灰色のエッセイ

板倉恭司

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昔の地元の話

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 今回は、私の幼い頃の話をします。私の小学校時代は、昭和のいい加減な部分と現代のきっちりした部分の、ちょうど過渡期にあったような気がするんですよね。



 私が生まれ育ってきたのは、都内の某地区です。ガチでヤバい地域に比べると、かなりマシな方ではありましたが……それでも、治安は悪かったですね。
 まず公園に行くと、必ずといっていいくらい制服姿でタバコを吸っている中学生がいましたし、時には小学生も混じっていました。半ズボン姿で自転車に乗りながら、タバコを吸う小学生……今思うと、なかなかシュールな光景でした。もっとも、下町では珍しくないのかもしれません。
 また夕方から夜になると、明らかにヤバいものをキメてご機嫌になっている若者の一団に、よく出くわした覚えがあります。ひどい時など、ゲラゲラ笑うお兄さんに追いかけられ、必死で逃げた記憶があります。まあ、向こうはからかっているつもりだったようなのですが。
 余談ですが、個人的にシンナーという薬物は、覚醒剤より脳に与えるダメージが大きいように思います。
 かつて、知り合いにシンナー中毒がいましたが……この男は完全におかしくなっていました。何せ、普段から呂律の回らない喋り方なのです。しかも言っていることは支離滅裂で、訳わからないことを常に言っていました。「Aはヤクザに拉致され、両手を切り落とされた」「Bは今、刑務所に行ってる」などと、誰得な嘘をベラベラ言うのです。AもBも、ピンピンしているのですが……。
 とにかく、シンナーだけはやめましょう。もっとも、今どきシンナーに手を出す若者がいるとは思えませんが、念のため。

 うちの近所では、月に一度くらいの割合で交通事故がありました。とは言っても、環七通りや環八通りのような交通量の激しい道路に面していた訳ではありません。
 都内の下町というのは、どういう訳か狭い道がやたら多い気がするんですよね。その上、えらく入り組んでいるような……少なくとも、私の住んでいた場所はそうでした。
 そのせいか、車の事故がちょいちょい起きてたんですよ。しかも恐ろしいことに、車に跳ねられても「大丈夫だから」の一言で済ませてしまうことも少なくなかったようです。さらに、その場で慰謝料ならぬ医者料を渡して引き上げるドライバーもいたとか。今だったら考えられませんが。

 さらに、私の通う小学校には……なぜか知りませんが、どこかの飼い犬が月に一度くらいの割合で遊びに来ていました。昼過ぎ(給食を食べ終わったあたりの時間帯)にどこからともなく現れ、校庭を嬉しそうに走り回り、小学生たちに撫で回されていた記憶があります。しかも、教師たちもそれを放置していました。幸い、人に馴れている犬だったので問題は無かったですが、今なら考えられない話です。

 さらに、訳のわからない事件も多かったですね。小学生の時ですが、日本刀を振り回している男がうろうろしている、との通報がありました。うちの学校では大騒ぎになり、集団下校ということになったのです。しかし、その正体は模造刀を振り回していたバカな中学生、というオチでした。
 他にも、下半身を丸出しで歩いているおじさんが出た、というような通報も頻繁にあったようです。そのたびに、帰りのホームルームの時間に担任の先生が「今日、近所に変態が出たそうだ。気をつけて帰れ」などと言っていた記憶があります。で、私がゲラゲラ笑ったら「先生は真面目に言ってるんだ! 笑ってんじゃねえぞ板倉!」と言われてブン殴られた記憶もあります。
 ついでに言いますと、この先生がまた、どうしようもない奴でした。授業中の教室内で、平気でタバコを吸ってるんですよ。教室の中は、煙でもうもうでした。受動喫煙などという概念は、完全に存在していなかった時代でしたね。

 また、近所の駄菓子屋のゲームコーナーには必ず、おっかない中学生がたむろしていました。駅前のゲームセンターにいたっては、完全に不良たちの巣窟でした。昼間から、制服で咥えタバコの中学生や高校生がうろうろしていましたし、夜になると暴走族らしき連中の溜まり場と化していました。本当に、漫画『クローズ』に出てきそうな連中が大勢いましたね。店員も店員で、そういった連中が何しようが完全に無視してます。そのくせ、私のような小学生には「おい、もう六時なんだから帰れ」と居丈高に怒鳴りつけたりしました。世の中の裏側を知った瞬間ですね。
 そんな環境の中で育っていくと、無意識の内に危険を避けるアンテナのようなものが身に付くような気がします。気のせいかもしれませんが。

 もっとも最近では、私の地元もだいぶ小綺麗になりました。正直、昔の風景が懐かしい……と思うこともありますが、それは確実に「記憶の美化」ですね。公園で空き缶を咥えたお兄さんに追いかけられたり、教室内でタバコをスパスパ吸う教師にブン殴られるような小学校時代に戻りたいかと問われれば、私はNOと答えます。






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