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冤罪の話 2
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前回の続きですが、あなたは無実の罪で自白を強要され、起訴されてしまいました。しかし、ここで一念発起します。こうなったら、裁判で無罪判決を勝ち取ろうと決意します。ついでに、酷い取り調べをした刑事に謝罪させてやる、とも決意しました。
ところが、これはとても厳しいイバラの道なのですよ。
裁判までの間、被疑者は留置場もしくは拘置所で過ごすこととなります。言うまでもなく、どちらも非常に居心地が悪いです。周りは犯罪者と留置係の警官もしくは高圧的な拘置所の職員だけ。娯楽はせいぜい本だけです。
しかも、雑居房に行くと犯罪者との共同生活を余儀なくされます。これは非常にキツいらしいです。中には、この共同生活だけで心をやられてしまう人もいるとか。
かといって独居に行くと……これはこれでキツいらしいです。周りに一切話し相手がなく、一日じっとしていなくてはならないのですから(東京拘置所では、昼間から許可なく寝ていると怒られるそうです)。
裁判の日まで、そんなキツい日々に耐えなくてはならない……この環境からして、既に拷問に近いものがありますね。
しかも状況証拠は全て、あなたを犯罪者であると言っています。その上、仮に一審にて無罪判決が出たとしても、検事控訴されるケースもあるそうです。検事控訴されると、高等裁判所にてまたしても裁判をすることとなるのです。
またまた余談ですが、東京地検にはドラマや映画などに登場するような人情派の検事など、ただのひとりもいないそうです。東京地検の検事は冷酷でプライドが高く、事務的に事件を処理していくような人がほとんどだそうです。言うまでもないこととは思いますが、念のため書きました。
別の誘惑もあります。この事件の場合ですと、窃盗でしょうからせいぜい一年から二年でしょう。初犯でしたら、ほぼ執行猶予が付くラインでしょうね。
ただ問題なのは、裁判官の心証はよくないという点です。
裁判官から見れば、あなたは素直に罪を認めずに否認し続けた嘘つき野郎となります。初犯なら、一年や二年の刑はたいてい執行猶予が付きます。ところが、この場合は付かない可能性もあります。そうなると、あなたは刑務所に一年から二年入らなくてはなりません。
またしても余談ですが、刑事の中には取り調べの際、その事実を武器のひとつとして用いる者もいたという話を聞きました。つまり、「お前の場合、いさぎよく罪を認めれば執行猶予が付くんだよ。ただし、否認したら執行猶予は付かないかもしれないぞ」という言葉を脅し文句のひとつとして用いるわけです。
この脅し文句は、嘘ではありません。それだけに、余計に始末が悪いです。冤罪を争う被告は、常にこの問題と向き合う訳です。罪を認めて執行猶予でさっさと終わらせるか、あるいは最後まで争うか。
無罪を主張し最後まで戦うと決めたとしても、今度は別の問題があります。
仮にあなたが最高裁まで争い、しかし敗れて実刑判決を受けてしまった場合……非常に困ったことになります。
仮に、刑が二年だったとしましょう。初犯の場合、本来ならば仮釈放が貰えます。二年の場合、だいたい四ヶ月から六ヶ月ほど貰えるそうです。つまり、約一年半で出所できます。
しかし、無罪を主張し最高裁まで争った人間の場合……仮釈放は貰えないそうなのです。
これはあくまで、刑務所にいた人間から聞いた話ですが……基本的に無罪を主張している人間は、心証が悪いそうです。仮釈放を決める委員会もまた、無罪を主張していた人間に対しては非常に厳しく、「反省する気がない」と見なされて仮釈放が貰えないそうなのです。百パーセントかどうかは不明ですが、実際に無罪を主張し最高裁まで争ったた挙げ句に仮釈放を貰えない人間を何人も見てきた、と知人は言っておりました。
つまり、裁判で無罪を主張し最後まで争うと、敗れた場合は本当に悲惨な目に遭う訳です。さっさと罪を認めて反省しているふりをすれば、執行猶予で終わるはずなのに……無罪を主張したばかりに、まるまる二年もの間刑務所に行くこととなるのです。
しかも、それだけではありません。通常、懲役刑には被告だった時の日数が引かれます。
例えば裁判まで半年かかり、二年の刑だったとします。この場合、その二年から……だいたい三ヶ月ほどが引かれるそうです(もちろん日数はケースバイケースですが)。つまり、一年と九ヶ月の刑になるわけです。
さらに、そこから仮釈放が貰えると……約一年と三ヶ月ほどで出所できるわけです。
ところが、無罪を主張して敗れたら……裁判までかかった日数はほとんど引かれないそうです。つまり裁判まで半年かかり、二年の刑を受けた場合……そこから丸二年、刑務所に入るわけです。もちろん仮釈放はもらえません。
こんな話を、留置場などでベテランの犯罪者から聞かされた場合、それでも無罪を争い戦い続けることが出来るでしょうか。
しかも、裁判の間にかかる費用も馬鹿にはなりません。家族の負担などを考えると……さっさと罪を認めて、執行猶予で出ようと考えたとしても不思議ではありません。
結果、無実の罪で有罪判決を受け、執行猶予で出てくる人は少なくないそうです。
ただ、ひとつ言わせていただくと……犯罪者には、基本的に嘘つきが多いです。中には覚醒剤の使用と所持で逮捕されたのに「俺は無実だ。警察にハメられた」などと主張し罪を認めず、最高裁まで争った者もいたそうです。
その男は自宅から覚醒剤の小袋が発見され、尿検査でも覚醒剤の反応が出ているのに、それでもボクはやってない……と言い続けた訳です。もはや、自分の嘘を信じてしまっているのでしょうか。ちなみに、その人も仮釈放が貰えず刑を満期まで務め上げたそうです。
また、同じ覚醒剤でも「俺は精神科医から処方された薬を飲んだら記憶が飛んだ。気がついたら、家に覚醒剤があったんだ。心神喪失状態での使用と所持だから無罪だ」などと言った人もいたそうです。実際、心神喪失を理由に無罪を主張する人も少なくないとか。
こんな輩ばかりを相手にしていると……無罪を主張する人への風当たりが強くなるのも仕方ないのかもしれません。結局のところ、こうした多くの嘘つきの存在が冤罪を生み出す一因になっている部分はあるでしょうね。
最後に、念のため書いておきますが……仮に執行猶予で出られたとしても前科は付いています。いったん前科が付いてしまうと、大なり小なり人生に影響を及ぼします。それは確実に、いい影響ではありません。
ところが、これはとても厳しいイバラの道なのですよ。
裁判までの間、被疑者は留置場もしくは拘置所で過ごすこととなります。言うまでもなく、どちらも非常に居心地が悪いです。周りは犯罪者と留置係の警官もしくは高圧的な拘置所の職員だけ。娯楽はせいぜい本だけです。
しかも、雑居房に行くと犯罪者との共同生活を余儀なくされます。これは非常にキツいらしいです。中には、この共同生活だけで心をやられてしまう人もいるとか。
かといって独居に行くと……これはこれでキツいらしいです。周りに一切話し相手がなく、一日じっとしていなくてはならないのですから(東京拘置所では、昼間から許可なく寝ていると怒られるそうです)。
裁判の日まで、そんなキツい日々に耐えなくてはならない……この環境からして、既に拷問に近いものがありますね。
しかも状況証拠は全て、あなたを犯罪者であると言っています。その上、仮に一審にて無罪判決が出たとしても、検事控訴されるケースもあるそうです。検事控訴されると、高等裁判所にてまたしても裁判をすることとなるのです。
またまた余談ですが、東京地検にはドラマや映画などに登場するような人情派の検事など、ただのひとりもいないそうです。東京地検の検事は冷酷でプライドが高く、事務的に事件を処理していくような人がほとんどだそうです。言うまでもないこととは思いますが、念のため書きました。
別の誘惑もあります。この事件の場合ですと、窃盗でしょうからせいぜい一年から二年でしょう。初犯でしたら、ほぼ執行猶予が付くラインでしょうね。
ただ問題なのは、裁判官の心証はよくないという点です。
裁判官から見れば、あなたは素直に罪を認めずに否認し続けた嘘つき野郎となります。初犯なら、一年や二年の刑はたいてい執行猶予が付きます。ところが、この場合は付かない可能性もあります。そうなると、あなたは刑務所に一年から二年入らなくてはなりません。
またしても余談ですが、刑事の中には取り調べの際、その事実を武器のひとつとして用いる者もいたという話を聞きました。つまり、「お前の場合、いさぎよく罪を認めれば執行猶予が付くんだよ。ただし、否認したら執行猶予は付かないかもしれないぞ」という言葉を脅し文句のひとつとして用いるわけです。
この脅し文句は、嘘ではありません。それだけに、余計に始末が悪いです。冤罪を争う被告は、常にこの問題と向き合う訳です。罪を認めて執行猶予でさっさと終わらせるか、あるいは最後まで争うか。
無罪を主張し最後まで戦うと決めたとしても、今度は別の問題があります。
仮にあなたが最高裁まで争い、しかし敗れて実刑判決を受けてしまった場合……非常に困ったことになります。
仮に、刑が二年だったとしましょう。初犯の場合、本来ならば仮釈放が貰えます。二年の場合、だいたい四ヶ月から六ヶ月ほど貰えるそうです。つまり、約一年半で出所できます。
しかし、無罪を主張し最高裁まで争った人間の場合……仮釈放は貰えないそうなのです。
これはあくまで、刑務所にいた人間から聞いた話ですが……基本的に無罪を主張している人間は、心証が悪いそうです。仮釈放を決める委員会もまた、無罪を主張していた人間に対しては非常に厳しく、「反省する気がない」と見なされて仮釈放が貰えないそうなのです。百パーセントかどうかは不明ですが、実際に無罪を主張し最高裁まで争ったた挙げ句に仮釈放を貰えない人間を何人も見てきた、と知人は言っておりました。
つまり、裁判で無罪を主張し最後まで争うと、敗れた場合は本当に悲惨な目に遭う訳です。さっさと罪を認めて反省しているふりをすれば、執行猶予で終わるはずなのに……無罪を主張したばかりに、まるまる二年もの間刑務所に行くこととなるのです。
しかも、それだけではありません。通常、懲役刑には被告だった時の日数が引かれます。
例えば裁判まで半年かかり、二年の刑だったとします。この場合、その二年から……だいたい三ヶ月ほどが引かれるそうです(もちろん日数はケースバイケースですが)。つまり、一年と九ヶ月の刑になるわけです。
さらに、そこから仮釈放が貰えると……約一年と三ヶ月ほどで出所できるわけです。
ところが、無罪を主張して敗れたら……裁判までかかった日数はほとんど引かれないそうです。つまり裁判まで半年かかり、二年の刑を受けた場合……そこから丸二年、刑務所に入るわけです。もちろん仮釈放はもらえません。
こんな話を、留置場などでベテランの犯罪者から聞かされた場合、それでも無罪を争い戦い続けることが出来るでしょうか。
しかも、裁判の間にかかる費用も馬鹿にはなりません。家族の負担などを考えると……さっさと罪を認めて、執行猶予で出ようと考えたとしても不思議ではありません。
結果、無実の罪で有罪判決を受け、執行猶予で出てくる人は少なくないそうです。
ただ、ひとつ言わせていただくと……犯罪者には、基本的に嘘つきが多いです。中には覚醒剤の使用と所持で逮捕されたのに「俺は無実だ。警察にハメられた」などと主張し罪を認めず、最高裁まで争った者もいたそうです。
その男は自宅から覚醒剤の小袋が発見され、尿検査でも覚醒剤の反応が出ているのに、それでもボクはやってない……と言い続けた訳です。もはや、自分の嘘を信じてしまっているのでしょうか。ちなみに、その人も仮釈放が貰えず刑を満期まで務め上げたそうです。
また、同じ覚醒剤でも「俺は精神科医から処方された薬を飲んだら記憶が飛んだ。気がついたら、家に覚醒剤があったんだ。心神喪失状態での使用と所持だから無罪だ」などと言った人もいたそうです。実際、心神喪失を理由に無罪を主張する人も少なくないとか。
こんな輩ばかりを相手にしていると……無罪を主張する人への風当たりが強くなるのも仕方ないのかもしれません。結局のところ、こうした多くの嘘つきの存在が冤罪を生み出す一因になっている部分はあるでしょうね。
最後に、念のため書いておきますが……仮に執行猶予で出られたとしても前科は付いています。いったん前科が付いてしまうと、大なり小なり人生に影響を及ぼします。それは確実に、いい影響ではありません。
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