灰色のエッセイ

板倉恭司

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とある宗教団体とかかわった話 1

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 今回は、私が十年以上前に体験した話です。特に大きな事件というわけではありませんが、何とも悲しい話でしたね。



 そもそも、この話の始まりは私の友人でした。

「俺さ、大検受けるんだよ」

 そんなことを言ったのは、友人のイノケン(仮名です)です。私は呆気に取られました。この大検というのは当時の名称で、現在は高卒資格認定試験となっております。イノケンはかつて暴れん坊で、最終学歴は高校中退でした。
 そんなイノケンが、大検を受ける……それだけでも意外でしたが、彼の口からさらなる驚きのセリフが飛び出て来ました。

「実は今、塾みたいなところに通ってんだよ。そこは、学費タダなんだよね」

 なんじゃそら、と私は思いました。タダで勉強を見てくれる塾……どういう場所なのでしょうか。
 その答えは、すぐに出ました。

「実はさ、そこ宗教団体が運営してるんだよ」

 うえっ、と私は思いました。宗教団体が運営する塾とは、間違いなく危ないものでしょう。しかし、イノケンはこういうのです。

「いや、全然危なくないよ。俺も初めは警戒してたけど、宗教の行事に勧誘されたりとかはなかった」

 話を聞いた私は、興味を持ちました。しかも、当時は暇で暇で仕方ない時期でもありました。そんなわけで、私はその塾に通うことにしたのです。悪の秘密結社に潜入する捜査官になった気分でした。
 で、ひとまず入塾(?)のための面接を受けることとなったのです。


 そこは、どこにでもあるマンションの一室でした。得体の知れない神棚が飾ってあるとか、十字架が置かれているとか、そうしたことはありません。
 拍子抜けしていた私の前に現れたのは、ライノさん(もちろん仮名です)という男性でした。年齢は三十代でしょうか。痩せた体つきで、眼鏡をかけておりスーツ姿です。一見すると、どこにでもいるサラリーマンですが……何というか、どこか浮世離れした雰囲気のある人でした。良くいえば純粋な善人、悪くいえば世間知らず、そんな印象を受けましたね。
 ニコニコしているライノさんに、私は語りました。自分は高校を卒業しているが、大学は入ったことすらないし学校で習ったことは全て忘れてしまっている。大検は受ける気はないが勉強をしてみたい。こんな人間でも、入れるでしょうか……という内容の話をしたのです。
 ライノさんは、微笑みながら答えました。

「構いませんよ。ウチには、五十歳を過ぎて通われている方もいます。純粋に勉強がしたい、という理由でしたら、何の問題もありません」

 かくして、私はこの塾に通うこととなったのです。最初は週二回程度、国語と英語だけを教えてもらうこととなりました。もっとも、私の本当の目的は好奇心からです。宗教団体が運営する塾、果たしてどんなものなのだろうか……と。


 
 その塾・郷愁学園(これまた仮名です)は、不思議な場所でした。本当に、ただの塾なんですよね。来ている生徒に、勉強を教えるだけです。しかも、ノルマらしきものはありません。来たい時に来て、帰りたい時に帰る……自由というよりは、放任という感じでしょうか。ちなみに、勉強を教える教師は、バックにいる宗教団体の関係者のようでした。
 何より驚いたのは、未成年の喫煙を黙認していたことです。さすがに教室内では禁止ですが、外で吸うことは完全に黙認していました。そのため、授業の合間に生徒がタバコを吸いに出て行く……というような現象が当たり前だったのです。
 正直、私は疑問を感じていました。こんなことでいいのだろうか? と。実際の話、二、三回授業に出ただけで来なくなってしまう生徒も少なくなかったですし、チンピラのような外見の生徒もいました。そんな若者が、外でタバコを吸っている……いい環境とは思えません。
 ある日、私はライノさんに言いました。これでいいんですか、と。すると、ライノさんはニッコリ笑いました。

「いいんです。少なくとも、彼らはここに来ています。ここに来ている間は、悪いことはしません。また、様々な人間と触れ合うことも出来ます。それで充分だと思っていますよ」

 こんな風な答えが返ってきたのを、今も覚えています。正直、私は感動しました。以来、この塾に頻繁に顔を出すようになり、何かと手伝うようになったのです。
 しかし、私は間違っていました。ライノさんにしろ塾の他の先生にしろ、私とは根本的に違う人間だったのです。やがて、そのことを思い知らされることになりました。というわけで次回に続きます。







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