灰色のエッセイ

板倉恭司

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しょうもない事件の話

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 前にも書いておりますが、私の地元はお世辞にも裕福といえるような地域ではありません。
 裕福でない地域というのは、新聞にも載らない小さな事件がちょいちょい起きます。中学生が自転車に乗り日本刀を振り回し(実際は模造刀でしたが)警察が出動したり、下半身丸だしにしたおじさんが徘徊していたり、しょうもない事件が多かったですね。今回は、そんなしょうもない事件について語ります。なお、登場する人物は全て仮名です。

 あれは、小学校の一年生か二年生の時でした。朝、教室の中で、私はマッちゃんという同級生と他愛もないことを話していました。その時、同じく同級生だったノブがものすごい勢いで教室に入って来たのです。ノブは私の顔を見るなり、こんなことを言いました。

「昨日、公園にお化けが出たぞ!」

「お化け? 何それ?」

 私が聞き返すと、ノブは真顔でこんなことを言いました。

「昨日の夜、公園で裸の男と女が歩いてたんだよ!」

 当時、我々は小学校の低学年です。性に目覚めるには、ちと早い年齢でした。裸の男女が何をするのか……既に知っている子もいたのかも知れませんが、あいにく我ら三バカトリオは何の知識もありません。

「そりゃあ、お化けだなあ」

「お化けに間違いないよ」

「見たいな、そのお化け」

 三バカは話し合い、夜になったら公園に見に行こう! ということになりました。
 やがて夜になり、三バカは公園に集合しました。息をひそめて、公園を探検します……が、裸のお化けなど見つかりません。挙げ句、公園にはヤンキーが集まり始めました。小学生から見れば、夜の闇の中で見るヤンキーは無茶苦茶怖かったです。我々は身の危険を感じ、ひとまず退散しました。家に逃げ帰ったら、親にブン殴られたのは言うまでもないですね。
 今にして思えば、ノブの見た裸の男女は野外プレイと露出好きな変態カップルだった、というのが合理的な解釈なのでしょう。ただ、その舞台となった公園は、夜になるとヤンキーがやたら多く出没するんですよね。なので、そんな場所で野外プレイなどしたら、とんでもない目に遭うのは間違いないでしょう。さすがに、そこまで命知らずなカップルはいないだろうとも思うんですよね。となると、ひょっとしたら本物のお化けだったのでは……などとバカなことを考えてしまいます。



 このノブという男、どうも事件を引き寄せてしまう何かを持っているようでして……また別の日のことです。学校から帰った私は、テレビの再放送ドラマを観ながらお菓子を食べていました。すると、ノブから電話がかかってきたのです。

「板倉! ウサギ出た! ウサギ出た! すぐに来い!」

 受話器越しに聞くノブの声は異様でした。私はわけがわからぬまま、ノブの家に行きました。
 ノブの家で見たもの、それは数匹のウサギでした。大きな灰色の母ウサギと、小さな子ウサギが数匹。そんな可愛い生き物が、ノブの家でひょこひょこ動いているのです。

「これ、買ったの?」

 私が聞くと、ノブは事情を説明してくれました。彼が学校から帰り庭を見ると、一匹の子ウサギが庭でひょこひょこ遊んでいたのです。
 ノブは唖然となりました。もちろん、彼の家にウサギなどいません。一方、子ウサギは恐れる様子もなく、ノブのそばに近づいて来ました。
 ノブは我に返り、子ウサギを捕まえようとしました。ところが、子ウサギは軒下に逃げ込みます。ノブも慌てて軒下を覗きこんだところ、そこには母ウサギがいました。ふてぶてしく寝そべり、数匹の子ウサギに乳をあげていたそうです。ノブは彼の母親とともに、ウサギたちを捕らえて家に入れたそうです。
 話を聞いた私は、さらに混乱しました。では、このウサギはどこから来たのでしょう。まさか、家族を引き連れてノブの家に引っ越して来たのでしょうか。

「たぶん、この母ウサギが妊娠した状態でどっかから逃げたんじゃないか。で、うちの軒下で産んだんだと思うよ。最近、庭から変な音してたし」

 と、ノブは言ってました。しかし、ノブの家は曲がりなりにも都内の二十三区なんですよ。しかも、近所にウサギなどいません。うちの小学校にもウサギはいましたが、逃げたという話はなかったです。母ウサギは、どこからどうやってノブの家に入りこんだのか、今でも謎ですね。



 ここまでは、まだ可愛いものです。しかし、最後の事件は……ちょっと怖いんですよね。
 これまた小学校の時ですが、私のクラスでは数匹の金魚を飼っていました。教室の中に水槽があり、生き物係が餌をあげていたのです。
 ある日のことです。私が登校し教室に入ってみると、全ての金魚が腹を上にして浮かんでいました……。
 なんじゃこりゃ、と思っていたら、教室に担任教師がつかつか入って来ました。どうやら、誰かがわざわざ職員室まで行き報告したらしいのです。担任教師は、水槽を見るなり怒鳴りました。

「なんだこれは! 誰がやったんだ!」

 言うまでもなく、名乗りでる者などいません。教師は「こんなことをする奴は、先生は絶対に許さないぞ!」などと怒鳴りちらしていましたが、犯人は誰なのか判明しませんでした。
 後から分かったのですが、教室に備え付けてある消毒液か何かの薬品が大量になくなっていたそうです。犯人は、その薬品を水槽に流して金魚を全滅させたようです。ちなみに、犯行が行われたのはうちのクラスだけでした。犯人は、おそらくクラスにいた者でしょう。
 それから、かなりの年月が経ちました。小学校の教室で飼われていた金魚が全滅したというニュース……はっきり言って、世間の人から見ればどうでもいい話でしょう。
 ただ、私は思うんですよね。もしかしたら、当時のクラスには後に連続殺人鬼になる可能性を秘めた者がいたのかも知れないと。ひょっとしたら、金魚を殺したことで満足し、異常性は消えたのかも知れません。
 あるいは、今もひそかに生き物を殺し続けているのかも知れません。






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