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六月一日 将太、いつもの日課を行う
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その日の夜、真幌公園には三人の若者がたむろしていた。彼らの年齢は、十代半ばであろうか。若者というよりは、少年といった方が適切だろう。髪型も服装もまちまちではあるが、共通する点が一つある。この年代の若者に特有の無謀さ傍若無人さが、顔にありありと現れていた。
今の時間は、夜の二時を過ぎている。しかも、このあたりは閑静な住宅地だ。周囲は既に人通りが無い。本来なら、しんと静まりかえっているはずである。
そんな中、三人組は公園の一角で派手に騒いでいた。まるで、騒ぐことに自分たちの価値を見出だしているかのようである。彼らはベンチに座り、大声で喋り、ゴミを撒き散らし、いかにも楽しそうに笑っていた。
しかし彼ら三人組の騒がしくも楽しい時間は、突然に終わりを告げる。
公園で浮かれている三人組の前に、いきなり不気味な者が姿を現した。身長はさほど高くない。しかし肩幅が広くがっちりした体格であることは、服の上からでも容易に見てとれる。また黒いパーカーを着ており、フードを目深に被っていた。そのため、どのような顔なのか、見ることは困難だった。ただし、その体格からして女性でないのは明らかだ。
男はのんびりとした足取りで歩き、少年たちの数メートル手前で立ち止まった。少年たちの方を向き、おもむろに口を開く。
「お前ら、うるせえよ。近所迷惑だろうが。とっとと家に帰って寝ろよ、クズ共が」
ひょっとしたら、こんな乱暴な言い方をしなければ、三人組はおとなしく引き上げたのかもしれない。しかし、パーカーの男の乱暴な言葉が、三人組の怒りの感情を呼び起こしてしまった。
「ああン!? 何なんだよ、てめえは!」
「誰に向かってンな口きいてんだ!」
「おい! こっち来いやブッ殺してやるからよ!」
三人組は、一斉に喚き出した。さらに、中でもひときわ凶暴そうな少年が、怒りを露にして立ち上がる。チンピラにありがちな態度で、肩を怒らせて近づいていく。
恐らく、その場にいるのが自分ひとりだけであったなら、パーカーの男に対し立ち向かっていったりはしなかったかもしれない。捨てゼリフを残し、立ち去った可能性もあっただろう。
だが仲間の手前、少年は行かざるを得ない部分はあった。もちろん、集団であるがゆえの安心感もある。さらに、少年は喧嘩にもそれなりの自信はあった。そこいらの一般人に負ける気はしない。
しかし、少年は大きな過ちを犯していた。そこいらの一般人が、たったひとりで彼らのような集団に対し喧嘩を売るような真似はしないのだ。
一方のパーカー男は、両拳を顔の高さに上げる。その拳には、奇妙な手袋がはめられていた。
次の瞬間、パーカー男のパンチが飛ぶ。鋭い左のジャブ、さらに右のストレート。そのパンチはあまりにも速く、かつ強烈なものだった。少年がこれまで相手にしてきた者たちとは根本的に違う、本物の打撃だ。
たった二発のパンチで、少年はあっさりと倒れた。意識はまだ残っているものの……鼻と口から血を流し、両手で顔を覆ってうずくまっている。あまりの痛みゆえに、反抗の意思が刈り取られてしまったのだ。代わりに、苦痛と恐怖が全身を支配している──
それを見た残りのふたりは、呆然とした表情のままだ。目の前で何が起きたのか、把握できていなかったのである。
だが、パーカー男は止まらない。残るふたりに向かい、獣のように襲いかかって行った。
愚かにも、ふたりはベンチに座ったままぽかんと口を開けていた。逃げることも、反撃することも出来ぬまま……。
一方、パーカー男には容赦がなかった。ひとりの顎めがけパンチを叩き込み、もうひとりの顔面に腰の入った強烈な回し蹴りを食らわす──
ふたりは顔から血を吹き出し、崩れ落ちた。
一分も経たないうちに、うめき声を上げて地面にうずくまる三人の少年たち。予期せぬ痛みの前に心が折れ、戦意は完全に喪失してしまっている。
一方、パーカー男の息は全く乱れていない。平然とした様子で少年たちから財布とスマホを奪い、さらに耳元に口を寄せる。
「いいか、お前ら……お前らの実家の住所と電話番号を言え。あとな、警察に訴えたら、どこにいようが探しだして殺すからな。よく覚えとけ」
このパーカー男の名前は、桜田将太という。彼は、もともと総合格闘技をやっていた。格闘技から離れた今も、トレーニングは欠かしていない。闘うためのトレーニングに、日々かなりの時間を費やしている。
ただ、将太のトレーニングの目的は格闘技の試合で勝つことではない。あくまでも、殺し合いに勝つためのものであった。
そう……将太はルールに守られた、リングや畳の上で競い合うようなスポーツに興味はない。彼はあくまで、ルールの無い本物の闘いにこだわっているのだ。
そんな将太が、ルールの無い闘いの相手として選んだ者……それは町のチンピラであった。彼は夜になると町をうろつき、社会の迷惑になりそうなチンピラや犯罪者を探し求める。
場合によっては、ネットなどで前科者を探すこともあった。たまにネットでは、前科を持つ人間の詳しい情報が掲載されていることがある。その人間に恨みを持つ者が掲載しているのか、あるいは愉快犯的な人間の仕業なのかは不明だが、将太にとってはありがたい話だ。
そうやって見つけた相手を、素手で徹底的に叩きのめす……もちろん、その結果として相手が死んでしまったことも、一度や二度ではない。自分の闘いの結果が、新聞やテレビなどで事件として報道されることもある。
だが、将太は後悔などしていなかった。悪いのは自分ではなく、相手なのだ。自分は、正しいことをしている。町のゴミを掃除してやっているだけだ。死にたくなければ、事前の警告の時点で帰ればいい。なのに、大抵の若者は帰ることなく向かって来る。場合によっては、ナイフや警棒などの凶器を出して威嚇してくるのだ。武器を出したのなら、自分を殺す意思があったと思われても仕方ないだろう。
たとえ殺されたとしても、文句は言えないはずだ。
夜な夜な犯罪者を探して歩き、見つけたら徹底的に叩きのめし、場合によっては有り金を奪う。それが、今の将太の全てだった。
そう、自分はテレビなどに出ているような、見せかけだけのスポーツ格闘家とは違うのだ……将太はそう思っている。血みどろの修羅場をくぐり抜け、本当の殺し合いを経験している真の格闘家なのだ。
今の時間は、夜の二時を過ぎている。しかも、このあたりは閑静な住宅地だ。周囲は既に人通りが無い。本来なら、しんと静まりかえっているはずである。
そんな中、三人組は公園の一角で派手に騒いでいた。まるで、騒ぐことに自分たちの価値を見出だしているかのようである。彼らはベンチに座り、大声で喋り、ゴミを撒き散らし、いかにも楽しそうに笑っていた。
しかし彼ら三人組の騒がしくも楽しい時間は、突然に終わりを告げる。
公園で浮かれている三人組の前に、いきなり不気味な者が姿を現した。身長はさほど高くない。しかし肩幅が広くがっちりした体格であることは、服の上からでも容易に見てとれる。また黒いパーカーを着ており、フードを目深に被っていた。そのため、どのような顔なのか、見ることは困難だった。ただし、その体格からして女性でないのは明らかだ。
男はのんびりとした足取りで歩き、少年たちの数メートル手前で立ち止まった。少年たちの方を向き、おもむろに口を開く。
「お前ら、うるせえよ。近所迷惑だろうが。とっとと家に帰って寝ろよ、クズ共が」
ひょっとしたら、こんな乱暴な言い方をしなければ、三人組はおとなしく引き上げたのかもしれない。しかし、パーカーの男の乱暴な言葉が、三人組の怒りの感情を呼び起こしてしまった。
「ああン!? 何なんだよ、てめえは!」
「誰に向かってンな口きいてんだ!」
「おい! こっち来いやブッ殺してやるからよ!」
三人組は、一斉に喚き出した。さらに、中でもひときわ凶暴そうな少年が、怒りを露にして立ち上がる。チンピラにありがちな態度で、肩を怒らせて近づいていく。
恐らく、その場にいるのが自分ひとりだけであったなら、パーカーの男に対し立ち向かっていったりはしなかったかもしれない。捨てゼリフを残し、立ち去った可能性もあっただろう。
だが仲間の手前、少年は行かざるを得ない部分はあった。もちろん、集団であるがゆえの安心感もある。さらに、少年は喧嘩にもそれなりの自信はあった。そこいらの一般人に負ける気はしない。
しかし、少年は大きな過ちを犯していた。そこいらの一般人が、たったひとりで彼らのような集団に対し喧嘩を売るような真似はしないのだ。
一方のパーカー男は、両拳を顔の高さに上げる。その拳には、奇妙な手袋がはめられていた。
次の瞬間、パーカー男のパンチが飛ぶ。鋭い左のジャブ、さらに右のストレート。そのパンチはあまりにも速く、かつ強烈なものだった。少年がこれまで相手にしてきた者たちとは根本的に違う、本物の打撃だ。
たった二発のパンチで、少年はあっさりと倒れた。意識はまだ残っているものの……鼻と口から血を流し、両手で顔を覆ってうずくまっている。あまりの痛みゆえに、反抗の意思が刈り取られてしまったのだ。代わりに、苦痛と恐怖が全身を支配している──
それを見た残りのふたりは、呆然とした表情のままだ。目の前で何が起きたのか、把握できていなかったのである。
だが、パーカー男は止まらない。残るふたりに向かい、獣のように襲いかかって行った。
愚かにも、ふたりはベンチに座ったままぽかんと口を開けていた。逃げることも、反撃することも出来ぬまま……。
一方、パーカー男には容赦がなかった。ひとりの顎めがけパンチを叩き込み、もうひとりの顔面に腰の入った強烈な回し蹴りを食らわす──
ふたりは顔から血を吹き出し、崩れ落ちた。
一分も経たないうちに、うめき声を上げて地面にうずくまる三人の少年たち。予期せぬ痛みの前に心が折れ、戦意は完全に喪失してしまっている。
一方、パーカー男の息は全く乱れていない。平然とした様子で少年たちから財布とスマホを奪い、さらに耳元に口を寄せる。
「いいか、お前ら……お前らの実家の住所と電話番号を言え。あとな、警察に訴えたら、どこにいようが探しだして殺すからな。よく覚えとけ」
このパーカー男の名前は、桜田将太という。彼は、もともと総合格闘技をやっていた。格闘技から離れた今も、トレーニングは欠かしていない。闘うためのトレーニングに、日々かなりの時間を費やしている。
ただ、将太のトレーニングの目的は格闘技の試合で勝つことではない。あくまでも、殺し合いに勝つためのものであった。
そう……将太はルールに守られた、リングや畳の上で競い合うようなスポーツに興味はない。彼はあくまで、ルールの無い本物の闘いにこだわっているのだ。
そんな将太が、ルールの無い闘いの相手として選んだ者……それは町のチンピラであった。彼は夜になると町をうろつき、社会の迷惑になりそうなチンピラや犯罪者を探し求める。
場合によっては、ネットなどで前科者を探すこともあった。たまにネットでは、前科を持つ人間の詳しい情報が掲載されていることがある。その人間に恨みを持つ者が掲載しているのか、あるいは愉快犯的な人間の仕業なのかは不明だが、将太にとってはありがたい話だ。
そうやって見つけた相手を、素手で徹底的に叩きのめす……もちろん、その結果として相手が死んでしまったことも、一度や二度ではない。自分の闘いの結果が、新聞やテレビなどで事件として報道されることもある。
だが、将太は後悔などしていなかった。悪いのは自分ではなく、相手なのだ。自分は、正しいことをしている。町のゴミを掃除してやっているだけだ。死にたくなければ、事前の警告の時点で帰ればいい。なのに、大抵の若者は帰ることなく向かって来る。場合によっては、ナイフや警棒などの凶器を出して威嚇してくるのだ。武器を出したのなら、自分を殺す意思があったと思われても仕方ないだろう。
たとえ殺されたとしても、文句は言えないはずだ。
夜な夜な犯罪者を探して歩き、見つけたら徹底的に叩きのめし、場合によっては有り金を奪う。それが、今の将太の全てだった。
そう、自分はテレビなどに出ているような、見せかけだけのスポーツ格闘家とは違うのだ……将太はそう思っている。血みどろの修羅場をくぐり抜け、本当の殺し合いを経験している真の格闘家なのだ。
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