19 / 34
矢沢、最後の足掻きを見せる
しおりを挟む
午後六時過ぎ、加納と木俣は例によって繁華街を闊歩していた。
今となっては、彼らはこの辺りの有名人となっている。客引きたちほ声をかけないし、チンピラたちも絡んだりはしない。ただ、遠巻きに彼らが通り過ぎていくのを見るだけだ。
そんな中、不意に木俣が口を開く。
「真琴が近々、剛田と会うことになりそうです。あいつ、意外とやりますな」
「ふうん、思ったより早かったね」
「ええ。こうなると、今度は我々の方がどう動きますか……」
言いながら、木俣は周囲を見回した。
チンピラの集団に後を付けられている。もっとも、それ自体はいつものことだ。しかし、いつもとは様子が異なる。人数が多い上、殺気に近いものすら漂わせているのだ。
木俣は、そっと加納に囁く。
「また面倒なことが起きそうです。いざとなったら、今度こそ逃げてください」
「うん、わかった。しかし、毎回あんな連中につけられるのも嫌だよ。こうなったら、そろそろひと暴れしてやろうかな」
言ったかと思うと、加納は足を速める。このまま進めば、行き先は広い公園だ。以前に小林らと情報交換した場所である。
「ちょ、ちょっと加納さん!?」
木俣は慌てるが、加納ほすました表情だ。
「そろそろ、次の段階に移行しようじゃないか。剛田氏にも、はっきり言っておきたいからね」
しばらくして、加納は立ち止まった。
そこは広場で、昔は子供たちが野球やサッカーなどに興じていたものだった。しかし最近では、公園での球技は禁止されている。今となってほ、子供よりも老人たちの活動の場となっていた。
そんな場所にて、加納は立ち止まり周りを見回した。
十メートルほどの距離を置き、少年たちが立っている。皆、髪型や服装はまちまちだ。ただし、共通点がひとつある。全員、危険な目をしていることだ。中には、あからさまな敵意を向けている者もいる。
そんな少年たちに、周囲を完全に囲まれている。逃げ場はない。にもかかわらず、加納は余裕の表情であった。
さらに、この男が口を開く。
「てめえら、揃いも揃ってバカそうな面だな! 何の用だ! 俺たちに、爆笑必至の芸でも見せてくれようってのか!?」
木俣が怒鳴りつけると、少年たちの表情がさらに険しくなる。今にも襲ってきそうな雰囲気だ。
そんな少年たちをかき分け、前に出てきたのは矢沢だった。真っ青な顔で、震えながら口を開く。
「自分、矢沢ってモンです。剛田さんから、おふたりを連れて来いって言われました。ですんで、今すぐ来てください」
「嫌だよ」
「そこを何とか……お願いします!」
言った直後、矢沢は土下座した。額を地面にこすりつける。しかし、加納は冷静だった。
「あのさぁ、土下座なんかしてどうすんの? こっちは、何も得しない。むしろ、見苦しいものを見せられて迷惑なだけだ。木俣、行こうか」
「待てよ!」
怒鳴ると同時に、矢沢は立ち上がった。両手には、拳銃が握られている──
「加納さん、頼みますよ。来てもらわねえと、こっちもこういうのを出さなきゃならないんです」
言いながら、矢沢は加納に銃口を向ける。その手は震えており、今すぐにも暴発しそうだ。
周りの少年たちも、様子が変わっている。たぶん、いつもの喧嘩のノリで来てしまったのだろう。ところが、出てきたのは拳銃だ。これ、シャレになんねえよ……そんな顔つきで、矢沢を凝視していた。
さすがの木俣も、拳銃を前に顔をしかめていた。だが、加納は表情ひとつ変えない。先ほどと同じく、冷たい目で彼を見ている。
「君は、何を考えているんだ? 頭に脳みそではなく、トコロテンでも入っているのかい?」
「何だと!」
「僕を殺してどうする? 生かして連れて来いと言われているんだろ? なのに、拳銃を抜いてどうするんだ──」
言い終える前に、木俣が動いていた。一瞬のうちに、加納の前に立ち矢沢を睨みつける。
直後、ズンズン歩き出したのだ。行き先は、もちろん拳銃を構えた矢沢である。
「く、来るなぁ!」
怒鳴る矢沢だったが、木俣に止まる気配はない。あっという間に、両者の距離は縮まっていく──
「こ、この野郎!」
喚くと同時に、銃声が轟く。ついに、矢沢の拳銃が火を吹いたのだ。
しかし、木俣は平気な顔をしている。拳銃から放たれた銃弾は、木俣の胸のあたりに命中したはずだった。にもかかわらず、この大男に止まる気配はない。
実のところ、木俣の着ているスーツは特注の防弾効果があるものだ。矢沢の持つ小口径の拳銃では、当たったところで貫通させることは出来ない。しかも、木俣の打たれ強さは人類でもトップクラスだ。この程度では、何のダメージもない。
唖然となる矢沢とは対照的に、木俣は憤然とした表情で動いていた。手を伸ばし、腰を抜かしているチンピラから拳銃を奪い取る。
ポイッと放り投げると、もう片方の手で矢沢の襟首を掴む。
片腕で軽々と持ち上げ、こちらも無造作ブン投げてしまった。
地面に叩きつけられた矢沢は、うめき声を漏らす。と、加納が彼の前に立った。
「君は、本当にバカだなあ。拳銃で脅すのは、相手には殺されるかも知れないという恐怖がある場合だけだ。君の目的は、俺を生きたまま剛田の元に連れていくことなんだろ? だったら、俺を撃つことは出来ないよね?」
そう言うと、加納はクスリと笑った。直後、決定的な一言を放つ──
「拳銃、意味ないじゃん」
「こ、この野郎……」
矢沢は、屈辱に身を震わせた。直後、顔を上げ怒鳴る。
「みんな! こいつらを捕まえろ!」
その声は、加納らを取り囲んでいる少年たちに向けたものだ。普段なら、この一言で全員が動くはずだった。
しかし、誰ひとり動こうとしない。皆、何とも言えない表情を浮かべて成り行きを見守っている。
それも仕方ないだろう。拳銃を撃たれても怯まず、しかも矢沢を片手で放り投げた木俣の姿は、少年たちの常識を遥かに超えていた。彼らの間での「あの人、超ツエーよ」という噂話など、完全に超越している存在である。
動かない少年たちに業を煮やしたのか、今度は木俣が吠えた。
「おい、どうすんだコラ! やるなら、さっさと来い! やる気がねえなら、とっとと失せろ!」
声が響き渡った瞬間、少年たちは一斉に反応した。ビクリと体が震え、顔は一瞬のうちに青ざめていった。彼らはバカだが、それでも強弱の判断は出来る。
矢沢は完全に敗北してしまった。それも、これ以上ないくらい無様な負け方である。拳銃を持ち出しながら、素手の男に負けたのだ。
やがて、ひとりの少年が矢沢に背を向け帰っていった。それを機に、他の少年たちも次々と帰っていく。
やがて、その場に残っているのは三人だけとなった。加納と木俣、そして倒れている矢沢だけだ。
加納はしゃがみ込むと、矢沢に声をかける。
「さて、君にはまだやることがある。さっさと、剛田に電話したまえ」
「む、無理です。それは出来ません」
今にも泣きそう顔で、矢沢はかぶりを振った。と、彼の髪を鷲掴みにした者がいる。
「無理じゃねえんだよ。さっさとやれや」
言うまでもなく木俣だ。低い声で凄まれ、矢沢は観念した表情で、スマホを取り出し操作し始めた。
やがて、スマホから声が聞こえてきた──
「おい矢沢、てめえ俺に電話かけてくるとは、いい度胸してんな。くだらん用事だったら、今度こそ殺すぞ」
途端に、加納が口を開く。
「やあ、あなたが剛田薫さんですか。はじめまして加納春彦です」
「ほう、あんたが加納か。顔と同じく、声の方も綺麗だな。実に、いい声だよ。出来れば、直接会って話せないのか?」
「悪いけどね。僕は君には会いたくないんだ。僕にどうしても会いたいなら、君がひとりで僕の元に来たまえ。それとも、ひとりで外を出歩くのは怖いのかい?」
「そうかい。俺にそんなナメたことを言って、ただで済むと思っているのか?」
「君のことなんか、ナメたくないよ。ナメたら、お腹を壊しそうだからね。そんなわけで、君との会話は終わり。はいさようなら」
・・・
スマホの通話は切れた。剛田は、ニヤリと笑いスマホをテーブルに置く。
結局、矢沢は自分との約束を果たせなかった。だが、面白い体験をさせてくれた。それだけでも、あいつにしては上出来だ。
剛田は今、隠れ家にいた。先ほど「コレクション」の様子を一通り見て回り、静香と共に雑談をしていたところだった。
そんな時、急に矢沢から電話がかかってきた。何事かと思いきや、相手は加納春彦であった。彼と初めて言葉を交わしたのだ。
加納の態度は、まさしく無礼千万であった。にもかかわらず、不思議と腹は立たない。それどころか、久しぶりに血のたぎるような感覚を覚えていた。
「今のは、加納だったの?」
横に座っている静香に聞かれ、剛田は上機嫌で答える。
「ああ、そうだよ。お前の言う通りだった。加納は、今までで最高の相手になりそうだよ」
「確かに、加納春彦は美しい。それでも、あなたの心を満たすことは出来ない」
「はあ? 何を言ってるんだ?|
「あなたは昔も今も、彼を愛している。あなたに必要なのは加納でも私でもない。憲剛なんだよ」
「くだらんことを言うな。お前こそ、憲剛のことをどう思ってたんだ?」
低い声で聞かれ、静香は無言で目をそらした。
「憲剛は、お前のことが好きだった。お前は、奴の気持ちに気付いていたんだろうが……なのに、気付かないふりをしていたよな?」
鋭い口調で迫る剛田に、静香は悲しげな表情で口を開く。
「私は、あの関係を壊したくなかった……あんたにだって、わかってたはずだよ?」
「そうかい、便利な言い訳だな」
今となっては、彼らはこの辺りの有名人となっている。客引きたちほ声をかけないし、チンピラたちも絡んだりはしない。ただ、遠巻きに彼らが通り過ぎていくのを見るだけだ。
そんな中、不意に木俣が口を開く。
「真琴が近々、剛田と会うことになりそうです。あいつ、意外とやりますな」
「ふうん、思ったより早かったね」
「ええ。こうなると、今度は我々の方がどう動きますか……」
言いながら、木俣は周囲を見回した。
チンピラの集団に後を付けられている。もっとも、それ自体はいつものことだ。しかし、いつもとは様子が異なる。人数が多い上、殺気に近いものすら漂わせているのだ。
木俣は、そっと加納に囁く。
「また面倒なことが起きそうです。いざとなったら、今度こそ逃げてください」
「うん、わかった。しかし、毎回あんな連中につけられるのも嫌だよ。こうなったら、そろそろひと暴れしてやろうかな」
言ったかと思うと、加納は足を速める。このまま進めば、行き先は広い公園だ。以前に小林らと情報交換した場所である。
「ちょ、ちょっと加納さん!?」
木俣は慌てるが、加納ほすました表情だ。
「そろそろ、次の段階に移行しようじゃないか。剛田氏にも、はっきり言っておきたいからね」
しばらくして、加納は立ち止まった。
そこは広場で、昔は子供たちが野球やサッカーなどに興じていたものだった。しかし最近では、公園での球技は禁止されている。今となってほ、子供よりも老人たちの活動の場となっていた。
そんな場所にて、加納は立ち止まり周りを見回した。
十メートルほどの距離を置き、少年たちが立っている。皆、髪型や服装はまちまちだ。ただし、共通点がひとつある。全員、危険な目をしていることだ。中には、あからさまな敵意を向けている者もいる。
そんな少年たちに、周囲を完全に囲まれている。逃げ場はない。にもかかわらず、加納は余裕の表情であった。
さらに、この男が口を開く。
「てめえら、揃いも揃ってバカそうな面だな! 何の用だ! 俺たちに、爆笑必至の芸でも見せてくれようってのか!?」
木俣が怒鳴りつけると、少年たちの表情がさらに険しくなる。今にも襲ってきそうな雰囲気だ。
そんな少年たちをかき分け、前に出てきたのは矢沢だった。真っ青な顔で、震えながら口を開く。
「自分、矢沢ってモンです。剛田さんから、おふたりを連れて来いって言われました。ですんで、今すぐ来てください」
「嫌だよ」
「そこを何とか……お願いします!」
言った直後、矢沢は土下座した。額を地面にこすりつける。しかし、加納は冷静だった。
「あのさぁ、土下座なんかしてどうすんの? こっちは、何も得しない。むしろ、見苦しいものを見せられて迷惑なだけだ。木俣、行こうか」
「待てよ!」
怒鳴ると同時に、矢沢は立ち上がった。両手には、拳銃が握られている──
「加納さん、頼みますよ。来てもらわねえと、こっちもこういうのを出さなきゃならないんです」
言いながら、矢沢は加納に銃口を向ける。その手は震えており、今すぐにも暴発しそうだ。
周りの少年たちも、様子が変わっている。たぶん、いつもの喧嘩のノリで来てしまったのだろう。ところが、出てきたのは拳銃だ。これ、シャレになんねえよ……そんな顔つきで、矢沢を凝視していた。
さすがの木俣も、拳銃を前に顔をしかめていた。だが、加納は表情ひとつ変えない。先ほどと同じく、冷たい目で彼を見ている。
「君は、何を考えているんだ? 頭に脳みそではなく、トコロテンでも入っているのかい?」
「何だと!」
「僕を殺してどうする? 生かして連れて来いと言われているんだろ? なのに、拳銃を抜いてどうするんだ──」
言い終える前に、木俣が動いていた。一瞬のうちに、加納の前に立ち矢沢を睨みつける。
直後、ズンズン歩き出したのだ。行き先は、もちろん拳銃を構えた矢沢である。
「く、来るなぁ!」
怒鳴る矢沢だったが、木俣に止まる気配はない。あっという間に、両者の距離は縮まっていく──
「こ、この野郎!」
喚くと同時に、銃声が轟く。ついに、矢沢の拳銃が火を吹いたのだ。
しかし、木俣は平気な顔をしている。拳銃から放たれた銃弾は、木俣の胸のあたりに命中したはずだった。にもかかわらず、この大男に止まる気配はない。
実のところ、木俣の着ているスーツは特注の防弾効果があるものだ。矢沢の持つ小口径の拳銃では、当たったところで貫通させることは出来ない。しかも、木俣の打たれ強さは人類でもトップクラスだ。この程度では、何のダメージもない。
唖然となる矢沢とは対照的に、木俣は憤然とした表情で動いていた。手を伸ばし、腰を抜かしているチンピラから拳銃を奪い取る。
ポイッと放り投げると、もう片方の手で矢沢の襟首を掴む。
片腕で軽々と持ち上げ、こちらも無造作ブン投げてしまった。
地面に叩きつけられた矢沢は、うめき声を漏らす。と、加納が彼の前に立った。
「君は、本当にバカだなあ。拳銃で脅すのは、相手には殺されるかも知れないという恐怖がある場合だけだ。君の目的は、俺を生きたまま剛田の元に連れていくことなんだろ? だったら、俺を撃つことは出来ないよね?」
そう言うと、加納はクスリと笑った。直後、決定的な一言を放つ──
「拳銃、意味ないじゃん」
「こ、この野郎……」
矢沢は、屈辱に身を震わせた。直後、顔を上げ怒鳴る。
「みんな! こいつらを捕まえろ!」
その声は、加納らを取り囲んでいる少年たちに向けたものだ。普段なら、この一言で全員が動くはずだった。
しかし、誰ひとり動こうとしない。皆、何とも言えない表情を浮かべて成り行きを見守っている。
それも仕方ないだろう。拳銃を撃たれても怯まず、しかも矢沢を片手で放り投げた木俣の姿は、少年たちの常識を遥かに超えていた。彼らの間での「あの人、超ツエーよ」という噂話など、完全に超越している存在である。
動かない少年たちに業を煮やしたのか、今度は木俣が吠えた。
「おい、どうすんだコラ! やるなら、さっさと来い! やる気がねえなら、とっとと失せろ!」
声が響き渡った瞬間、少年たちは一斉に反応した。ビクリと体が震え、顔は一瞬のうちに青ざめていった。彼らはバカだが、それでも強弱の判断は出来る。
矢沢は完全に敗北してしまった。それも、これ以上ないくらい無様な負け方である。拳銃を持ち出しながら、素手の男に負けたのだ。
やがて、ひとりの少年が矢沢に背を向け帰っていった。それを機に、他の少年たちも次々と帰っていく。
やがて、その場に残っているのは三人だけとなった。加納と木俣、そして倒れている矢沢だけだ。
加納はしゃがみ込むと、矢沢に声をかける。
「さて、君にはまだやることがある。さっさと、剛田に電話したまえ」
「む、無理です。それは出来ません」
今にも泣きそう顔で、矢沢はかぶりを振った。と、彼の髪を鷲掴みにした者がいる。
「無理じゃねえんだよ。さっさとやれや」
言うまでもなく木俣だ。低い声で凄まれ、矢沢は観念した表情で、スマホを取り出し操作し始めた。
やがて、スマホから声が聞こえてきた──
「おい矢沢、てめえ俺に電話かけてくるとは、いい度胸してんな。くだらん用事だったら、今度こそ殺すぞ」
途端に、加納が口を開く。
「やあ、あなたが剛田薫さんですか。はじめまして加納春彦です」
「ほう、あんたが加納か。顔と同じく、声の方も綺麗だな。実に、いい声だよ。出来れば、直接会って話せないのか?」
「悪いけどね。僕は君には会いたくないんだ。僕にどうしても会いたいなら、君がひとりで僕の元に来たまえ。それとも、ひとりで外を出歩くのは怖いのかい?」
「そうかい。俺にそんなナメたことを言って、ただで済むと思っているのか?」
「君のことなんか、ナメたくないよ。ナメたら、お腹を壊しそうだからね。そんなわけで、君との会話は終わり。はいさようなら」
・・・
スマホの通話は切れた。剛田は、ニヤリと笑いスマホをテーブルに置く。
結局、矢沢は自分との約束を果たせなかった。だが、面白い体験をさせてくれた。それだけでも、あいつにしては上出来だ。
剛田は今、隠れ家にいた。先ほど「コレクション」の様子を一通り見て回り、静香と共に雑談をしていたところだった。
そんな時、急に矢沢から電話がかかってきた。何事かと思いきや、相手は加納春彦であった。彼と初めて言葉を交わしたのだ。
加納の態度は、まさしく無礼千万であった。にもかかわらず、不思議と腹は立たない。それどころか、久しぶりに血のたぎるような感覚を覚えていた。
「今のは、加納だったの?」
横に座っている静香に聞かれ、剛田は上機嫌で答える。
「ああ、そうだよ。お前の言う通りだった。加納は、今までで最高の相手になりそうだよ」
「確かに、加納春彦は美しい。それでも、あなたの心を満たすことは出来ない」
「はあ? 何を言ってるんだ?|
「あなたは昔も今も、彼を愛している。あなたに必要なのは加納でも私でもない。憲剛なんだよ」
「くだらんことを言うな。お前こそ、憲剛のことをどう思ってたんだ?」
低い声で聞かれ、静香は無言で目をそらした。
「憲剛は、お前のことが好きだった。お前は、奴の気持ちに気付いていたんだろうが……なのに、気付かないふりをしていたよな?」
鋭い口調で迫る剛田に、静香は悲しげな表情で口を開く。
「私は、あの関係を壊したくなかった……あんたにだって、わかってたはずだよ?」
「そうかい、便利な言い訳だな」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
灰かぶり君
渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。
お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。
「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」
「……禿げる」
テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに?
※重複投稿作品※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる