七人の勇者たち

板倉恭司

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カーロフの正体

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 ふたりの話が終わった時、突然カーロフが口を開いた。

「ひとつ、お伝えしなければならないことがあります。重大なことです。隊長には既に伝えておりますが、ジョニーさんにはまだでしたね。ブリンケンさん、イバンカさんも知らねばならない話です」

 そう言って、カーロフは皆の顔を見回す。異様な雰囲気だ。一同は彼の醸し出す空気に飲まれ、無言のままカーロフの言葉を待っている。
 ややあって、カーロフは重々しい口調で語り出した。

「私は、純粋な自然生物ではないのです。魔法と科学の融合した技術によって生み出された人工生命体なのですよ」

「はあ? 何を言ってる──」

 言いかけたジョニーを片手で制し、ザフィーが口を開く。

「わかりやすく言うとだね、カーロフはゴーレムみたいなものなんだよ。ただし、自分の頭で考え行動できる。造り主の命令に逆らうことも出来る。まあ、あたしら人間とほとんど同じなんだよ」

 それを聞いたジョニーは、唖然とした顔でカーロフを見つめる。
 魔法にうとい彼も、ゴーレムのことは知っていた。高位の魔術師によって造り出された動く人形である。その腕力は凄まじく、体も頑丈だ。剣で斬ろうが槍で突こうがびくともしない。
 もっとも、創造主である魔術師が死ねば、ゴーレムも動きを止める。ゴーレムにとって、魔法こそが生命力……すなわち、死んだのと同じ状態になる。
 だが、今の話を聞くと……カーロフは、創造主が死んでも動き続けることが可能らしい。それだけでなく、自らの意思で行動しているらしいのだ。
 そのカーロフは、ザフィーに頭を下げる。

「わかりやすい説明、ありがとうございます。かつて、フランツという天空人の学者が地上に降りてきました。彼は、こちらの世界に興味を持ち、全てを捨てて研究のために降りて来たのです。やがてフランツは、ビクトルという地上人の魔術師と出会い、お互いの持てる知識を教え合いました。このふたりが協力したことにより、私が誕生したのです」

 落ち着いた口調で語っているが、その内容はとんでもないものだ。ジョニーはもちろんのこと、ブリンケンやイバンカも呆然となりながら話を聞いていた。

「ここからが重要な話です。先ほど、実際に闘った体験からの推理ですが……あのミッシング・リンクも、おそらくは私と同じ人造人間かと思われます。しかも、能力は私を上回るようです。ひょっとしたら、天空人が造ったのかもしれません」

 そこで、ブリンケンが口を挟んだ。

「そんな話、聞いたこともないな。そもそも、クローンや遺伝子の組み替えみたいな研究は、かなり前から禁止されている……」

 そこで周りの者たちの反応に気づき、慌てて言い直した。

「すまん。俺たちの世界では、人造人間の研究は禁止されているはずなんだ」

「禁止されてるからって、やらない奴ばかりとは限らないだろ」

 ザフィーの言葉に、ブリンケンは苦笑しつつ頷く。その通りだ。でなければ、イバンカが狙われるような事態になるはずがない。
 その時、ジョニーがカーロフの方を向いた。

「リンクは、あんだけやっても死なないのか?

「我々人造人間には、強い自己修復能力があります。簡単に言うと、人間なら死んでしまうような傷を負っても、自力で治してしまえるのですよ。たとえ手足がちぎれても、ある程度の時間をかければ元通りになります。したがって、リンクはあの程度では死にません。必ず追って来ます」

「だったら、どうすりゃ殺せるんだ?」

 さらに聞いてくるジョニーに、カーロフは少しばかり渋い表情を見せる。

「鉄をも溶かす温度の炉に放り込むか、あるいは巨大な岩石の下敷きにするか、ですね。もっとも、リンクは私より上の性能と思われます。なので、さらなる攻撃をしないといけないかもしれません」

「そうか……そいつは厄介だな」

 ジョニーが呟く。すると、ザフィーが口を挟んだ。

「大丈夫だよ。あたしらの目的は、あいつを殺すことじゃない。イバンカを、無事に送り届けることさ。必ずやってやる。でなきゃ、マルクやミレーナに申し訳ないからね」

 そう言うと、ひょいとイバンカを抱き上げた。突然のことに目を白黒させる少女に、優しく微笑みかける。

「さあ、子供は寝る時間だよ。帰るよ、この悪戯っ子め」

「わ、わかったのだ」

 イバンカは、申し訳なさそうに頷いた。ザフィーは、少女を両腕で抱き抱え、そっと運んでいく。
 その姿を見ながら、ジョニーは再び険しい表情になった。

「クソが……なんで、あんな子供が自殺なんか考えなきゃなんねえんだよ」

 毒づいた直後、傍の大木を殴りつける。バシッという音が響いた。それでも、ジョニーの怒りは収まらないらしい。鋭い目で、大木を睨んでいる。
 すると、ブリンケンが彼の肩に手を置く。まあまあ、とでもいいたげな顔で口を開いた。

「お前、いい奴だな。本当、お前らに依頼して正解だったよ」

 とぼけた言葉に、怒りも多少は和らいだようだ。ジョニーは苦笑しつつ、彼の方に顔を向ける。
 その時、以前よりの疑問を思い出した。

「そういえば、前から不思議だったんだが……俺たちのことは、誰から聞いたんだ?」

 ジョニーの問いに、ブリンケンは顔を歪め答えた。

「実は、よくわからないんだ」

「どういうことだ?」

「俺が普通に町を歩いていたら、どこかのガキが手紙を渡してきたんだよ。開いてみたら、イバンカが地上に降りてきたことと、妙な連中が動いていることが書かれていたんだ。そして最後に、人外部隊と呼ばれている傭兵たちに依頼しろ……ってな」

「な、なんだよそれ。何者が書いたか、心当たりはあるのか?」

「おそらく、天空人だろうな。ただ、そこまで地上人の事情に詳しい者がいるとは思えないんだよ」

「じゃあ、誰がよこしたんだ?」

「わからない。ひょっとしたら、俺たちの知らない何者かが動いているのかもしれないな」

 ブリンケンが言った時、カーロフが横から口を挟む。

「おふたりとも、そろそろ行くとしましょう。リンクは、必ず追って来ます。今は、前に進むだけですよ

「そうだな。すまない」

 ブリンケンが答え、同時に三人は歩き出した。

「それにしても、あんたの武器すごいな。天空人は、そんな武器を当たり前のように持ってるのかい」

 歩きながら尋ねるジョニーに、ブリンケンは首を横に振った。

「当たり前、ってわけでもない。それに、無限にバンバン撃てる代物じゃないんだよ。せいぜい、一日に三発くらいだな」



 やがて、三人は馬車に戻った。イバンカは寝息を立てて眠っており、ザフィーは物憂げな表情を浮かべ少女を見守っている。

「それにしても、まいったな。俺たちは、今やお尋ね者だ。しかも、リンクみたいな化け物まで追っかけて来てる。どうしたもんかね」

 ぼやいたブリンケンに向かい、ザフィーが口を開いた。

「ひとつ手がある。この先に、あたしの知り合いがいるんだよ。そいつらに協力してもらえるかもしれない」

「何者だ?」

 尋ねたのはジョニーだ。

「マルサムって奴さ。あたしと同じ部族だった奴だ。奴隷にされてた人間を同志として扱い、助けてくれてる。そいつなら、何とかしてくれるかもしれない」

「そいつは助かる。そのマルサムは、どこにいるんだ?」

 身を乗り出してきたブリンケンに、ザフィーは苦笑しつつ答える。

「ここからすぐのところさ。マルサムは、いろんな連中と独自の繋がりを持ってる。あいつなら、イバンカを無事にバルラト山へ送れる秘密のルートを知ってるかもしれない」

「秘密のルート?」

「あたしらの世界は、いろいろあるのさ。昔は、問答無用で奴隷にされてた部族がいるんだよ。今も、大半が奴隷にされてる。マルサムは、奴隷にされた連中を助けるために動いている。いつか、革命を起こすつもりなんだとさ」





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