七人の勇者たち

板倉恭司

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ザフィーの秘策

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 どのくらいの時間が経過しただろう。
 一行は、無言のまま座り込んだままだった。考えれば考えるほど、現在の状況は絶望的なのだ。カーロフやジョニーはもちろんのこと、いつもは陽気なブリンケンですら口を閉じている。イバンカにいたっては、しゃがみ込んだ姿勢で下を向いていた。
 重苦しい空気が、洞窟内に立ち込めていた……が、それは長く続かなかった。しばらくして、ザフィーが目を覚ましたのだ。あくびをし、上体を起こして周りを見回した。

「ふう、すっかり寝ちまったよ。どのくらい眠っていたんだい?」

「半日も経っていませんよ。まだ眠っていても、問題ありません」

 カーロフが言ったが、ザフィーはかぶりを振る。

「いいや、眠ってる場合じゃないからね。起きるよ。で、外の様子はどうだい?」
 
 すると、カーロフは立ち上がった。

「わかりません。とりあえず、私が様子見に出てみます。障壁を解いてください」

 その言葉に、ザフィーは頷いた。手をかざし、呪文を唱える。
 ほぼ同時に、光の壁は消えた。カーロフは、のっそりと歩いていく。入口のところで立ち止まり、外を見回した。
 その顔が、皆の方へと向けられる。

「皆さん、私が帰ってくるまで、誰も外に出ないでください」

 言った直後、巨体に似合わぬ速さで外に飛び出していく。一行は、固唾を飲んで見守っていた。
 直後、カーロフが恐ろしい速度でこちらに走ってくる。洞窟に飛び込むと同時に叫んだ。

「いました! 隊長! 障壁を!」

 ザフィーは、すぐさま反応する。呪文の詠唱を終え、入口に触れた。途端に、物理攻撃を防ぐ魔法の壁が出現する。壁が穴をふさいだ。
 直後、カーロフが口を開く。

「無理なようです。私が外に出たのと、ほぼ同じタイミングで奴が飛んできました。どこかで見張っているようです」

 聞いたザフィーは、髪を掻き上げ天井を睨む。

「そうかい。となると、奴を倒さない限りバルラト山にはたどり着けないってわけか。まったく、とんでもない話だね」

「倒すって、どうやるんだ?」

 尋ねるブリンケンに、ザフィーは渋い表情で口を開いた。

「昔、エジンについて調べてみたことがあるんだけどね……あの鱗は鉄より硬く、どんな武器でも傷さえ付けられなかったって話だよ。一度、城攻め用の巨大弩バリスタで撃った奴らがいたらしいんだ。騎士のランスよりもでっかい矢を、とんでもない速さで発射できる構造だよ。先端には鋼の矢尻が付いてて、頑丈な城壁でも貫き通せる代物さ」

「で、どうなったんだ?」

「でっかい矢は、狙い違わず命中した。ところが、傷ひとつ付けられなかったそうだよ。弾き返された挙げ句、怒り狂ったエジンの火の玉を浴びた。その場にいた奴は、みんな黒焦げさ」

「なんだよ……とんでもねえ化け物だな」

 呻くような声を出したブリンケンに、ザフィーは顔をしかめつつ話を続ける。

「それだけじゃないよ。あんたも見たろ。エジンは、鳥よりも速く飛べる。とんでもない速さで空を飛び回り、上から火の玉を降らせてくるんだよ。その上、頭もキレる。火の玉を一発撃ったら、すぐさま高速で離れるからね。こっちは、攻撃すら出来ないってわけさ。はっきり言って、お手上げだよ」

「なんだそりゃあ。高速で移動し装甲も激厚な爆撃機ってわけか。まさにチートだな」

「は? バクゲキキ? チート?」

 聞き返すザフィーに、ブリンケンはペこりと頭を下げた。

「あ、すまんすまん。こっちの話だ。にしても凄いな。地上には、あんなのが他にもいるのか?」

「いや、あそこまで強いのは、そうはいないさ。ただ問題なのは、この世界でも最強に近いドラゴンが、あたしたちの前に立ちふさがってるってことだよ。そもそもドラゴンてのは、人間の手に負えないからドラゴンなのさ」

「なんてことだよ」

 呻くような声を出したブリンケンに、今度はカーロフが言葉を返す。

「まず、あの速い動きを止めなくてはならないですね。空を飛ばれていたのでは、戦いにすらなりません」

「どうやって止めるんだ?」

 ブリンケンがさらに尋ねた時、それまで黙っていたジョニーが口を開いた。

「あいつの翼だけどよ、あれは空を飛ぶのに必要なのか?」

「えっ、どういう意味だい?」

 訝しげな表情のザフィーに、ジョニーも首を捻りつつ答える。

「いや、鳥は飛ぶ時にバタバタ羽ばたくだろ。しかし、あいつの翼はピクリとも動いてなかった。どういう仕組みになってんだろうな」

「翼が動かない、か。確かにそうだね……」

 ザフィーの表情が変わった。何か、思い当たることがあったらしい。
 すると、ブリンケンが口を挟んできた。

「これは、俺たち天空人の世界での研究だ。だから、この世界にも当てはまるかはわからないが……本来、あの大きさの翼では、ドラゴンの巨体を空に飛ばすことは出来ないはずなんだよ」

「どういう意味だい?」

「鳥を考えてみてくれ。胴体よりも、遥かに大きな翼をはばたかせて空を飛んでるだろ。ドラゴンが空を飛ぶには、あの巨体を浮かせるだけの、巨大で強い力を出せる翼が必要なはずなんだよ。ところが、あのドラゴンの翼は小さい。しかもだ、はばたきもせず空中で静止していた。完全に違う次元の生物なんだよ」

「言われてみれば、そうだね。となると、奴の翼は……」

 ザフィーは眉間に皺を寄せた。下を向き、岩と土に覆われた地面を睨みつける。
 やがて、顔を上げた。

「蜘蛛の糸で崖を昇るくらい危うい作戦だけど、これに賭けるしかないね」

 誰にともなく、呟くように言った……かと思うと、皆の方を向く。

「やるこたぁ決まったよ。あたしとカーロフで戦う。それにブリンケンにも手伝ってもらう」

「俺は、何をすればいいんだ?」

 ジョニーが聞いてきたが、ザフィーの返事は意外なものだった。

「あんたは、ここで留守番だ。イバンカを守っていておくれ」

 途端に、ジョニーの表情が変わった。

「ちょっと待ってくれよ! 俺だけ留守番って、どういうわけだ?」

「どういうわけだ、って言葉の通りだよ。あんたらは、ここで待ってな」

 ザフィーの口調は静かなものだった。だが、その態度がジョニーの怒りに油を注ぐことになる。

「はあ!? なんでだよ! なんで俺が居残りなんだ!」

「三人で充分だからさ」

「嘘つくな! 俺が役立たずだからじゃないのか!?」

 吠えながら詰め寄るジョニー。カーロフが間に入ったが、ザフィーも負けじと言い返す。

「じゃあ、はっきり言うよ。その通り、あんたは役立たずだ。だから外す」

「なんだと!」

「あんたが殴ろうが蹴ろうが、あのドラゴンは蚊に刺された程度にも感じないよ。それに、エジンはあんたより速く動ける。あんたに出来ることなんか、何もないのさ」

「だったら、こいつだって同じじゃねえか!」

 喚きながら、ジョニーが指差したのはブリンケンだ。しかし、ザフィーは即答する。

「ブリンケンは、強力な飛び道具を使える。あの武器が、今回の作戦には必要なのさ」

 するとジョニーの矛先は、ブリンケンに向けられた。

「だったら、その武器の使い方を教えてくれ! 俺が代わりに戦う!」

 言いながら詰めよっていく。しかし、ブリンケンはかぶりを振った。

「悪いが、そりゃ無理なんだ。こいつは、俺にしか使えない。そういう仕組みになってるんだ」

 すまなそうな顔で答える。次いで、カーロフが口を開いた。

「ジョニーさん、人にはそれぞれ役割があります。私には私の、隊長には隊長の、そしてジョニーさんにはジョニーさんの役割があるはずです。その役割を果たしてください」

 その言葉に、ジョニーの顔が歪む。無言のまま、地面を睨みつけた。ザフィーたちも、何も言わず彼から目を逸らせる。
 ややあって、ジョニーは顔を上げる。

「わかったよ……」



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