突っ込むのですが……彼ら三人とも、チンピラ以下でした。大した知識もない人間たちが、悪さ自慢の武勇伝を語り合っているうちに、三人とも引っ込みがつかなくなり、最終的にはあのような事件へと発展してしまったのではないか、と私は考えています。
 まさに、場当たり的としか言いようが無いです。さらに酷いのは、犯人たちが被害者の命を奪ったことです。
 恐らくは、顔を見られたからには殺す……というハードボイルド小説の世界観をそのまま実行したのでしょうが、それ以前の問題として、犯罪を行う上で素顔を晒さないのは常識でしょう。それすら理解していない素人たちが、行き当たりばったりの計画を立てて実行し……挙げ句の果てに、ひとりの人間を殺してしまったのです。
 彼らは、いったい何がしたかったのでしょう。金が欲しかったのでしょうか、それとも犯罪がしてみたかったのでしょうか。本当に理解に苦しみます。ただ、彼らも我々と同じ人間であることだけは間違いないのです。
 私などが言うまでもないことですが、ネットには実に様々な人がいます。中には、聞きもしないのに一方的に武勇伝を語る者もいますよね。ただ、その大半が今回の犯人のような人間である……と判断しても構わないと思います。
 そんな人間と関わっても、百害あって一利なしでしょう。会わないのが賢明ですね。



 最後に、この事件の犯人たちが愚か者であるのは言うまでもありません。ただ、以前に『会話から生まれるもの』の章でも書いたように、ちょっとイキがっているような若者たちの会話は、時として思わぬ方向に行くことがあります。
 その結果、通り魔的な犯罪へと発展する……これは充分に有り得ることです。我々のような、特に裕福でもない通りすがりの一般人がターゲットになる可能性もあります。
 そうした犯罪に対し、我々に出来ることは……普段から用心して生きる、それしかないでしょうね。以前にも似たようなことを書いていますが、少なくとも夜のひとり歩きの際はイヤホンを着けずスマホから視線を外し、周囲の状況に気を配った方がいいと思います。




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