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ジョニーの思い
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皆が見守る中、ザフィーは目を閉じた。同時に、首がガクンと落ちる。
遂に息絶えたのだ──
カーロフは、自身の涙を拭った。立ち上がると、無言のまま穴を掘り始める。粗末な道具しかないが、強い腕力でどんどん掘り進めていく。ブリンケンも立ち上がり、一緒に穴を掘る。
ジョニーとイバンカは、座り込んだままだった。手伝うでもなく、呆けたような表情でふたりの動きを見ていた。
やがて、深い墓穴が出来上がる。穴の底にザフィーの遺体を横たえ、上から土をかけていく。
土が、ザフィーの体を完全に覆っていった。最後に、彼女が生前に愛用していた杖を突き刺す。墓標の代わりだ。
その時だった。ジョニーが、ボソッと呟く。
「みんな、俺をここに置いていってくれ」
「はあ? 何を言っているんだ?」
ブリンケンが聞き返すと、ジョニーは下を向いたまま答える。
「俺は、いても何の役にも立たない。だから、もう降りる」
「おい、くだらねえこと言うなよ。ほら、立て」
言いながら、腕を取り立たせようとするブリンケン。しかしジョニーは、その手を乱暴に振り払った。
そして、顔を上げる。
「今まで、必死で修行してきた。どんな奴にも負けないと思っていた。けどな、俺のやってきたことは何の意味もなかった」
ジョニーの表情は虚ろだった。生気が消え失せ、死人のようである。ブリンケンは思わず顔を歪めた。
一方、ジョニーは淡々とした口調で語り続ける。
「これで、三人の仲間を失った。マルク、ミレーナ、隊長……みんな、俺の目の前で死んでいった。誰ひとり守れなかった。俺は、何の役にも立ってない。このまま旅を続けても、足手まといになるだけだ」
そこまで語った時、カーロフが口を開いた。
「あなたは、我々を見捨てて任務を降りるのですか?」
彼にしては珍しく、怒りの感情がこもっていた。恐ろしい形相で詰め寄るカーロフだったが、ジョニーの態度は変わらない。
「ああ、そうだよ。俺は降りる」
そう言うと、ジョニーは笑った。
己を嘲る嫌な笑顔だった。普段の若さあふれる向こう見ずな顔つきとは、真逆の表情があった。
「今まで、武に全てを捧げてきたつもりだった。なのに、全然強くなってねえ。ミッシング・リンクには、俺の技は全く通用しなかった。ドラゴンにいたっては、戦わせてもらうことさえ出来なかった。今の俺は何なんだよ……こんな弱い奴、いても何の役にも立たない」
「わかりました。あなたは、自分の役目から逃げるのですね。そんな人だとは思いませんでした」
カーロフが言うと、ジョニーはまたしても笑う。自嘲の笑みを浮かべ、口を開いた。
「はあ? 役目? 適当なこと要ってんじゃねえ。こんな無力な俺に、どんな役目があるんだ?」
「あなたには、役目があるはずです」
カーロフの言葉に続き、被せるかのように聞こえてきたのは悲痛な叫びだった。
「ジョニーは、約束を破るつもりなのか!?」
「えっ……」
いきなり割り込んできた声に、ジョニーは面食らっていた。
声の主は、さらに続ける。
「イバンカと約束したではないか! 最後まで一緒にいてくれると! ジョニーは、約束を破る気なのか!?」
そう、声の主はイバンカだったのだ。涙に濡れた瞳で、ジョニーを睨みつけている……。
「お前は、イバンカに戦えと言ったのだ! 俺も一緒に戦う……そうも言ってくれたのだ! ちゃんと覚えてるのだ! あれば嘘だったのか! ジョニーは、約束を破るのか!?」
凄まじい勢いで怒鳴り付けるイバンカに、ジョニーは何も言い返せなかった。少女のあまりにも純粋な気持ちをぶつけられ、唇を噛みしめ俯いている。
そんなジョニーに、今度はブリンケンが語り出した。
「なあジョニー、聞いてくれよ。俺はな、お前たちの噂を聴いた時……本当のこと言えば、不安で仕方なかったよ。わけのわからない傭兵に、こんな大仕事を任せられるのかってな」
ブリンケンは、穏やかな表情で、ゆっくりと言葉を紡いでいく。ジョニーは、無言で聞き入っていた。
「最初に見たのが、カザン闘技場だ。あの時、お前はぶちのめされていた。自分よりも、遥かに弱い男にな」
「だから何だ」
意味がわからず聞き返すジョニーだったが、ブリンケンは静かな口調で続ける。
「俺はな、あの時のお前を見た。見たから、お前ら人外部隊を信用する気になったんだよ。自分よりも遥かに弱っちい男にぶっとばされ、踏ん付けられそうになり、それでも仕事をやり遂げた。バカな奴なら、踏みつけられた時点でぶちキレて、あいつをぶっ飛ばしていただろう」
聞いているジョニーの脳裏に、その時の記憶が甦る。
勝ち役であるアドニスの踏みつけは、台本にない動きだった。完全なアドリブである。正直、頭にきたのは確かだ。しかし、ジョニーは手を出さなかった。後できっちりシメる。しかし、今はやられ役に徹する……そう決めていた。闘士なら、当たり前のことだ。
しかし、ブリンケンは違う印象を持ったらしい──
「お前がいなかったら、俺とイバンカは人外部隊には依頼していなかったよ。人外部隊に依頼していなかったら、ここまで来る前に殺されていたさ」
そこで、ブリンケンはジョニーの肩に触れる。
「俺たちがここまで来られたのは、お前のお陰なんだ。それに……今の俺たちには、お前の助けが必要だ。頼む、一緒に来てくれ」
・・・
「おい、さっきの音は凄かったな。大地が割れたかと思ったぜ」
「ああ。地震でもあったのかな」
「バカ言うな。あれは、魔竜エジンが敗れたしるしだ。現に、空を見てみろ。奴はもう飛んでいない」
「なんだと……エジンを敗るとは、あの人外部隊は聞きしに勝る強者ぞろいのようだな」
「しかし、奴らとて無傷では済むまい。相当の手傷を負っているはずだ」
「では、今頃は休んでいる最中か。そこを狙えば勝てるな」
「だったら、早いとこ片付けようぜ」
そんなことを口々に言いながら、ジグマの谷を進んでいく一団があった。数は、ざっと十人ほどか。鉄の胸当てや革の鎧などを着ており、めいめいが得意とする得物を携えている。
彼らは、いずれもイバンカたちの首に懸けられた懸賞金を狙い現れた者たちである。傭兵、山賊、殺し屋、賞金稼ぎなどなど……様々な経歴の持ち主だ。こんな場所にわざわざ足を踏み入れる以上、並の兵士とはわけが違う。血みどろの修羅場を幾つもくぐり抜け、数々の戦場にて生き延びてきた百戦錬磨の強者たちなのだ。
そんな彼らは、魔竜エジンがイバンカたちを狩るために動き出したことも知っていた。だが、それを承知の上で谷に侵入してきたのである、
もし、エジンにイバンカたち一行が全滅させられたなら、隙を見てイバンカの身につけていた物なり体の一部なりを拾い、自分たちが仕留めたと言って懸賞金を受けとる。あわよくば、戦いで傷ついたエジンをも退治し、漁夫の利を得ようという算段である。
万一、エジンが倒されたとしても……最強といわれた魔竜を倒した以上、無傷で済むはずがない。一行も傷つき、疲れ果てているはず。そこに奇襲をかければ、簡単に倒せるだろう。
そんな計算を立て、彼らはここに来たのである。ところが、ここで想定外の事態が起きた──
進んでいく彼らだったが、突如として前方に立ち塞がった者がいた。
岩陰から、ぬっと姿を現したのは……二メートルを超える長身で、がっちりした巨体を黒衣に包んだ男である。髪は金色の短髪で、肌は死人のように白い。
さすがの傭兵たちも、いきなり現れた大男に危険を感じた。その場で足を止める。
「なんだお前は!?」
ひとりが武器を振り上げ、怒鳴りつける。だが、別の者が声を発した。
「おい、あいつミッシング・リンクだぞ……」
直後、彼らの間に動揺が広がっていく。歴戦の強者であれば、一度は聞いたことのある名前である。数々の伝説を残した最強の傭兵が、目の前に立っているのだ。
そのミッシング・リンクは、静かな表情で口を開いた。
「奴らは、俺の獲物だ。お前らには渡さん」
直後、凄まじい勢いで襲いかかっていった──
遂に息絶えたのだ──
カーロフは、自身の涙を拭った。立ち上がると、無言のまま穴を掘り始める。粗末な道具しかないが、強い腕力でどんどん掘り進めていく。ブリンケンも立ち上がり、一緒に穴を掘る。
ジョニーとイバンカは、座り込んだままだった。手伝うでもなく、呆けたような表情でふたりの動きを見ていた。
やがて、深い墓穴が出来上がる。穴の底にザフィーの遺体を横たえ、上から土をかけていく。
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その時だった。ジョニーが、ボソッと呟く。
「みんな、俺をここに置いていってくれ」
「はあ? 何を言っているんだ?」
ブリンケンが聞き返すと、ジョニーは下を向いたまま答える。
「俺は、いても何の役にも立たない。だから、もう降りる」
「おい、くだらねえこと言うなよ。ほら、立て」
言いながら、腕を取り立たせようとするブリンケン。しかしジョニーは、その手を乱暴に振り払った。
そして、顔を上げる。
「今まで、必死で修行してきた。どんな奴にも負けないと思っていた。けどな、俺のやってきたことは何の意味もなかった」
ジョニーの表情は虚ろだった。生気が消え失せ、死人のようである。ブリンケンは思わず顔を歪めた。
一方、ジョニーは淡々とした口調で語り続ける。
「これで、三人の仲間を失った。マルク、ミレーナ、隊長……みんな、俺の目の前で死んでいった。誰ひとり守れなかった。俺は、何の役にも立ってない。このまま旅を続けても、足手まといになるだけだ」
そこまで語った時、カーロフが口を開いた。
「あなたは、我々を見捨てて任務を降りるのですか?」
彼にしては珍しく、怒りの感情がこもっていた。恐ろしい形相で詰め寄るカーロフだったが、ジョニーの態度は変わらない。
「ああ、そうだよ。俺は降りる」
そう言うと、ジョニーは笑った。
己を嘲る嫌な笑顔だった。普段の若さあふれる向こう見ずな顔つきとは、真逆の表情があった。
「今まで、武に全てを捧げてきたつもりだった。なのに、全然強くなってねえ。ミッシング・リンクには、俺の技は全く通用しなかった。ドラゴンにいたっては、戦わせてもらうことさえ出来なかった。今の俺は何なんだよ……こんな弱い奴、いても何の役にも立たない」
「わかりました。あなたは、自分の役目から逃げるのですね。そんな人だとは思いませんでした」
カーロフが言うと、ジョニーはまたしても笑う。自嘲の笑みを浮かべ、口を開いた。
「はあ? 役目? 適当なこと要ってんじゃねえ。こんな無力な俺に、どんな役目があるんだ?」
「あなたには、役目があるはずです」
カーロフの言葉に続き、被せるかのように聞こえてきたのは悲痛な叫びだった。
「ジョニーは、約束を破るつもりなのか!?」
「えっ……」
いきなり割り込んできた声に、ジョニーは面食らっていた。
声の主は、さらに続ける。
「イバンカと約束したではないか! 最後まで一緒にいてくれると! ジョニーは、約束を破る気なのか!?」
そう、声の主はイバンカだったのだ。涙に濡れた瞳で、ジョニーを睨みつけている……。
「お前は、イバンカに戦えと言ったのだ! 俺も一緒に戦う……そうも言ってくれたのだ! ちゃんと覚えてるのだ! あれば嘘だったのか! ジョニーは、約束を破るのか!?」
凄まじい勢いで怒鳴り付けるイバンカに、ジョニーは何も言い返せなかった。少女のあまりにも純粋な気持ちをぶつけられ、唇を噛みしめ俯いている。
そんなジョニーに、今度はブリンケンが語り出した。
「なあジョニー、聞いてくれよ。俺はな、お前たちの噂を聴いた時……本当のこと言えば、不安で仕方なかったよ。わけのわからない傭兵に、こんな大仕事を任せられるのかってな」
ブリンケンは、穏やかな表情で、ゆっくりと言葉を紡いでいく。ジョニーは、無言で聞き入っていた。
「最初に見たのが、カザン闘技場だ。あの時、お前はぶちのめされていた。自分よりも、遥かに弱い男にな」
「だから何だ」
意味がわからず聞き返すジョニーだったが、ブリンケンは静かな口調で続ける。
「俺はな、あの時のお前を見た。見たから、お前ら人外部隊を信用する気になったんだよ。自分よりも遥かに弱っちい男にぶっとばされ、踏ん付けられそうになり、それでも仕事をやり遂げた。バカな奴なら、踏みつけられた時点でぶちキレて、あいつをぶっ飛ばしていただろう」
聞いているジョニーの脳裏に、その時の記憶が甦る。
勝ち役であるアドニスの踏みつけは、台本にない動きだった。完全なアドリブである。正直、頭にきたのは確かだ。しかし、ジョニーは手を出さなかった。後できっちりシメる。しかし、今はやられ役に徹する……そう決めていた。闘士なら、当たり前のことだ。
しかし、ブリンケンは違う印象を持ったらしい──
「お前がいなかったら、俺とイバンカは人外部隊には依頼していなかったよ。人外部隊に依頼していなかったら、ここまで来る前に殺されていたさ」
そこで、ブリンケンはジョニーの肩に触れる。
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・・・
「おい、さっきの音は凄かったな。大地が割れたかと思ったぜ」
「ああ。地震でもあったのかな」
「バカ言うな。あれは、魔竜エジンが敗れたしるしだ。現に、空を見てみろ。奴はもう飛んでいない」
「なんだと……エジンを敗るとは、あの人外部隊は聞きしに勝る強者ぞろいのようだな」
「しかし、奴らとて無傷では済むまい。相当の手傷を負っているはずだ」
「では、今頃は休んでいる最中か。そこを狙えば勝てるな」
「だったら、早いとこ片付けようぜ」
そんなことを口々に言いながら、ジグマの谷を進んでいく一団があった。数は、ざっと十人ほどか。鉄の胸当てや革の鎧などを着ており、めいめいが得意とする得物を携えている。
彼らは、いずれもイバンカたちの首に懸けられた懸賞金を狙い現れた者たちである。傭兵、山賊、殺し屋、賞金稼ぎなどなど……様々な経歴の持ち主だ。こんな場所にわざわざ足を踏み入れる以上、並の兵士とはわけが違う。血みどろの修羅場を幾つもくぐり抜け、数々の戦場にて生き延びてきた百戦錬磨の強者たちなのだ。
そんな彼らは、魔竜エジンがイバンカたちを狩るために動き出したことも知っていた。だが、それを承知の上で谷に侵入してきたのである、
もし、エジンにイバンカたち一行が全滅させられたなら、隙を見てイバンカの身につけていた物なり体の一部なりを拾い、自分たちが仕留めたと言って懸賞金を受けとる。あわよくば、戦いで傷ついたエジンをも退治し、漁夫の利を得ようという算段である。
万一、エジンが倒されたとしても……最強といわれた魔竜を倒した以上、無傷で済むはずがない。一行も傷つき、疲れ果てているはず。そこに奇襲をかければ、簡単に倒せるだろう。
そんな計算を立て、彼らはここに来たのである。ところが、ここで想定外の事態が起きた──
進んでいく彼らだったが、突如として前方に立ち塞がった者がいた。
岩陰から、ぬっと姿を現したのは……二メートルを超える長身で、がっちりした巨体を黒衣に包んだ男である。髪は金色の短髪で、肌は死人のように白い。
さすがの傭兵たちも、いきなり現れた大男に危険を感じた。その場で足を止める。
「なんだお前は!?」
ひとりが武器を振り上げ、怒鳴りつける。だが、別の者が声を発した。
「おい、あいつミッシング・リンクだぞ……」
直後、彼らの間に動揺が広がっていく。歴戦の強者であれば、一度は聞いたことのある名前である。数々の伝説を残した最強の傭兵が、目の前に立っているのだ。
そのミッシング・リンクは、静かな表情で口を開いた。
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